「かわいい~~!!」
「もしかして、三つ子ちゃん?」
「アイちゃんそっくり~~」
現場に到着した私は、映画に出演する女優さんたちに囲まれて可愛がられていた。前世では、仕事上女優さんと関わることはあれど、深く干渉することはなかった。ましてや今のように可愛がられたり、注目の的になることもなかったため少々恥ずかしい。
ルビー姉さんは、他の若手女優さんたちに甘えており、その様子をアクア兄さんが半ば呆れた目で見ていた。アイさんは、台本を片手に今日の共演者と打ち合わせをしていた。前世の時点でアイさんがアイドル以外の方面でも活躍していたことは知っていたが、実際に目の当たりするのとでは印象が違って見える。
何というか様になってますね。将来的には女優に転向するのも視野に入れていそうだ。
女優さんたちに可愛がられているルビー姉さんを他所に、私はアクア兄さんを探しに廊下へ飛び出した。
廊下に出てみると、アクア兄さんは監督さんと何やら話していた。
五反田監督。アイさんと兄さんが出演する映画の総監督。アクア兄さんから聞いた話では、厳つい顔もちながらも理解ある人で度々世話になっているらしい。折角だからコミュニケーションを図ってみる。
「兄さん、監督さんとなんのお話ししてたの?」
「ちょっと専門的な話、たぶん聞いてもわからないぞ」
「ふ~ん」
やってきた私を監督は物珍しさに眺めていた。
「アイと同じ事務所の子か。」
「お初にお目にかかります。メルと申します。いつも母と兄が大変お世話になっているとお聞きしております。弊社のアイとアクアを何卒御贔屓に」
「お前もスゲェなッ!滅茶苦茶喋るじゃん、どこでそんな言葉覚えた?」
「あはは、、、ユーチューブと兄さんたちから少々‥‥」
「すげぇな、ユーチューブ!。てかめっちゃ英才教育されてんじゃん!!」
話に聞いた通り現代に対してかなり理解がある人だなぁ、この監督。前世の仕事で、時代に適応できず部下にパワハラ、モラハラ、セクハラを繰り返していた上司から依頼人を守ったことがあるけど、逆にこんな理解力ある人中々いない。
「まさか、
「それにアイにそっくりだな。若干の差異はあれど、ほぼ瓜二つだ」
「
「えっと…まだ、わからないですね。」
「アイにそっくりな早熟っ子‥‥画面としても申し分ない。何かに使いたい。」
「今のうちにこれやるよ。」
そういうと監督はポケットから名刺を取り出し私に渡した。
「いつかどっかの事務所に入ったら連絡しろよ」
そう言って監督は撮影現場へと戻っていった。
その後私は、兄さんと別れ、ルビー姉さんを連れてアイさんの撮影を見学した。
今回2人が出演するのは、最近完結した人気ヒーロー番組の劇場版。その映画のゲスト枠としての出演だ。アイさんは、敵に狙われるヒロイン役、アクア兄さんはその付き人という設定だ。
撮影が始まると、それはもう2人の演技が冴えわたっていた。可愛さと綺麗さ、そして儚さの3原則が揃ったアイさん。アクア兄さんも負けず劣らず、しっかり者の従者として監督が求めている姿を見事に表現していた。
(‥‥流石は兄さん。子役としてその才覚を見出されただけのことはある。)
アクアが五反田監督の下で端役ながらも役者をやっていたことは前世の頃から有名な話だ。でも実際に見て、彼の役者としての実力をまじまじと見せつけられた。主役でなくともここまで存在を引き出せるのかと、息を吞むしかなかった。
いや、むしろこのレベルが芸能界で生き残るためには必要な条件なのだろう。
アイさんに見惚れているルビー姉さんは申し訳ないが、今後の為徹底的に学ばせてもらう。その陰から主役を食いかねない程の気味の悪さ。そして素の状態から発揮されるインパクト。演技の教材としてこれ以上の物はない。
私はこの日の撮影中、黙々と2人の演技を脳内に焼き付けていた。
その日の晩。
私は、おねだりしてアイさんと兄さんが出演したドラマや映画を片っ端から見せてもらった。最初期の作品に関しては編集でカットされているためか出番が少ないため分析には難儀したが、2人の解説の下どういった状況での演技か理解でき、充分な収穫を得た。
私は、アイさんのように嘘を付くことは苦手だ。
だって生まれきっての馬鹿正直だから、嘘を付こうにも上手くいかない。
でも、芸能界に入るには嘘を付くことも必要になるかもしれない。芸能界は魔境だ。いくら正直者でも周りに鴨にされて食い尽くされたら終わりだ。
だからこそ私は、学ばなければならない。今までの自分に仮面をすることになっても一切妥協してはいけないのだ。
親子4人で作品を観賞中、突然アイさんの携帯が鳴る。画面に映った番号を見た兄さんは、携帯を持って別室に行ってしまった。兄さんが反応したということはおそらく例の監督さんからだと思われる
それから数分後、寝室にいた兄さんが電話を持って戻ってきていた。
何やら、気難しそうな顔をしていたが一体どうしたのだろうか?
「アクア、どうしたの?」
「いや、監督から出演依頼だって‥‥」
「出演?誰の?」
「メルを出してみたいんだって」
「「「ええええええーーっ!?」」」
撮影見学2日目。
「監督。本日はメルがお世話になります」
「いやいや、こっちこそ急に決まって悪かった。何せ上からの指示でな」
「一応、メルも苺プロ所属になっていますので問題ないかと」
「そりゃ助かる。事務所入ってない子役使うと怒られるからよぉ‥‥」
・・・・どうしてこうなった?
