便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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圧倒的人気だったアビドス回。
まさかの前編になりました()


実績作りinアビドス前編

「ふぅ……分かっていたがやはりアビドスは暑いな。社長達に髪を束ねて貰っていなければ早々にダウンしていたかもしれん」

 

 ポニーテールに纏めるだけなら簡単だと思っていたが、やはり元男の私では思う様に綺麗に纏まらず出掛ける時にアル社長にやって貰ったがお陰で首元がかなり涼しく快適だ。

 髪は女性の命とよく聞くが面倒なら短髪に切り揃えてしまうのも手か。

 

『ふふっ、こんなにも貴方が素直に頼ってくるなんてなんだか新鮮で楽しいわね』

 

 ……いや、やめておくか。

 それに髪が長ければ変装のレパートリーも増やせるし、これから先に女性らしさを使った仕事もあるかもしれないと考えれば髪を切る判断は早過ぎるな。

 

『まさか一番最初にアビドスを選ぶとはどういった心境の変化ですか?』

 

「なに宿題は早々に片付けるに限る。そういうものだろう?」

 

『……どれだけ小鳥遊ホシノに会いたくないんですか貴女』

 

「ククッ、互いに嫌い合っていると分かっている相手にわざわざ会いたがるもの好きはいないだろうよ」

 

 小鳥遊ホシノは私の様な悪い大人が大嫌いで、私も諦めの良い者は観測する価値すらない。

 だからこそ疑問なのだがね……嫌っている筈の私が起こした負い目をわざわざあの娘が出張ってまで拭おうとしたことが。

 

“素直じゃないなぁ……はぁ……はぁ……お礼を言いたいから……一番最初に選んだんでしょ……はぁ……はぁ……”

 

「……『先生』。余計な一言を言う為に口を動かす暇があるのなら足を動かせ足を。全く、私の存在をサプライズにしたいからとアビドスの面々に知らせないのは分かるが、自分の体力の無さを忘れていただろう」

 

 ノリノリで私が事前に用意していた移動手段を却下するから、いつの間にか体力を付けたのかと思っていたがものの見事に砂漠に足を取られて息を切らすとはなにを考えているのだろうな『先生』は。

 以前の私なら彼の隣で同じ様に息を切らしていたと思うが、生憎今の私には神秘があるのでな。

 一方的に『先生』を見下すことも可能という訳だ……ん?この音は自転車か?

 

「……ん?もしかして『先生』?今日来る予定だったっけ?」

 

“やぁシロコ……あはは、ちょっとサプライズのつもりだったんだけど”

 

「見事に体力が底をつき、このザマだ。シロコ嬢」

 

 確か初めてアビドスに来た時もシロコ嬢に拾われたとか話をしていなかったかね『先生』……この広大なアビドスという土地で二回も遭遇するとは彼女と『先生』の間には何か巡り合う様な縁でもあるのだろうか。

 この後、せめてもの抵抗なのか私を疑うシロコ嬢を『先生』はどうにか誤魔化しながらアビドスへと向かうことになった──もちろん、彼女に担がれる様な形で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も暑いねぇ〜」

 

「そうですねぇ〜」

 

「……いや、そう思うならノノミ先輩の膝枕から離れれば良いんじゃないですか?」

 

「いやいやこの気持ち良さがあるから、おじさんはどうにか溶けずに済んでるんだよぉ〜」

 

 あ、セリカちゃんから向けられる視線が少しだけ冷たくなって……うへぇ、だってノノミちゃんのお膝モチモチで気持ち良くて心地よいんだもの。

 今日は差し当たって動かなきゃならない仕事もないし、まったりゆっくりと行こうよぉ〜

 

「もぅ。バイステンダーさんからの融資があったとは言え、私達にのんびりしてる余裕はないのに」

 

「逆だよぉ〜セリカちゃん。アレのお陰で少し休む余裕があるんだからしっかり休める時は休まないと」

 

「そう言って先週も休んでいませんでしたっけ!?」

 

