星を守るは、私の使命   作:光からの使者

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もしも、壱護社長に警護の知り合いがいたらというお話。


星を見上げて、砕け散る

 

アイドルとは、言ってみれば星である。

 

 

ステージの上で歌い踊る姿は、夜空を照らす星と言っても差し支えない。

そんな星の明るさに照らされ、観客はファンとなりアイドルたちの背を追いかけるのだ。

 

けれども、強い明りには厄介なものがまとわりつく。例えば、夜中の街灯を見たことはないだろうか。道端に灯る光に多くの虫たちが群がっている光景だ。人間にとって害がない虫もいれば、嫌悪感を催す虫もいる。彼らは明りがある所があればすぐに飛びついてくる。

 

これはアイドルにとっても例外ではない。

輝かしい彼女たちに脳を焼かれた者は、(アイドル)を求めて集まってくる。虫と同じくファンの全員が危険ではないという保証はどこにもないのだ。勝手な妄執に囚われ、永遠に自分の所有物にしようとする害虫(厄介ファン)。解釈違いを起こして命を狙ってくる害虫(卑怯者)

 

そんな奴らから(アイドル)を守るのが、私たち

 

 

ボディーガード事務所『サテライト』である。

 

 

 

 

本日も、依頼の電話が事務所に鳴り響く‥‥

 

 

 

「こちら、ボディーガード事務所サテライトの礒野江(いそのえ)です」

 

「――はい、かしこまりました。打ち合わせですが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボディーガード礒野江(いそのえ) 香織(かおり)は、依頼先で書類や契約書に目を通していた。

 

「‥‥というわけなんだ。頼めるか?」

 

彼女の前に座っている厳つい顔の男の名前は、斎藤壱護氏。今回の依頼主で芸能事務所『苺プロダクション』の社長である。

そしてその隣に座っているのが社長夫人の斎藤ミヤコ氏だ。

 

「ええ、問題ありません。今回の契約、承ります」

 

すると事務所内を包んでいた重苦しい空気が一変する。

社長と夫人は真剣な表情から一気に穏やかなものへと変わったのだ。

 

「それにしても、アニキから直々に依頼が来るなんて思ってもいなかったですよ」

 

「すまないな。何せ、星野アイのドーム公演が控えてるんだ。警備は徹底した方がいいと思って。昔のツテで頼らせてもらった」

 

そう、社長の斎藤氏とは以前から懇意にしていてもらったこともあり、プライベートでもアニキと呼ぶほど慕っているのだ。

 

そんなアニキからの依頼が今を時めくアイドル『星野アイ』の身辺警護である。人気アイドルグループB小町のセンター。体調不良で活動休止だったとされているが、現在は復帰。圧倒的カリスマ性で人々を引き付けているのだそう。そして近々ドーム公演が行われる予定であり、そのため開催までアイの身柄を守ってほしいとのこと。

 

経験上、ファン人気と危険は比例するというのが持論だ。

多くのファンを持つということは、良いファンとアンチの玉石混交。特に過激な思想を持った輩は、己の主張から反したアイドルを裏切者と決めつけ、命を狙いに来るのだから始末に負えない。

 

だからこそ、警護サービスが必要となるのだ。

 

私は、アニキとミヤコさんに詳細な打ち合わせやスケジュールを確認してもらい。その日は解散した。

 

 

 

後日。私は、社長に連れられてサテライトを訪れた『星野アイ』と対面する。

 

そして彼女に威圧感を与えぬよう柔らかな表情で告げる。

 

「初めまして。本日からアイさんの警備を担当します。礒野江カオリと言います。どうぞよろしくお願いいたします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから私の激動の日々が始まった。

というのも、社長のご好意でアイさんの住む隣室に引っ越しすることになったのだ。引っ越しと言っても、ドーム公演後は部屋を引き払うつもりだが、狙われる可能性の高い彼女を守るには何よりの手だろう。

 

また、激動の日々となったのは引っ越ししたことだけではない。彼女のご子息、星野ルビーと星野アクアマリン(便宜上アクアと呼称)の護衛も請け負うことになったからだ。あくまで事務所の子供という体裁をとっているが、子役は身代金目的の誘拐犯に狙われやすい。現に一か月で3件ほど、不審者を撃退した。

 

現役アイドルが16歳で双子を出産したとアニキから聞いたときは、さすがの私でも椅子から転げ落ちそうになったものだ。おまけに父親が分からないと来たもので、勢いだけで月までぶっ飛びそうな衝撃を喰らった。

 

しかしこの子たちが、そりゃまぁ可愛いんですわ。長男のアクア君は、母親とは似ておらずしっかり者の印象を受ける。

 

一方で妹のルビーちゃんは、とっても元気な女の子で、将来は母親のようなアイドルとして大成するのではと思っている。

それにしても、母親の血を濃く受け継いでいるのか、片目ずつ、星のマークがある。まるで吸い込まれそうになるほどの魅力を彼らは受け継いでいるのだろう。小さいながらその人気はうなぎ登り。他人ながら将来が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、来るべきドーム公演の日を迎えた。

