メインはあくまで星野家なのでよろしくお願いします
「ん?」
大門道夫は高給タワーマンション住みの医者だった。
ここは様々な、芸能人から資産家などのいわゆるVip御用達のマンションでセキュリティ良し、立地良しで金さえあれば最高の家だった。
ある程度整形外科医として経験を積んでからは、株や債権を買い漁り、資産形成に成功した。もうここには、10年ほど住んでいる。
今日もいつも通り、何回か手術をし、仕事に疲れて家に帰宅している最中だった。エレベーターを上がり、部屋のカードキーを探していたところ、大門は妙なものを見た。
廊下の奥の方から、焦っている様子のフードの男が走ってきたのだが、
その服が血で汚れていたのだ。
フードの男はそのまま自分には目もくれず、走って行ってしまった。そのとき、何か嫌な想像が脳内を駆け巡った。
まさか、いや、でも、あり得なくなはない。
大門がフードの男が走ってきた方まで急いで走ると、1つだけ空いているドアがある。
あそこだと思いつつ、部屋の前に立ち、中を見ると、腹から大量の血を流し、絶命寸前の女と絶望した顔の少年がいた。
「っっっっ!!大丈夫ですか!!!!!!!」
医者はすぐに近づき、反応を確かめたが、応答がない。腹部の傷と出血量を見る限り、大動脈や内臓が大きく損傷している可能性が非常に高い。
男はすぐに傷口を押さえつけると、腹部を服などで縛る。呼吸や脈はない。
が、今すぐ処置をすれば、生存確率は0ではない。
そのような傷だと瞬時に判断すると、男は直ぐに救急を呼び、尚且つ車内で処置が出来るように手配をした。
しばらくすると救急車が到着し、医者は処置に取り掛かった。
助かる確率は、正直0.1%にも満たないだろう。だが、
そこで大門は、先程近くにいた少年を思い出す。自分が必死に処置をしている間も、ただ絶望し呆然としていたあの子のことを思い出す。
そしてもう一人、涙を流しながら母を助けくれて縋ってきた少女のことも思い出す。
あれは、子供がしていい顔ではなかった。させていい顔では無かった。
仕事がら、人の生死に立ち会うのは日常茶飯事で、慣れてくると感情は仕事場には持ち込まないようにしていたが、だが、あそこまでの暗闇を、黒いものを、絶望を、子供に背負わせては絶対にいけない。
その為なら、今日この人を助けられるなら、あの子達を助けられるなら、死んでもいいい。
自分はこの日のために、医者になったのだ。
「それでは、緊急手術を開始します。メス」
▽▽▽▽▽
星が消えた。
ずっと俺たちを照らしてくれた星が。
永遠で、最強で、未来永劫、俺達を導いてくれると信じていた星が、消えた。
『愛してる』
初めて聞いたその言葉は、どうしようもなく暗くて、絶望と共に壊れゆく世界に響いた。
赤く崩れていく世界。星が消えた目。それを見たとき、自分の中の全てが終わる音がした。
その後の記憶は無い。
男の人が入ってきてアイに何かしていたところまでは覚えているが、気付いたら自分は病室の前に立っていた。
「ね、ねぇ、お兄ちゃん!!ママは、ママは大丈夫なんだよね!!!」
ルビーに袖を強く掴まれる。顔から大量の雫がこぼれ落ち、服を濡らして行く。
「‥‥‥‥‥。」
「ねぇ!ね゛ぇ!!!!!!!ね゛ぇ‥‥‥大丈夫って、言ってよ‥」
冷たい床に崩れ落ちる。
「だ、大丈夫に決まってるだろ!!!!」
星は消えた。それを確かに見た。でも、諦めきれる訳無い。
アクアは、自分に言い聞かせるように、言葉を吐き出す。
「だって、アイは、最強で、無敵で、世界一のアイドルだぞ!!!こ、こんなところで、死ぬわけない!死んでいい人じゃない!!!」
「そ、そうだよ、ね‥。ママ、生きてるよね!!!」
「あ、ああ!俺達みたいなやつでも転生っていう奇跡を神様から貰えたんだ!!!あれだけたくさんの人間に愛されて、救ってきたアイが報われないまま、こんな、こんな死に方するわけ無いだろ!!!!」
