⚠注意事項です⚠
今回は「推しの子」の重大なネタバレを含みます。アニメから入った方や漫画を読んでいない方はくれぐれもご注意ください。
大丈夫な方は、このままお読み下さい。
あれからさらに数か月が経った。
ストーカーによる殺人未遂事件以降、アイの身に危害が及ぶこともなく俺たちは平穏な日々を送っていた。
幾つか付け加えるとするなら、今まで隣室で暮らしていたカオリさんが俺たちと一緒に住むことなったことだろう。あの日以降いざという時ではアイを危険から守れないということで、社長から同棲を言い渡されたらしい。特にアイからの強い要望だったらしく、カオリさんもこれには断れなかったようだった。
そりゃあ、毎晩あれだけアイにもみくちゃにされては彼女に逆らうこともできないだろう。
―昨晩ー
「さ~てカオリさん、今日もたくさん遊びましょうね~~」
「・・・・今日という今日は負けませんからーーーって、なんで毎回私が押し倒されるんですかっ!?
「星野アイは完璧で究極のアイドルなんだよ?これくらい朝飯前!!」
「あーもう、力強すぎですぅ!一番星の生まれ変わりなんじゃなくて。本当は、ゴリラの生まれ変わりなんじゃないんですか?」
「ひっどーい!!そこまで言うことないじゃん!!そんな悪い子にはお仕置きだよ☆お尻ぺんぺんの刑♪」
「この年になって尻たたきは恥ずかしすぎますって!」
「だーめ。カオリさんは私に悪口言ったんだから受けなきゃ。謝ったら許してあげるよ
「ごめんなさぁ~い!私が悪かったですぅ~っ」
「よくできました。じゃあご褒美にお尻ぺんぺん100回で」
「約束が違うじゃないですか!嘘つき!」
「いいもん。私にとって嘘は愛だから」
スパァーンッ!
「‥‥んっ///」
「カオリさんは身体も正直だねぇ」
・・・・・中身がおっさんの俺でも刺激の強かった。カオリさん、変な性癖に目覚めなければいいが…。
後々ルビーにカオリさんとアイがくっつくのは有りか聞いてみたが
「え、有りでしょ?むしろカオリさんが私たちのパパだよ。男なんて最初から存在してなかったんだ」
案の定、妙な結論に至っていた。妹の守備範囲は俺が思っていた以上に広かったらしい。
前世で俺を殺した奴でもある犯人は、事件後自殺したようでもう二度とあんなことは起こらないだろう。
もし、あの時アイが刺されたらと考えると今でもゾッとする。カオリさんは身長が高かったからこそ刺される場所がズレ一命を取り留めた。だがアイが刺されていた場合大動脈から出血し助からなかった可能性が高い。本当に彼女がアイの警護についてくれてよかった。
ここ最近は特に危険な目に遭った・・・・なんてこともなくカオリさんを家族に迎え平和な日常が続いている。
念願のドーム公演を達成した苺プロは、弱小芸能事務所から一皮むけ業界でも名の通った会社として世間に認知される存在に成った。B小町の人気も公演を皮切りに爆発、一気にトップアイドルの仲間入りの果たした。特にアイはB小町の中でも圧倒的に飛びぬけており、会社の中でも一番の出世頭だ。
ある日俺たちはアイに連れられショッピングに出かけた。
変装しているとはいえ、アイは現役のトップアイドルだ。子供を連れて外出すれば当然ファンの目にも止まり騒ぎになるだろう。
社長も当初は断っていたが念願でもあったドーム公演を達成したこと、苺プロのシンデレラストーリーを担ってくれたご褒美くらいあっても罰は当たらないということで許可してくれた。実を言うとあの事件で俺たち双子の存在は露見したが、ミヤコさんと社長が上手いことやって自分たちの子供ということにしてくれた。さらに、刺されたのがボディーガードということもあってそこまで大きな騒ぎにもならず次第に話題はぱったりと止んでしまった。
