便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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気高きあなたに捧ぐ

 アイツは性格の割に自分から進んで前を張るタイプじゃない。

 それは敬愛してやまない委員長が誰よりも前線を張るタイプだからってのもあるけど、アイツも私と同じで得意な武器がただ一人で戦うのには向いていないからだ。

 

『これが私の選択ですよ。あの人を支える為に私の出来る最善を貫き通すのです』

 

 そう彼女が誇らしげな表情で、贈られたハンドガンを構えていたのを思い出す──だからこそ、『彼女』がまず初めに構えたソレを見て私は少しだけ安堵した。

 

『──』

 

「無くした訳じゃないんだね」

 

 ルガーP08、同じ種類であっても互換性がないという修理する時にとんでもない使い勝手の悪さを誇るソレはまるで風紀委員長にとって彼女がどれだけ大切な存在であるかの証拠でもあるのだと思う……まぁ、そんな様な事をアイツから直接聞いただけなんだけど。

 

『私は傍観させて貰う。君のやりたい様にやるといい天雨アコ』

 

『──』

 

「ふぅん。随分と冷たい声で呼ぶんだね」

 

 思い遣る気持ちなんて一切ないと断言出来る声に少しだけイラッとするけど、その気持ちを『彼』にぶつけるよりも先ずはやらなきゃいけない事がある。

 

『──』

 

「らしくないね」

 

 もしも私が知ってるアイツならルガーP80を撃ちながら走り寄ってくる事なんてしない。

 先ず何よりも相手の出方を伺い、カウンター気味に戦うのがアコのやり方であって自ら敵に詰め寄って殲滅しようなんてやり方は……あぁ、『あんた』が着てるそのコートの持ち主と同じだ。

 

「っと」

 

 真っ直ぐに私の顔へと突き出されたルガーP80を逸らして、代わりに私のH&K P30を突きつけ引き金を絞る。

 

「まぁ簡単に当たってはくれないか」

 

『──』

 

「……いいよ。付き合ってあげる」

 

 鏡合わせの様に私と同じく、H&K P30を逸らす『アコ』の無表情と顔を合わせながら互いに一歩も動かずに自らの武器を相手に突きつけ──至近距離で放ち合う。

 これなんて言うんだっけ……あぁ、そうだ、セラと一緒に観た映画にあった『ガンカタ』ってやつだ。

 キヴォトスにおいて一発の銃弾が身体に当たる事なんて、大した事じゃないけど私も『アコ』も多分考えている事は同じだ。

 

「ここを引いたら負け……違う?」

 

 何度目かの攻撃が弾かれる。

 しゃがんで攻撃を避けた私目掛けて、『アコ』の蹴りが顎を掠める様に上がっていくけどそれに合わせる様に顔を持ち上げて避けつつクルリと回り込み一撃を放つ。

 

『──』

 

「アコならもう終わってるんだけどな」

 

 やっぱり経験を積んでるだけはあると、見えない筈なのにしっかりと後ろに回した手で私の一撃を逸らした『アコ』を見上げる。

 ……これは私の憶測だけど、『彼』も『アコ』も私の知ってる人達とは違う人達だ。

 姿形は一緒でも、きっと辿ってきた道が違う……経験が違えばきっと考え方も性格も変わるだろう、特に『彼』は。

 

『──』

 

「……あんたはさ、いつも馬鹿みたいにヒナの事だけを考えて口にして自分の時間ってものが無いくらいにただ一人の為にあのゲヘナでがむしゃらに動くやつだったよね」

 

『──』

 

 言葉を遮る様に向けられたルガーP80を掴み取り、捻り上げながら立ち上がる。

 

「その冷え切った目と傷だらけのコレを見れば、あんたがどんな経験をしてきたかは大凡察せられる」

 

 たった一人の為に全てを捧げる事が出来る人間がその熱意を感情を向ける相手が消えればどうなるかなんて……考えるまでもない。

 自殺したくなる程に己の無力感に苛まれ、それでも自分で命を断つなんていう愚を犯す資格が助けられるだけだった自分にある訳もなくていっその事狂えてしまえば楽だろうに、それすらも理性が許してくれない。

 

「狂ってしまえばもう思い出す事も出来ないから」

 

『……』

 

「そうやって大切だった思い出を抱き抱えて落とさない様にしても、一緒に歩いてくれる筈だった人が居ない時間は凍える様に寒くて苦しくて……だからあんたは憧れになろうとした。もうそれしか縋るものがないから」

 

 『アコ』から感じる力が強くなる。

 言葉を発する事は出来ないっぽいけど、私の言葉に何か思うところがあるんだろうね。

 

「──本当に見栄っ張りだよ『アコ』は」

 

『──』

 

 更に込められた力で私達は弾かれるように距離をとると、『アコ』はルガーP80を懐にしまい何処からともなく機関銃……ヒナが使っていたであろう物を取り出して構えた。

 記憶の中にある物よりも随分とボロボロで、今にも壊れてしまいそうにしか見えないけど『アコ』がアレを持っているのなら外見だけがボロボロなだけど中身は手入れされている物だろうね。

 

「終幕デストロイヤーだっけ。終わりにするつもり?」

 

『──』

 

 返事の代わりに銃口が持ち上がる……向きから考えて狙いは私の頭だろうね。

 いくら社長の神秘のおかげで力が上がってるとは言え、まともに受ければきっと敗北してしまうだろう。

 

