便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

94 / 144
止まらないカヤちゃんのヒロイン化現象


破滅に向かう物語であったとしても我々は覆すさ──必ずな

“ちょ、君は休まなきゃダメだって!”

 

 朝日が昇り、昨日の戦いが嘘かの様に暖かな陽射しが差し込むサンクトゥムタワーの廊下に『先生』の声が響き役員達が何事かと其方に視線を向ければ、いつもの飄々とした表情に焦りと心配の色を強く浮かべた『先生』が頭に包帯を巻いた一人の生徒の腕に抱きつき、ズリズリと引き摺られている光景が広がっていた。

 

「悪いがそんな暇はないのだ『先生』、カヤ防衛室長とリン行政官が既に各学園に声をかけて生徒達を集めているのだから早急に対策会議を始めなければならない」

 

“だとしても君はあれだけ血を流したんだから大人しくしてて!私が便利屋の皆に怒られちゃうから!!”

 

「私も共に怒られるから許してくれ『先生』」

 

“嫌だけど!?”

 

 引き摺っている生徒──セラを想う者達が怒るとどれだけ怖いかよく知っている『先生』は悲鳴にも似た叫び声を上げながら抵抗虚しく二人は会議室へと到着してしまう。

 

「邪魔するぞ」

 

“皆、ごめん!止められなかった!!”

 

 室内に入った瞬間、集められた生徒達の視線が一気に二人へと向かう。

 心配と呆れ、ちょっとした怒りと確信、会えたことによる嬉しさなどそれぞれの反応が視線を通して向けられる中、ある意味固まりきった空気を変える様に司会役を担っていた生徒──カヤがセラに向かって走り寄る。

 

「安静にしてないと駄目じゃないですか!?」

 

「一人気楽に休んでいる場合でもあるまい」

 

「あんなに血を流したんですよ!?フラフラで私が支えないと満足に立てなかった人が何をドヤ顔で偉そうにしているんですか!!」

 

「ドヤ顔をしているつもりはないのだが」

 

「してるんですよ貴女は!!人の心配なんてどこ吹く風みたいな感じで……制服が血で染まって私がどれだけ不安になったか……貴女は知らないでしょうに」

 

 不知火カヤらしくない焦りと今にも泣き出しそうな声色で詰め寄られ、この展開を予想していなかったセラは所なさげに視線を動かすが、頼りになる便利屋や『先生』は自分でどうにかしなさいとその視線を受け流してしまう。

 

「あー……心配をかけた事は詫びようカヤ防衛室長。しかし、聡明な君の事だから事態は急を要する事は分かってくれる筈だ」

 

「……分かっています。きっと貴女は此処に来るだろうと便利屋の皆さんとは話していましたから。でも、出来るのなら来て欲しくはありませんでした」

 

「それは無理な相談だな」

 

 カヤは子供である自分を慰めるように優しい手つきで頭を撫でられるが、余計に不機嫌そうな視線をセラに向ける──その程度では誤魔化されないぞと。

 

「私とて死にたい訳では無い。しかし、私の休息の時間でキヴォトスが、君達が助かる可能性が上がるのなら喜んでこの時間を差し出すとも。防衛室を預かる君なら下がってくれるな?」

 

 薄々懐かれているとは思っていたが、ここまでとはな。

 私を心配してくれるのは嬉しいが、今は君にとって狡い言葉を使ってでも引き下がって貰う必要がある。

 

「……後で時間は」

 

「約束しよう。君の珈琲でも淹れようじゃないか」

 

「それ私の秘蔵品なんですけど……はぁ、分かりましたよ。防衛室長として此処は貴女の意思を汲みますとも。えぇ、えぇ!覚悟する事ですねこの超人である私の心配を蹴ったのですから」

 

「ククッ、お手柔らかに頼むよ」

 

 カヤ防衛室長との話し合いに決着をつけ、改めて集められた者達を見れば私の良く知る者達と当然だが、全く知らない者達が此方を見ており場の空気を切り替える為にも咳払いをしてから彼女ら一人一人と視線を合わせていく。

 

「……む?アビドスからはお前だけか。小鳥遊ホシノ」

 

