便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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今回は切りところがなかったので、この一話のみです!


実績作りinゲヘナ

「本日、ゲヘナ風紀委員会大規模演習において君達の作戦指揮を担当する事となったシャーレ並びに便利屋68所属の萬屋セラだ」

 

「便利屋68って確か……」

 

「ヒナ風紀委員長によって口座凍結されてる人がトップの」

 

「犯罪組織だよね?なんで此処に?」

 

 当然の反応と言えば当然の反応だな。

 ザワザワと賑やかになっている彼女達からすれば、目の前に捕縛しなければならない犯罪者が現れ味方面をしているのだから困惑もするだろうし、私の左右には『先生』とヒナ風紀委員長が立っている光景もよりその困惑を加速させているのだろうな。

 

「静粛に。何故と困惑するのは分かるが、私は正式な手続きの元に今此処に立って話している。諸君らはそれだけを理解すれば十分だ……続けようか。既に諸君らには連絡がいっているとは思うが今回の演習はヒナ風紀委員長対君達だ」

 

 青褪めた表情を浮かべる者は多いが、逃げ出したり錯乱するような者はいない……必要最低限はクリアしていると見て良いか。

 

「予ねてより君達はヒナ風紀委員長のついで。居れば邪魔という程度の印象こそ与えはすれ此処ゲヘナで問題を起こす者達の中で君達を脅威として捉えている者はいないだろう。かく言う私もこうして前に立ち、今この瞬間君達に武器を向けられる事には微塵も恐怖心を抱かないが、隣に立つヒナ風紀委員長に向けられたと想像すると鳥肌が立つぐらいには警戒している」

 

 非難するような視線がヒナ風紀委員長の方から飛んでいる気がするが無視だ無視。

 ……組織として歪としか言えんのだよゲヘナ風紀委員会は。

 彼女が慣れており、何も感じないのだとしてもたった一人によって成立している組織などいつ瓦解しても不思議じゃない。

 この点で言えば『先生』も同じだが、例え彼を失っても報復に動こうとする者達は少なからずいるため、バッドエンドになろうとも現状に抗おうとする者達が消える訳じゃない。

 

 だが、ゲヘナ風紀委員会は違う。

 

 圧倒的過ぎるヒナ風紀委員長の武力によって成り立っている組織がどうして、ヒナ風紀委員長が勝てなかった相手に抗おうとするのか。

 仮に抗ったところで勝ちの目など一欠片も見えず、ヒナ風紀委員長が守ろうとしたものは尽く灰燼に消えるだろうと断言できる。

 

『実績作りも兼ねて貴女に依頼があるわ萬屋セラ。私達、ゲヘナ風紀委員会に発破をかけて欲しい』

 

 だからこそ彼女は一人でシャーレを訪れ、私に依頼を出したのだろう。

 

「故に今回の演習で君達は君達が想像出来る強大な壁に立ち向かって貰う。作戦は私が全て考える、開始は三十分後だ。それまで各々準備と覚悟を決めておくと良い。まぁ君達はただそれに従ってくれれば十分だ……それくらいは出来るだろう?」

 

 最後に彼女達を煽り、壇上を降りると続いて降りてきたヒナ風紀委員長が隣に並び先程と同じ非難めいた視線を向けてくる。

 

「……言い方」

 

「ククッ、事実さ。どれだけ必死に目を逸らそうとしても現実は変わらん。今回はそういう依頼だったはずだ」

 

“こういう時のセラは口が悪いから。でも、安心してヒナ。引き受けた仕事は必ず達成してくれるから”

 

「……そう、ね。『先生』から向けられている信頼を裏切らないで欲しい」

 

 自分の前で私が褒められているから拗ねているなこれは……本当に甘えるのが下手だなヒナ風紀委員長は。

 

「安心したまえ。便利屋の名を汚す様な真似はせんよ……あぁ、そうだったヒナ風紀委員長。頼んでいたものは用意出来たかね?」

 

「あぁうん。執務室に行けばアコが持ってると思う」

 

「了解した。では、『先生』、私が不在の間ヒナ風紀委員長のお相手を頼むよ」

 

「えっ!?」

 

“うん。頑張ってねセラ”

 

 さてとこれでヒナ風紀委員長のメンタルは一先ず大丈夫だろう。

 しかし、ゲヘナの制服は馴染むな……この露出の少ない軍服デザインは落ち着く……この依頼が終わってもこのまま貰ってはダメだろうか?