そのかいあって、俺たちは周囲の人たちに気づかれることもなく買い物を楽しむことができた。
服屋で買い物をしている時、アイはいくつかペンダントを持って俺たちに質問した。
「ねぇアクア、ルビー。折角だからカオリさんにプレゼントあげたいんだけど、どれがいいかなぁ?」
アイが手にしているのは宝石の形をしたペンダント。色は、紫、赤、青、緑の四色ある。
「私は、赤か紫がいい!」
「おぉぉ、ルビーは赤か紫がいいんだ?」
「だって私とママの色だもん。カオリさんだって喜ぶと思うよ」
確かに自分たちに近しい色を選ぶのはベターだが無難な選択。けど、これは云わばサプライズ。折角なら縁起のいいものを送った方が喜ばれる。
そう考えるなら、やはり・・・・・
「俺は、緑がいいと思う」
「アクアは緑がいいの?」
「うん。カオリさんに合うと思うんだ。それにエメラルドっぽいでしょ。エメラルドの宝石言葉は『愛』『希望』なんだよ」
『愛』というワードを聞いた途端アイの瞳に灯る星が輝きを増す。
「うちの子・・・・天才!!」
俺の言葉が決め手になったのかアイは、緑色のペンダントを買い物かごに入れる。
さらに何着か衣装を持って、カオリさんの手を繋ぐ。
「ルビー、アクア。ちょっと待っててね」
「はーい、ママ!」
「うん・・・・」
「えッ!?ちょっーー!」
じたばたと抵抗するカオリさんだったがアイには勝てなかったようで、そのままずるずると試着室へ引き摺られていった。
その後、アイ主催のカオリさんプチファッションショーが開かれた。
「カオリさんきゃわ~~~♥♥」
「パパ、可愛い~~!!」
外からアイとルビーが歓声を挙げる中、当の本人はというと・・・・・
「私、もうすぐアラサーのおばさんですよ・・・。それに可愛いだなんて・・・///」
顔を赤らめながら恥ずかしがってた。
「何言ってるの!カオリさんは可愛いの!素質あるんだよ!ねぇ、ルビー?」
「うん!ママの言う通り。全人類、パパに億払うべき!!」
「えっと・・・あの・・・・その・・・・・」
2人から繰り出される誉め言葉の数々。普段ポーカーフェイスを崩さないカオリさんの表情がさらに真っ赤になっていく。
褒めちぎられたカオリさんはしどろもどろな口調になっていた。
それから3時間後。俺たちは無事買い物を済ませ、後は家に帰るだけとなった。
アイの両手には俺とルビーが手を繋ぐ。カオリさんは、いつものスーツ姿ではなく先ほどの買い物でアイが選んだ服を着用し荷物を持っていた。もちろんペンダントも首に掛けて。
アイの息子として生まれ変わってから、毎日が彼女に振り回される日々。それでも俺は推しとの出会いに感謝している。
推しに恋焦がれ、同じアイ推しの妹と一緒に過ごす生活を送れる。一人の
こんな生活がいつまでも続くよう、俺は天に祈る
家まであともう少し。この横断歩道を渡れば温かい我が家に到着する。
「ねぇ、パパ。今日の晩御飯はなに?」
「そうですね・・・・折角ですしハンバーグなんていかがでしょう」
「やった~~!!私のハンバーグ私大好き!」
「そういってもらえて光栄です」
横断歩道の信号が赤から青へと変わる。
周囲からすれば仲の良い4人姉弟に見えるだろう。
そんな俺たちを引き裂く存在が迫っていたなんて、誰もわからなかった。
横断歩道を半分ほど渡り終えた
ーーーその時だ。
”キキィィィーーーッ!!”
耳をつんざくようなブレーキ音とともに車が間近まで迫ってきた。
(ダメだ・・・・ッ、この距離じゃ間に合わない・・・!)
