便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「シャーレ……『先生』……そして突然の空白期間を埋め尽くす様に活動し各学園との繋がりを見せる謎の生徒萬屋セラ……カイザーも手を焼いたそうですし早めに手を打っておくのが吉でしょうかね」
淹れたてのコーヒーの香りが鼻腔を擽る中で、机の上に並べられた複数枚の写真を眺めながら思案を巡らせる桃色髪の生徒がいた。
彼女の名前は『不知火カヤ』……現在、トップである連邦生徒会長が突如として姿を眩ました事で基本業務すら正常に熟せていない連邦生徒会を憂う連邦生徒会防衛室長の地位に座している女子生徒である。
そんな彼女は今、自らの計画を乱す要因として萬屋セラを見定めようと計画していた。
「便利屋68……なるほど。ゲヘナ学園の生徒が作った会社所属ですか。ん?彼女が所属するまでの間に、一人男性が居たらしいと報告が上がっていますが彼女と入れ違うようにパッタリと報告が途絶えていますね……んん?娘か何かなのでしょうか」
政治力に優れるカヤは既に自らの手足のように動かせる者達を確保しているようで、彼女達から上がってきた報告書に目を通しながらバイステンダーとセラの入れ違いに気が付きはするものの、まさかの同一人物である事にまでは考えが至る訳もなく不可思議な現状だなとは思いつつも一旦、コーヒーに口をつけて飲み込む。
「……はい?なんですかこの戦闘力は。たかが、ゲヘナ学園から逃れた程度の組織ですよね?たった五人でカイザーの二個中隊規模に相当する部隊を撃退、更にはミレニアム自治区の廃墟の一つを崩壊させながら逃亡……それ以外にも名のある裏組織との幾度の交戦を乗り越え今ではDU地区に事務所を構えていると……冗談ですか?」
数とは力。
一部の例外はあるもののカヤはそう思っており、その為に連邦生徒会を手中に収めようと画策しカイザーとの協力関係も構築してきた。
更にその一部例外に対抗するための手段も既に私兵として抱えており、万全の状況を作っているという自負が彼女にはあるのだが上がってきた報告書はそれらの常識を破壊するような、いっそ間違っていてくれと思う情報が羅列しており優雅にコーヒーを飲む手も止まっていた。
「先方からの話ではアビドス砂漠における戦闘でも最前線で戦っていたと聞いていますし……やはり彼女達の活躍が一段と目につくようになった要因には是非とも会いたいものです」
だがそれでもカヤは不敵に笑ってみせた。
当初の予定通り先ずは娘と目される萬屋セラと接触し『先生』ではなく此方側へと引き込み、そのまま父親を取り込んでしまおうと算段をつけた彼女は携帯を取り出し萬屋セラを連れて来る様に手配を済ませると室長としての権利で購入した柔らかな椅子の体重を預け、キヴォトスを見下ろしながらコーヒーを味わう。
「ふぅ……やはり考え事をする時はマンデリンに限りますねぇ」
優雅にコーヒーを飲む事数時間。彼女は手配した部下が手荒にセラを連れて行こうとした為に見事に返り討ちになった報告を受けて頬を引き攣らせる事になるのだが、今の彼女はコーヒーの美味しさをただ只管に味わうのみであった。
「……で、本当に行くの?」
「そう不機嫌な顔をしないでくれカヨコ課長。どうにも防衛室長殿は、私に是が非でも会いたいらしくこのまま断っていると色々と邪魔をされそうでな。まぁ、何故か連邦生徒会の制服を寄越したのだけは意図が全く読めんが」
まぁ嘘だが。
今回ばかりは未来視を使っている為に不知火カヤがどうして制服を送ってきたのかは知っている……一度、失敗しているからこそ体面を取り繕う為に格好だけでも私を取り込んだと思わせるのが目的の様だ。
「碌に仕事もしてない連邦生徒会がセラにどんな用なのかよく分からないけど……まぁ、社長は兎も角、貴方なら騙される事はないか」
「私なら兎も角ってどういう事よ!?」
「アルちゃん今でもたまーに不利な契約結んできちゃうもんねぇ〜」
「うぐっ!?」
「だ、大丈夫ですアル様を騙す様な不埒な輩はぜ、全部私が吹き飛ばしますから!」
「ハルカさん、加減はしてくれたまえよ。地区一つ纏めてなどは過剰だからな」
資金力がある今、ハルカさんが万が一でも暴走するととんでもない被害が出る可能性が高いのでやんわりと釘を刺しておく。
折角、一般にも良い印象を抱かれているのだから可能ならこのままを維持したいところだ。
「まぁでも?鷹さんはいっつも無茶しちゃうからなぁ〜そ れ も 私達から見えないところで!」
「っと。急に抱きついて来ると驚くだろうムツキ室長。まぁ、無茶をしてきたのは事実だから何も言い訳出来ないが」
ゆっくりと頭を撫でてやると猫の様に目を細め気持ちよさそうにするムツキ室長に暫く癒されてから、彼女を優しく引き剥がし最後に一度撫でてから皆に見送られ事務所を出ると真っ白なリムジンが事務所の前に止まっていた。
「お待ちしておりました。萬屋セラ様」
「……分かりやすいほどにVIP待遇だな」
「丁重にお送りする様にとカヤ様より承っております」
「なるほど。よく躾けられている」
かつてのトキ嬢の様に自ら考えることを放棄した目をしている。
こういう目をした者を手配する輩は、リオの様に大きすぎる目的を持っている者かゲマトリアの様に他者を利用する事に何一つとして抵抗のない者かのどちらか……はぁ、連邦生徒会長めもう少しまともに引き継ぎをして欲しいものだな。
それにしてもやはりキヴォトスの治安は終わっているの一言で片付くな。
リムジンがこれ程までに揺れ動く事は有ってはならない事だぞ?
