便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
“なんで君が……”
セラではなく、バイステンダーの姿でジェネラルの横に佇む彼に思わず言葉が漏れてすぐにあの人は私の知っている『彼』ではないのだと思い至る。
姿形も声もよく知っているものだけれど、纏う雰囲気が随分と刺々しいものでまるで月明かりの様にそっと暗闇を照らして寄り添ってくれる様な優しさは全くと良いほどに感じられないからだ。
“……君は誰だ?”
そう問い掛けると『彼』は影の様な姿のせいで非常にわかり辛い表情を笑顔に変える……まるで、出会ったばかりの自分をゲマトリアの悪人と定めていた時の様に。
『ククッ、即座に違うと見抜ける辺りやはり『先生』だな。答え合わせをしてあげたいところではあるが、生憎と私の口からそれを語る事はルール違反に該当するのでね。言葉は慎ませて貰うよ』
“ルール違反……何かと契約をしているんだね?他のゲマトリアも来ているのかい?”
『さぁどうだろうな』
“酷いなぁ少しくらいは教えてくれたって良いだろ?私達、友達じゃないか”
ピクリと本当に僅かに『彼』の右肩が動く。
その動きがやっぱり見慣れた人物と重なって、私は少しだけこの状況が面白くなって笑ってしまう。
「『先生?』」
“ふっふふ、ごめんカヤ。ちょっとおかしくて”
そんなに私から友達と言われた事が驚いたのかい?バイステンダー。
それとも気恥ずかしくなったのかな?どういう理屈かはさっぱり分からないけど、やっぱりあの影みたいな姿のバイステンダーは幻覚でもなんでもなく、私の知っているそして知らない『彼』だ。
『……『先生』はやはり『先生』か。やはり貴方を前にして隠し事を貫き通すのは難しいらしいな』
“全部を知ったつもりはないよ。でも、予想は少しだけ出来たかな”
『本来であればそれすらも難しい筈なのだが……と、来るぞジェネラル。準備したまえ』
『彼』の視線が扉の方へと向くのと同時に、派手な爆発が起き鉄扉が吹き飛ぶ。
火薬と煙の匂いと共に現れるワインレッドの髪色は私のよく知るもので──彼女達が助けに来てくれた事に嬉しくなる。
“相変わらず派手な登場だねみんな!”
「ふふっ……これがアウトローのやり方よ……って、えぇ!?なんで貴方がそこに立っているのよ!?というかどうしてそんな姿なのかしら!?」
うーん、格好良くドヤ顔で現れたと思ったら『彼』を見て、思いっきり驚いてるよアルちゃん。
私も同じ様な気持ちだからよく分かるけどね、きっとセラが此処に居れば楽しそうに喉を震わせて笑っているだろうなぁ。
「便利屋68……!!貴様らに何度も邪魔をされてきたが今回ばかりは我々が勝たせて貰うぞ」
「はぁ……勝手に目の敵にしてるのはそっちでしょ」
「黙れ!子供の遊びで仕事の邪魔をされては困るのだよ」
コートを翻しながら、内ポケットと腰のハンドガンを引き抜き上下に交差する様に構えるジェネラル……何アレ格好良い!!しかもアレ、なんか特別なデザインしてない?弾倉の部分が妙に長い様な。
「遊びねぇ……貴方達から見ればそうなのかもしれないけど、私達は本気も本気よ」
「くふふっ、確かに大人から見れば気楽にやってるだけかもしれないけどさぁ」
「……だとしても私達の本気は此処にある」
「そ、それを笑う事はゆ、許しません!!」
みんなの顔つきが変わったね。
多分、此処にセラが居れば高笑いと共にジェネラルを否定するのだろうけどなぁ『遊び?ククッ、大人から見ればそれでも私達はその遊びに命を賭けているのでな!』とかなんとか言いながら……本当に命を賭けてるから説得力が違うや。
「……やはり子供は子供か。話が通じないなパトロン」
『ふむこれも契約の範疇か。便利屋68の諸君、君達は君達の掲げる青春に随分と誇りがある様だ』
……不味いな、『彼』の雰囲気が禍々しいものに変わった気がする。
便利屋を見たからではないね、多分話し合いの場が終わって此処が戦場になるから合うように意識を切り替えたのだろう。
“みんな、私のタブレットを取って!!”
