「首輪を嵌めて、先生」   作:天海望月

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就活中なので投稿遅れました


空崎ヒナの場合(1)

 辺りもすっかり暗くなった頃。

 風紀委員の仕事に追われ、出張から帰ってきた私はそのまま委員会室へと直行していた。

 正直面倒くさい。早く帰りたい。

 そんなことは思いつつも、仕事は勝手に無くなってはくれないのでやるしかない。

 廊下を歩きつつ、積み上がった書類の山を思い出してはため息をついていた。

 

「──こんな格好……っ!」

「……?」

 

 そうしていると、どこからか声が聞こえてくる。気が付けば誘われるようにその方向へ近づいていた。

 随分と聞き覚えのある声だ。これは……行政官の天雨アコのものに違いない。

 

「この屈辱、絶対に忘れませんからね……!」

 

 アコが仕事をしている部屋。いったい何をしているのだろうと、こっそりと中を見ることにした。

 そして、すぐに心底後悔する。

 

「え、ぁ……?」

 

 瞳に映ったのは、首輪を着けたアコと先生。ただそれだけの光景なのに、酷く衝撃的で。

 どうしてそれをしているのかは分からない。だが、何をしているのかは分かってしまった。

 誰にも言えないような、秘密の遊び。先生と生徒の、禁断の馴れ合い。気がつけば脈は異常なほど早くなり、彼らに目が釘付けになっていた。

 ──いけないことだ。覗きをする私も、生徒をペットのように扱う先生も、悪いことをしている。

 そうだと理解しているのに、私はとある感情に埋め尽くされ動けなくなっていた。

 

「お散歩……!?そんな、話が違──」

 

 先生がアコと遊んでいることに対する嫉妬?それとも、仕事をしないことに対する怒り?いや違う、どれにも当てはまらない。

 そうだ。この感情に名前を付けるのなら。

 ……私はどうしようもなく“興奮”していたのだ。

 

「っ……。は、ぁ……っ」

 

 勝手に荒くなる息を、聞こえないよう必死に抑える。手は口に、目線は彼女らに。

 もしも私がアコの立場だったら、どんな気持ちになるのだろう。

 痛いのか、苦しいのか。それとも、ただ恥ずかしいのか。意外と気持ちいいのかもしれない。

 私も、されてみたい──。ぞくぞくっ、そんな感覚が背に走った。

 乱暴にされてみたい。普段からは考えられないような態度で、ぐっとリードを引っ張られてみたい。考えれば考えるほど、胸がありもしない期待ではち切れそうになる。

 永遠にも感じられる、心が切ない時間。それは、突然終わりを告げた。

 

「っ!こっちに来る──!?」

 

 

 

 またやってしまった。

 私は先生なのに。生徒の模範となるべき大人なのに。

 そんな自己嫌悪感に苛まれながら、私は部屋の扉を開く。

 生徒に首輪を着けた瞬間。私は僅かに興奮を覚えてしまって、「お散歩」などと悪戯に言葉を発してしまった。そんな自分が恐ろしくてたまらないのだ。いつか暴走して、誰かの心に傷を残してしまいそうで。

 不可抗力だ、と一人で言い訳する自分が気持ち悪い。調子に乗ってここまでしたのは、私なのに。

 もしまた誰かと同じようなことがあったなら、お互いの名誉のために次こそ断らなければならない。これ以上、被害者を出さないように。

 そうして私は肩を落としながら帰ろうとすると、突如大きな物音がした。

 

「っ」

 

 きっと私の顔は青ざめているだろう。誰かいるのか、もしかして、あれを見られていたのか。

 心臓が跳ねる。口止めという名の命乞いすら出来ないなら、私は今度こそ社会的に終わってしまう──。

 どうしたらいいか、大量の思考が巡る。考えれば考えるほど悪い方向に思考が持っていかれるが、ひとまず音の正体を調べるべきだろう。それが人なのか否かをはっきりさせなければ。

 恐る恐る音のした方向へと進む。思い違いかもしれないという、願望にも近いそれを確かめるのだ。

 そうしてたどり着いたのはロッカールーム。照明はついていない。

 意を決して、私はスイッチに手を伸ばした。

 

「これは……」

 

 大人が一人余裕で入れそうな大型のロッカーが並ぶ部屋。そこにぽつんと、何かが倒れていた。

 なめらかな木を基調とした、細長い物体。つまり、ライフル。

 さっきの音は、これが倒れて鳴ったのだろう。

 

「忘れ物かな?」

 

 キヴォトスの生徒が銃を忘れるなんて、珍しいこともあるものだ。意外に思うその裏で、本音ではほっと安心する私がいた。

 勘違いでよかった。きっと疲れているから、こうして疑心暗鬼でいたのだろう。

 今日は帰って、さっさと寝よう。床に倒れたライフルを適当なロッカーに立て掛けて、私はここを後にした。

 

 

 

 遠ざかる足音。それはやがて、完全に聞こえなくなった。

 私は目の前の扉をそっと押す。すると、何かが倒れる音がした。

 肝が冷える。先生がそこに銃を置いたと分かっているのに、予想以上に大きな音が出て驚いた。──誰もこれを聞いていないといいのだが。ロッカーの中に隠れていたなんて、恥ずかしくて言えるはずもない。

 逃げるように私は部屋を出る。銃は戻した、照明はもう消されていた。これでロッカーでまた何かあっても、私が疑われることはないと信じたい。

 ……それでも、心のどこかで密かに期待していた。先生がロッカーを開けて、私にアコと同じようなことをするのを。

 先生の身体に塞がれて逃げられない状況。そして首輪を着けるのを迫られるのだ。

 

「ロッカーで隠れていたのを秘密にする代わりに、私のペットになって」

 

 と。

 

「……はぁ。流石に、疲れすぎ」

 

 急に妄想の世界から帰ってきて、頭を抱えた。

 仕事に追われてここ何日かちゃんと眠れていないのだ。そのせいで、正気ではないのだろう。

 ……仕事の前に、軽く仮眠を取った方が良さそうだ。私はどこか適当な部屋で休むことにした。




現在就活が山場なので次回も遅れると思います。
気長に待っていてください。
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