 

 

 

 

 

 

 此度、ゲヘナ風紀委員会の面々は比類なき最強に挑む。

 数々の訓練で手に馴染んでいるはずの武器がカタカタと震える──否、震えているのは己だと気がついた者達から呼吸までもが乱れていく。

 

「……」

 

 最強と面向かった事は初めてではなく、訓練として何度も経験した事ではある筈なのに震えが止まらない。

 それは何故かと考えた瞬間、眼前に立つ最強が本気である事が分かり更に顔を青褪めてしまう風紀委員会の面々であったがただ一人、隊列を組む彼女達の最前線、最も空崎ヒナという最強に近い位置に立っている銀鏡イオリだけは震えこそあるものの覚悟の決まった表情でヒナを睨みつけていた。

 

「(便利屋の奴が指揮を執る事も気に入らないが、何よりも圧倒的だと思っていた委員長を前にたった一人で戦い抜いた陸八魔アル……規律を破る違反者のアイツに先を行かれている事が何よりも悔しいと思っていた矢先、今回の機会は正直渡りに船だ)」

 

 ──その背中は届かないものだと思っていた。

 支える事は出来たとしても、並び立ち重く背負う物を一緒に背負えるなど微塵も出来ないと思っていた──

 銀鏡イオリにとって、空崎ヒナという存在は頼りになる先輩でもあり自らを庇護してくれる絶対強者であると信じて疑わなかった。

 

「(あの日、委員長は笑っていた。強者を見出したからではない……アレはおそらく、戦いを見て我慢出来なかった私を見て期待してくれた笑い。なら、今日此処で私はその期待に応えられるだけの姿を見せてやる!!)」

 

『──時間だ。各自の端末には既に作戦指示を送ってはあるが、状況に応じて私の方から適宜指示を出そう。君達はそれに可能な限り応えてくれればそれで良い』

 

 演習場を上から眺める事が出来る観戦室から、すぐ隣にアコを控えさせているセラの無機質な声が通信機から各々へと届くがその声と内容から期待されていない事は丸わかりで、ただでさえ消え入りそうな戦意の火が更に小さくなっていく。

 

『まぁこんなものか。では、始め!!』

 

 その様子に落胆したセラの合図によって飛び出したのは、やはり銀鏡イオリであった。

 元より突撃する狙撃兵という一見するとおかしな装備で戦っている彼女にとって、敵に向かって飛び出す行為は十八番でもありセラも初手の動きにイオリによる突撃を命じていた。

 

「委員長……覚悟っ!!」

 

「……」

 

 戦意は高く動きも悪くないイオリではあったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()覚醒したアルに劣る速度しかないイオリの攻撃は見事にヒナを捉えず、容易く回避されデストロイヤーの弾幕がイオリを吹き飛ばしてしまう。

 

『……何をしている。A班はイオリが撤退するまでの時間稼ぎ、B班は物理的な盾になる。そういう作戦であった筈だが?』

 

「「「「ッッ!?」」」

 

 場の空気に呑まれていた風紀委員会の面々が漸く動き始め、命令通りにA班は弾幕を張りヒナの意識を自分達に向けさせその間に流れ弾が負傷したイオリに当たらぬ様にB班が彼女を守りながら後方へと退く動きをみせる。

 

「……」

 

