便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「随分と愉快な姿になったな黒服」
「クックックッ、貴方には負けますよバイステンダー」
「今はセラだ。全く、フランシスと言いベアトリーチェと言いいつまでも名を覚えないな」
シャーレの屋上になんとなく気配を感じて来てみれば、大人として格好に気をつけていた筈ではなかったのかね黒服。
名前にするぐらい気に入ってる一張羅がボロボロだぞ。
「私達からすれば生徒の名よりも口馴染みしていますからね……さて、既に察しているとは思いますが改めてゲマトリアは壊滅しました。『色彩』は狼の神に触れ、その恐怖を手にし我々を襲撃。研究成果を簒奪していきました」
狼の神……あぁ、砂狼シロコ嬢か。
なるほど、小鳥遊ホシノが落ち着きに欠いていた理由がソレか……しかし何故だ?神秘の量で語るのなら確かに彼女は悪くはないが、それなら暁のホルスである小鳥遊ホシノを狙う方が理屈として理解出来る──何か、砂狼シロコ嬢である必要があると言う事か。
「大凡貴方が今考えている通りだと私も考えています。しかし、今以上に考察を重ねる余裕はありませんね」
「……ふむ。『色彩』に計画性がある事に驚きはあるが、黒服よ。アレが此処に到達する初めの要因はベアトリーチェだな?」
「えぇ。貴方と『先生』に敗れてから彼女は狂気に堕ち、ゲマトリアとして相応しくない在り方へと変貌してしまいました。責任ある大人として、マエストロ、ゴルゴンダと共に対処しましたが……貴方も知っている通り失敗しました。『色彩の嚮導者』であるプレナパテスと反転した狼の神、そして──」
「──影の如き姿をした嘗ての『私』によってだな」
肯定するように頷く黒服を見てゲマトリアに起きた一連の流れを理解する。
やはり、あの『私』は完全に『色彩』の手駒になっていると考えて良いだろう……あの生徒を使役していた技術にも覚えがあるしな。
「彼方の貴方が使っていた力は」
「あぁ。嘗ての私が崇高へと至る手段として考案し、今の私が早期に破却したものだ。私の在り方に強く根付き、キヴォトスの神秘を物語として捉え貯蔵する事で遥かな天上へと至る塔……名を『バベルの図書館』と言い建材に現実の素材を使うが実現すれば本として貯蔵した神秘を際限なく使用できる代物だ」
仕組みに気がついていたのかは不明だが、カヨコ課長が見事に天雨アコの本を撃ち抜いていたのは正しい対処法と言う他にない。
仮に再現された天雨アコを倒したとしても、『私』の手に本がある限り容易く姿を現すのだから。
「それならば彼方の貴方はかなりの脅威なのでは?」
「脅威なのに変わりはないが、絶望する様なものでもないだろう。もしもバベルの図書館が完成しているのならあの時にもっと戦力を用意している筈だし、何よりもヒナ風紀委員長を使う筈だ」
「……貴方の事ですから遊んだのでは?」
「ククッ、否定は出来んが恐らくそれも違う。あの状況で遊ぶのなら便利屋をぶつけている」
「クックックッ、なるほど」
自分と殺し合うなんて得難い経験だろう?と私なら差し向ける筈だ。
それをしなかったいう事は、『私』が持つバベルの図書館は未完成か壊れているものを使っていると判断して良い。
「あぁ、そうだ。そろそろ此処に『先生』が来るだろうから先に話しておこう黒服」
「ほぅ。貴方から私に話とは興味深い」
表情は以前よりも分かりづらいが、それでもなんとなく笑っているのだろうと思えるのが不思議だな。
「黒服よ。私と契約するつもりはあるか?」
「──クックックッ!」
虚妄のサンクトゥムタワー…アビドス砂漠、D.U.近郊の廃墟化した遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市、D.U.のサンクトゥムタワーに現れた赤い塔はそう命名された。
「……で、なんでお前が此処にいるわけ?」
「ククッ、『色彩』に犯されたビナーを一目見たくてな」
第一の虚妄のサンクトゥムタワーがあるアビドス砂漠へと向かうヘリの中は、ホシノとセラの二人によって重い空気へと変わっており運転手は冷や汗をダラダラと流しているが他の同乗者達は慣れたものでまた始まったという顔をしている。
「お前の好奇心に振り回されるの嫌なんだけど?」
「案ずるな。あくまで現地で作戦指揮を執るだけだ。流石にアル社長達がいる前で無茶はせんよ」
「どの口が言ってるんだか」
「この口だが?」
「……お前」
「シロコ嬢が心配なのは分かるがもっと肩の力を抜きたまえ小鳥遊ホシノ。何もかも一人で背負おうとするお前の悪い癖が出てるぞ」
((((貴女がそれを言う???))))
