便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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レイヴン9の過去やら何やらオリジナル込み込みです。


大人の背中

「ココノエさん」

 

「……あぁ、サクラコ。良いのかよ、裏切り者の前だぞ」

 

 降り頻る雨の中、伝統あるシスター服に身を包んだ二人が曇天と同じ様な表情を浮かべて向き合っていた。

 一人は一年時点で優れた素質を見せ歴史あるシスターフッドのトップになる事を期待されている少女で、もう一人は前身であるユスティナ聖徒会の血筋の生まれで同じく将来を期待されていた少女だ。

 

「どうして……先輩達に銃を向けるなんて酷い事を……」

 

 良き友人として時間を共にしてきた二人は、ココノエの凶行によってバラバラの危機にあった。

 

「お前なら知ってるだろ。私が憧れたのはトリニティの為なら武器を取る事を厭わず、敵となった者にも慈悲を与えるユスティナの在り方だ」

 

 黒と白の混ざった羽根を苛立ちと共に羽撃かせながらココノエは、嘗ての親愛なる先輩方の発言を思い出す。

 

『シスターフッドは政治には不干渉です』

 

『私達に出来ることは悩みを聞くことだけ』

 

『さぁ、共に祈りましょう?』

 

 ──あぁ、此処だけは違うと思いたかった。

 トリニティでよく見かける自分に欲望なんてありませんっと言う感じの表面的に耳障りの良い言葉を並べて、作り物の笑顔を浮かべるそんな人間達は此処にだけは居ないと信じたかった。

 

『フィリウス派とパテル派で争いの兆し?まぁ、大事にはならないでしょう』

 

『はぁ……ゲヘナの角付きには困ったものですね。少し偽の情報を流しておきましょうか』

 

『あらこれは……なるほどなるほど。献金として受け取っておきますね』

 

 ──幻想だと知った時はそれはもうショックだった。

 私の憧れたユスティナの在り方なんてもう此処には一欠片も残っていなくて、あるのは権力争いに取り憑かれた者やつまらない好悪で力を振るう者、金に取り憑かれた者……あぁ、全くもって反吐が出る。

 

「もうトリニティ(此処)には私の憧れはない。だが、腐った連中を見逃すのも癪だった」

 

「だから撃ったと!?そんな手段を取るよりも何か一つでも私に相談をしてくだされば……」

 

「力になれたと?……なぁ、サクラコ。お前は良い奴だ。暴力しか能のない私の事なんて忘れろ」

 

 ココノエには分かっていた。

 目の前のサクラコは確かに相談をすれば、聞き届けてくれる良い人間だと。

 しかし、だからこそ頼る訳にはいかなかった──己がどう足掻いても暴力に頼る人間性だと自覚していたから。

 

「ッッ……覚悟は揺るがないんですね」

 

「あぁ」

 

「分かりました……では、私がシスターフッドを変えてみせます!!時間はかかるでしょうが、必ず貴女の夢であった組織の様に!!……だから……」

 

 泣いていた顔が更に歪み──あぁ、これは所謂走馬灯ってやつなんだと気がついた。

 

 

 

 

 

「……女々しいな。死に瀕して思い出す記憶がコレかよ」

 

 過去は捨てただろ……なぁ、私よ。

 もう私が居るべき場所はあそこじゃねぇ、瓦礫と血と硝煙の匂いが染み付いて離れねぇ戦場だ。

 

「肩借りるぞミカ」

 

「ちょっと、私もボロボロなんだからそんなに体重乗せないでよ」

 

 良いだろう別にお前は壁すら容易に砕くゴリラ女なんだからって言いたくなったが、言ったが最期に私にトドメを刺す存在が彼女に変わるだけだから黙っておくことにした。

 

「何分だ?」

 

「一分くらいかな」

 

「思ったよりは短いな。私も頑丈になったものだ」

 

「その一分稼ぐのがどれだけ大変か分かって言ってる?」

 

「ハハッ!」

 

 実体なき記録としての存在……ユスティナの残滓をなぞるだけのコイツらは相変わらず再生し続けているし、私もミカも既にボロボロ。

 互いに軽口は叩いてるものの、ほとんど空元気で正直いつぶっ倒れてもおかしくねぇ。

 

「そこっ!」

 

「っと、遠慮なくぶっ放してくんじゃねぇよ」

 

 ミカの隕石で頭が吹き飛んでるってのに、弾をばら撒いてくるとかふざけてやがるぜ全く。

 撃って逃げて、戦って逃げて……そんな事を繰り返している内に辿り着いたのはアリウスが正常であった頃に恐らくミサの会場になっていた場所だった。

 碌に手入れもされず、埃が積もって動かないであろう蓄音機やグランドピアノが過ぎていった時間を感じさせて随分と寂しい気分にさせてくれる。

 

「……動かないね」

 

「どう見ても使われてないからな」

 

