またアニメと原作見直そう。傷が抉れそうだけど。
ある日、社長から会わせたい人がいると言われ私は自宅に待機していた。
ピンポーン!
うちのインターフォンが鳴る。来たようだ。
ドアを開けると、社長と見慣れないスーツ姿の女性が立っていた。
2人を自宅に入れ、私は女性の姿を観察していた。
身長は私よりも大きく、全体的にシュッとした容姿。モデルと言われれば、信じてしまうだろう。
でも社長の口から出たのは私の想像を超えた言葉だった。
「アイ、紹介しよう。彼女は、本日よりアイのボディーガードを務める礒野江カオリだ。」
「初めまして。本日からアイさんの警備を担当致します礒野江カオリです。どうぞよろしくお願いいたします。」
それが
私は嘘つき。
考えるよりも先にその場に沿ったことを言う。
自分でも何が本心で、何がウソなのかわからない。
誰かを愛したことも愛されこともなかった。
アイドルを志したのも『嘘が本当になるかもしれない』という言葉があったから。
私は『誰かを愛したい』『愛する対象が欲しかった』
母親になれば、子供を愛せる。いつか、愛してるという嘘を本当にするために。ルビーとアクアにも心からの愛を伝えたい。そんな人だ。
反対にカオリさんは、どこまで行っても馬鹿正直な人だった。
これは近くで暮らす内に分ってきたことなんだけど。仕事の息抜きとしてトランプに誘ったことがあった。勝負内容はシンプルなババ抜き。カオリさんはポーカーフェイスを保っていたけれど、心の中が駄々洩れなのかってほど弱かった。何度やってもババの位置が私でもわかるほど顔に出ていた。
他にも、何か嘘を付いてみてとお願いした時、カオリさんは思いっきり舌を噛んでしまった。
どうあってもカオリさんは嘘がつけない。
嘘つきな自分とは、まったく正反対の人間なんだなって思った。
でも1つだけ気になった点があった。
何故、カオリさんはこんなにも正直なのだろうかと。
だから、思い切って聞いてみることにした。
「カオリさん」
「何です?」
「何でカオリさんは、私の言うこと何から何まで信じられるの?私、嘘つきだよ?」
この時、初めて自分が嘘つきだと告白した。でもそれ以上に私は、彼女の反応が気になった。騙されていたと知って怒るのか。それとも嘘つきなことを責めるのか。
するとカオリさんは、一瞬目を丸くしたけど、すぐに元の落ち着いた表情に戻った。
「別に構いませんよ、嘘つきでも。」
「‥‥え?」
カオリさんからの返答は予想外だった。
嘘でいいと肯定されたのは社長がはじめて。でもあまりに即答だったから今度は逆に私が固まっちゃった。
それに正直者、嘘が嫌いそうなイメージを持っていたカオリさんが、嘘を肯定したのが何よりの驚きだった。
「こんなこと言うのもアレですが、嘘はバレなきゃいい。バレた時が一番まずいだけで、バレなきゃ問題ありません」
「それにアイさんが嘘つきだろうと構いませんよ。というか、世の中嘘つきだらけです。正直者なんてそうそういませんし」
「これからも嘘ついていけばいい。これから本当にしていけばいい。誤魔化すの手伝いますから」
カオリさんは微笑みながら私の方に振り向く。
「あっ。でも危ない時は、嘘つかないでくださいよ?間に合わなかったら嫌ですから」
本当にどこまでも、この人は自分に正直だ。私も欲張りと謳ってはいるけど、それ以上。
欲張りに底がない。でも、どこか不快な気分にはならない。どこまでも純粋で、子供っぽい。
さぞ、良い親に育てて貰ったんだろうなぁ
・・・・でもどこか自分に無頓着っぽいように見えたのは、気のせいかな?
