便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
獣の膂力に人は勝てない。
二足歩行と四足歩行という進化の違いから来る骨格や筋肉の質の差によって、単純な力勝負において人は獰猛な獣に打ち勝つことは出来ないのは誰でも知っている常識だ。
故に人は知恵を磨き、獣の間合いの外から仕留める術を作り出し小型でかつ獣を仕留めるには事足りる武器──即ち、銃でもって獣との争いを制してきた。
「バイステンダーァァァァア!!」
「くっ!今はセラと名乗っているのだがねベアトリーチェ!!」
であれば、今私の目の前で起きているこの光景は人の進化を鼻で笑うものだろうな。
ゲマトリアとしての契約に何かしらの異常を抱えているであろう私の時と同じ、ヒビの入った腕にはいつの間にか薔薇の棘が纏わりつき拳の先を獣の爪の如く、変質させたものが咄嗟に盾にしたショットガンとぶつかり合い火花を散らし私は後方へと圧倒的な力で吹き飛ばされる。
「腕が痺れ……馬鹿力めっ!」
「アナタさえ……アナタさえ……アナタアナタアナタ!!」
「ええい、貴様に求められても一欠片も嬉しくないわ!!」
一呼吸もあれば此方に詰め寄ってくるであろうが、突撃の無防備を狙わせて貰おうか。
腕に集めていた神秘をショットガンに装填してあるコインへと伝播させ、ベアトリーチェの醜い顔面が迫った瞬間にそこへ向けて放つ。
「ワタクシはスウコウへと至ルのデス!!」
奴の頭部を柘榴にするつもりで放ったコインは確かに怯ませるという効果はあったものの、狂気に堕ち脳内麻薬が分泌されまくっているベアトリーチェはすぐにのけ反らせた頭を戻し、此方に飛び掛かってくる。
「……妄執か。貴様のソレには感心していたのだがこうなってはな」
「ナニガ分かるノデス!!座してバカリでアッタあなたに!!」
クルリと身体を回転させ、振り下ろされた爪を躱しながら右側面からフルオートショットガンを叩き込む。
まぁ、確かに私は貴様から見れば常日頃、座してばかりで自らの労力を払わずに結果だけを手に入れる者であった事だろうな。
「ガァァ!」
「──今更、否定する言葉を述べるつもりはないとも。私と貴様が相入れる事は決して無かっただろうからな」
フルオートショットガンに怯んだ隙に、神秘を込めた回し蹴りを顔面に叩き込みながらコインのショットガンをケイの力を借りてリロード。
私の足を傲慢にも噛み砕こうとする奴の腹部に思いっきり、ショットガンを突きつけ放つ。
「それでも貴様はあの時に終わるべきであった。獣に成り果てるなど……元同胞として恥ずかしいよ」
そら、オマケに弾薬地雷もくれてやる。
後方に飛び退きながらマガジンを思いっきり地面に叩きつけ、内部の弾丸をたっぷりとベアトリーチェに食らわしてやるとタタラを踏みながら後方へと下がった。
「ふむ。ここはやったか?と言うべきか」
『それフラグですよ。マダムベアトリーチェの神秘及び、恐怖の値が増加──ほらやっぱり』
「ククッ、どうやら準備運動は終わりらしいな」
神秘と恐怖が同じ個体に存在している辺り、『色彩』との接触がベアトリーチェの格を引き上げるという彼女の理論が間違ってはいなかった事が証明されるのは随分と皮肉な展開だ。
そんな事を考えている私の視線の先では、ベアトリーチェがその姿を変質させていき阻止するために放った弾丸も嵐の様に吹き荒れる神秘と恐怖によって弾かれてしまう。
「……七つの尾に砕け溶けた角、見様によっては王冠かね?」
「が、ァァァァア……」
今のベアトリーチェを表現するには……そうだな、不完全に変質した龍人と言うべきか。
ヒビ割れた身体はまるで鱗の様だが、絶えず放たれる赤い霧のせいでその身体が刻一刻と崩壊に向かっている事は明らかであり奴は自分の命を燃やしているのだろう。