 扉が破壊されるまでの時間、ほんの僅かな猶予で蓄音機を弄るミカを見ながら煙草に火をつける。

 

「それ、吸っちゃ駄目なやつだよね?」

 

「生憎、失う立場なんてない傭兵なもんで」

 

 どっかの学園に通ってる生徒なら喫煙行為は停学或いは、退学処分に該当する行為だが傭兵の私には関係ない。

 むしろ、このスゥっとする感覚を味わえないなんて可哀想とすら思えるぜ。

 

「ふぅん……じゃあさ、もう祈り方も忘れちゃった?」

 

「……テメェ」

 

「すっごい改造されてるけどウチの制服でしょそれ?」

 

 ふわふわしてる癖にこういうところの勘は優れてんだなコイツ……分かった上で聞いてくる辺り、終わった性格なのか単に気が回らないだけか、後者だろうなこの感じ。

 

「祈ったところで変わらないだろ」

 

 神頼みをしたところでこの状況が好転する訳じゃない──そう告げたのだが、ミカは蓄音機に優しく触れながら場違いの美しさで微笑む。

 

「そうだね……でもさナインちゃん」

 

 動くはずのない蓄音機が音を奏で始める。

 流れる歌は聴きなれた……慈悲を求める曲『Kyrie eleison』──主よ、憐れみたまえと。

 

「私は別にこの歌が好きな訳じゃないけど──うん、でも祈るね。貴女達の罪が赦される様に」

 

「……ミカお前」

 

 その口振は……自分は赦されなくて構わないと本気でそう思っているのか?

 朗らかにでも、何処か寂しそうに微笑むミカに気を取られている間に扉が砕け散りバルバラ二体を含むユスティナの連中が入ってくる……もう此処から先に逃げ場なんてない。

 

「あはは!!なんだか凄く気分も良いし、このまま私が相手してあげるね。だからナインちゃんは逃げて?」

 

 ボロボロの身体の癖に何を言ってんだお前は。

 ガチャリとバルバラ達が銃口をミカに向ける音が聞こえる中、ミカは微塵も避ける素振りを見せずに敵に向かっていく……気が付けば走り出してミカを突き飛ばしていた。

 

「ナインちゃん!?」

 

「……死ぬ気の時間稼ぎは私みたいな傭兵に似合いの末路だ。ミカ、お前は此処で死んで良い奴じゃねぇよ」

 

 ──瞬間、バルバラ二体のガトリングから放たれた圧倒的弾幕が私を襲う。

 死にたくなるほどにイテェ……イテェが気合いだけで耐えてその場に立ち続ける事を選んだ。

 

「……が、あ……」

 

「ナインちゃん!!駄目、目を開けて!!」

 

 崩れ落ちる私を逃げなかったミカが抱き止める。

 なんで逃げなかったんだと文句の一つでも言おうと思ったが、ゲホゲホと咳が出るだけで何も言えなかった。

 

「……ごめんねナインちゃん……ごめんね『先生』……皆んなと一緒に帰りたかったなぁ……」

 

 あぁ……そうだなミカ……すまねぇ旦那、首輪に誓ったにも関わらず私は此処で終わりらしいや。

 でもまぁ……アンタなら赦してくれるよな……イーグル。

 

“セラ!!蹴散らして!!”

 

「良いだろう!!」

 

 ──ユスティナの軍勢に穴が出来上がり、そこからシャーレのジャケットに身を包んだ見慣れない生徒とワイシャツ姿の『先生』が駆け込んでくる。

 

「せ、『先生』!?」

 

“約束通り助けに来たよ”

 

「私は死ねと命じた覚えはないぞレイヴン9」

 

「ッッ!?ま、まさか……旦那か!?ゲホッゴホッ!?」

 

 姿形、声どころか性別年齢すら変わってるけど私を呼ぶ感じや冷たい癖にその奥には此方を労る温かい瞳は旦那のものだ。

 どうして此処にというか、一体全体どうして女になってるんだ!?ただでさえ、全身ボロボロだってのに頭まで混乱させるんじゃねぇよこの人は!!

 

“……私の……私の大切なお姫様に何してるの!!”

 

「レイヴン9。死ぬのなら私の命令で死ね。でなければその首輪に価値はないぞ」

 

 優しくねぇ……少しは『先生』を見習ってくれよ。

 でもまぁ、この人らしいか……そうだな、お姫様なんて言われたら鳥肌が立っちまう。

 

「……わーお」

 

「……ハハッ」

 

 ──大人の背中ってこんなにもデカいんだな。




ボロボロな子供相手に死ぬなら私の命令で死ねってこれは悪い大人ですね間違いない。

本当はエデン条約終わりまで駆け抜けるつもりだったのですが、思ったよりは長くなったので分けました。
次回か次々回で、恐らくエデン条約編は終わるかな?予定なので自信は無し。

感想やここすき待ってるぜ!!

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