便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
キヴォトス各地に確認された謎の高エネルギー反応は、本来であれば台風などの災害を引き起こすレベルだと防衛室長不知火カヤによって集められた連邦生徒会の面々は知る事となり、全員に緊張感が走っていた。
「これは……」
「だから言ったでしょう。キヴォトスに滅びの予兆が起きていると。まぁ、これをいち早く察知したのは私ではないのですが」
驚愕に染まった表情でモニターを見るリン代行がカヤの言葉に振り返ると、彼女はまるでリン代行を見定める様に小さな笑みを浮かべる。
その姿を見てリン代行は以前行った会談の内容を思い出し、一度深呼吸を行うとすぐに各学園へと招集をかける様にとモモカ、アユムに指示を出し指示受けた二人が連絡の為に部屋を出て行く。
「『先生』への連絡は私がします。カヤ防衛室長には」
「この事態を察知した人に同席を願えですかね?構いませんが、あの人はあの人で動かした方が此方のメリットが大きいと思います」
「何故ですか?何か情報があるのなら共有するのが得策だと思うのだけれど」
「私もそう思いますが」
一度言葉を区切ったカヤはモニターへと近づき、視線をミレニアム地区へと向けそこでミレニアムの生徒会長と会談しているであろうセラを脳裏に思い浮かべながら口を開く。
「あの人はあまり多くの生徒がいる場に出すべきではないんですよ。一言多い人なので必ず誰かの地雷原を進んで踏んで、会議そのものに遅れを作るでしょうから」
随分な評価だがカヤから見たセラという人物像は、小姑の様に口煩くそれでいて協調性がある癖に認めた相手以外とは足並みを揃えるのを面倒がる非常に扱いが大変な人というものなのでこの評価も仕方ないと言えるだろう。
そのあまりのものの言いように思わず、呆気に取られるリン代行であったが語った本人であるカヤが自然な笑みを浮かべているのに気がつき、肩の力を抜きながら問い掛ける事にした。
「信用して良いんですね?」
ミレニアム地区から視線をリン代行に戻したカヤは、いつもの様に細められている瞳を少しだけ開きリン代行の澄んだ青い瞳を見つめながら確固たる自信を元に口を開いた。
「勿論です」
「……分かりました。あのカヤ防衛室長がそこまで好意をあからさまに示す人物なら私も信用しましょう」
「揶揄ってるなら殴りますよリン代行。それより早く会議の準備をしませんと」
「そうでしたね。部屋を一つ押さえておきますのでカヤ防衛室長は『先生』の迎えを」
「待ってください。ゲヘナとトリニティを一つの部屋にするつもりですか?」
「えぇ。時間もありませんから」
「……そういうところが政治下手なんですよリン代行」
不思議な表情で小首を傾げているリン代行に少しだけ呆れながら、これから起きるであろうゲヘナとトリニティの地獄の様な空気感に胃が痛くなるのを察知し懐から胃薬を取り出すカヤ防衛室長の姿は、何故か妙に小慣れているのだった。
「……ッッ。頭が」
頭から感じる痛みに反射的に手を伸ばそうとするが、何かに縛られている様で動かせない。
一体何が……一先ず動かせる目だけを動かすとどうやら私は『先生』と一緒に縛られている状態で揃ってコンクリートの床に転がってる状態だと分かり更に目を動かせば、此処が寂れた廃墟の様な一室で鉄格子の先に何度か会談した相手であるカイザージェネラルが居る事が分かった。
察するに『先生』諸共、拉致されたという感じでしょうかね。
鉄格子が嵌った窓から差し込む明かりが殆どないという事は、今は夜という事。
「この非常時に出遅れる事になるなんて」
「おや、目を覚ました様だな不知火カヤ。気分は如何かな?」
「……えぇ、実に良い気分ですよ。目の前にいる貴方さえいなければですがね」
「ははっ、やはり言う様になったではないか。超人だのなんだのと煩かった時よりは好感が持てるぞ」
「貴方に好意を持たれても嬉しくありませんよ。それに今も私は超人を目指していますので」
このタイミングでカイザーが私に明確な敵対行為を示すとは予想外でした。
おそらく、彼らがアビドス砂漠で探していた物が発掘出来たからなのだとは思いますがそれにしても露骨過ぎる……彼らが探した物はこれ程までに増長するに足るナニカを秘めていると思った方が良いでしょうね。
「何かを考えている様だが、全ては無駄だ。貴様だけであれば、その程度の拘束を抜け出せるだろうが共に繋がっている『先生』はそうはいかん。無理に力を込めれば引っ張られ、彼の腕は千切れてしまうだろうな」
視線を自身に下ろしてみれば、私と『先生』の腰辺りを縛っている縄は別段問題ないと分かりますが、この『先生』の手首に繋がっている手錠は私の物と連結している為にジェネラルの発言通り、無理に力を入れて引っ張ればヘイローの無い『先生』の手は切断されてしまうと分かる。
「別々の牢にしない理由がコレですか」
「あぁそうだ。貴様が暴れたところで対処は容易だが、少なくとも兵に損失は出る。パトロンによって使い勝手の良い兵があるとは言え、余計な損耗はするべきでは無い」
「パトロン?」
「あぁ。貴様が接触していたあの女の様に此方にも接触していた人物がいるのさ」
セラさんとの会合がバレてるのは良いとして、カイザーに協力者?そんな奇特な人物がいたとは。
「ちょうど良い。今、貴様を助け出そうとノコノコやってきた狐共と提供された戦力が戦っているところだ」
見るが良いという一言共に部屋のモニターが起動し、FOX小隊の面々が戦っている光景が映る。
音声は拾っていない様ですが、見れる限りFOX小隊の面々にはダメージが見受けられ特にポイントマンであるクルミさんが一番、ボロボロの状態でした。
彼女達は精神面が現在、不調ではあるとは言えそれでもSRTとして数々の戦場を渡り歩いた猛者達……そんな彼女達が押されている?