 ──無論、そんな何手も遅れた行動をヒナが許すわけもないのだが。

 普段、反乱の殲滅に向けられている弾丸の雨がA班を襲い瞬く間に全員を黙らせると撤退しようとするB班へと詰め寄りイオリ諸共トドメを刺そうとデストロイヤーを構える。

 

「ッッ、させません!!」

 

「……」

 

「くぅぅ……やはり私程度の攻撃では……いえ、悔やむのは後です」

 

『チナツはそのまま可能な限り、C班と共に対象を攻撃。D〜F班は遊撃に徹しろ、医療班、何をしているとっととイオリやA班の者達を治療しろ』

 

 チナツの攻撃はヒナの殲滅を一時的に中断させる事に成功するが、代わりに狙われる事となり咄嗟に遮蔽に隠れたものの弾幕を受けた遮蔽物は一瞬でボロボロになり二度目はもう使えないだろうと素人目にも分かる。

 セラから下された命令通りに各班が動き、イオリ並びにA班の者達を後方へと移動させる事には成功するがその時点でチナツを軸とした時間稼ぎ部隊は半壊し、チナツも遮蔽に隠れるのがやっとで碌な攻撃が出来ていない。

 

 たった数分でゲヘナ風紀委員会の全戦力は、ヒナ一人に半壊し碌な抵抗すら出来ないほどに追い込まれていた。

 

『まぁ、予想通りだな。やはり君達はヒナ風紀委員長のお荷物でしかない』

 

『ッッ……作戦指揮を担当した貴女の責任もあるのによくもまぁ、そんな一方的な事が言えますね!』

 

『アコ行政官。これが意図的である事に気がつけない……それが君の限界か?』

 

『なっ──!?』

 

 初めからセラはヒナ相手に風紀委員会が勝てるとは微塵も思っておらず、なんなら未来視すら使っていない始末だった。

 彼女からすれば負けると分かりきったゲームをしただけに過ぎず、何処までも冷淡に言い放つ。

 

『そもそも初めからして誰一人ヒナ風紀委員長に勝つつもりがない。そんな兵を運用して勝てると思うかね?唯一、まともそうなイオリ嬢も戦意は高いが勝つという気概は感じられなかった。その時点でこの結果は約束されていたものだろうさ』

 

 力で劣り、気持ちでも劣る……そんな状態で勝てる戦いがあるのなら教えて欲しいとセラは無感情の瞳をアコに向ける。

 

『こんなものか?混沌と自由を愛するゲヘナ学園で、わざわざ秩序を守る側に立った君達の正義の心は。自分より強い者が相手なら戦う前から銃を捨て去り、負犬である事を容認するほどの弱い覚悟だったのかね』

 

 煽り嘲り嗤うセラの姿は悪役そのもので、彼女の冷淡な声から紡がれる言葉の一つ一つが風紀委員会の者達の心に突き刺さり、事実としてなす術もなく地面に倒れている者達は瞳に涙を浮かべるがそれでも彼女の言葉が止まる事はない。

 

『ヒナ風紀委員長たった一人に依存するだけの甘えた正義など捨ててしまえ。その方が君達にとっても楽だろう?ゲヘナは混沌と自由を謳う学園だ。煩わしい甘ったれた正義感など捨てて己の悦を求める方が』

 

 セラの言葉によって反抗しようと燃えていた僅かな闘志すらも消え去り、風紀委員会の面々の心は折れ──

 

「違う!!!!!」

 

 ──るより早くイオリの叫びが、凍りついた演習場へと響き渡る。

 デストロイヤーの弾幕をモロに浴びた彼女は、ボロボロで巻き掛けの包帯が立ち上がった瞬間に地面へと落ちていくがそんなものはお構いなしにイオリはボロボロの身体で歩き出す。

 

「……確かに私達は委員長に甘えていた。どんなに辛くても最後には委員長がなんとかしてくれるって……でも、それでも私は風紀委員会である事を手放すつもりはない!!ゲヘナには少ないが……それでも私は真面目な人達が馬鹿どものせいで苦しむ姿を見たくないんだ!!その為には風紀委員会であり続ける必要がある!!」

