便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「……ふむ。概ねは私も賛成だがアリウスとトリニティ間で交換留学というのは時期尚早だと言わざるをえんな。確かにアズサ嬢という前例はあるがアレはアリウス側には潜入、トリニティ側には素性を隠しての転入であった事と彼女が他のアリウス生徒より君達に対する憎悪が限りなく低かった為に成立出来た特殊なパターンだ」
「……んっ……」
疑心暗鬼に陥った事を恥じているのが実によく伝わる文面だが、今度は些か善性を信じすぎているなナギサ嬢。
アリウスとトリニティの溝は深く、歴史的に見ても長い為に感情だけで見れば上手くいかなくて当然であるからこそ理屈を詰めて現状、唯一のケースであるアズサ嬢を参考にするまでは良かったが流石に特例が過ぎたな。
「なるほど……確かにアズサさんは少々、過激な行動が見られますが補習授業部の方々とも仲良く過ごされている様ですし彼女をアリウスの一般ケースだと想定するのは甘かったですね」
「いずれは必要になるだろうが先ずは互いを知る事だ。植え付けられた憎悪のせいもあるがアリウスからすれば苦しめてきた相手がもはや自分達のことなど微塵も覚えていないというのは不必要な怒りを招くだろうし、君達……まぁ、主に政治に関わる者達は事情を知ってるが故に排斥した筈の彼女らと手を取り合うなどと悪意を向ける事になりかねん」
「……んっ……ふぅ……」
「……ンンッ、つまり私達は歴史と向かい合う事が必要であるという事ですね。確かに不必要な争いは望んでいませんし、私達も新たな政治形態を整える必要もあります……わかりました、ではこちらはまた時期を見計らう事にしましょう」
「んんっ……うんん……」
アリウスの方はサオリ嬢と『先生』が協力し、情操教育をしているそうだがそもそもサオリ嬢がかなりの天然らしく第三回目からはミカ嬢が彼女専門に常識を教える様になったとか言っていたか。
レイヴンも時には参加している様だが、追加報酬でも用意するのが雇用主としての責任か?友人付き合いの一環と言えばその範疇ではあるが、アリウス生徒に常識を教えるというのは中々に疲れるものだろうしな……ふむ、今度特別手当でも組むとするか。
「……ん〜」
「……あのところでその、そろそろ言ってしまっても大丈夫でしょうか?」
「ん?何か急ぎの案件かね?」
書類から顔を上げてみれば、何やら紅茶を飲む手が震えているし頬を僅かに上気している……ふむ、もしかして体調不良か?
まぁエデン条約の一件以降もトリニティの新たな政治体制の構築、ミカ嬢への処分とアリウスとの交渉に加えて書類仕事に慣れていないミカ嬢の面倒を見つつ本来の仕事までこなしているのだから自己管理が疎かになっても仕方ないか。
「いえ……そのセイアさんが色々と艶かしい声を出しているというかあの、此処に来てからごく自然な形で耳を撫でているのはなんなのでしょうか!?」
「……んっ……少し前に私の部屋に招待した時に耳を撫でるのが気に入ったらしくてね……ふわっ……見ての通り私も心地よいので互いのストレス解消も兼ねてんっ、友人同士の戯れさ」
「セイアとはそれなりに交流を重ねているのでな。このふわふわとモフモフ感が癖になるんだ」
カヨコ課長が猫にハマるのも良く分かる……セイアは狐だが。
所謂、ケモ耳?というものは本来動物が自身の弱点を守る為に生やした毛によってその独特な柔らかさを誇り、キヴォトスではコレを有する者も多いが生憎私は純然な人としての肉体である為に、ケモ耳は持ち合わせていない……だからこその魅力なのだろうか。
そっと優しく触れただけで、柔らかに包み込み沈んでいくこの感覚は筆舌にし難くこれだけでも十分過ぎる心地良さがあるというのに指を離せば今度は、圧力から解放された毛の一つ一つがこそばゆく撫でまた違った心地良さを与えてくる正に、無限。
「それはその……大変良いと思うのですが……あの、膝の上に乗せながらというのは距離感が……」
「あぁ、以前の姿であれば気をつけるが今は見ての通り私も女学生の一人。この程度は大した問題ではあるまいさ。それに便利屋でも似た様な事をしているしな」
ナギサ嬢の表情筋が一気に死んだ様な気がするのだが……私にとっては別にこの程度の距離感は今に始まったものではないのだがね。
主にムツキ室長ではあるが、次いで多いのはハルカさんだな。
カヨコ課長は背中にもたれ掛かり、アル社長は肩を枕代わりにしている事が多い。
「距離感……いえ……私はあくまで仕事をお願いしているだけの関係なので深入りは良くないでしょう……ですが、『先生』に話をするくらいなら……」
「セイア。君は嫌かね?」
「いや全く。そもそも君が便利屋に所属していなければんっ、ティーパーティーの運用の為にも雇い入れたいぐらいさ」