切っ掛けは昨夜の晩、監督からの電話だった。
なんでも、番組プロデューサーが撮影現場を訪れていたらしく、私を見て何か感じ取ったようで急遽撮ってほしいとのことだった。代わりにアイさんとアクア兄さんの出番を増やすという条件だった。監督曰はく、このようなことを『バーター』と呼ぶらしい。合ってるかわからないが。
流石に急遽決まったことだからか、私の話す台詞はない。ただ、1カット画面に映るだけだ。まぁ、撮影経験のない素人の演技だ。たぶんすぐに没になるだろから、あまり力が入れ過ぎないようにしよう。
今回、挿入されるカットは、アイさん演じるヒロインに化けた悪役が、ヒーローを派手に吹っ飛ばす場面。そう、ヒロインに化けた悪役を演じるのは私の役目らしい。アイさんにカラコンを付けさせて撮影すればいいのではと思ったのだが、それではアイさんの魅力を損なってしまうらしく、だから代わりとしてアイさんにそっくりな私を立てたらしい。
撮影自体は遠近法を使用し、小さい身長を上手くカバーできるようになっている。
いざ、撮影開始。
台本には、カメラに向かって全力アピールと書いてあった。
自分らしく、素直に。悪役として、監督が求めている姿を想像する。悪役‥‥主役の敵役で観客からヘイトを一身に引き受ける役割。それってつまり、主役をヘイトから守る、ボディーガードなのではないか。
火薬爆破まであと数秒。
(やればできる。為せば成る。)
3、、、2,、、1!!
スーツアクターさんたちが倒れ込むのと同時に、背後で火薬が爆発する。
それと同時に、私はカメラに向かってポーズをとった。
「カットッ!オッケーだ!」
監督の声で、ほっと胸を撫でおろす。初めての撮影だったからか少し気疲れしたため、癒しを求めアイさんの下に行く。
「お疲れ様、メル。はじめての撮影どうだった?」
「ちょっと緊張したかも‥‥」
自分なりには演技できていたと思っている。まぁ、素人の演技にしてみれば可愛いものだろう。さぁて、映像はどうなっていることやら。
「ちょっと兄さんの所行ってくるね」
撮れた映像が気になり、画面を見ている監督とアクア兄さんの下に近づく。
「おっ!来たか、早熟2号。すげえカットが撮れた」
何やら監督が嬉々としていたが、一体どんな映像が撮れたのだろうか?
動画が再生される。ヒーローと悪役が戦うシーン。そして例の爆発シーンが近づいた。
そこで、私は――――
―――バッチリ悪役としての存在感を曝け出していた。
手の甲を外側を突き出し、右手の親指、人差し指、中指の3本でピースサインを決めていた。さらに舌を少し出して、より悪役らしさを強調していると言えるだろう。
「いいもんが撮れた。プロデューサーに推薦した俺の目も強ち間違いじゃなかったわけだ」
‥‥監督さんの手引きだったのか
撮影後、監督は私にこう言った。。
「早熟2号。台詞なんぞ無くとも、印象に残る演技はできるんだ」
「お前の兄もそうだったが、すごい演技よりぴったりの演技ができる役者を目指せ。ま、役者を目指すんだったらの話だがな」
(ぴったりの演技ができる役者か‥‥。今後の進路に検討してみよう)
こうして、私の映画撮影体験は幕を閉じた。
完成した映画が公開されると、SNSはヒロイン役のアイさんや従者役のアクア兄さんの名前が瞬く間にトレンド入りを果たした。メインキャストを食わない程度だが、劇場版のヒロインとしてアイさんは他を圧倒していた。負けず劣らず、アクア兄さんもぴったりの演技をこなし観客の印象に残っていた
一方私は、アイさんにそっくりな子役として少し話題になった。監督の思惑通り、アイさんに似ていながら、そうではない空気を漂わせていたのが、観客の目を引いた。アイさんのビジュアルや人気に乗っかる形になってしまったのが申し訳なかったが、今回の撮影体験は成功だったと言えよう。
それに演技という学習を得られたのは充分な収穫と言える。子役でいられるうちに名を残し、少しでも芸能界入りしやすくしなければ。
また、夜が来た。
私の愚かさを、後悔の塊が見せつけるようにアイさんを殺しに来る。もう一度この世に生まれてから、今もなお私を苦しめる。
もういい‥‥もういいだろっ!!もういい加減にしてくれよッ!!
「うわぁぁぁーーーっ!!」
怒りのままに、奴の顔面を殴り飛ばす。殴られたあいつは、アイさんから離れ、勢いよく倒れた。すかさず倒れた奴跨り、何度も何度もぶん殴る。しばらく殴り続けていると、奴の姿はいつの間にか消えてしまった。
何処に行った‥‥ッ!?どこに行きやがったッ!?出てこいッ!!出てこいッ!!
「はっ!?」
気づけば、また朝になっていた。年月が経つ度にこの悪夢は酷くなっていく。
ふと隣を見れば、ベットですやすや眠る家族たちがいた。
己の使命を忘れたつもりはない‥‥いや忘れてなるものか。この温かな居場所を守っていかねばならない。
それを壊そうとするなら、私はどんな手を取ってでも防いで見せる。
私の存在意義は、もうそれしかないのだから‥‥
星野翠玉(芸名:メル)
見学に来たつもりがまさかの出演。アイのそっくりさんとしてちょっとだけ話題に。
双子のしばらく後に生まれてきたためか、母の遺伝子強め。観た目は、目の色と黒髪に若干の金が入っているくらいの色違い。まさにコンパチオリ主である。
一応、使命に従順で覚悟をキメている
※劇中でメルが行った演技はMハシさんの寸劇を基にイメージしています。
五反田監督
芸能界を知るためには彼と関わる必要があっため、登場。
専門用語とかにわか知識しかないため、強引な展開だと思ったらごめんなさい。