 あれぇ?そうだっけなーおじさんもう歳だから分からないやーなんて返せば、渋々とセリカちゃんは椅子に座り直してくれる。

 うんうん、君はバイトに依頼と忙しいんだからしっかり休んで休んで。

 

「あはは……まぁ、シロコちゃんも今日はライディングに行ってますしゆっくりしましょう」

 

「おー、お茶だぁ」

 

 うへへ、やっぱり暑い時はキンキンに冷えてコップの側面に水滴が付いてるお茶に限るよねぇ。

 今日も今日とて暑いけど、こうしてみんなとゆっくり過ごせるし良い日になりそうだなぁ〜……なんて事を考えたのが悪かったのかもしれない。

 少しして対策委員会の部屋に近づいて来る足音が聞こえてきたんだけど、どうにもその足音の数が多くてシロコちゃん一人の足音ではなく来客かな?と思って身体を起こすのと同時に懐かしい色を見た。

 

「──え?」

 

 もう二度と見る事はないと思っていた澄み渡る青空の様な長い髪がそこにはあった。

 予定にない来訪をした『先生』にみんなが話しかけに行く中、私はそこから視線を動かす事が出来なくて──じっと見ているのだから当然、その髪の持ち主と目が合い神経を逆撫でする様な笑みを向けられ漸く、ソレが誰なのか気がついた。

 

「随分と面白い表情じゃないか。そんなに私が誰かに似ていたかね?」

 

「……お前」

 

 便利屋の子達からアイツが特殊な状態で復活したとは聞いていたけどさ……コレはないでしょ。

 似ているのは髪色だけ……そうだ、あの優しくて理想ばかりを見据えるあの人とは違ってコイツは悪人で……あぁ、馬鹿みたいに理想だけを目指す在り方は同じだっけか。

 

「よし」

 

「む?」

 

「とりあえず表出ろ。話はそれからだ」

 

「「「「え??」」」」

 

“うそぉ”

 

 盾とショットガンを装備しながら親指で指し示せば、みんなが驚く中アイツだけは楽しそうに笑っていやがった。

 ……こうなるのも予想済みって訳?はぁ、ほんと嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビドス高校のグランドにて両手にショットガンを握るセラと、身を隠せるほどの盾とショットガンを持つホシノが互いのレンジの少し外側に立ち、片やニヤニヤと笑みを浮かべ片や僅かに青筋を立てながら見つめ合っている。

 

「お礼として金を持ってきたのだが、まさか個人的な鬱憤に付き合わせられるとはな」

 

「……またそうやって金で解決しようとする。そりゃ、助かるのは事実だけどさ」

 

「以前も言っただろう?私とお前の間に純粋な善意は成立しないと」

 

「ほんと目覚めなきゃ便利屋の子達貰ったのに。勿体無いよお前と一緒にいるなんて」

 

「ククッ、否定はしないとも。私の様な悪人と一緒にいるには彼女らは善人が過ぎる」

 

 だが、と口を開いた瞬間にセラから発せられる神秘の圧が強まった事にホシノは気がつき盾を構える。

 全くもって素直じゃないとセラに呆れながらも、彼女が便利屋を引き合いに出せばこうなるであろう事も理解しきっている自分が嫌になるホシノ……嫌いあっている癖にこの二人は互いの性質というものをよく知っていた。

 

「お前になどくれてやるものか。彼処は私の居場所だ」

 

「──知ってるよ。じゃあ見せてみなよ。彼女達を泣かせてまで手に入れたその力をさ」

 

 蒼い瞳がスッと細められるのと同時にセラは神秘を足に集中させ、ホシノへと一気に駆け寄る。

 その速度は極めて速く、戦い慣れしているアビドス対策委員会の面々でも初動が全く見えておらず驚きが走るがただ一人、シロコだけがジッとホシノを見つめていた。

 

「速いけどホシノ先輩には通じない」

 