「ククッ、それは光栄だな」
「あぁ全くだ。なのに君ときたら既に居場所は定まっていると言って聞かない……本当に羨ましいよ陸八魔アルが」
此処でアルだけの名を出すあたり、あの時の混線で私の過去を垣間見ているなセイアめ。
感覚的な話ではあるが、もしもあの時彼女に出会わずにセイアと出会っていれば恐らく私はセイアと共にあっただろうと予想出来るぐらいには彼女を受け入れている節がある。
「言葉を介した意思疎通の方が好みだが、似た力が故の言葉なき共感もまた良いものだな」
「ふふっ……そうだろう?こればっかりは譲れないさ」
「……はい。お二人が仲良しなのはよく分かりましたから。セラさん、補習授業部とシスターフッドからそれぞれ面会の打診があったのではないですか?」
「あぁ。主にハナコ嬢とサクラコ嬢からだったが……確かにそろそろ良い時間だな」
まだ猶予はあるがトリニティは歩き慣れていないし、何よりも彼女らを待たせるのはあまり宜しくないから行くとしようか……セイア、動きたくない気持ちは分かるが尻尾で抵抗するんじゃない。
「むっ」
「いつもの事だがひ弱な君が抵抗しても今の私なら簡単に引き剥がせるぞ」
神秘の差もあるが、神秘の流れを偏らせる事が出来る私からすればセイアの様な軽い娘を動かすのは造作もない。
まぁ尤もミカ嬢クラスの神秘の持ち主であれば軽い抵抗をされただけで、私の身体が粉々になるのが目に見える為にひ弱な相手だからこそ使える手段とも言えるな。
「ではナギサ嬢。アリウス関連でまた何かあれば、『先生』を通すか便利屋に連絡をしてくれたまえ」
「はい。色々とお世話になります」
「ククッ、構わんよ。此方も良い実績になる……セイア、今度来る時はまたチェスでも打とうか。その直感がどこまで通じるか試してやろう」
「あぁ楽しみにしているよ」
セイアに手を振りながらトリニティが広々とよく見えるテラスから退散し、ティーパーティー所属生徒に護衛兼監視をされながら建物を出る。
さてとハナコ嬢と約束は噴水近くでサクラコ嬢は教会だったな。
「ハナコ嬢の方は単なる相談で、サクラコ嬢はレイヴンに関してだったな……ふむ、先ずはハナコ嬢と会うとしよう」
『先生』もサオリ嬢との打ち合わせが済んでいれば噴水近くに居ると言っていたしな。
「……しかしまぁ、流石はトリニティだな。視線が鬱陶しい」
トリニティの制服を着ていない事が珍しいというわけではなく、ティーパーティーとの繋がりから面倒な興味関心を惹いてしまったという感じだな。
恐らく私がシャーレ直属という立場なのもあるだろうが……値踏みする様な視線に嫉妬の様な悪意的な視線……やはりサクラコ嬢を後回しにして正解だった、この視線のままシスターフッドのトップに会えば余計なやっかみを貰いかねん。
「あら……来てくれたんですねぇバイステンダーさん」
「今はセラだ。まぁ、呼びやすい様に呼んでくれて構わないと言えば構わないのだが……その気の回しは必要ないぞハナコ嬢」
「そうですか?私としては今ここで制服を脱ぎ捨てても構わないのですが」
「それがやりたい事なら好きにすると良い。私は全力で他人のフリをさせて貰うがね」
「まぁ残念」
「……わざわざ私を呼び出してその退屈な外面を見せたいだけならもう次の用件に行くぞ」
本当に子供らしく振る舞えない子供だなハナコ嬢は。
今更、私を前にして此方の機嫌を気遣ったり距離感を測る様な発言を重ねる必要はないだろうに。
「うっ……駄目ですね。こればっかりは癖になっていて」
「此処では少ないだろうがそういう表面だけの態度を嫌う者もいる。ククッ、一つ勉強になったなハナコ嬢」
気不味そうに目を逸らすのなら初めからやるべきではなかったな。
「……うふふ。はい、今後は気をつけますねセラさん」
「あぁ。それで私に一体何をして欲しいんだ?」
「あっ、そうでしたね。その今度、補習授業部の皆さんとちょっとしたパーティーを開くんですけどその、そう言った場での適切なお菓子とかが分からなくて……」
これはまた随分と微笑ましい依頼であると同時に、彼女の友人関係が今まで非常に残念であった事が丸わかりで少々悲しい気持ちにもなってくるな。
まぁそういう事なら実際に買い物に付き合いながら話を進めるのが良いだろう……確か近くにはトリニティには珍しいショッピングモールもあった筈だ。
「なるほど。では、実際の品を見ながら講義と行こう。着いてきたまえハナコ嬢」
「は、はい!」
後半はハナコと買い物とサクラコ様とのレイヴン対談かな。
セイアちゃんとの距離感がめっちゃ近いのはトリニティifの場合、彼女がヒロインになる為ですね。if世界線とかバッドエンド世界線とかどっかのタイミングで投稿したいなとは思ってる(思ってるだけ)
感想やここすき待ってるぜ!