そうそう、一緒に生活している中で気づいたことなんだけど。カオリさんの名前が直ぐ憶えられた。
はじめはサオリさんとか、カンナさんって呼んで間違えたのに、数週間しただけで間違えなくなった。
名前を間違えても、カオリさんは訂正もしなかったし、それどころか何度も丁寧に自己紹介してくれた。
私を頭ごなしに否定しない。私の汚いところとかやなこと全部、カオリさんはそれでよいって言ってくれる。
ライブの後は必ず。
『頑張ったね、今日も輝いてたよ』
ちゃんと褒めてくれる。
カオリさんの作るご飯もおいしい。あんなに白米が苦手だったのに、いやな気持ちせず食べられる。
なんだか、胸がポカポカする
温かくて、心地よい。
カオリさんがママだったらどんなに良かっただろう。
ルビーとアクアには、母親として愛を注いでいる筈だ。でも、愛を注がれたことはなかった。
8歳年上だけどカオリさんは手慣れた手つきで子供の世話をしてくれる。
最初はルビーもアクアも警戒していたのに、今じゃすっかり気を許している。
あーあ、こんな生活がいつまでも続けばいいのに。
ドーム公演まで1週間を切ったある日のこと
なんとなく別れた男に連絡を取ってみた。
きっかけは子供たちの会話を盗み聞いたこと。
なんだか自分たちは処女受胎?というもので生まれたって結論に至っていたからだ。
電話するにあたってカオリさんには、仕事の関係者と電話すると誤魔化して、近くで待ってもらうことにした。
「うん。そいうことだから、会いに来てね」
男に今住んでいるマンションの住所を教え、電話を切った。
電話ボックス近くのベンチに座るカオリさんは、私にこう尋ねた。
「どうでした?」
「うん。上手くいきそうだって」
「それは良かったです。さぁ帰りましょう。社長とミヤコさんが出前を取ったとのことで」
「本当!?やったー!」
でも私は、この時ほど自分のついた嘘を後悔することになろうとは思わなかった。
公演当日。
社長とミヤコさんが来るまでの間、私はカオリさんと一緒に子供たちの世話をしながら待っていた。
ピンポーンッ!!
家のインターフォンが鳴った。
「社長たちかな?」
私はすぐに玄関へ向かおうとしたんだけど‥‥
「アイさん、私が出ますよ。ルビーちゃんとアクア君のご支度を済ませてあげてください」
「そう?じゃあ、お願い」
私の代わりにカオリさんが玄関に向かう。
「ルビー、そろそろ起きないとダメだよ~~」
お眠なルビーを起こそうとした途端。
バタンッ!!
玄関のドアが大きな音を立てて閉じた。
一向にカオリさんが戻る気配がない。
胸騒ぎを覚え、急いで玄関に向かう。
ドアを開けようにも、外から強い圧力がかかっていてビクともしなかった。
「カオリさん…?何があったんですか?」
恐る恐るドア越しに尋ねる。
声が聞こえたのかカオリさんは、私に向かって叫んだ。
「アイさんッ!!今すぐ警察に連絡をッ!!鍵も閉めてッ!!」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
でも普段の様子と違って今の状況から切迫した状況なのが私でも理解できた。
「は、はいッ!!」
鍵を閉め、ドアチェーンも掛け、言われた通り警察を呼ぶために受話器を取る。
「ええーっと‥‥警察は110番だっけ‥‥」
こんな時に限って記憶力がないことが恨めしく思う。
縋る気持ちで番号を打って電話を掛ける。
するとすぐに警察が電話に出てくれた。
「もしもしっ!!助けてください!!家の前で不審者がッ!!」
もう文脈もへったくれもなかった。本当に焦っていたんだと思う。
それでも警察の人は要点をくみ取ってくれた。住所を教え、受話器を下す。
通報を終えると、部屋からルビーとアクアが困惑した様子で出てきた。
こんな緊迫した状況だったからか、私は真っ先に2人を抱きしめた。
「ルビー」
「アクア」
「”愛してる”」
やっと言えた。
嘘じゃない本当の言葉。
だいぶ時間はかかっちゃったけど、私がずっと待ち焦がれていた瞬間だった。
「「ママのこと愛してる」」
嗚呼、2人からの愛が伝わってくる。これが『本当の愛』なんだ。
嘘が本当になった。
子どもたちを抱きしめて少し経った頃、あんなにも騒がしかった玄関が静まり返った。
でも未だにカオリさんは帰ってこない。
「アクア、ルビーをお願い」
「わかった」
「カオリさん!!警察もう間もなく着くって!!」
ドアチェーンを外しドアを開ける
見るとスーツで腕を拘束されながら失神している男が居た。
男の顔を見て、思い出した。彼は以前のライブで星の砂をくれたファンだった。綺麗だったから今でもリビングに飾っている。名前はたしかリョースケ君、だったっけ
でも今はカオリさんのことが心配だった。
辺りを見回すと、カオリさんはドアにもたれ掛かるようにして倒れていた。
腹部に刃物が刺さっていて、白いワイシャツが真っ赤に染まっていた。
「カオリさん!!カオリさん!!」
何度呼びかけても返事がない。
そうだ救急車!!
