便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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緩やかに日常は戻ってくる

「さて私がどの様に復活したか、約束通り講義といこうか」

 

“君の状況に関して突っ込むのは野暮?”

 

 そう思うのならわざわざ聞かないで欲しいのだがね?

 まぁ、今の私の状態は後ろで両手を縛られ床に直で正座しその上にムツキ室長が座り、無駄に伸びた髪をアル社長とカヨコ課長が弄っているのをハルカさんが落ち着きなく視線を向けているのだから気になるのは分かるとも。

 

「あぁ、講義を始める前に。『先生』から借りた上着はそこにクリーニングを終えた状態であるから帰りに忘れずに持って帰ってくれたまえ。この講義が終わった後に私は彼女達と共に焼肉を食べに行くからな」

 

“別にそのままでも良かったのに”

 

「何か言ったかね?」

 

“……いえ、何も”

 

 全く匂いフェチも大概にする事だな……というか元々は男だぞ?嬉しいのか?

 

“今の格好も似合ってるね。みんなと買いに行ったの?”

 

「えぇそうよ。セラったら自由に選ばさせたら男の時と変わらない格好を選ぶんだもの。それは流石にないわよ?ってみんなで話し合って買ったわ」

 

「慣れているから黒スーツで構わないと言ったのだがね。どうにかズボンだけは死守出来たが」

 

 お陰様で今の私の格好は黒い軍服の様な丈の短いワンピースにピッチリとした黒いズボンというゴスロリと男装の中間の様な格好になっている。

 着せ替え人形にされている間、スカートも履いたが下半身がスースーする感覚が慣れん……いずれは履かなきゃ駄目なのだろうか?

 

「本当はもっと赤を入れたかったんだけどなー」

 

「色違いのリボンを買っただろう?今、二人が髪を弄ってくれているから待ちたまえ」

 

“格好はハルカで、リボンでムツキ、色でアルってなると……左耳のイヤリングはカヨコかな?”

 

「そんなつもりはなかったんだけどね。ちょうど良いのが売ってたから」

 

 ふむ……君が売り場で一時間近く悩んでいたのは言わぬが花であろうか。

 皆で買い物が終わった時に、最後にと彼女から手渡されたのは私の髪色と同じ青空によく似た色の宝石が散りばめられたイヤリングで彼女らしい主張の強くない小さなそれでいて綺麗な物であった。

 ちなみに同じ物をカヨコ課長も付けているが、今は髪で隠れていて見えない。

 

「んんっ、本題に戻るぞ。このままでは延々と脱線していきそうだ」

 

“そうだね。じゃあさ、早速の疑問なんだけど。どうして君が瀕死になっている事が条件だったの?”

 

「それはだな『先生』、貴方は魂という概念を信じているかね?」

 

 魂の存在証明というのはどこまでいってもオカルト的概念であり、科学で証明出来るものではない。

 何故なら触れる事が出来ないどころか、観測する事すら出来ないのだから……だが、人はソレがあると信じており私が頼ったのもソレだ。

 

“不確かな概念ではあるけど信じているよ”

 

「そうだな。魂とは総じて不確かなものであり、今現在の肉体と比べればその存在の強さは大きく劣るだろう。だが、肝心の私の肉体は弱り生死を確約する事が出来なくなった……となれば、魂と肉体の力関係は同等いや僅かに魂が優勢と言っても良いだろう」

 

“……肉体を入れ替える必要が君にはあったから、肉体が弱まった状況が必要だったと”

 

「その通りだ。そうして剥き出しになった私の魂をマエストロから教わった複製により、劣化した状態でコピーした」

 

“劣化って……大丈夫なのそれ?”

 

「大人と生徒では持ち得る情報量が違うのでな。魂とは脳が記憶を司るのと同じ様に経験が蓄積されていくのだが、これは言ってしまえば長く生きた分だけ膨大な情報量となってしまいそれ即ち、私が定義する『生徒』ではない。生徒でなければ成立しない契約において、完璧な私の魂の複製というのは邪魔すぎる。故に今の私は『ゲマトリアとして活動する前の経験を失っている』状態だ」

 

 キヴォトスで得た時間に比べるまでもない経験ではあるが、かつての私を構成していた一部を差し出した事で肉体的にも精神的にも今の私はかなり若返っていると言って良い。

 記憶を失っている訳ではないため、子供同然の行動をするのはいささか恥ずかしいがそれでも以前よりは躊躇いなく自らの楽しみに動ける事だろう。

 

「本来であれば『先生』との契約のみで肉体を維持するつもりだったが、ケイとリオが私の予想を超えてくれた事で確固たる肉体を得られたのも大きいな。これで契約破棄されても私はセラとして生きる事が出来る」

 

“破棄しないよ。例え何があっても君と結んだ契約を私は守り続けるつもりだ”

 

「……ククッ、流石は『先生』だな」

 

 大人のカードを利用したのだから私との契約は少なからず、貴方の時間を使っているというのに微塵も後悔をしていないしするつもりもないとは。

 

「ではそんな『先生』に一つ頼みがある」

 

“なにかな?”

 

「私をシャーレ所属にして欲しい」

 

 ん?なにやら一気に空気が静かになった気がするのだが……何か変なことを言っただろうか?

 

「……セラ。みんなの前で退職宣言とはどういうことかしら?」

 

「んっ!?待て待て!?アル社長!!何かを盛大に勘違いしているぞ!?」

 

「勘違いもなにも今、シャーレ所属になるって言ったじゃない!?便利屋を辞めるなんて許さないわよ!?」

 

 涙目になりながら詰めてくる社長をどうにか宥めながら、太ももに走る痛みに耐え一旦みんなを落ち着かせる。

 ……確かに言葉が足りなかったとは思うが、まさか私が便利屋を辞める方向に取られるとは思わなかったぞ。

 

「あー、言葉が足りなかったな。便利屋のアルバイトとして引き続き活動をしていく事に変わりはないが、萬屋セラとして実績を作りたいのだ。現状は『先生』との契約で足りているが、何かの弾みで私という存在が不確かなものになるかもしれん。そうならない様にキヴォトスで萬屋セラが活動したという痕跡を残しておきたいのだよ」

 

 便利屋で活動していればそのうち実績が生まれるかもしれないが、シャーレとして多くの学園に顔を広めておけばより確実に私という生徒の痕跡がキヴォトスに残るだろうからな。

 

「繋いだ縁が力となるのは見ての通り理解している。主には三大校を巡るつもりだが、まぁアビドスも候補の一つには入れておこうか」

 

 小鳥遊ホシノに会うのは嫌だが、私が不在の間便利屋の皆を見てくれていたと聞いているし何かしらの礼はしなければならないだろう……心底、会いたくないのだがな。

 

「なるほどそういう事ね……なら分かったわ。貴女が誰のものなのかしっかり宣伝してきなさい」

 

「……ククッ、こうも独占欲を真正面から向けられるとは。些か恥ずかしいぞアル社長」

 

「わー、アルちゃんってば大胆っ!」

 

「まぁでも、セラの居場所が此処なのは今に始まった話じゃないしね」

 

「はい!セラさんも揃っての便利屋、ですから」

 

 ……まずいな、以前よりも口角が上がっていくのを隠せている気がしない。

 その証拠に『先生』から向けられる視線が微笑ましいものになっているしな。

 

「ンンッ、そういう訳だ。頼めるかね『先生』」

 

“ふふっ分かったよ。書類は申請しておくから明日の午後にでもシャーレに来て”




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