 

 ふらふらと歩きながら啖呵切ったイオリであったが、武器を構えてヒナを撃とうとする前にやはり身体の限界なのか体勢を崩し、地面へと倒れそうになる。

 

「……その通りですね。私も傷つく人を見たくありません。だから風紀委員会を選んで私は今、此処に立っているんです」

 

「チナツ……」

 

 そんなイオリを遮蔽物から飛び出したチナツが支え、二人は揃って互いの武器をヒナに向ける。

 イオリはボロボロで今すぐにでも、倒れてしまいそうでそんな彼女を支えるチナツも本来であれば後方に立つ者であり手に持つ拳銃はヒナを仕留めるにはあまりにも弱い。

 たった二人では全く勝ち目なんてないだろう──けれど、この場にいるのは彼女達だけではない。

 

「……そうだ……誰かを守りたいから風紀委員会を選んだんだ」

 

「私もそうだった……友達が泣いてるのを見たくないから……」

 

「憧れたんだ……ヒナ委員長に……」

 

「私の……私の意思で此処を選んだ」

 

 一人また一人と立ち上がり、イオリとチナツに並んでいく。

 もはやただ地面に倒れ伏す者はおらず、ゲヘナ風紀委員会の全員がその手に武器を取りヒナ委員長へと向けている──もう震えはない。

 折れかけた心は再び、己の原典を取り戻した事で強く燃え盛りゲヘナ生徒らしい我の強さを取り戻し、この道を選んだのは自分だ、この道の先に自分達が望んだ夢と姿はそこにあるのだと強く己を信じさせる。

 

 ──もはやこの場にただの一人も弱兵はいない。

 

『借りますよ!!──此処からは私が、ゲヘナ風紀委員会行政官の天雨アコが指揮を執ります!!皆さん、親愛なる委員長に見せますよ私達の覚悟を!!』

 

 現場の様子に居ても立っても居られずにアコはセラからインカムを奪い去り、己の意志と共に風紀委員会の面々を鼓舞すると更に熱が入った様で通信機を通していないにも関わらず空気を揺るがすほどの熱気が返ってくる。

 そんな光景を見てヒナは嬉しそうに羽を動かすと、一際大きく広げてデストロイヤーを構える。

 

「良いわ。貴女達の理想の先を見せてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

“良かったの?”

 

「あの様子を見る限り依頼は成功だろうさ……全く、アコ行政官め力づくでインカムを奪ってくれたな。おかげで少し耳が痛むぞ」

 

 やはり鍵はイオリ嬢だったな。

 あの場面で再起するかどうかは未来視をしていなかった為に賭けだったが、運命というものは彼女を選んだ様だ。

 少々、心無い言葉を言った自覚はあるがあの程度で折れるのならヒナ風紀委員長の後を継ぐなど無理な話だからな。

 

“うん。それもあるんだけど”

 

「何かね?」

 

 依頼達成以外に何か『先生』が気にかけるものでもあっただろうか?私の好感度とかなら別にどうなっても構わないから気にしなくても良いのだが。

 

“風紀委員会の制服気に入ってたでしょ?”

 

「……ククッ」

 

 相変わらず生徒の事をよく見ている『先生』だな。

 確かに貰えるのなら貰いたいぐらいには思ってはいたがね。

 

「アレは私には似合わんよ」

 

“ふふっ、確かにセラは便利屋だもんね”

 

「あぁそうだとも。私は便利屋68の萬屋セラだからな!」




ちなみにアコちゃんが用意していたのは、ゲヘナ風紀委員会モブ達の得意不得意を纏めたものです。
10分程度で目を通し終わり、適性ごとに編成して5分くらいはケイと遊んでましたねセラ。

感想やここすき待ってるぜ。

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