「神秘がどうとか、記録の再現とか奴は言っていたがまぁ詳しい事は専門外だ。しかしアレは良い」
そう話すジェネラルが示した先に居たのは、黒い人型の影達でした。
初めはただの黒い影にしか見えなかったそれが、ヘイローを有している事に気がつき目を凝らして見れば漸くその影達が資料で見たことのある生徒達であること、そしてその中の一人があの『狐坂ワカモ』である事に気がついた。
「何故、厄災の狐が……」
「面白いのは此処からだ」
ジェネラルが促すのと同時に、弾幕の雨をクルミさんが一身に受け切り出来た隙をオトギさんが見事に狐坂ワカモを撃ち抜き、連携が乱れた黒い生徒達をユキノさんとニコさんが殲滅する。
やはり見事な腕前だと感心しましたが、画面の向こう側に居る彼女達の表情に余裕は一切なく何故と疑問を覚えるのと同時にその答えが示される。
「なっ!?先程倒したはずの狐坂ワカモが復活した!?」
「フハハハ!!良い反応をありがとう不知火カヤ防衛室長。これが今の我々のパトロンが提供してくれた兵隊だ。敗北してもなお、すぐに復活し再び戦う事が可能な不滅の軍勢!!この軍勢とカイザーが元々持っている武力、そしてあの兵器が合わされば最早連邦生徒会など敵ではない!!」
なるほど確かにジェネラルが高笑いをするのも当然でしょうね。
戦闘という行為は弾丸と言った物資の他にも、戦ってる者達の体力や集中力が擦り減らされていくものでどれだけの鍛錬を積もうとも生物である限り、決して逃れられない疲労が連中にはないのですから。
モニターの先で戦っているFOX小隊の面々も全員、浅くない怪我を負っているのが分かりますし肩で息をしている辺り体力ももう限界点まで来ているのでしょう……このままでは彼女達が負けるのは明らかです。
「……『先生』起きてください。『先生』」
ジェネラルに勘付かれない様に軽く『先生』を突くと、うぅっと言う呻き声と共に目を開けて驚いた表情で私を見る。
「言いたい事はあるでしょうが今はお静かに……私の上着を漁れますか?」
“う、うん。漁れるよ”
「では右のポケットの裏側、そこに隠してあるスマホを取り出して欲しいのですが出来ますか?」
“やってみるよ”
ゴソゴソと『先生』が動き出し、少しだけ身体を弄られるくすぐったい感覚に思わず声を漏らしそうになりましたがぐっと堪えて楽しげにモニターを眺めているジェネラルを真っ直ぐ睨みつける。
「仮に全てが上手くいったとして、どうするおつもりで?私や『先生』を殺さなければ貴方方の不正はいずれ世に出回りますよ」
「ん?ははっ、所詮は子供だな。貴様らが万が一、生き延びたとしても既にそこはカイザーが支配するキヴォトスだ。貴様らが何を言おうとも誰も聞く耳を持たんさ」
……私が行っていた不正を盾に連邦生徒会の地位を叩き落とすつもりと。
私がもう少し早く覚悟を決めていればこんな連中とはさっさと手を切っていたんですけどねぇ、まぁ過ぎた後悔です。
“カヤ”
「ありがとうございます」
差し出されたスマホを受け取り、画面を一切見ずに後ろ手でセラさんへとメールを送る。
こうなってしまった以上、最早私が頼れるのは彼女だけです……後でどんな嫌味を言われることやら。
『──ジェネラルよ。捕らえた者の装備くらいしっかりと確認しておくことだな』
“──え?この声は──”
何もない空間から突如として、滲み出る様に黒い影が胡散臭い声と共に現れその声を聞いた『先生』が理解出来ないと言った感じの声を溢す。
『まぁ良い。先生を連邦生徒会から引き離し、此方でも記録が再現できる事が分かっただけでも重畳。それにすぐに嚮導者が恐怖と共にやって来るのだから』
黒い影の輪郭をしっかりと捉えて見据えれば、ソレが鷹の仮面をしている大人だと分かる。
『先生』の反応、そして調べた情報と合致するその姿からしてあの大人の名前は──
『此処は面白いな。まさか私が生徒の様に振る舞っているとは』
“──バイステンダー。どうして君が”
『ククッ、君と私が虚妄に抗い希望になり得るのかどうか見定めさせて貰うとしよう』
その笑い方は……セラさんと同じ……一体何が起きていると言うんですか?
──気がついた時には遅かった。
全てを失ってから初めて、己が何よりもこの時間を愛していた事に気がついたのだから自らの愚かさに笑いすら起きない。
だがまぁ、バッドエンドを見続けた者にバッドエンドが訪れるのなら因果応報というものだと納得させ、残された◼️を手に取り懐へとしまう。
「残された神秘。その悉くを私は簒奪しよう──だから、アツコよ。私を決して赦してくれるな」
異なる世界の断章