「撃ちたければ撃つといいよ。結局、貴女はヒナに頼らなければ何も出来ないと自分で証明するだけだから」

 

 我ながら性格が悪いなと自嘲しながら、『アコ』に向かってゆっくりとセラから聞いた私の神秘を外に向けて放出しながら歩く。

 

『カヨコ課長の神秘は他者を怯ませる恐怖の属性を持っている。私の様に意図的に神秘を扱えれば君がいるだけで威圧する事が出来るだろな』

 

『なにそれ。私が怖いって言いたい訳?』

 

『あくまで神秘の属性ってだけだとも。君の神秘が恐怖を帯びているからと言って、君自身の優しさが否定された訳ではない……恐怖は確かに人を怯えさえ身を縮こまらせるものだが私はそれだけではないと思っている』

 

 いつもの様に珈琲を二人分注ぎ、私の前で肘掛けに手を置き何処か偉そうに座るセラは少しだけ不機嫌になった私を前にしてこんな事を話し、視線だけで続きを訴えかける私を見てニヤリといつもの悪人顔で笑うと言った。

 

『そんな恐怖だからこそ、私は人の真髄を引き出せると思っている』

 

『真髄?』

 

『あぁ。普通の生物は敵わないと恐怖すれば容易に逃げ出すが、人だけはこの恐怖に立ち向かう強さを持ち得る。カヨコ課長、君の神秘にもしも真っ向から立ち向かうものが居るのなら──』

 

 ゆっくりと歩く事に変わりはない。

 けど、視線の先で『アコ』の動きが変わる──それを見て私は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

『──』

 

 終幕デストロイヤーを消して、『アコ』はルガーP80を再び取り出し私に向かって歩き始めたのだから。

 そんな『彼女』を見て私はセラの続きの言葉を思い出す。

 

『──強いぞ。揺るがぬ信念を持つ相手だ。君も相応の覚悟を示さねばなるまい』

 

「だろうね。私の知る天雨アコは決して、弱い女なんかじゃない」

 

 そうして互いに歩いていき、再び距離はハンドガン一つ分ほど離れた距離まで至る。

 

「……」

 

『──』

 

 周りで戦っている社長達の銃声も声も何もかもが聞こえない。

 今ここにいるのは私と『アコ』だけ──なんて、錯覚に陥るほどに集中していてそれは向こうも同じ。

 ほんの少し、僅かに動いただけで反応して対応する姿勢を見せるものだから私も迂闊には動けず、銃弾一発を放つことさえ互いに出来ない。

 

 けど、その時は突然に訪れた。

 

「ッッ!」

 

『──』

 

 互いに今だと、何の合図もなくH&K P30をルガーP80を構えて放つ。

 

“うわっ!?”

 

 『アコ』の放った弾丸は、私の頬に浅い擦り傷を作りながらセラとお揃いのピアスを掠め、『先生』と連邦生徒会の役員が捕まっている牢屋の牢を破壊し──

 

『……ククッ』

 

 ──私の放った弾丸は『アコ』の後ろに立って、傍観者を決めていた『彼』の手にあった黒い本を撃ち抜いていた。

 

「……私は思い出に縋る事を愚かだとは思わない。だって一人は寂しいからね」

 

『──……ヒナ、委員長……』

 

 『彼女』を此処に留める要石足る本が損傷した為か、『アコ』はゆっくりとその身体を崩壊させながら震える手を伸ばしきっと迎えにきてくれたのであろう彼女の手を取って、綺麗な笑顔で消えていった。

 

『……再現体がオリジナルと変わらぬ動きを見せるとはな。ククッ、今更になって興味深い結果を招いてくれたものだな』

 

「そうやって傍観者を気取って、外側から物語を眺めるのは楽しい?バイステンダー」

 

『あぁ楽しいとも。どの様な悲劇も結末も笑って楽しむのが私だからな』

 

「そう。じゃあもっと楽しそうに笑ったら?──全然、楽しくなさそうだよ貴方」

 

──消えていく『アコ』を何処か羨ましそうに見ている事に私が気がついていないとでも思った?──

 

『ハ、ハハハハハ!!私が羨む?あの愚者をかね?面白い冗談と言わざるをえないな!!バッドエンドに閉じた者が微かな赦しを得て終わっただけの事だ。それの何処が羨む要素があるのか──あぁ、全く理解出来んな』

 

「……そう。じゃあ私が貴方を終わらせてあげる」

 

『ククッ、それは面白い提案だが生憎と此度の劇は終幕の時だ──そら、地獄から獣が希望を喰らい現れるぞ?』

 

 その瞬間、床に大きな穴が開き何かがそこから飛び上がってくると同時になにやら液体の様な粘性の高い不快な音を立てて、何かが転がった。

 

「ッッ……セラさん!?」

 

 連邦生徒会の役員が悲鳴に近い声を上げながら、牢屋から飛び出し抱き上げたのを見て漸く私は粘性の正体を知った──血だった。

 真っ赤な血が、彼女の頭部から流れる血が連邦生徒会役員の白い制服を染め上げ、そして青空の様な長い毛先を夕暮れの様に染め上げる。

 

「ぁ?……あぁ、カヤ防衛室長……無事かね?」

 

 ヘイローは消えていないが、明らかに致命傷を負ったセラがそこには居た。

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