「そうだ、よね。そうだ!!神様は私に、こんな夢見たいな最高の二度目の人生を与えてくれたんだし、きっと、きっとママも助けてくれる!!」
「ああ!絶対、そうだ。だって、そうじゃなきゃ。俺は、また‥救えないまま‥。」
強く握りしめる右手からは血が流れ落ちる。
分かってる。あれは、奇跡でも起きない限り治らないレベルの怪我だった。だってあの時、星は消えたのだから。
でも、自分は一度、生まれ変わりという奇跡を体験している。
だから願ってしまう。どうか、どうかもう一度、僕達の星を、世界を、母を、返してくれませんかと。
▽▽▽
あの後、母は、アイは、寝たきりの植物状態になった。あの時駆け付けてくれた男の人が医者だったそうでその素早い処置おかげで一命を取り留めたそうだ。元医者だから分かるが、あれは助かる怪我では無かった。それ故に自分は何も出来なかったが、だがしかしこの医者には何度も何度も感謝を捧げた。
とりあえず命は紡がれたと聞いたときはルビーと共に涙したが、一生寝たきりかもしれないと聞かされた時は、どうしようもなく無力感を感じた。それと同時に、果てしない憎悪と怒りも感じた。
あのあと、実行犯は自殺したそうだ。
だが、まだ復讐対象は、いる。
俺たちの父親で、アイの住所を実行犯に教えたクソ野郎。そいつの目的がなんなのかは分からないが、もしかしたらアイにトドメを刺しにくるかもしれない。
だから、警備は十分にするようにお願いしてもらったし、自分とルビーも出来るだけ多くの時間を病室で過ごすようにした。なんならルビーは特別に許可を貰ってそこで寝泊まりすることさえあるほどだ。
俺には2つ、やらなきゃいけないことがあった。
一つは医者としての勉強だ。アイの今の状態は、いつ目覚めてもおかしくないが、いつ状態が悪化してもおかしくないという極めて不安定な状態らしい。今のところ何も打てる手立ては無いそうなのだが、だがそれは将来的に変わる可能性は十分ある。だからもう一度、医者の勉強を初め、医師免許の取得に向けて猛勉強中だ。いくら医者とはいえ、受験のための勉強なんて何年ぶりか分からない。そのためしっかりと対策をしなければならない。
もう一つは、父親を見つけることだ。
だがこっちは時間がかかる。おそらく高い確率で芸能界にいるかもしれないが、全然関係ない場所にいる可能性もある。だが、必ず見つけ出す。
そうして、そいつが一番苦しむ方法で殺す。
ルビーはあれから、毎日アイのところへ通ってる。
俺も2日に一回は必ず行くようにしているが、編集の勉強と、人探し、受験の勉強、その他諸々を全部並行して行っていると、どうしても忙しくなる。
アクアは、寝ているアイの前に立ちベッドの縁を掴む
「なぁ。アイ。俺は必ず、貴方を守るよ。絶対に復讐も成し遂げる。だからさ、許してくれ‥貴方を、君を‥2回も助けることが出来なかったが不甲斐ない俺を‥。どうしてもなく無力で、愚かで、醜い俺を‥。
‥‥‥‥俺は、もう一度貰ったこの人生を、アイとルビーの為に使うよ。二人がもう一度、二人が笑いあえるように。安心して、抱き合えるように。必ず。その為なら、何でもするよ。
‥‥‥だからさ、また会いたいな‥‥‥。」
▽▽▽
星が消えた日から、私は毎日ここに通っている。あれから、アクアは変わってしまった。表情という表情が完全になくなってしまい、何かを監督さんとやったり勉強ばかりするようになってしまった。
私は、なるべく起きている時間のすべてをママとの会話に使っている。
「ねぇママ。5歳になったよ。もう年長さんなんだよ。あ、そうだ。今日幼稚園で、流しそうめんしたんだー。でもね、酷いんだよ。身長順に高い方からそうめん取れるようになってるんだけどね。背の高い子が全部取ってっちゃうんだよ!!!
