便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「『先生』が拉致されただと?」
そんな未来は一度も見ていない。
確かに今の私の未来視は不安定そのものだが、こうなる前には定期的に見ていた未来ではただの一度も『先生』がカイザーに拉致される未来などなかったし、唯一繋がりかねないカヤ防衛室長の汚職に関しては私が関わった事で改善されたはず……やはり何かが起きているな。
「……だがまぁ知ったことではないな。ケイ」
『はい。便利屋68メンバーは既に準備を完了し、いつもの場所で待機しているとのことです』
「リオ」
「監視カメラの映像を処理中よ。あと二分で結果が出るわ」
「ククッ、二人とも行動が早くて何よりだ」
『先生』を除けば私の思考パターンを一番トレース出来る二人なだけはあり、リオの宣言通り二分が経過するとキヴォトス全ての監視カメラから『先生』とカヤ防衛室長が映った映像が特定され、即座にケイへと共有。
そのままケイが連中の移動ルートを割り出し、潜伏している確率が最も高い廃墟を割り出すに至った。
「ヘリを借りるぞ」
「えぇ。屋上にあるから好きに使って……それと、貴方今、凄く怖い顔をしているからやり過ぎないで」
ふむ……そんなに怖い顔をしているつもりはなかったのだが。
普段なら久しぶりの感覚だと楽しむところではあるが、いかんな『先生』が関わっている以上楽しむという感覚が何一つとして湧いてこない。
「ククッ、それは向こうの態度次第だ」
『作戦内容を通達する。これより君達には愚かしくも王冠を掲げる傲慢な機械兵共から、我らの希望を取り戻して貰う。我々の勝利条件は『先生』及び共に囚われている連邦生徒会防衛室長である不知火カヤの救出だ。私個人としては、かの企業を再起不能になるまで壊し尽くしたいところだが其方は後日、鴉を派遣する為今回は我慢し、救出に専念する事にした』
正体を隠す為の仮面を身に付けた便利屋68の面々のインカムに不機嫌さを隠そうともしないセラの言葉が届き、全員が苦笑を浮かべるがそんな事を知る由もない彼女は言葉を続ける。
『ガラクタの玉座を掲げる彼らを得意の火薬を用い、派手な目覚ましと共に連中を叩き落とし現実を見せつけてやれ。爆音と爆炎、そして崩れ落ちる瓦礫による悪夢でもう二度と連中が愚かな夢に浸れぬようにな……以上だ。何か質問はあるかね?』
「そんなに怒ってるなら自分でくれば良かったのにぃ〜なんでいつも通り後方なの?」
『向こうは此方の出方を理解している可能性が高く、更に言えば私の動きは高確率で読まれるだろう。故にバックアップに徹するのさ。なに、これほど安心して託せる相手はそういないとも』
「そう言えば良いと思ってない?」
「ふふっ。当然ね、いつもセラには世話になっているから今日ぐらいは良いところを見せるわよ」
「い、いざとなれば全てを吹き飛ばしますので!」
「いや『先生』を助けるまでは駄目だよ……」
これから先のキヴォトスの命運を賭けた戦いが始まるというのに、便利屋68の者達に緊張感はなく普段と同じリラックスした状態で談笑を重ねていく光景は彼女達の信頼関係を深く表していると言えるだろう。
自分達がいつも通りに動ければ、成し遂げられない事は何もないと。
『ククッ、肩の力を抜くのは良いがそこが敵地である事を忘れるなよ?』
セラの忠告とほぼ同時に、廃墟の入り口からゾロゾロと武装し殺気立ったカイザー兵士達が現れ瞬く間に彼女達を包囲する。
流石に戦車などの兵器の類はないが、それでも四名しか居ない便利屋68に対してざっと数えただけでも最新鋭の装備をした兵士50人以上は明らかに過剰戦力でしかないと言え、カイザー側の警戒度の高さが伺える。
「愚問ね。此処が戦地である事なんて理解しているわよ。ねぇ、課長?」
「そうだね。社長」
「おい!貴様ら此処で何を──」
「「バン♪」」
アルは真正面に、カヨコは空へと銃をそれぞれ向けて鈴の音が鳴るような明るい声で銃声を真似し──直後、その声とは全く見合わない爆発と恐怖がカイザー兵士を襲う。
「「「「ぐぁぁぁぁぁ!?!?」」」」
アルの正面に待機していたカイザー兵士達が全て、愉快な悲鳴と共に辺りが一瞬昼間と錯覚するほどの爆発によって吹き飛ばされ──
「「「「ヒッ!!!!!」」」」
──取り囲んでいたカイザー兵士達が身を竦ませ、まともに銃を構える事すら出来なくなる。
見事なまでに先手を獲得した二人に続くように、ムツキが鞄を取り出して周囲にばら撒くのと同時にハルカが手早く入口を封鎖していた扉を蹴り飛ばし、侵入路を作り出す。
「みなさん、こちらです!」
「ナイスよ!」
「ッッ!?させ「バァーン!足元に気をつけてね?」は?」