「色々あってねぇ。『先生』に相談したい事は色々とあるんだけど、お前が表立っているならその暇はなさそうで嫌になるよ」

 

「後で詳しく話を聞くとも……さて、私を良く知る者も知らない者も今はただ口を閉ざして聞いてほしい。君達を集めたのには理由がある──キヴォトスの滅びを回避する為だ」

 

 キヴォトスの滅びというワードで、彼女らの意識を一気に集めてからホルスの義眼に関する説明と未来視で最後に見た光景を共有し、カヤ防衛室長に頼んで調べておいた原因不明のエネルギー反応を話す。

 私の能力に対して懐疑的な者、特に山海経の門主が信じられないと聞いてきたが私が知るはずのない情報を話せば一旦下がってくれるという度量の深さを見せてくれた事には感謝しかない。

 

「キキッ!仮にその話が真実だとして、だ。貴様が仕組んでいない証拠はあるのか?こうして各学園の有力者を集め纏めて葬る……そんな事だってあり得るだろう?」

 

「マコト議長だったな。確かにその線を私が否定するのは難しいだろう」

 

「ん?なんだあっさりと引くな」

 

「──故に君たちの内、誰か一人でも私を怪しいと疑えば容赦なく撃つがいい。それに対して私は抵抗しないと此処に宣言しよう」

 

「は?」

 

 状況の確認と自らの立場を示す為に敢えて、高圧的な態度を取ったのであろうマコト議長の顔が驚きに染まるが別段、私の言った事は不思議なことではあるまい?

 これだけの者達の時間を奪い、不安を煽る様な事柄を述べたのだからそれが真実でないのであれば対価として命を賭けるぐらい安い物だ。

 

「トリニティは君を全面的に認めよう。あれほど世話になった君を撃つなんて非道は出来ないしな」

 

「セイア」

 

 ゲヘナ側の意見を封殺する目的もあるのだろうが、真っ先に手を挙げて認めると宣言してくれるセイアと視線を合わせて笑い合う。

 

「ミレニアムも認めるわ。滅びに抗うには一致団結する必要があるもの。こんなところで互いを牽制しあっている場合じゃないわ」

 

 次にリオがジッと私を見つめながら宣言する。

 これにより三大校の内、二校が私を認めてくれた事になりゲヘナを除く他の学園も倣う様に私を認める発言を重ねていき、旗色の悪さに気がついたマコト議長が少々、引き攣った表情で認めると宣言し無事に我々は纏まる事が出来た。

 

「私の様な不審者を認めてくれて感謝する。では、具体的な方針だが──」

 

 和やかな空気が流れたかと思った瞬間、地震の様な大きな揺れと共に空が真っ赤に染まる。

 カイザーの介入が無ければ間に合ったというのに……あぁ、なるほどだから『私』はわざわざあのタイミングで邪魔をしたのか。

 

“これは……”

 

「私が見た光景そのものだな」

 

 キヴォトスの空が真っ赤に染まり、原因不明のエネルギー反応からは真紅の柱が世界を塗り替える様に降り立つという光景は、正しく世界の滅びに相応しいと言わざるをえんなッッ、サンクゥトゥムタワーも光を失うか。

 

「漸く理解に至った──『先生』あなたの力はこれ以上作用しない」

 

「……フランシスか」

 

“フランシス?”

 

「ゲマトリアの一人だ。あまり好意的には思えんがね」

 

 理由?ある種の同族嫌悪みたいなものだと『先生』に耳打ちし、フランシスから庇う様に立つ。

 

「そう警戒するな傍観者であった同胞よ。私は最後の宣告をしに来ただけだ」

 

「ほぅ?」

 

 今更、貴様に何かを言われる道理はないがわざわざ足を運んだのであれば聞いてやろう。

 向けられた視線から私の意図を汲んだのか、フランシスは私ではなく『先生』へと意識を切り替えた。

 

「この物語は、一つのジャンルを掲げていたが故に『先生』が主人公でいる事が出来た。だからこそ傍観者はあなたを利用し、新たな肉体を得ることに成功した」

 

