便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「ほぅ。部下に全てを任せてコーヒーとは。超人とは書類仕事をせずに、他者に責任を押し付ける者を指す言葉だったか。やれやれ、私の知見もまだまだ狭いな」
「素直に仕事をしろって言えないんですか?」
これは私がやるまでもないと副官に仕事を任せ、日課のコーヒーを堪能していた時の一幕。
「キヴォトスの治安を把握しているのならレッドウィンターから上がる案件は後回しで良いが……ふむ、最優先に処理するとはどういう考えだ?」
「……いえ、これが偶々視界に入っただけですから」
これは部下から上がったレッドウィンターのクーデターに関して、防衛室として対応しようかと思案してる時の一幕。
「思うのだが武器弾薬を自作する考えはないのか?カイザーや他のグループに頼るしかないのは行政機関として欠陥だろう」
「資金と技術者が居ないんですよ。連邦生徒会直属があれば便利だとは思いますが」
「資金ならあるだろう。君の懐に」
「ンンッ」
これはヴァルキューレから上がる武器弾薬の補給要請に関して考えている時の一幕。
「恐怖で縛るのは結構だが、それだけでは味方を無くすぞ。少しは福利厚生を考えたまえ」
「……参考程度に聞きますが、貴女の組織確か、レイヴンでしたか。そこはどうなってるんですか?」
「休日は不定期だがその代わり、仕事に出た時間は管理し必ず二日間の休暇が取れる様に手配しているし、誕生日休みや連休なども可能だ。無論、怪我や病気の場合は申請すれば此方で最大限の手当てと金を用意する。あぁ、それと私が筆頭株主となっている企業での買い物には20%の値引きだな」
「手厚い……それで傭兵業が回るんですか?」
「回るとも。元よりアレらは私の命令に忠実な道具だ。ならばこそ、しっかりとメンテナンスをするのが使い手の義務さ。違うかね?」
「少なくとも傭兵にする対応じゃないと思いますね……」
これは目に隈を作ってやってきたカンナさんとの会合を終えた際の一幕。
例に挙げた以外にもフラフラとやって来ては、細かく私のやる事全てにケチをつけてまるで授業料だと言わんばかりに、私の秘蔵のコーヒーを飲んでから帰るあの人……こっちは仕事中だと言うのにコーヒーの芳醇な香りを部屋に漂わせて帰るんですから、もう飲みたくて飲みたくて仕方ありませんよ全く!!
「あれから数日……ほぼ毎日やって来るのはなんなんですか」
「ん?君の仕事ぶりも見定める項目の一つだとも。まぁ、あまりに見てられず口を挟んだ気もするが」
「気じゃないですよ!毎回毎回、小姑の様に口を挟んできて……しかもまた私の秘蔵のコーヒー飲んでますし」
「ククッ、やはりコーヒーの趣味は良いな。取り寄せるのも大変だろうにその後の管理も徹底され、豆はほとんど品質が低下していない……何故、これが出来るのに仕事はこんなにも雑なんだ不知火カヤ」
「悪かったですね雑で!はぁ……」
連邦生徒会の書類仕事が多岐に渡り、かつ一つ一つの書式がややこしい事は下積み時代から知ってましたがまさかまたコレと向き合う日が来るなんて。
これでも忙しい身なのですが?毎日上がって来る嘆願書の仕分けに、ヴァルキューレの装備問題解決に向けた企業や技術者との会合に各関係者への説明及び、具体的に必要な物を調査する為の人員確保、カイザーコーポレーションから来る嫌味と計画の為の秘密裏な会議……最近では自由時間にカイザーコーポレーションを探っているから休みも殆どないですし。
「……会長捜索に人員割き過ぎでは?」
「それが連邦生徒会の現状だと漸く気がついたかね」
「キヴォトスの治安は終わってますから仕事が多いのは今に始まった話ではないですが、本来であれば一つの室の長が書類仕分けまで担当しているのおかしいでしょう。捌いてもなお、書類の山です」
「ちなみにシャーレではこれの数十倍、酷い時は部屋中に書類のサンクトゥムタワーが出来上がるぞ」
「なんですかその地獄」
「ククッ、原因たる君がそれを言うかね?」
「……ンンッ、しかしこれでは形骸化していると文句を言われても否定出来ないじゃないですか」
各学園に自治そのものは任せているとは言え、最終的にどうしようもなくなった時の解決策が連邦生徒会であった筈なのにこれでは存在価値はなく、シャーレがあればそれで良いと生徒達が思っても不思議ではありませんね。
……やはり、シャーレの力を削ぐか吸収してしまうのが手でしょうか……しかし、目の前の悪魔を相手するにははっきり言ってカイザー如きじゃ足りない気がします。