「本当につまらん存在に堕ちたなベアトリーチェ」
「ウルサイ……既にワタクシの願いハ叶ワナイノだからせめてアナタヲ!!」
「もう何度も聞いッッ!?」
姿が消えただと?何処に──
『右ですッッっ!!』
「ッッ!」
ケイの警告が耳に入り、脳が理解した瞬間私は勢いよく吹き飛び地面を転がりながらそれでも勢いは止まらずに、壁に激突し亀裂を作ることで漸く停止する。
立ちあがろうとし視界がグニャリと歪んだ事に気がつき、下を向けばポトポトと赤い斑点が地面に作られる……たった一撃でここまでやられたのか私は。
「──セ──さ──セラさん!!」
「ぁ?」
「セラさん!!」
視界が歪んでいるがこの桃色の髪に嗅ぎ慣れた珈琲の香りは……あぁ、カヤ防衛室長か。
私とした事が攻撃の受け過ぎで、意識が朦朧として醜態を晒してしまうとはな……だがまぁ、『先生』も無事なら作戦は成功と言っていいかね。
「……血の汚れは落とすのが大変だ。離れたまえカヤ防衛室長」
「……肩を貸しますから」
「離れろと言ったのだがね……」
「いやです」
私を見る彼女の目は意志の強く、血が足りないこの状況では言いくるめるのは無理だろうな……何よりも便利屋の皆から向けられる視線もかなり鋭い。
ため息を溢すだけの私に満足したのかガッツリと身を寄せ、肩を貸してくるカヤ防衛室長に体重の殆どを預けながら顔を上げれば右半分が真っ赤な視界の中にソイツは立っていた。
『らしくないな私よ』
「……ククッ、それはお前もだろう?『私』よ」
『君よりは酔狂ではないと思うがね』
なるほど道理で私の未来視が機能不全に陥る訳だ。
例え全知の称号を得ているリオやヒマリ嬢、そして無名の司祭が遺した鍵のケイであっても解析出来ない筈のホルスの義眼を解析し封じる事が出来るのだとすればそれはただ一人、開発者である『私』以外には居ないだろうさ。
「ベアトリーチェの変化もお前が?」
『あぁ。尤もベースはこの世界のベアトリーチェだとも。私はただ混ぜただけさ』
「……悪趣味め」
私に向けて憎悪と殺意を向けていたベアトリーチェだが、今は大人しくあの『私』の側で控える様に佇んでいるだけで見方を少し変えればソレは獣ではなく忠犬と呼べるかもしれんな……あんな犬死んでもいらないが。
『ククッ、好きなだけ罵るが良いさ。今ここで君が不利な事に変わりはないのだからね』
向こうの『私』の言う通り、ボロボロに傷付いた私と『先生』を守りながら戦わなければならない此方は不利な状況と言えるだろう。
なにせ私相手とはいえ、一方的に暴れたベアトリーチェとカイザーの兵士、そして『私』の策があるのだからな……だがまぁ、それがなんだ。
「ククッ、違うな間違っているぞ『私』よ」
『──ほぅ?』
『私』の視線が窓一つないこの部屋の壁へと向けられ、その瞬間壁を粉砕しながら圧倒的な弾幕が放たれる。
「私の兵はまだ外にいるのでな──アル!!」
「タブレットは回収したわ!」
「結構!!では、逃げるぞ!!」
「せ、『先生』捕まってください!」
“え!?ちょっと待って!?うわぁぁぁぁ!?!?”
レイヴン達が乗ってきたヘリによって、風穴が空いた壁からハルカさんが『先生』を抱き上げて外へと飛び出していき、続いていく様に他の皆が出ていき最後にカヤ防衛室長に支えられながら私も飛び降りる。
飛び降りる前に連中の方へと視線を向ければ、カイザーの兵士達は次々と倒れていくがジェネラルだけは素早く物陰に隠れており、『私』もベアトリーチェが盾になる形でニヤニヤと笑いながら此方を見送っているのが分かった。
『色彩の向こうでまた会おう』
そんな事を言っていた気がする。
感想やここ好き待ってるぜ!!