アイは少しでも俺たちへのダメージを減らそうと車に背を向け抱きしめる。
「アイッ!!」
「ママッ!!」
―――轢かれる。あの時そう思った。
だが――――
「危ないッ!!」
”ドンッ”
車に轢かれる寸前、アイの背中に強い衝撃が加わった。何かに押し出されたようだった。
前のめりに横断歩道の向こう側へと押し出されるアイ。同時に、俺とルビーもアイと一緒になって前方に押し出された。
押し出され、立ち上がろうとした刹那。
カオリさんが飛び出して来た車に跳ねられる様を俺は見てしまった。
空中でカオリさんの身体は一回転し、受け身をとることもできないまま地面へ叩きつけられた。
カオリさんの身体からは赤い血がどくどくと流れている。
「ぱ、パパ・・・・?」
「ルビー、見るな。見ちゃいけない」
咄嗟にルビーの目を手で隠す。いくら転生者といえど、妹に死体を見せるわけにはいかない。
「嘘…だよね…?カオリ‥‥さん・・・」
「嫌だよ・・・・死ぬなんて‥‥」
アイはカオリさんの身体を揺すっている。でもカオリさんから返事はこない。
「ルビー、俺がいいって言うまで目を閉じてろ。いいな?」
「うん・・・」
ルビーから手を離し、野次馬の目を搔い潜りながらカオリさんの脈を図る。
まだ、脈がある。でも血が止まらない・・・・。
再び医者としての知識を捻り出すが、幼児の自分が救急車の到着まで延命させるなんて不可能であった。
瞳孔が開ききった彼女の身体からどんどん体温が失われていく。
冷たくなっていく様を前に、結局俺は何もできなかった。
救急車が到着した頃にはもう、カオリさんは息を引き取っていた。
カラスの声が町中に木霊する。
ふと空を見上げるとカラスたちは一斉に飛び去って行った。まるで彼女の死を知らせるかのように。
――――――
ここで臨時ニュースをお伝えします。
先ほど都内の交差点にて20代後半の女性が信号無視の車に跳ねられるという事故が起きました。
被害者はアイドル事務所苺プロダクションに所属する礒野江カオリさん28歳。搬送先の病院で死亡が確認されました。
尚、乗用車を運転していた容疑者の男はそのまま現場から400mほど逃走。その後警察によって過失致死、轢き逃げ等の罪で現行犯逮捕されました。男は、「有名人を殺して注目を浴びたかった」と容疑を認めているようです。
警察によりますとアイさんは以前の殺人未遂事件を起こした容疑者同様、協力者の可能性も視野に入れ捜査を続けるとのことです。
アイドルの護衛が暴走した車に跳ねられ、犯人が逮捕されるというセンセーショナルなニュースは、瞬く間に広まった。
世間の声としては事故に巻き込まれたアイに同情する声が多かった。
だが、案の定というべきか。死者をおもちゃにして注目を浴びたい連中はそこらにいて、多くの勝手な考察や怪文書、中にはカオリさんやアイを必要以上に責めたてる内容の記事もあった。
今回の世間の声で最も醜いものと言えば、死んでしまったカオリさんに対する反応集だ。
「‥‥しゃーなしって何よ?‥‥ねぇ!!カオリさんは私たちを庇って轢かれたのに仕方ないの!?ねぇッ!!」
「そんなわけないでしょっ!!」
「あんだけ、ママを助けたって報道されたときは人間の鑑とか言って褒め称えてたのに!!死んだら手のひら返すの!?おかしいじゃん!!だったらあの時、同じ行動取れたのかよ!!何もしないくせに、偉そうなこと言うなよ!死ねよ!!」
当然、カオリさんに懐いていたルビーも憤りを隠せずにいる。携帯でネットの反応を見ては、行き場のない怒りを滾らせていた。
「‥‥なんでネットってこうなの?カオリさんは死んじゃったのに、、、なんでママまで死にたくなるようなことばっかり‥‥」
「有名だったら何言われてもいいの?死んだからあることないこと広めても良いの?死人に口なしじゃねぇんだよぉ!人の死を叩くための免罪符に使うなよぉ・・・・」
二日も経てば、アイのボディーガードの死亡というコンテンツは消費され尽くした。ボディーガードと言えど、世間から見ればカオリさんは唯の引き立て役にしか過ぎない。むしろ2日も話題になったのが奇跡と言ってもよいくらいだ。
あれからカオリさんの葬式が決まった。
カオリさんの両親は既に亡く、育ててくれた祖父母も5年前に病で息を引き取ったという。
そのため身内で行う小さな葬式となった。
アイを引き取る以前から個人的な付き合いのあった社長とミヤコさんは泣いていた。
いずれカオリさんが結婚式を挙げたら必ず行くと約束していたらしく、彼女の死は相当堪えたようだった。
一方アイは、葬式の最中でもカオリにあげたペンダントを大切に握りしめていた。表情は変わらずとも、彼女の瞳にあった万人を魅了する星が消えている。嘘を付くのが得意なアイは、きっと自分にも噓を付いて平静を保っているのだろう。そうしなければ‥‥心が耐えられないから。
最期のお見送りを待っている間、俺の脳内に一つ疑念がよぎる。
アイを殺しに来たストーカーと俺を殺した奴は同一人物だ。改めて思うが、何故アイが入院している病院を突き止められた?どうやって新居を突き止められた?なんのスキルもないただの大学生に探偵を雇えるほどの資金があるとも思えない。
やっぱり情報を提供した人物がいる。しかもアイの近くで
病院を知ってる社長が自社の看板を傷つけるような真似はしないし、B小町の同僚だって決して仲が良いわけではない。
カオリさんの事務所?いや、カオリの所属していた前の事務所は個人情報の漏洩は絶対にありえないことで有名な会社だ。それにカオリさんが他人に情報を売るような人ではない。
だとしたらいったい誰が…?
