便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「えっと……知り合い?」
「あぁ。君には教えていたな、ゲマトリアという名称を。分かりやすく言えば、同胞という奴だ」
私の言葉に驚いた様な表情を浮かべるアル社長。
それもそうだろうな、私が彼女らの便利屋68に厄介になっている理由は、頼るべき相手が居なかったからと説明しているのだから……ん?何故、その様に寂しそうな表情を浮かべるアル社長?
「どうかしたかね?眉が下がっているが」
「え!?えーと、あの……ほ、ほら!友達が見つかったのなら、もう私達と一緒には居てくれないのかなーって……か、勘違いしないでよ!貴方は色々と仕事を持って来てくれたし、美味しい珈琲とか淹れてくれるし、後方支援もしてくれるからアルバイトとして頼もしかっただけで、寂しいわけじゃ……」
「ククッ」
全く、これから大事な打ち合わせが始まるというのにワタワタとこれでは、車内で焚き付けたのが無駄ではないか。
胸ポケットから白いハンカチを取り出し、アル社長の前で軽くしゃがみ、零れ落ちそうになっている涙を拭い、ニヒルに笑ってみせる。
「
ゲマトリアとしての縛りは当然あるが、今の私はキヴォトスで起きる物語を経験する為にこの場にいる以上、黒服を頼る頼らないも私の選択の一つに過ぎず、契約に違反するものは何一つとしてない為、漸く居心地の良くなった便利屋68を捨てる気にはなれない。
「……いいえ!十分よ!!これからも存分に働いて貰うんだから!!」
パァァっと笑顔を浮かべる姿は、なんとも現金だなアル社長……今から打ち合わせをするのは君なのだからしっかりしてくれたまえ。
「ンンッ、話を始めても良いかね便利屋68」
「!え、えぇ!大丈夫よ。それで貴方達が私達に頼みたい事とは何かしら?」
調子を取り戻したアル社長が、カイザーPMC理事と話し合いを始めたのを見て、そっと一息溢すと、視線の先で黒服が顎で隣へと移る扉を示す。
……はぁ、我々だけで会話をしたいという訳か。
「アル社長、少し席を外す。黒服との話し合いだ」
「……分かったわ」
「ククッ、いつもの様に不敵に笑えばそれで君は必ず上手くいくさアル社長」
やれやれ、嬉しそうに笑顔を浮かべる姿は社長と言えど、子供だな。
「さて、わざわざ部屋を分けてまでしたい話とは何かね黒服?」
つまらない内容であれば、気分は急転直下し少々、仕事の際に手が滑ってしまうぞ黒服。
「そうですね。先ずは行方不明になっていた貴方との再会を喜ぼうかと」
「眺めるだけの私の自室にすら通ったお前の事だから、全て嘘とは言わないが敢えて言わせて貰おうか。我々はそんなにお優しい集団だったかね?」
「今の貴方であればその様な表現が合っているかと思いましてね。行方を晦ましていた間、随分と子ども達に馴染んだ様で」
声色に揶揄いが混ざってはいるが、これは一種の警告……本懐を忘れるなという訳か。
ふん、笑わせてくれるな……私が取る手段は今も昔も変わっていない、このキヴォトスで綴られる物語の行く末を見続け、その果てに崇高へと辿り着くのだから。
「私は物語をこの身で味わうために、このキヴォトスに降り立った。故に、現地の人間は貴重な物語を生み出すサンプルであり、敵対する手段は私にとって些か非効率過ぎるの一言に片付く。それが分からぬお前ではあるまい」
そういう意味では私にとって最も邪魔なのは、ベアトリーチェの奴だが、ああいう分かりやすい悪役というのは物語に深みを齎らすのに必要だろう。
「クックックッ……確かにその通り。では、一つ問いましょうバイステンダー。貴方の目の前で、貴方と親交のある子ども達が死に瀕したとしましょう。そこで貴方は今まで通り、黙って見ている事が出来ますか?」
「……またしても今更な質問を投げてくるな黒服」