見事にブーメランになる言葉にホシノ以外の全員が心の中で突っ込むが、セラの言い分はホシノにはしっかりと届いた様で彼女は少しだけばつが悪い表情を浮かべると大きく深呼吸を行い、広げた手で流れる様にセラの脇腹を突いた。
「くっ!?」
予想していなかった一撃に少しだけらしくない高い声を溢すセラにホシノは二マーっとしたニヤついた笑みを浮かべると、ワキワキと指先を動かし始める。
「へぇ、脇腹弱いんだぁ?」
「……何を考えてうひゃあ!?」
「鷹さん可愛い声出すじゃん!私も混ぜて混ぜてぇ!」
「ま、待てムツキ室長ヒャア!?や、やめろ小鳥遊ホシノ!!」
「やーだよー」
嫌ってる相手から窘められた事実に少しだけ反撃してみたら、予想もしていなかった成果を得た事で完全に遊び出したホシノと珍しい姿を見せるセラに生粋の悪戯心がくすぐられたムツキがウキウキで混ざり、セラを擽るという光景は先程とは打って変わり平和そのもので他の同乗者──アヤネを除くアビドス対策委員会の面々とカヨコを除く便利屋68の面々はニコニコと笑顔を浮かべ、ヘリの運転手も一気に平和な空気になった事で安堵の息を溢す。
「く、ふふっ……この、ヒャッ、本当におじさんみたいなことを……!」
「ほれほれここが良いのか〜?」
「くふふっ!可愛い声をもっと聞かせなよ〜鷹さーん!」
セラの抵抗虚しく、アビドス砂漠にある虚妄のサンクトゥムタワーまでずっと擽ぐられ続ける事になり、ヘリを降りる頃にはぐったりと疲れ果てた様子のセラと妙にツヤツヤとしているホシノとムツキという絵面になるのだった。
「……作戦前にこれほど疲れるとは」
『全く何やってるの貴女達……』
「私は悪くないと思うぞカヨコ課長」
『まぁ、ムツキに関して言うなら心配させた貴女が悪いよ』
「ぐっ」
怪我を負った状態で動き回っている事を突かれては、何も返す言葉がないセラは目の前にカヨコが居ないにも関わらず視線を泳がせただ小さく呻く。
そんな様子に少しだけ気を良くしたカヨコは小さく笑みを浮かべながら、打ち捨てられた列車達のデータを纏め上げアヤネへと共有していくという見事に仕事が出来る女っぷりを披露していく。
「セラ!列車の整備には予定通りの時間がかかりそうよ」
「ん。了解したアル社長。アヤネ嬢、観測出来る範囲でビナーの動きはどうかね?」
『はい。ビナーは予想通り虚妄のサンクトゥムタワーから一定の範囲内で活動中。此方に気がついた様子はありません』
「了解した」
アヤネとの通信をしながら、セラはリオから借り受けたミレニアム製の双眼鏡を覗き砂漠を泳ぐビナーを目視で捉える。
「……ふむ。確かに以前とは違うな」
『リオと情報を共有します』
「あぁ頼んだケイ」
敵は色彩という未解明の存在ではあるものの、知恵ある者達と無名の司祭の遺産が力を合わせて解析を重ねていく。
「さて……勝負と行こうか色彩よ」
未解明に知恵を集め解明するのが我々の強さだとセラは、笑みを浮かべて宣言するのだった。
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