―――僕らの父親‥‥?
アイは頑なに父親のことは教えなかった。教えない理由を考えるなら、アイと同じ芸能人だった可能性が高い。芸能人同士、しかも当時のアイは未成年だった。未成年を妊娠させたとあれば芸能活動にとって致命傷だ。
俺たちの毛髪から遺伝子検査にかければ父親を割り出せるはず。
‥‥アイをあんな目に遭わせた奴が芸能界にいる。
カオリさんを手にかけて、二度もアイの命を脅かしたアイツを見つけるまでは死んでも死にきれない。
必ず見つけだして、俺の手で裁く!
―――――12年後
時が経つのは早いものであっという間に高校生になった。
「おい、まだかかるのかルビー?」
「姉さん、早くしないと学校遅れますよ?」
「もう~~、ちょっと待ってってばお兄ちゃん、メル」
制服を着たルビーが玄関へやってくる。
「初日から遅刻は勘弁してくれよ。てかスカート短すぎないか?」
「お兄ちゃんてば昔からおっさん臭いよねぇ」
「確かにw」
「はぁ‥‥いいから行くぞ」
ため息を吐きながらも俺は、玄関のドアを開ける。
すると‥‥俺たちを見送りにアイが来た
「アクア。ルビー。メル。いってらっしゃい!」
「「「行ってきます」」」
「あぁ、そうだ。
かくしてプロローグは幕を閉じた。
そしてこれから俺は、俺の
―――――――――
時を遡ること12年前。
人気のない事故現場にて、男は白い花束を供え軽く黙祷する。
「君にはしてやられたよ。まさか、二回も阻止されるなんて」
「でも
「あぁ・・・・また、僕の命に重みを感じる」
男は黙祷を終えると、満面の笑みで供えた花束を踏み潰し夜の街へと消えていく。
「君の勇気と価値ある命に免じて、暫くはあの子たちに手は出さないと約束しよう」
「まだ暫くは、ね」
登場人物
・星野アクア
引き続き語り部を担当。一度上げて落とされる。リョースケによるアイ殺害イベントが阻止されたことで、決意を固めるのが遅れた。しかしアイの代わりにカオリが死んだことで物語が進行し、五反田監督へ師事する道も元に戻った。原作よりも復讐心は少し薄いが、父親を自分の手で裁く気持ちは変わらない。
・星野ルビー
カオリに懐いていた為死亡した際は大きなショックを受けていた。本作においては百合についても理解があるようで、アイとカオリのイチャイチャが目の保養だったらしい。
・星野アイ
今回の最大の被害者。カオリに対するスキンシップの数々は、愛し方がわからないアイなりの返し方だった。折角、順風満帆な生活を送っていたのに目の前で死なれるという不幸に遭う。バタフライエフェクトのようなものなのでどうしようもない。
・礒野江カオリ
ついに死亡。家族以外から愛された経験が少ないためアイからのお返しに戸惑っていた。でも愛されたようにアイを愛してあげられたことは心残りがない模様。死亡時危うくカラスたちの餌にされかけた。
・カミキヒカル
黒幕。この世界線では自分の計画を妨害したカオリに価値を見出し事故に巻き込ませた。殺害に成功しカタルシスを感じたため標的を星野家から変更する。たぶん原作でも公にされていないだけでかなりの人が犠牲になっていると考えられる。
献花した花は『スノードロップ』
花言葉:「希望」「慰め」「切ない恋愛」
裏花言葉:「あなたの死を望む」