『──その眩しさはきっと彼女を呼ぶのに相応しいだろうな』
私の声に反応して飛び出したハルカを邪魔するようにジェネラルが、ハンドガンらしくない弾数の暴力で足止めをすると『彼』の手元に影の様なものが集まり、一冊の本が現れ開かれる。
何故か私はその本からよく知る気配を感じて、ソレから目を離せなくなる……なんだろう、この凄く寂しい気配は。
『憧れは消え失せた。小さくそれでいて偉大な背に護られ続け最期の瞬間まで隣に並び立つには足りず、護られて生き延びてしまった娘。絶望の果てに彼女は知る事に至った。憧れるだけでは決して届かないのだと──さぁ、笑うと良い!!失ってなお憧れに在らんとする愚直な娘を!!』
嘲笑う様に罵る様に、それでいて何処か後悔を噛み締める様に『彼』は演劇家が脚本を手に持ち、舞台に立ったが如き快活さで見る者の視線を奪う大振りな動きをすると手に持つ一冊の本が昏く、何処までも昏く光り輝くといつの間にか彼女はジェネラルに並ぶ様に立っていた。
“──ヒナ?”
いいや違う。
此処からじゃ背中しか見えないけど、私にとってとても見覚えのある『ゲヘナ風紀委員長』が着る黒いコートはあんなにも大きくない筈で──何よりもその黒いコートに加わる彩りは綺麗でモフモフとした白髪ではなく、手入れをされずに伸ばしたままと言った感じの青い髪だ。
その髪色の持ち主を私は知っている……知らない筈がないのに、その後ろ姿と気配は『彼』同様に私の知らない悲しみを背負っている。
「……アコ?」
呆然とした様子で震えた声が私の耳に届いて、私も漸く驚きから戻ってこれる。
そう、『彼女』はカヨコが名前を呼んだ通り『天雨アコ』の筈だ。
ヒナの事が大好きでとても尊敬していて、彼女の為になる事が何よりも優先され……そしてそんな毎日でも私の事を気にかけ、とても負けず嫌いで可愛いそんな子の筈だ。
『──』
あんな冷たい何処までも冷え切った氷の目をする子じゃない。
“バイステンダー……アコに何をした!!”
『どうした?此処は怒る場面ではないぞ『先生』──笑うべきだ。君達の前に居るのは愚かさの具現、変わる事は幾らでも出来た筈なのに変わろうともせず全てを失ってから漸く、変化しようと動き出した愚者な道化だぞ。ククッ、あぁなんとも腹を抱える程に滑稽ではないかね!』
“ッッ──君は!?”
私の言葉を遮る様に一発の銃弾が『彼』の足元に炸裂する。
アルほど威力はなく、ムツキの様に数もなくそしてハルカの様に散弾でもないただ一発の銃弾の持ち主──カヨコがいつもと同じいや、変化のない顔の奥にはきっと煮え返る様な怒りを隠した彼女が放ったものだ。
「笑えない。笑える訳がない。アコとは仲が良い訳じゃなかったけど、あいつがどんな気持ちで風紀委員長に付き従っていたかはよく知ってるからさ──どんな道を歩んだのかは大体察する事が出来た」
静かな怒りを孕んだ声は何処までも響き、嗤っていた『彼』も真剣な表情に戻りカヨコの方を見る。
「──だから『貴方』が私のよく知る彼とは違う事も察したよ。でも、その姿でその声でそれ以上誰かを侮辱しないで。セラは、バイステンダーは悪人であっても決して誰かの覚悟を嗤う奴じゃない」
『……ククッ、ならば私を黙らせてみると良い。君達が掲げる青春の物語でな』
「言われなくてもそうするよ……みんな、そっちは任せる。私は『アコ』と戦う」
「──えぇ任せなさい。彼女を眠らせてあげて」
ジェネラルと複数のカイザー兵士をアル、ムツキ、ハルカの三人が。
『アコ』にはカヨコがただ一人で挑むと決めた様だ……私としては少し不安が残るけど、みんなが決めた事なら信じて待つとしよう。
“信じてるよ便利屋68”
──それで良い。我々は間違えたのだと君達は証明し続けてくれ。
そして……どうか……