もう!!そもそもそうめんを流す必要ないよねー。全部普通に人数分に分けてだしてくれればいいのにーー。不公平だよ!!」
ママの寝顔は本当に綺麗で、本当に寝ているだけなんじゃないかといつも錯覚してしまう。肌も全く荒れる様子がなく、ずっとモチモチスベスベだ。流石はママだ。これじゃあ、もしも眠り姫を起こしに王子様がやってきたとしても、そいつはママの顔が良過ぎて死んでしまうに違いない。そんなやつが現れたら私が殺すけど。
「ママ、また明日来るね。愛してるよ。」
▽▽▽
「ピッカピカの一年生になったよ!!ママ!!ランドセルだよ!!!見て!!!まっかっか!!ふふーん。友達も100人作るよ!!!学校って凄い楽しみなんだー。あ、桜が綺麗だったからみやこさんに撮ってもらったんだよー。いやー。みやこさん本当に優しくて好きなんだよねー。えへへ。今日も肩車とかしてもらったんだー。あ、でもママの次にだからね。もちろん。私の一番は、この先もずっとママだけなんだから。ママが一番で、先生も一番。そのあとがみやこさんで、その後がお兄ちゃんかなー。あ、そうだ!!宿題やらなくちゃいけないだった!!じゃあね、ママ。愛してるよ。」
▽▽▽
「私もう二年生だよママ!!!!学校って本当に楽しいんだよー。いっぱいお友達も出来たんだーー。〇〇ちゃんでしょ。▲▲ちゃんにね、☓☓ちゃん!!みんなとってもいい子なんだ!!あ、この前体育のときにダンスしたんだどね!!褒められちゃった!!ルビーちゃんってダンス上手いねって!いやぁー当然だよね~。だってママの娘なんだもん。いやぁ~出ちゃったかなぁ〜。アイドルの才能ってやつがさ。あ、でもね。こんなに顔がよくて性格もプロポーションも良い上にダンスも上手いことに嫉妬したのかわかんないけどねー意地悪してくる男子とかもいたんだよねー。本当に信じらんない。だから女子皆の力を使って泣かしてやったんだー。プークスクス。惨めだっなー。お漏らししちゃってたし。あ、みやこさん迎えにきたからそろそろ行くね。ママ、愛してるよ。」
▽▽▽
「三年生でーーす!!!どう!少しは貫禄出てきたかな。プロ小学生としての貫禄が。いやぁーママの遺伝子が最強のお陰で顔面がツヨツヨだからかなぁー。今度の劇でお姫様やることになっちゃってさぁー。演技の練習してるんだー。お兄ちゃんにも色々教えて貰ってるんだけど、やっぱお兄ちゃん上手なんだよねー。
あ、そういえば、ジャーーーン!!!
リコ〜ダ〜〜〜〜!!!!
最近練習してるんだけどね!!結構上手くなってきてると思うんだ〜。見ててね!!!!
フ、ㇷーューー。あ、あれ、もう一回!!
ヒ、ヒュローー。あれ、うーーーーーん。
もうちょっと伸びしろありかも!!テヘ。
‥‥今度ね。授業参観があるんだ‥。みやこさんが来てくれたんだ、いつかママにも‥いや、何でもない!!!