私は、社長たちが迎えに来るまでアイさんの自宅に待機していた。

すると、インターフォンが鳴る。念のため私は、アイさんに双子といるように言って代わりに玄関へ向かった。

 

警戒のためのぞき穴から様子を伺う。

 

玄関には黒いフードを被った人物が白い花束を持っていた。

 

(いったい誰だ…?アニキでもないし、ミヤコさんでもない‥‥。とにかく、お引き取り願いましょう)

 

不審に思いつつも、話を聞くためドアを開ける。

 

「はい、何の御用で―――」

 

その時、鋭い痛みが身体を襲った。

状況を認識しようと視線を下に移す。

 

男が持っていたのは花束だけではない。むしろそれは囮であった。本命は、もう片方に握られている凶器である。

 

ナイフが脇腹に突き刺さったことで、白いワイシャツが血で赤く染まる。

 

こいつは危険だ。本能がそう呼びかける。こいつはアイを殺しに来た。理性がそう訴えてきたのだ。

 

 

片足でドアを閉める。そしてナイフを引き抜こうとする男の手を取り、自分の背中でドアを押さえつける。

傷口を悪化させる恐れもあるが、自分の命なんざ惜しくもない。

 

「クソッ!ボディーガードの方かッ!!邪魔すんじゃねぇッ!!」

 

激しくもみ合いになる両者。玄関から戻らない私を心配したのか、アイさんがドアに近寄る音がした。

 

「カオリさん…?何があったんですか?」

 

今アイさんを近づけさせるわけにはいかない。そう判断するとドア越しに叫ぶ。

 

「アイさんッ!!今すぐ警察に連絡をッ!!鍵も閉めてッ!!」

 

「は、はいッ!!」

一瞬、声に戸惑いが表れていたが、私の指示に従ったようで鍵が閉まる音が聞こえた。そして足音も玄関から遠ざかる。

 

だが、アイの声を聴いた男の顔はみるみるうちに憎悪を見せていた。

 

「そこにいるんだなぁクソビッチッ!!コイツを殺したら、テメエもガキもブチ殺してやるッ!!」

 

ますます怒り狂う男。もはや正気の沙汰とは思えないほど、憎しみに歪んでいた。

 

男の自分語りは続く。

 

「俺を…ファンを裏切りやがってッ!!隠れて子供を作るようなアバズレなんざぁ…生かしちゃおけねぇッ!!」

 

男の手に力が入る。ナイフの柄がとうとう貫通し、患部から大量の血が流れだす。

 

(ファンを…裏切った‥‥?アイさんを…アクア君とルビーちゃんを‥‥殺す…?)

 

気を抜けば、あっという間に沈んでしまいそうな意識。

 

しかしこの男の言葉が――――

 

 

 

逆鱗に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥いい加減に――」

 

「あぁッ?」

 

 

「いい加減にしやがれッ!!このド畜生がッ!!」

 

 

 

 

まさに火事場の馬鹿力というべきだろうか。

男を勢いのまま押し返すと、ありったけの力を込めて男の顔面を拳でぶん殴った。

 

反撃されたのが予想外だったのか、殴られた男は狼狽え始める。

 

この機を逃すまいとアドレナリン全開で、男の腕を掴みチョップ。手に持ったナイフから引き離す。

続けざまに、回し蹴りを放ち、男の横っ面を捉える。意識外からの攻撃に男は反応できず、壁に叩きつけられた。

強い衝撃で気を失った男に捲し立てる

 

「‥‥誰が誰の子を産もうと別に構わない。でも‥‥私怨で人の命、取ろうってんなら私が徹底的に叩きのめしてやるッ!!覚えとけッ!!」

 

 

脇腹からの出血で意識が朦朧とする。

ろくに応急処置もせず、身体を動かしたのだから当然のことだろう。

息も絶え絶えに気絶した男を服で拘束し、覚束ない足取りでドアに座り込む。

 

(‥‥これ、無理かもしれない)

 

急所を刺されたことによる大出血。よりにもよって神経が集中している脇腹だ。止血もろくにできない。

 

 

アイさんは無事、警察は呼べただろうか。

 

ふと思った途端、ドアが開く。

 

「カオリさんッ!警察もう間もなく着くって!!」

 

心配して戻ってきたアイさんに今の惨状を見せてしまった。

 

彼女は泣きながら言っているようだが‥‥もう聞こえなくなっていく‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私が目を覚ましたのは事件から4日後のこととだったそうだ。

アイさんが襲われたあの後、アクア君が救急車を呼んでくれたおかげで、辛うじて命は助かったらしい。

 

壱護のアニキには、心配かけたことでこっぴどく叱られたが、同時に謝罪と感謝の言葉を貰った。個人的にアイさんたちに危害がなくて本当に良かったと思う。

 