 その言葉を裏付ける様に二丁のショットガンから放れた弾丸は、ホシノの盾に全て受け止められ辺りに重低音を響かせるだけに終わり彼女はそのまま盾を持つ手に力を込めてセラを弾き飛ばそうとするが、それより速く足が盾に置かれて飛び退かれてしまう。

 

「(二丁のショットガンを使うだけはあるって事か)」

 

「(ふむ。やはりキヴォトス最高の神秘を貫くには足りないか)」

 

 ホシノは盾を伝い僅かに痺れる手から、セラは傷一つなく健在の盾を見ながらたった一度の激突で互いの力量を掴む。

 元より優れた戦略眼を有する二人であるからこその判断の速さであり、それ故に二人はほぼ同時に次の一手を打つ。

 

「ふっ!」

 

「来るか!」

 

 真っ直ぐに突っ込むホシノと距離を取るセラ。

 純粋な戦闘力において優っているホシノは、その力を示しながらセラを圧殺する事を選び逆に搦手を用いなければ勝ち目のないセラは目の前の脅威から一旦距離を取る事を選ぶ──その程度で彼女から逃げられる訳もないと理解しながら。

 

「逃げるの?」

 

 先程のセラを上回る速度で距離を詰めたホシノは落胆と共に、ショットガンを突き出し防御する手段のない彼女の腹部へと放ちその身体をくの字に曲げさせ吹き飛ばす。

 

「さすがホシノ先輩」

 

“んー、セラにしてはあっさり過ぎる……あっ”

 

 ホシノの勝利に喜ぶ対策委員会の面々とは違い、冷静に二人を見下ろしていた『先生』だからこそ気がつき声を溢した瞬間、ホシノは下からの突然の衝撃に身体が僅かに浮かび上がり、その隙をセラが逃す訳もなく砂埃の向こうから現れた彼女の一撃がお返しと言わんばかりに彼女の腹部へと放たれる。

 

「どうかね?弾薬地雷のお味は」

 

「やってくれたね……!」

 

 腹部を摩りながら一旦距離を取るホシノは、先ほどまで自分が居た地点に落ちているセラのショットガンのマガジンを見て先程の衝撃の正体を理解し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

“セラのフルオートショットガンの方は、ドラムマガジンの機構が特殊で弾薬を詰めたまま地面に設置して踏ませる事が出来れば地雷の様に内部の弾丸が破裂する仕様になってるんだ”

 

「で、でもいつの間に落としたのよ!?」

 

「……あっ、セラさんがホシノ先輩から逃げる様に下がった時です。敵わないと逃げの一手を打った様に見せて油断を誘ったんですよ」

 

 逃げの一手を打ったセラに対して、ホシノはそんなつまらない奴ではないと思いながらも心の何処かでは落胆があり慢心があった為に仕掛けられた罠を見逃すという愚策をしてしまったのだ。

 故に既にホシノからは慢心が消え去り、それを未来視によって悟ったセラはより一層楽しげに笑みを深め──観客を置き去りにする戦いが始まった。

 

 面白い様に互いの攻撃が互いを捉えないのだ。

 

 セラは未来視によってホシノの行動を全て予知し、ホシノは卓越した戦闘技術によって僅かな予備動作から動きを予測し攻撃を避ける避ける。

 ダブルショットガンという使い勝手の悪さからくるリロードの隙や衝撃を逃した時の隙をホシノは狙うが、来ると分かっている攻撃を貰うほどセラは愚かではなく弾薬を上へと放り投げている間に、ホシノを体術だけで凌ぎ蹴り飛ばすと落ちてきた弾薬を手に取りリロードして見せたり態と体勢を崩し砂を巻き上げて目潰しをしたりなどありとあらゆる奇策で隙を潰し、攻撃の手を一切緩めない。

 

 対してホシノも守る為に担いでいる盾を器用に扱い、至近距離から放たれるコインの弾丸を全て受け止めながらショットガンをノータイムで放つといったカウンター主体で立ち回りながらも、時として足癖の悪さを発揮しセラのショットガンを蹴り上げたり地雷として落とされたマガジンを蹴り飛ばしたりなどセラより優れた身体能力を遺憾なく発揮していた。