「どうにかリン行政官が保たせているが、それも何処かの誰かとの政治的対立で邪魔をされているらしいな」
「さて誰でしょうね」
計画を実行するか否か……私、個人としては実行したいのが当然です。
その為に苦労もしましたし、下げたくもない頭を下げて仄暗い事も散々してきてそれが全て無駄になるかもしれないなど到底、許せない事柄ではありますが現状の手が足りていない生徒会を乗っ取ったところで、リン行政官の分も仕事が回ってきて余計苦しくなるのは明確。
そうなれば、明らかに野心を隠そうともしていないカイザーコーポレーションが実効支配の形を取ってきても手が打てないどころか、疲労を理由に追い遣られるかもしれない。
考えれば考えるほどにメリットよりもデメリットが勝ってくる……せめてシャーレをカイザーコーポレーションへの牽制として組み込む事が出来ればって、考えると結局この悪魔の存在が邪魔になる。
いっそ、今ここで黙らせて──
「──ッッ、それはあまりに凡人ですよ不知火カヤ。もっと視野を広く……最適解を打てなければ超人足り得ないのですから」
「……ふむ」
ん?なんですか徐に立ち上がってって、私の私物が管理されているロッカーを何当たり前の様にガサガサと探ってるのでしょうあの人は。
そうして取り出したのは最近、使っていなかった将棋盤と駒で彼女は私の方を見ると手招きで呼び寄せる。
「仕事あるのですけど?」
「一局休憩だ。付き合いたまえ」
「……はぁ、言っても聞かないのでしょう。良いですよ好きですし将棋」
私の方に王を投げ渡した彼女は手早く、駒を並べ終え同じ様に私も並べ終わると先行を譲ってきた。
良いでしょう……数日前はいい様にされましたが、今回は私の方が上だと理解させてあげましょう!!
「……参りました」
「ククッ、序盤は良かったが僅かに不利になってから焦ったのが敗因だな不知火カヤ」
あー、もうどうして勝てないんでしょうね!!
最初は間違いなく、私が有利で進んでいた筈なのに飛車が取られて不味いと思った瞬間にどんどん盤面が覆されていつの間にか歩が四枚と王しか残ってない状況にされてしまった。
「勝てると思っている時はとことん調子が良いが、不利になった時の立て直しが下手すぎるな君は。結局のところ、視野を広く持てという話ではあるがここまで私と打ち合えるのだからもっと精神的に余裕を持ちたまえ」
「余裕?」
「端的に言えば負けようとも笑ってみせろ。常に笑顔でいる者は強いぞ」
瞬間、脳裏に常に笑顔だったあの女の姿が思い浮かんだ。
私が浮かべている様な作り笑いではなく、心の底から笑っているのだと分かってしまうあの愛想が良く可愛らしいとすら思える笑みを浮かべている連邦生徒会長が。
「……そう出来たら良いんですけどね」
そんな余裕が今のどこにあると言うのか。
解決しなければならない問題は山積みで、日々の仕事も多くましてや頭痛の種が常に目の前にいるこの今に。
「ククッ、選ぶのは君だ不知火カヤ。私はその選択を見守り、見定めるに過ぎん。そんな傍観者の下らぬ戯言だと思うのならそう片付けるが良いさ」
「……」
少しばかりこの悪魔の性質が見えてきた気がする。
彼女は選択肢を分かりやすく見せつけ、その内のどれを選ぶのかそもそも選ばないのかを娯楽として楽しみ、そしていつか自らがぶら下げた選択肢を破り捨てる様なそんな存在を待っているのでしょう……そして何故か、今は私がそういう存在足り得るか見定められている。
楽しげに歪む青い瞳が纏う色香が、ジュクジュクと私の思考回路に介入してくるのを受け入れつつある自分に呆れてしまいますね。
でも、コレはそれを望んでいない、この色香に屈したが最後私は都合の良い操り人形にされると確信出来る。
「──道化の戯言を飲み込むのも超人の役割。良いでしょう、今は乗ってあげますよその囁きに」
だから、虚栄でもなんでも良い自らが上だと誇るのですよ不知火カヤ。
余裕が無いのなら作れば良い……先ずは業務の見直しと、リン行政官との会合を組んでそれから、一つ一つ解決していき最後にはこの悪魔を捩じ伏せる、それだけを考えましょう。
「ククッ、先程よりは見れる顔つきになったではないか」
「そうでしょうとも……さて、私は仕事があるのでお引き取りを萬屋セラさん」
「仕方ないな。もう少しコーヒーを飲んでおきたかったのだが……これは君にあげるとしよう」
そう言っていつ間に淹れていたのか律儀に私のカップに入れたコーヒーを置いて彼女は防衛室を出て行った。
「……美味しい」
感想やここ好き待ってるぜ!!