私にとって『を守るという行為』は、存在意義に等しかった。
警察官の父と消防士の母の下に私は生まれた。
大富豪やとりわけ貧乏でもないごく普通の一般家庭だったが、両親は私に目一杯の愛情を込めて育ててくれた。
生真面目ながら優しい父。少し間が抜けているが、それでも家庭を大事にする母。そんな2人の下ですくすくと成長していった。
けれど、自分の死生観が一切変わったと感じたのは大切な両親の死が切っ掛けだろう。
幼い頃父は、逆上した強盗の魔の手から人質を庇って殉職。母も火災からの救助活動中に亡くなった。
両親の訃報を聞いたときは、胸が張り裂けるほど悲しく辛かった。まだ2人には生きていて欲しかった。お酒だって一緒に飲みたかったし、まだまだ旅行にも行きたかった。毎夜、両親との日々を思い出しては枕を濡らす日々がしばらく続いた。
確かに悲しかったけれども、私は両親を誇りに思う。
父と母の顛末を聞いた人は皆こう言った。『彼らは立派に職務に尽くした』と。
勝手に死んだ2人を恨めしく思ったこともある。
でも自分の信条を一切曲げずに救出という目的を果たした。誰も死なせなかった。2人は心優しく、どこまでも誇り高かった。それに対し私はどうだ?泣いているだけではないか。
いつまでも未練がましくしている場合ではない。
父と母のように立派な人になるのだと。
2人の強い意志が私に再び立ち上がる勇気をくれた。
葬式後祖父母に引き取られ、小学校、中学校、高校、専門学校を経ててボディーガードになった。
ボディーガードとして、危険な輩から護衛対象を守る。自分の生き方に敵った職業である。
青春を全てかなぐり捨ててまで、得た父と母の理念が宿る仕事。実に働き甲斐があった。
ボディーガード事務所「サテライト」に就職後は、アイドルを護衛する仕事が多くなった。
始めは何とも思わなかったが、次第に心境に変化が訪れた。
歌って踊って、輝きを放つ少女たち。そして、それを応援する熱狂的なファンたち。「推し」への愛を曝け出す彼らの姿には感銘を受けたといっても過言ではない
私自身が少女たちの歌声に惹かれるようになり、ファンの感性に近づいたからだろうか。
(‥‥・絶対楽しいだろうなぁ)
いつか、自分もあの中に混ざって「推し」を応援してみたい。人目も気にせず、「推し」について語り合いたい。ライブを生で観たい。
絶対に敵わない願いだろうが、思うだけでも罰は当たらないはず。
(ぁぁ・・・・盛大にやりたい。思いっきり「推し」を見たい)
私の人生が走馬灯のように流れていく。アイさんを最期まで守れた。自分の人生に悔いなどあるはずがなかった。
‥‥でも思い返せば、「推し」を応援できていなかった。警備の対象だと、自分の気持ちを押し殺していた。
―――でも本当に、これでよかったのだろうか。
自分らしからぬ疑念を抱いた時、激しい光が瞬く間に走馬灯をかき消した。
「・・・・ここは?」
ふと目が覚める。
すると私は、廊下に立っていた。しかし、この場所にはどこか覚えがあった。
見慣れた家具の一式。ファンから送られ飾っているグッズの数々。その配置、レイアウトまではっきりと覚えていた。
―――そうだ。ここは、アイさんが住んでいるマンションの部屋だ。
「私は、確かに‥‥車からアイさんたちを庇って・・・・・」
最期の光景をはっきりと覚えている。
道路に突っ込んでくる車から、アイさんたちを突き飛ばし、轢かれ意識が暗転するの瞬間まで。
だとしたら自分がここにいるのはおかしい。目が覚めたとしても、良くて病院。悪くてあの世だろう。
状況がいまいち飲み込めないまま、私は辺りを見回す。すると、違和感を感じる。
「―――アイさんたちはどこにいるのだろう?」
ここが仮にアイさんの部屋だとしたら彼女たちがいないのはおかしい。
では、何故いないのだろうか‥‥?
妙な胸騒ぎを覚える。
もしかしたらと、最悪の事態を想像してしまう。
不安が拭いきれない。
無事であってほしい
どうしようもない焦燥感に駆られた私は、一途の願いを込めて玄関に駆け込んだ。
だけど、私の願いは空しくも、いや最悪な形で裏切られる形となった。
アクア君もルビーちゃんも見つけた。何処もケガが見られない五体満足だ。
アイさんも見つけた。
でもアイさんの瞳には、
腹部から大量に血を流して、口元も吐血の跡がある。
どうあっても、アイさんは生きてはいなかった。
「ア、、、、アイさん‥‥??な、なんで‥‥??」
致命傷になっただろう腹部の傷。それさえも私の記憶には覚えがあった。
そう、あの日私が受けた傷だったからだ。
何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
彼女が死んでいるの?