それと風の噂に聞いたのだが、あの日の襲撃犯は警察に連行されたらしい。名をリョースケといい、アイの熱狂的なファンだったそう。犯行の動機は、応援していた自分のことなど覚えていないと感じ、やけっぱちに行った犯行だったようだ。ほんと、いい迷惑である。

 

ただ、彼は逮捕後、拘置所で自殺したようだった。

どうも、アイさんが彼のことをしっかり覚えており送ったプレゼントが飾られていることを知り、ショックを受けた末の自殺だと言われている。

 

アニキ曰はくアイさんのドーム公演だが、本人の意向により延期こそあれど、続行。大成功に終わったようだ。

 

双子ちゃんも渾身のオタ芸を披露したみたいだ。

 

 

ドーム公演の成功で、私の契約は満了した・・・・・のだが。

今回のことを受けて、アニキは私を苺プロダクションのマネージャー兼専属SPにスカウトしたのだ!!

断る理由もなかったため、私は二つ返事で承諾。今後はB小町のマネージャーを務めながら、アイさんたち家族を守っていく所存だ。

 

あと余談ですが、何やかんやありましてアイさんと同棲することになりました。何で?とお思いでしょう。

 

私もそう思っています。

 

 

 

 

切っ掛けは、ドーム公演から数か月後の晩のこと。

 

 

アクア君とルビーちゃんが寝静まったことを確認し、私も自室に戻ろうとした時だった。

 

「ねぇ、カオリさん。ちょっと、いいかな?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

珍しくアイさんが眠れないとのことだったので相談へ乗ることに。

彼女曰はく、あの時のことが相当怖かったと言っていた。あのクズ(リョースケ)の吐いた言葉が今でも夢に出来るのだそう。

身体が少し震えているのを見るにかなりのトラウマになっていると言える。

 

「安心してください。私がいる限りあなた方には指一本触れさせませんから」

 

アイさんに向かって力強く言ってのけた。

そんな私の言葉にアイさんも穏やかな表情を見せる。

 

「そうだよね。カオリさんがいれば大丈夫だもん!」

 

 

元のアイさんに戻り私も安心し、隣室へと戻ろうとしたその時だった。

勢いよく手を引っ張られ、一瞬のうちに押し倒されてしまった

 

「ア、アイさん‥‥?」

 

「だから、カオリさん。ルビーとアクアのパパになってください」

 

ハイライトオフになった瞳で跨ったアイさんは私に告げた。

 

「っちょっと待ってくださいッ!?パ、パパ?私女ですよッ!?」

 

「性別なんて気にしない。それにカオリさんだったらアクアとルビーも納得すると思う」

 

何かやる気になっているアイさんを押しのけようとするがびくともしない。

 

「えへへ。私ね、こっそりだけど護身術習ってたんだ。また、襲われても大丈夫なように」

 

それにしたって力が強すぎないですか?

 

段々アイさんの息が荒くなっているのがわかる。

 

「アイさん…どうか‥‥落ち着いて‥‥」

 

「カオリさん、愛してる」

 

 

――後のことは皆さんのご想像にお任せします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな私は今、アイさんとアクア君、ルビーちゃんと一緒に服を買った帰りだ。

護衛の日もよいけれど、こうして誰かと暮らすことは幼少期から少なかった。

 

だから、今がとても幸せに感じる。

 

 

家までの帰宅道。後は信号を渡るだけ‥‥

 

信号が青になる。

 

歩道を渡るアイさんたち。とっても微笑ましい。

 

そんな彼女たちに暴走した車が迫る。

 

「危ないッ!!」

 

咄嗟にアイさんたちを向こう側へと突き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横からとてつもない衝撃が直撃する。

 

視点が一回転し、身体が空を舞う。

 

そのまま、私の身体は地面に叩きつけられた。

 

ふわふわした感覚の中で突き飛ばしたアイさんたちを見る

 

特に目立った傷もなく、双子ちゃんも無事だ。

 

アイさん。また、泣いている

 

 

‥‥でもよかった‥‥アイさんたちが無事で‥‥

 

 

――出来ることなら‥‥もう一度‥‥会いたいなぁ‥‥

 

そして私の意識は、闇へと消えた。




設定*微ネタバレ注意





・礒野江カオリ
26歳女性。今回の主人公。見た目はブルーアーカイブの錠前サオリによく似ている。斎藤壱護社長とは、昔因縁があった仲。やさぐれていた頃、喧嘩を吹っ掛けたら返り討ちに合った。その後舎弟として慕うようになった。
本作では、ボディーガードとして星野アイを死ぬ運命から護りきった。リョースケに刺され生死の境を彷徨うも生還する。
ただし、どうあがいても死ぬ運命にある。黒幕に直接手に掛けられる場合や間接的に殺されるなど絶対的な死が確定している。
つまるところ始めから詰んでいた。
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