“……セラを悪く言わないで。彼女は私を信じてくれただけだよ”

 

 フランシスの発言は間違ってはいないが、まぁ折角『先生』が訂正してくれたのだから此処は黙っておくが華だろうな。

 

「……物語であったが故にあなたは無敵だった──これはそういう物語であった」

 

 『先生』でなければ成し遂げる事が出来なかったであろう事は、このキヴォトスには沢山あるだろうからフランシスの言葉は何も間違えてはいない。

 思い出すな、アビドス砂漠での戦いで私は彼の未来を見て遍く全てのバッドエンドがハッピーエンドに塗り変わるのを知ったからこそ、『先生』と深く関わる事を決めたのだったな。

 

「しかし今となってはこの物語は覆された。脈略、構成、ジャンル、解釈……全てが破壊され──その意味は絡み合い、混ざり、撹拌され──統制出来ない程に褪せてしまった」

 

 フランシスは一度、言葉を区切り声を威圧感のあるものに切り替えると再び話し始める。

 

「『先生』よ──これまでの物語は忘れるが良い。これからお前の身に起こる事は最早、その様な物語ではないのだから……主人公も、悪役も、事件も、葛藤も無く全てが分解され縺れあい、脈略も構成も必然性も無くなった……作為的に作られた世界……そうして果てには意味を失い力が暴れ回るだけの理解不能で不条理な世界へと」

 

 私が言える事ではないが、相変わらず世界を外側から眺めている様な物言いだなフランシス。

 

「嗚呼、そうだ──元よりこの世界はその様に存在していた。我々は皆、それを忘れていただけ。これがもう物語で無くなったのだとすれば、お前はもう何者でもない──学園と青春の物語は、幕を下ろした。覆され、解体されてしまったジャンルでお前の価値は揺らぎ、地に落ち、無に等しいものになる!しかして、始めるのだ。物語ではない──」

 

“違う”

 

「ククッ、そうだ言ってやれ『先生』」

 

 そうだ──私が信じた『先生』という人間は此処でフランシスを否定するからこそ、意味があるのだ。

 色彩によってキヴォトスの神秘が歪まれ様とも、自らの利しか考えていない大人によって後手に回ったのだとしても『先生』であればこの局面を必ず乗り越えようとするはずだ。

 

“物語と呼ぶのに相応しくない、歪な創作だとしてもそんな事はどうだっていいんだ”

 

 この世界で生徒たちと過ごした思い出を噛み締める様に『先生』は言葉一つ一つを力強く、そして優しく紡いでいく。

 

“宇宙戦艦やロボットが登場したって構わないんだよ。どんな未来であろうとも私達は乗り越えていくのだから……君もそう思うでしょセラ?”

 

「ククッ、此処で私に尋ねるかね『先生』だが、そうだな肯定しよう。フランシス、嘗ての私の様に外側で眺めているが良い。私達が、いいや彼女達と共に紡ぐ無限の可能性に満ちた美しい世界をな!」

 

 これから起きる事柄は確かにお前が言うように複雑怪奇であり、今までの様にはいかないのかもしれないがそんなものは知った事ではない。

 この物語がバッドエンドで終わろうとしているのなら、私はただそれに全力で抗うだけだとも『先生』達と共に。

 

「……であれば、それを見守るとしよう。『先生』……いや、主人公達よ!絶望を、破局を迎え……そして結末へと走りだすエンディングを!!」

 

 そう言い残し、現れた時と同様に消えていくフランシス。

 私と『先生』は互いに目を合わせて、頷くと拳をぶつけ合い覚悟を決める。

 

「余計な邪魔が入ったが作戦を説明するぞ。もちろん、鍵は貴方だ『先生』」

 

“任せて。皆と一緒に頑張るよ。ね?”

 

 『先生』の言葉に集められた全員がこの異常事態に微塵も、怯んでいない快活な声で返事を返す──あぁ、私はこの光景をとても好ましいと思うよ。




メタファーなフランシスと傍観者のバイステンダー……多分、バイステンダーが青春の物語に魅了されていなければそれなりに相性が良いかもしれない。

感想や此処好き待ってるぜ!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。