 

 そしてこの二人ならではかもしれないが──

 

「お前、本当に性格悪いよ!!」

 

「今更かね!小鳥遊ホシノ!!」

 

「こんな奥の手があるならとっとと、説明でもなんでもすれば良かったでしょうに!!どうせ失敗する可能性があるからとか思ってたんでしょ!!」

 

「そうだとも。確実性はなかった。故に下手な希望を抱かせる訳にはいかなかったのだよ!!」

 

「その結果がアレって訳?散々、泣かせて苦しませて……ハッピーエンド厨が呆れるね!!」

 

「お前に言われたくはないのだがな!!」

 

「はぁ!?私に偉そうに説教しておいてよく言うよ!!」

 

「説教?あぁ、そんなつもりは微塵もなかったのだがね。気に食わないから気に食わないと告げただけだ」

 

「だろうね!!だから私もそうしてるんだし!!」

 

「ククッ、同じ穴の狢ではないか!!」

 

 ──それはもう元気に互いを罵り合いながら超至近距離で戦っていた。

 ショットガンの射程は確かに他の銃に比べれば短いかもしれないが、互いの手足が伸ばせばぶつかり合う様な距離感で常に戦う必要性はない。

 それでも二人はこの距離から離れようとはしなかった……何故ならこれはただの意地の張り合いで、嫌いな相手より先に距離を取るなど死んでも嫌であったからだ。

 

 故にその攻撃が当たるのは約束された出来事であった。

 

「──そうだよ。よりにもよって大嫌いなお前と私は選択肢が似てるんだ。だから……」

 

「ククッ!!」

 

 ホシノの手からショットガンが離れるのを、セラは笑って見ていた。

 何処かゆっくりとした時間が流れる中、視線の先でホシノが握り拳を作っているのを見ながらセラは笑い続ける。

 

「とっとと髪でも切ってせめてあの人を彷彿とさせる姿だけは変えてきて!!」

 

 ホシノ渾身のアッパーがセラの顎にクリティカルヒットし、セラは綺麗な放物線を描いて飛んでいきドサリと落ちた。

 ピクリとも動かない彼女を見ながらホシノはショットガンを拾い、ゆっくりと近づいていく。

 

「……避けようと思えば避けられる癖に素直に受けて。なに、謝罪のつもり?」

 

 セラは動かない。

 ヘイローが消えていない事から意識を失っている訳ではないはずだが、不気味な程に彼女は動かなかった。

 

「もう泣かせちゃ駄目だよ。お前の何処が良いのかさっぱりだけど、あの子達みんなお前の事が大好きなんだから」

 

「……ククッ、スッキリしたかね。私に抱えていた鬱憤と文句をぶつけきって」

 

「とりあえずはね。はぁ〜、おじさんもうクタクタだよぉ」

 

 微笑みかけるセラを見て気を抜いたホシノは、いつものおじさんモードになりその場に腰を落とした──カチッと音が鳴り錆びついたブリキのおもちゃの様にホシノが首だけを動かしセラを見ると、そこには悪戯が成功した悪ガキの様な笑みを浮かべるセラの顔があった。

 

「いやはや、やはりお前に殴られて終わるのは癪でな?」

 

「……ほんと嫌いだ。大嫌いだお前ぇぇ!!」

 

 ボンっと弾薬地雷が爆発し、頭からグラウンドに突っ込んだホシノを見て高笑いするセラの声とホシノのキレた声がアビドスの何処までも晴れ渡る綺麗な夢の様な青空へと吸い込まれていくのだった。

 

“……まだなにもしてないのにあんなに体力使って平気なのかな”

 

 実績を作りたいんだよね?と『先生』は一人、ホシノと口論をしているセラを見ながら思うのであった。




まー、喧嘩くらいはするかなーって思ってたらそれだけで一話を使い切ったぞこの二人……どれだけ相性悪いんだ。

感想やここ好き待ってるぜ!!

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