なんで救急車を呼ばなかったんだ。もう私ってば本当馬鹿!!
なだれ込んでくる情報に脳の処理が追い付かない。
「死なないで!!死なないで!!」
ショートしそうな思考回路で何とか考えようとする。
でも思いつかない。
そんな時、再びドアが開いた。
「「ママッ!!」」
子どもたちが救急箱を持って飛び出して来た。
「ママ、救急車は呼んである。到着まで間に合わせるぞルビー!!」
「うん!!」
アクアの指示で応急手当が済んだ結果、カオリさんは無事一命をとりとめた。
それでも病院で目が覚めるには4日かかった。
社長は、目が覚めたカオリさんに泣きながら怒ってた。
ミヤコさんも怪我人なのお構いなくポコポコと叩いていた。
刺された当人は、何もなかったかのようにケラケラ笑っていた。
むしろ、こっちが無事だったことを気にしていた。
(違うでしょ‥‥。だって死にかけたんだよ?なのになんで笑ってるの?)
何時ぞや感じた、無頓着さ。その正体が分かった気がした。
カオリさんは。彼女は自分の命に価値を見出してない。
どんなに危ない目に合うとわかっていながら物事に首を突っ込むタイプだと。
・・・今一度カオリさんには自分の価値感を改めさせるべきだと私は思った。
退院後、私は改めてカオリさんを私の家に住まわせることにした。
佐藤社長…違った。斎藤社長も今回の件でこれを了承。晴れて同棲できるようになった。
少々強引な手を使ったけど、これでカオリさんが少しでも無茶を減らしてくれたら良いなと思う。
それと、今回の襲撃事件はメディアに大きく取り上げられることはなかった。
双子の発覚やら何やらでトレンド入りすることはあれど、刺されたのがボディーガードというのが世間的に気にもされなかったようだ。
当然批判の声もあがったが、命がけでファンを守ったカオリさんに同情を寄せる声も多く。やがてアンチの意見は下火になっていった。
さらに数か月後、久しぶりに家族でショッピングに出かけた。
沢山服を買った帰り道。
右手にアクア、左手にルビー。
そして後ろにはカオリさん。
なんだかんだあれど私はとっても幸せだ。
引っ越した新居まであと少し。
青になった横断歩道をみんなで手を上げ渡る。
かけがいのない至福の一時。
でもこの日、私はついてきた嘘の代償を払うことになった。
横断歩道を渡りきるまであと少し。
すると‥‥
キキィーーーッ!!
車が猛スピードで私たちに迫ってくる。
(轢かれる‥‥っ!!)