慌てて彼女達の侵入を防ごうとしたカイザー兵士が、ムツキによってばら撒かれた手榴弾によって吹き飛ばされる様はまるでポップコーンの如きでそれは面白い勢いで上空へと跳ね上がり、地面へと叩きつけられ意識を失っていく。
「ッッ、撃て!!なんとしても此処で仕留めろ!!」
「……」
中に入った瞬間、放たれる無数の弾丸をアルは近くにあったかつては来客用に使われていたであろう机を蹴り上げて盾にすると視線をハルカへと向け、彼女もその意図を察し笑みを浮かべながらリロードの瞬間に飛び出す。
「死んでください死んでください死んでください!!」
「うわぁァァ!?!?」
「な、なんだこいつ!?止まらねぇ!!」
便利屋68が誇る突撃隊長、ハルカの全力ダッシュと共に放たれるショットガンは開けた戦場では効果を発揮し辛いが今回の様な室内という限られた閉鎖空間に於いては、当たったカイザー兵士を吹き飛ばし壁に激突させる程の有効打を持つ。
また彼女自身もアルとのリンクによって齎される神秘の増加により、元々頑丈だった身体が更に頑丈になった事で反撃で放たれる弾丸では微塵も止まる事なく、円形状のエントランスホールを一人で制圧してみせた。
「良くやったわ。『先生』の反応は?」
『生体反応及び、シッテムの箱を確認。『先生』は現在、この建物の四階の一番端の部屋に監禁されています。シッテムの箱も同様にあるものの『先生』とは離れているために細心の注意をしてください』
「了解よケイ」
『それと追加だが、三階に妙に開けた空間がある。何者かが待ち受けてる可能性が高いから気をつけてくれ』
「分かったわ」
通信を終えた彼女達は勢いそのままに、二階へと足を運びこれも問題なく制圧。
三階へと登る階段が見つけられずに、電気が通っているか疑問ではあったがエレベーターを使用し三階へと上がるとそこは今までと変わり真っ白な空間が広がり、天井につけられた場に合わないアンティーク調のシャンデリアが仄かな黄色い灯りを灯していた。
「なんか、雰囲気違うねぇ?」
「ゲームならボスキャラが配置されてそうね」
「……社長、その予想で合ってるっぽいよ」
カヨコの視線の先、シャンデリアに灯された場所に佇む人影が一つ。
ゆっくりと警戒して近づいていけば、やがてその人物がドレスを身に纏っている事に気がつきその人物の正体に思い至る彼女達であったが、記憶の中の姿とは全く違い驚きを隠せない。
「……キましたカ。あノ男のコドモたち」
長い黒髪に、赤い肌に生える白いドレス姿はエデン条約を巡る事件の折、戦う事となったベアトリーチェのものだが今の彼女からは優雅さが失われていた。
バイステンダーであった時を彷彿させる様なヒビの入った赤い肌からは、血の様なものが染み出し赤い蒸気を立ち上らせ顔の半分を真っ赤な花が覆い尽くし、残りの半分もただ一つの目を残し閉じ切っており口からは彼女の憎悪を示すかの様に牙が生えていた。
「ゲマトリアまでも、ワタクシを裏切り……シを覚悟しましたが舞い戻りマシタ。スベテは貴方達ヲ滅ぼすタメに!!」
『ほぅ。彼らがお前を追放したか。どうせ、良からぬ事を企てたのはお前だろうに。だが、彼らが簡単にお前を逃すとは思えん。どんな裏技を使ったベアトリーチェ?』
その言葉に苛立ちを示し、地団駄を行うベアトリーチェ。
「黙れ黙れ黙れダマレダマレダマレダマレェ!!!!!ワタクシは、崇高へと至るノデス!!ソノ邪魔をする者ハナンであれ、敵なのですよ!!」
『やれやれ……正気すら失われたか』
そう、セラが呆れた声を溢した瞬間、壁を破壊しながら見慣れた黒のSUVが現れベアトリーチェを轢き飛ばす。
「先に進みたまえ。コレは私の因縁だ」
運転席からショットガンを二丁構えたセラが降り、アル達に先を行く様に促す。
「あはは!やっぱり直接、来るんだね!」
「ベアトリーチェが居なければ来るつもりはなかったがね」
ムツキの方に視線を向ける事なく、セラは車を睨みつける。
その尋常じゃない雰囲気に先に進んだ方が良いと判断したアル達は先へと進み、三階フロアにはセラとベアトリーチェだけとなる。
「何故、とは言わんでおこう。どうやら考えられる限り最悪のパターンを引いたとお前の姿を見て確信したよ」
セラの言葉に返答する様に黒のSUVが持ち上がり、投擲される。
それを難なく躱し、銃口を向ければそこにはほぼ無傷のベアトリーチェが立ち上がり凄まじい殺気を激らせていた。
「バイステンダー……アナタさえイナケレバ!!」
「……単なる舞台装置どころか獣に成り果てるとはな。その名が泣いているぞベアトリーチェ」
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