またね、ママ、愛してるよ。」
▽▽▽
「あれ、お兄ちゃん。今日は早いね。」
「ああ、たまたまな。用事が早く終わったんだ。」
「へー。あ、今日はみやこさんがカレー作ってくれてるって。楽しみだね。」
「そうだな。」
「‥‥ママ。起きないね」
「‥‥。ああ。」
「‥お兄ちゃんはさ、最近何してるの?全然家に帰ってこない日とかもあるじゃん。」
「勉強だ。」
「‥‥そ。役者さんの?」
「‥‥それもある。」
「ふーん。そっか。ママ、言ってもんね。アクアは将来俳優かなって。」
「‥そんなんじゃない。てか、俺に演技の才能なんてないしな。」
「は?そんなわけ無いじゃん。私が見る限りお兄ちゃんの演技凄いし。それに、ママのDNA最強なんだから。出来ないことなんてあるわけない。」
「その理論でいうと、お前の歌が下手なのが矛盾するけどな。」
「はぁ?!あ、お兄ちゃん言っちゃったね!!妹に言っちゃいけないこと言っちゃいましたね!!!もうこうなったら全面戦争だよ!!!お兄ちゃんのぶんのプリン食べちゃうからね!!!」
「はっ。俺は高級プリン自腹で買えるからな。いくらでも食え。」
「ムキーーー!!怪しいお金だ!!お兄ちゃん、危ないことしてお金稼いでるんでしょ!!その顔面で!!!!」
「ちげぇ。マトモな仕事だ。監督さんの手伝いだよ。」
「わ~た~し〜も〜お〜か〜ね~ほ~し〜い~!!!」
「うるせぇ。一週間500円貰ってるだろ。子供はそれで十分だ。」
「足〜り〜な〜い〜よ〜!!!!」
「大体。何に使うんだよ。」
「ママにお花あげるの」
「‥それは、言ってくれれば一緒に買うぞ。」
「でもそれは、アクアが稼いだお金でしょ?私の稼いだお金で。ママに花をあげたいの。」
「‥‥。そうか。そう言えば、今朝の朝食はルビーが作ってくれたんだっけな。」
「‥?そうだよー。みやこさんに教えて貰いながらね!!卵焼きとーお味噌汁ーー!!」
「ほらよ。」
「え、なにこれ!!1000円!!!なんで!!!」
「今朝の朝食のぶんだ。俺からお前への感謝の気持ちと、労働の対価だ。」
「え‥‥てことは、これ、私が愛嬌と可愛さでお兄ちゃんのシスコン部分を朝から刺激したおかげで貰えた労働の対価ってこと‥‥‥!?」
「やっぱり返せ」
「いやだもーーん。一回もらったんだもーーん。近くの花屋さん行ってきまーーす。」
「‥おう。」
「ジャーーーン。ウツギ!!
花言葉は、ひ・み・つ!!!!」
「うざ」
「違う!このウツギの花言葉が『秘密』なの!シークレットなの!!」
「なるほど。それはごめん。にしても『秘密』か。うんまあ、アイに合ってるし。いいんじゃないか?」
「でしょでしょ?とりあえず、これ花瓶に挿そーっと。」
「花瓶倒したりするなよ」
「うるさいなぁお兄ちゃんは。私だってやれば出来るんですよ‥‥……。花、似合うね、ママ。」
「‥そりゃそうだろ。最強のアイドルだぞ?」
「‥そうだね。」
すると、ルビーは寝ているアイの前に立つ。
「もう高学年になっちゃったよ。ママ。アクアはもうなんか考え方とかおじさんになっちゃったし。」
「おい。」
「ふふ。冗談だって。でも、今のアクアをママに見せたいなー。きっとビックリするよ。あの頃は良くママに甘えてたんだけどねー。今はもうすっかり大人ぶっちゃって。」
「‥それでいったら、お前は変わらないな。」
「‥‥そうだね。未だに寂しくて泣いちゃう時あるし。」
「‥‥‥。」
「‥‥‥‥。」
「‥みやこさん迎えに来たらしいぞ。そろそろだ。」
「‥うん。じゃあね。ママ、愛してるよ。」
「‥」
「‥あ、そういえばお兄ちゃん。ウツギの花言葉、もう一つ、確か海外の主に使われてる方もあるんだよ?知ってる?えっと‥確か‥」
一節によると、夜空の星々は、いつ爆発してもおかしくないのだとか。
それを聞いた私は思った。いつ壊れても、いつ無くなってももおかしくないのなら。
いつ復活しても、新たに生まれてもおかしくないのではないだろうか。
そうして、あの事件から5年と71日後。45510時間後。
「う、ううん‥‥‥‥。ふわぁ‥‥‥。あ、れ‥わ、たし‥‥」
星野アイは、星は、『再生』した。