せめて子供たちだけでも助かるように抱え込む。
もう車はすぐ横に‥‥・
「危ないッ!!」
ドンっと私たちは何かに突き飛ばされた。
幸い前のめりに押し出される形になったため、怪我を負うことはなかった。
でも、目の前では最悪の光景を目にしてしまった。
カオリさんが道路の真ん中で突っ伏していた。
頭から、腕から、だらだらと血を流し水溜りが出来上がっていた。
「嘘…だよね…?カオリ‥‥さん…」
「嫌だよ・・・・死ぬなんて‥‥」
倒れているカオリさんの身体を揺らす。
「お嬢さん、触らない方がいい」
「おい、救急車まだかよ!!」
事故を目撃した人たちが騒ぎはじめる。
呆然としながらカオリさんの顔に目をやる
「‥‥そんな、穏やかな顔しないでよ・・・。こんなとこで、正直にならなくていいんだよ?」
「だから‥‥目を開けてよぉ‥‥」
アイドルとの買い物中、ボディーガードが車に跳ねられ死亡したというニュースは、瞬く間に世間へと広まった。
世間の反応としては、概ね事故を目の当たりにした
でも案の定、死者を玩具にするような連中も当然現れた。
勝手な憶測や怪文書がネット中に出回り、中には死体に鞭うつような書き込みも増えた。
「‥‥しゃーなしって何?ねぇ、ママを庇って轢かれたのに、仕方ないの!?ねぇッ!!」
「そんなわけないでしょっ!!」
「あんだけ、ママを助けたって報道されたときは人間の鑑とか言って褒め称えてたのに!!死んだら手のひら返すの!?おかしいじゃん!!だったらあの時、同じ行動取れたのかよ!!何もしないくせに、偉そうなこと言うなよ!死ねよ!!」
カオリさん、死んじゃった。
暴走した車に轢かれて、即死だった。
まだまだ人生これからなのに。まだ、ルビーとアクアのランドセル姿見せられてないんだよ?
あの子たちがどんな道を選んでいくのか、あんなに楽しみにしてたのに。2人で見守ることもできないなんて。
そんなの酷すぎるよ。あんまりだよ。
斎藤社長だって、ミヤコさんだって、泣いてたんだよ。
可愛い妹分なんだって胸張って自慢してたんだよ。
でも死んじゃったら何にもならないじゃん。
・・・そういえば、あの日なんでリョースケ君に家の場所がわかったんだろう?
今回の事故だってまるで、私たちが買い物から帰ってくるのがわかってるみたいだった。
記憶力に自身はないけど、新居前の横断歩道はあの時間帯でないと人込みは少なくならない。
それに、リョースケ君は子供のことを知っていた。
当時は誰にも存在が知られていなかったのに。
誰かが情報を漏らした?
でもグループには教えてないし、社長やミヤコさんも違う。
それじゃあ、カオリさん?絶対に違う。あの人は、そんなことする人じゃないしできない。
なら…いったい誰が・・・・・あっ。
こんなことできる人・・・いた。
ライブ前、新居を教えたのはアイツしかいない。
この子たちの父親。彼にしか新居の情報は教えてない。
嗚呼…絶対に許さない。
ただ子供たちに会って欲しかっただけなのに。
想いを踏みにじって命を狙った挙句、カオリさんを殺すなんて。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
アクアたちの手は汚させない。
必ず私の手で殺してやる。
その時、私の瞳に宿る星が漆黒に染まる。
カオリさんの仇、絶対に取ってやる。
そう誓った。
でも私の復讐計画は少し伸びることになってしまった。
だって。今になってデキちゃったんだもん。
だから、復讐は一旦お休み。ルビーもアクアもエメラルドも、私の復讐には付き合わせない。
立派な大人になるまで、私が見守っているからね。
「愛してるよ」
おまけ
「撮れてるかな?」
「ええ、ばっちりです」
「こういうのは、何個でも残した方がいいからね」
「でも、良いんですか?私まで映って」
「良いの良いの。カオリさんはもうこの子たちのパパなんだよ?パパが家族ビデオに写っても問題ないの」
「大人になった時、これ見ながらお酒の飲めたらいいなって」
「これを見る年になったらもう私はアイドルやってないかもだけど」
「それ言ったら私なんて48のおばさんになってます」
「あはは、確かにね」
「この子たちのことだから立派なアイドルになってるのかも、楽しみだな~~」
「きっと立派な子になりますよ。何てったってアイさんの子ですから」
「もう、カオリさん。せめてそこはアイって呼ばなきゃ」
「ごめんなさいね。あんまり呼び捨てしたことがなくて」
「何せよ元気に育ってください。お母さんの願いはそれだけだよ」
「私からもお願いします。ルビーちゃん、アクア君。元気に育つんですよ」
カチッ
~~録画終了~~