「またゲヘナ生徒ですか……」
溜息を吐くその姿からして慣れきっているのが分かってなんとも言えん気持ちになるな……
『……とりあえず罠の類などはありませんよ。至って普通のリムジンです』
スマホの画面に映った文字に一安心しながら目を閉じて背中を預ける。
この調子なら予定通りに着く事はないだろうから眠っておくとしよう。
「やぁ、初めまして防衛室長不知火カヤ殿」
「えぇ。初めまして便利屋68の萬屋セラさん」
予定より二時間ほど遅れて始まった会合の初めは穏やかな空気であった。
向かい合う様に白いソファに座る双方共に笑みを浮かべており、なんて事のないキヴォトスの日常に関しての雑談を交えつつカヤの趣味というコーヒーに舌鼓を打ったセラが同じ様な趣味の持ち主として深く踏み込み会話を重ねている光景は微笑ましいものだが、もしもこの場に一人別の人物がいればこう思うだろう。
──笑顔が怖いと──
「なるほどなるほど。随分と深い知識があるご様子で……『先生』にでも教わったのですか?」
「『先生』は多忙の身だ。私如きに割く時間はないとも。それにかの連邦生徒会防衛室長に比べれば足元にも及ばんさ」
「それはまぁ随分と謙虚な事ですね」
「いえいえ単なる事実だとも」
見事に腹の内を見せる気のない二人は笑顔のままコーヒーを飲み込むが、先に使える時間の猶予が迫っているカヤが懐中時計をチラリと見ると小さく溜息を溢し空気を切り替えた。
「萬屋セラさん。時に貴女はお聞きした情報によると実績作りに励んでいるとか」
「えぇまぁ。なんの成果もない小娘がシャーレにも所属しているとなると『先生』の立場を悪くしてしまうのでね。私には実力があるのだと示す必要があったのさ」
「三大校とアビドスを回り成果を出した貴女を防衛室長である私は評価しています。なので、私と手を組みませんか?これから細々とした実績を作るより手っ取り早くそれでいて誰の目から見ても明らかである連邦生徒会という大きな後ろ盾が出来ますよ」
その言葉に目つきを僅かに鋭くしたセラは足を組もうと少し持ち上げたところで停止し、スッと元の位置に戻すという謎行動を行いカヤが首を傾げたがなんて事はなく、ただ己がスカートである事を思い出しただけだった。
そんな自身の格好に慣れていないが故の行動を見せたセラであったが、ソファの肘置きに右肘を置き微笑む姿は紛う事なき悪役で対面するカヤは自らが唾を飲み込んだ事にも気が付かないほどに呑まれ始めていた。
「ククッ、なるほどなるほど……これは滑稽だな不知火カヤよ」
「んなっ!?」
「その驚きに染まった表情を見れば分かるとも。貴様、自らの提案が断られるとは微塵も想定していないな?私が何故、シャーレに所属し便利屋68に居るか少しは調べれば理由が出ると言うのに……いや、まさか調べた上で自らの提案の利が勝っていると判断したか」
こと今更になって不知火カヤは目の前に座っている女子生徒の異常性に勘づき、しまったと舌打ちを溢す。
あまりに慣れている……腹の内を探る行為も、悪意の魅せ方も、空気の作り方さえも自分より上手だと。
「……なるほど。これ程とは」
「ふむ。必要最低限、未だ目は曇りきっていない様だが」
スッとセラの視線が扉の方に向けられた瞬間、カヤは即座に起動したままの通信機に合図を送り手配されていたプロ──FOX小隊の面々が銃を構えて突入し、セラを取り囲む。
「……会談の失敗を悟るや否や実力行使。実にキヴォトスらしい方法だ」
「本当は使いたくなかったのですけどね。ですが、時間は有限……『先生』にも対処をしなければならない以上、貴女に時間をかけるのは不本意なのですよ。萬屋セラさん」
「武力で黙らせれば大人しく従うとでも?ククッ、安く見られたものだな」
「この状況でまだ歌う余力があるのは感心しますが、大人しくこちらの書類にサインする方が賢明ですよ?」
差し出された書類はセラの身柄を防衛室が預かるというもの。
これにサインをすれば最後、セラはシャーレにも便利屋68にも戻れなくなる代物であり銃を向けられた圧力からサインするだろうと踏んだカヤの視線の先で、再び笑う。
「──地を這う狐が鴉を仕留められるとは思わぬ事だ」
『ダミー映像に切り替えました。いつでもどうぞ、レイヴン諸君』
「なにをッッ!?」
カヤの背後、外に面した窓ガラスが割れると白と黒が入り混じった大きな翼を持つ生徒──レイヴン9が現れ、其方に対処しようとFOX小隊の面々が武器を向けた瞬間、彼女達が入ってきた扉が開かれ連邦生徒会の制服に身を包んだ他のレイヴン総勢五名が侵入し不意を突かれたFOX小隊を取り押さえ、彼女達が抵抗しようとする姿勢を見せるとレイヴン9がカヤを組み伏せ後頭部に銃を当てる。
「十五秒か。よくやったレイヴン諸君……さて、これで漸く淑女的な話し合いが出来るというものだな不知火カヤ」
「ぐっ……」
優雅にコーヒーを飲むその姿はやはり、誰がどう見ても悪役でしかないのだった。
どっちも悪役かこれ??
再び、絵を描いていただきました!!可愛いサクラコ様との対談の様子が見れますので是非、私のXの方からご確認ください!!
感想やここ好き待ってるぜ!!