私は嘘つきだ。
ああだけれども、記憶が無いことは嘘じゃない。私の一番古い記憶は、暗闇の中、一人で膝を抱えて、何年も過ごしていたというものだ。そうするとたまに、女の子と男の子が、今は二人がルビーとアクアだって分かるけれども話しかけてくれたので、その話を聞いていたというものだ。
初めて光を見たとき、二人を見たとき私は、「ああ、私は、この子達の母親なんだろうな」って思った。何でかは分からない。でも、この子達が喜ぶ母親を演じなきゃって咄嗟に思った。ちょっとずつ、微調整を重ねて、周りの反応を見て、この子達が持つ母親像に合わせていった。
私はアイドルをやっていたらしい。しかも、この子達の話だと、伝説のアイドルだったとか。まぁ、確かに信じられないくらい顔は良いし、天職なのかなって思った。
だったら、蘇った伝説のアイドルとして復帰しようとも思ったのだけれでも、私がこうなってしまった理由がアイドルとして私のヤバいファンが私のストーカーになってしまったかららしくて、危ないから少なくともしばらくはダメだとアクアに言われてしまった。
でも、このままだと、私は私が分からない。私はどういう人間で、何を目的に、どうやって生きてきたのか。私は誰と子供を作って、誰と恋をして、この子達を産んだのか。それは聞こうと思ったけど、誰もそのことに触れないから、切り出さないようにしている。
何か分かるかもしれないと思って、過去の自分のアイドル姿とかをみたけど、自分だから、私には分かる。これは、嘘だ。計算し、作られた笑顔で、表情で、言葉で、どこを探しても、本物の自分がいない。
子供達との写真の中の自分でさえも、本物の自分なのか、偽物の自分なのかわからない。
こうなると、お手上げだ。私が空っぽなのは、私という存在が、ハリボテだらけの嘘まみれなのは、元からだったというなら、私はどうすればいいのか。
私は、ベッドの中で左右で寝ているアクアとルビーの頭を撫でる。
「本物の私は、どこにいるの‥」
今の私は、偽物だ。この子達が望むように演じているが、それはさっきルビーにもバレてしまった。
でもだからといって、この子達と一生にいると楽しいのは本当だし、この子達のことを愛おしいと思うこの感情は、本物だろう。
でも、それでも、不安は消えない。この子達は、いずれ私に愛想尽かすのだろうか。記憶が無い私に。偽物の私に気が付いて。
そんなことを考えてしまう。だが、こんな本心は絶対に表には出せないだろう。だってこの子達にとっての自分は、最強のアイドルで、最高に可愛い母親なんだから。
寝ている二人を起こさないように、ベランダに出る。するとそこには、お酒を飲みながら夜空を眺める、みやこさんの姿があった。
「みやこさん。何やってるの?」
「黄昏てるのよ。大人ってのはね、こうやって時々今という幸せを噛み締めないとやっていけないのよ。」
「そっか。‥ねぇ、私もお酒、飲んでもいい?」
「‥うーん。病み上がりにはやめといたほうがいいと思うけど‥年齢的にはもう全然大丈夫なのよね‥。まぁ、いいわ、少しだけね。」
「うん。‥ありがと。グビッ。うわっ!にがっっっっ」
「フフ。まだガキってことね」
「‥みやこさんは、私が寝ている間、ずっと二人の面倒を見ていてくれたんだよね。‥改めて、ありがとうございます。」
「アハハ。いいのよ。もうあの二人は、私にとっても子供みたいなものだしね。もちろん。今はあなたもね♪」
「‥。私って、どんな母親だったの?」
「あー。そうねー。良い母親だったと思うわよ?子供達も、貴方のこの大好きだったし。まぁ、貴方忙しかったし、あんまり一緒にいた時間としたら長くなかったかもしれないけど。それでも、愛情にあふれてた。それだけで十分でしょ。」
「‥そうかな。‥今の私は、その良い母親っていうの、やれてるかな‥」
「フフ。そんなこと悩んでるの?まぁそりゃそうか、比べちゃうわよね。前の自分と。でも、心配御無用!!あの子達のあの寝顔見てみなさいって‥」
アイはふと二人が寝ている顔をみると、アクアは普通に気持ち良さそに寝ているが、ルビーはニヤニヤと笑いながら、涎を垂らして寝ている。
「あの子達があんなふうに幸せそうに寝てるのなんか、久々に見たわよ。少なくとも、貴方が寝ている間は一度も見てないわね。‥これは、アナタのお陰よ。貴方の愛情が、あの子達を幸せにしたの。だから、前の貴方のこととか、あんまり考え過ぎないでいいんじゃないかって私は思うけどね。」
「‥そう‥かな‥」
「ええ。まぁ少なくともある程度は、貴方を通して過去の貴方を見てるところはあるかもしれないけど。それは仕方ないわ。むしろ、過去の貴方よりも良い母親をやって、今の自分にメロメロ釘付けにしてやるぐらいの気持ちで頑張りなさい。過去は縋るものじゃなくて、乗り越えるものよ。」
「‥ふふ。みやこさんってすごいね。経験豊富の大人の女性って感じ!!みやこさんも年齢的に結婚してたり、子供いたりするの?」
「ウグッッ。グハッッッ。ま、まぁ‥結婚はしたことはあるわね‥夫は逃げたけど‥。子供は、まぁ、強いて言うならあなた達3人が私の子供って感じかしらね‥」
「へー。そっかー。ママー♪」
「あ、こら、くっつかないで!貴方も早く寝なさい!病み上がりでしょうが!!」
今の私は、確かに記憶が無いし偽物かもしれない。でも、偽物が本物に敵わない道理はない。そこに、本物より本物になろうとする意志があるならば。私の記憶がいつか戻るのか、戻らないのか。それはわからないけれど、偽物でも本物でも、そんなのはどっちでもいい。
だって、私の、この、アクアとルビーを「愛してる」っていう気持ちは、絶対に、偽物じゃないんだから。