「我々ゲマトリアは、神秘の探求の為なら手段を選びません。だからこそ、多少の好き嫌いはあれど同志として円卓を囲えています。しかし、もしもその在り方を損なう者が現れたのであれば、その者は我々にとっての脅威になり得るかもしれない。いずれ現れる『色彩』よりも明確な脅威に」
「私がそうだと?ククッ、笑わせてくれるな黒服」
ギシッという不快な音を立てるパイプ椅子の脆い背もたれに、体重を預けながら目を瞑りいずれ起きるであろう地獄の中から、便利屋68が辿る末路を選び、閉じゆく本を開き見つめる。
誰も居ない瓦礫と化した街で、道端にありふれた雑草を大切そうに抱えながら、自死すら選べずにアル様と呟き続けるハルカさん。
冷たく降り頻る雨の中、静かに地面に倒れ伏し血の池を作りつつも何処か安らかな表情を浮かべるカヨコ課長。
能面の様な表情でキヴォトスを火の海に染め上げる怪物相手に、アル社長が着ていたコートを羽織り戦うムツキ室長。
誰も居なくなった便利屋68のオフィスで、皆と撮った写真と財布を見つめながら、寂しそうに何かを呟き自死するアル社長。
連続した世界ではなく、枝分かれの世界の先でそれぞれの末路を迎える彼女達を見て、私の心はいつも通り退屈に心が渇いていくのを感じながら、目を開き、静かに身体を起こし黒服と一瞬、視線を合わせ逸らす。
「……答えは出ましたか?」
答え?あぁ、そんなものは最初から出ているとも。
「私は傍観者──故に、何があろうとも彼女らの結末を見届けるだけだ」
私に危害が発生するのであれば身を守る為に、手を出すが私の知らない場所、変えようのない結末を迎える時であれば私はただ、それを眺めるまで。
それがゲマトリアのバイステンダーとしてのあるべき姿だ。
「そうですか。それは良かった、貴方が敵に回るとなるとかなり厄介ですからね」
「私の邪魔をしなければ何もしないさ」
「では一つ頼み事を。アビドスに居る小鳥遊ホシノという子どもを、仕事の最中で良いので捕まえるチャンスがあれば、貴方に捕まえて頂きたい。カイザーと組んでいる理由はただ一つ、彼女を手に入れる為ですから」
小鳥遊ホシノ……あぁ、確かアビドスの実質的な生徒会長を担当している子だったか。
黒服がわざわざ欲するという事は、極めて神秘の強い娘なのだろう、生まれ持った才能はどうしようも出来ないものだが、黒服に目を付けられるとは可哀想な娘だ。
「覚えていたらな」
「おや、記憶力に心配があるのなら契約でも」
「しない。お前との契約を安易にするほど、私は落ちぶれていないとも」
我々の中でも特に狡猾なこの男との契約ほど、安易に結びたくないものもないだろう。
「それは残念。さて、そろそろ向こうも話が纏まった頃合いでしょう、どうします?このまま私と会話を続けますか?」
「必要ないな。答えるべきことには答えたし、聞くべきことも聞いたそれに──」
立ち上がり、扉の前まで移動してから黒服の方へと振り返れば、変わらない姿勢のまま私を見ている……疑念を拭う事はどうやら出来なかったか。
「──アルバイトが社長より長居をする訳にもいかないだろう?」
「クックックッ、それは確かに。それでは頼みましたよバイステンダー」
「依頼であればなんでもするのが便利屋68だ。次はその事をしっかり覚えておくんだな黒服」
遠回しにお前の頼みは聞かないと宣言し、私は部屋を出て商談が纏ったのかニコニコとしているアル社長を引き連れ、カイザーPMCを後にした。
黒服との話で疲れていた私は、アル社長の表情から上手くいったのだと判断したのだが、どうやらカイザーPMC理事に上手い事言い包められ、弾薬の発注とドローン、そして傭兵まで契約させられており、もう取り返しがつかないところまでいってから金銭が再び、旅立ったのを知る事になった。
「……アル社長、これではまともに食事すら取れんぞ……」
「ご、ごめん」
感想とか待ってるぜい