確かに私が庇ったはず‥‥・。なのになんで・・・・
アイさんの亡骸に私は縋る。死後硬直であれほど暖かかったアイさんの身体がとても冷たくなっていた。
「‥‥夢なんでしょ?これは、ただの悪夢なんでしょっ!?だって、おかしいじゃないかっ!!」
必死にこれは夢だと自分に言い聞かせる。これは夢。死に際に見た悪い妄想なのだと。
でもアイさんの死に顔に自分の目が合ってしまった。
―――これは現実なのだろうか。私が守ったというのは、私が都合よく見た夢なのだろうか。
ピシッと何かがひび割れる音がした。
―――何が指一本触れさせませんだ。何も守れてないではないかっ!!
またピシッと自分の中から音が経つ。
人を守れない自分は、一体何のためにいるのだろう。
ピシッ、ピシッ、、、ピシッピシッピシッ
音が鳴るたび自分という存在の無意味さに、嫌気がさす。
「・・・・お願いだから、どうか夢なら醒めて‥‥」
もはや、私の心は砕ける寸前だった。
ひび割れだらけで、少しの衝撃だけで簡単に粉々になって砕け散るだろう。
何度もフラッシュバックされるアイさんの死に顔。
気が参りそうなほど、彼女の姿が脳に焼き付いて離れない。
怖い。怖くて怖くて仕方がない。
後悔の念が限界に迫ったその時、ふと気になったことを思い出し脳が冷静になる。
今更だが、何故リョースケがアイさんを狙えたのか。
あくまで聞いた話に過ぎないが、犯人のリョースケは大学生。ファンでありながらどうやって彼女の住所を調べ挙げたのだろうか、気になっていた。それに供述ではアイさんの下に双子がいることも知っていた。
ストーカーなら、私が始終護衛に努めていたためそれはない。
苺プロからの内通者?いや、アイさんの情報に関してはアニキやミヤコさん、そして私でしか管理していない。それにリョースケは、私を刺した時、
『クソッ!ボディーガードの方かッ!!』
と言っていた。私がアイさんのボディーガードであることは世間へ公にされていない。
じゃあ、何故大学生の彼がこの情報を持っているのか。
―――考えられるのは一つしかない。
―――リョースケの他に共犯者がいる。
何と愚かだったのだろうか。そう考えれば、あの不自然な暴走車両にも説明が行く。
明らかに赤信号だったのに、あの車は道路へ突っ込んできたのだ。明確な殺意がそこにはあった。
「嗚呼ああぁぁぁッ!!」
常々自分が嫌になる。こんな簡単なことにすら気づかなかったとは。
何がアイさん専属のボディーガードかっ!!
ボディーガードの自分がこの世から消えれば、アイさんたちは隙だらけだ。黒幕がそんな格好の獲物を逃すはずがない。
何とかしなければ。でもどうする??
自分はもう生きてるのかも死んでいるのかもわからない。
これでは大切な人を守れない。約束も果たせない。
父と母に面と向かって誇れないっ!
「私は大馬鹿者だッ!!」
嗚呼ぁぁぁ‥‥。神様でもいい。悪魔でもいい。今一度私を現世に返してください!!。
死後の裁きなら後でいくらでも受けます。
頼れるのはもう、あなた方しかいないんです。
後悔と絶望の念に苛まれた次の瞬間。
私が居た空間は大きく音を立てて崩れ去った。
手に向かって手を伸ばすも。私は真っ暗な奈落へと飲み込まれた。
人生は一回きり。後悔しないよう生きろと、かつて父と母から教わった。
だが私は、人生の最後に大きな後悔を残してしまった。
悔いても悔いても悔いきれないほどの後悔だ。
そんな私を、神様は哀れんだのだろうか。
「いい子でちゅね~~
奈落に落とされた筈の私が目にしたのは、生きているアイさんの姿だった。
やはり、
どうも私は、星野家の次女として新たな生を授かったらしい。
名前は星野
一度は砕けた身。
今度こそ、後悔を清算させて見せる。私情も、使命も一切後悔なんてしない。
星を守るは、私の使命
それにアイさんを狙った黒幕を断じて許すつもりはない。
直接手を汚さず、他人を唆してのうのうと生きている。
このままにしておけるものか。
地べたに這いつくばっても、泥水啜ってでも、必ず私たちの前に引きずり出してやる。
A.後悔と絶望で脳が破壊される。
今話からタグに転生を付けさせていただきます。
次回は書けたら、エメラルドの転生ライフかアイorアクア視点で送る礒野江カオリについて書こうと思います。
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