ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
「よっしゃ! プラグイン、ッシャアアアアアアアアアクマンッ! トランスゥゥゥミッションッ!」
「プラグイン! エックスマン・トランスミッション!」
いきなりなんだけど、科学省の官庁手前だ。ここで出張屋台の魚屋さんをしているマサさんとネットバトルすることになった僕である。そんな僕の後ろではサロマさんが「どうしてこんなことに…………」と何とも言えない微妙な表情をしていた。
ま、まあそもそも、なんで僕がこんな所にいるかっていう話ではあるんだけどね、そもそも。
ことの始まり、というか理由というかはエイリアさんだ。
先週のテレビ局での一件の後日、エックスマンについて色々と電話で聞かれたのだけれど、その時に不審に思う所があったらしい。
『スターマンは耐性と言っていましたが、しかしそれにしては本当に何一つ症状が現れないのは妙です……。少し検査させてもらえますか?』
「いいですけど、先にウチの父さんに許可をとってからでお願いします」
そんな流れでエイリアさんからウチの父さんへと連絡が行ったらしい。父さんは相変わらず怖い顔のまま渋っていたけど、それでもエックスマンの調整に問題が出る方が危険だと言ったので、僕たちははれてデンサンシティの官庁街へと行くことになった。
小学生は相変わらずメトロ料金がタダなので、ビーチストリートと行き来していた時みたいにあまり旅費は気にしていない。
そして実際に来た官庁街。1年くらいぶり? 例のパルストランスミッションを使っての手術はここを使っていたので、微妙に久々とも言い辛い。まあ、もしかしたらそれ以前に来ていたこともあるかもしれないけど、そのあたりの記憶はいまいちわからない。
事故に遭ってから、やっぱりその前後1年くらいの記憶は曖昧だから、深くは考えないことにしてる。
存在しない記憶を探し続けても、僕が鬱になるだけだ。
そしてどうせならと、せっかく来たからサロマさんのお弁当屋さんに顔を出した。出店でトラックから色々荷物を下ろしているサロマさんと、彼女と似たような恰好をした人たち。この間テレビ収録で討論会してた時のメンバーだ。サロマさんよりお姉さんだったりお兄さんだったり、あるいはおじさんだったりする人たちだけど、僕のことを見て何かひそひそ話をされてる。
どうしたんだろう……? 馬鹿にしてる感じとかじゃないから別にいいけど。
エックス、チャットで「さっそくボッチ属性発揮してるねガンくんは!」とか煽るんじゃない、ハハこやつめ(PETへチョップ)。
「あら、先日ぶりですね、ガンサイさん。何か用事?」
「こんにちはー。ちょっと科学省に。エックスマンの検査? みたいな感じで」
「そうですか。先日のこともありましたからね……。私のウッドマンも、今のところは大丈夫のようですが、油断をしないようにと言われました。
……あっ何か買っていきます? まだお店の開店前なので、売れるものといったら――」
僕を見て快く微笑んでくれたサロマさん。こういう人当たりの良さは接客業らしい感じだ。……接客業? あれ、みゆきお姉さんも接客業といえば接客業だけど…………、まああっちも結構優しいから、それはそれでいいか。
せっかくだからとサンドイッチを売ってくれた。お昼のお弁当には早いので、今売れるものはそれだということらしい。
有難い話だけどお昼にはちょっと物足りないかな? と小学生らしい胃袋で考えていると、えっさらほっさらとか妙な声をしながら屋台を引く人影。
あのハチマキ頭にピカっと光る剃り方、ちょっとナマズとかを連想させるお髭にあのいかにも海の男もしくは寿司職人みたいなイメージはマサさんじゃん!? アニメだとみゆきお姉さんとかサロマさんと一緒に何かエージェントみたいなことやってた人! こっちもインパクト絶大だから覚えてるし、なんならサロマさんより覚えてるよそのキャラクターまで。
昔ここに来たときは見かけなかったので、その登場は結構驚かされた。
サロマさんの挨拶に、マサさんはアニメで見たようなそのままのイメージで返答した。
「おはようございます、マサさん。後でお魚、いつものように購入させてください」
「おぅおはようサロマちゃん! ウチはいっつも色々な所で新鮮さ一番のを集めてっから、そりゃあもう
って、おぅ? 何でぃ何でぃサロマちゃん、こんな朝っぱらから」
「朝っぱらから?」
不思議そうなサロマさんに「俺はわかってるぜー!」と言わんばかりに微妙な感じのマサさん。どうやらサロマさんのグループの人たち(お弁当の設置を急いでる人たち)も、視線の感じは似た印象だ。
うーん、なんだろう…………。ちょっと、僕とみゆきお姉さんを邪推したエイリアさんの時と似た雰囲気を感じる。
いや、そんなことはどうでも良い。どうでも良いって断言しちゃうのは変かもしれないけど、僕の興味はマサさんが持ってるパックにある。
「えっと、すみません。鐘引ガンサイといいます。えー、ハジメマシテ」
「お? そーかいそうかい。初めまして、だな! カルシウムとってるか坊主! 俺は
そんな名前だったんだマサさん、という驚きはともかくとして、クーラーボックスに入ってるものを見せて貰ったらまた驚いた。
「こいつぁ何かって言えば、そりゃアシが早い捌いたお刺身よ。今日はマグロが良いのを仕入れられたから、そっちを適当に捌いた感じだぜ!」
「刺身!?」
『刺身!?』
エックスマン共々声を上げてしまった。いや、僕が喜んで声を上げるのはわかるけど、エックスマンまで何で……?
ともかく、ばっと取り出してみせられたお刺身は、小さいスーパーとかのお弁当で売ってそうな感じの盛り付けだったけど、かさましをしていないのでその分ぎっしりしてるのが一目でわかる。
「赤身、中トロ、大トロ、とりあえず適当にそろえた感じだな」
「た、食べたい……!」
「オイオイ坊主、お金はあるか? これ量が多いから、値段3000ゼニーくらいで売るつもりなんだが」
び、微妙に高い……! でも入ってる切り身の量的に、スーパーのそれとか全然比較にならない。正直喉から手が出る。
稼ぎ自体はみゆきお姉さんと一緒にやってるパーツモデリングの方から出せなくはないけど、流石にあんまり無駄遣いをするつもりもないし、うーん…………。
色々と考えた結果、僕はマサさんに値切り交渉。普通の値切り交渉じゃない、そこはまぁロックマンエグゼ的な方法で。
「マサさん!」
「応! どうした!」
「僕とネットバトルしてください! 僕が勝ったら……、半額でお願いします!」
後ろでサロマさんたちが「あっタダじゃないんですね……」「ちゃんと払うんだ……」とか色々言って来てるけど、流石にそこはね……。マサさんみたいな良い人に流石にそういうことをする気は起きないし、そこはね。
そして、案外ノリが良いらしいマサさんは腹を抱えて大笑い。ついでにお腹をポンポン叩いて、「良し分かった!」と気前よく唸った。
「サロマちゃんの前で良い所見せたいって心意気もわかったぜ、男マサ! そういうカッコつけは全力で後押しするぜ!」
「全然違うけどお刺身安くしてくれるなら頑張ります!」
「えっ!? いえ、違います違います違います、全然違いますから!? 何でちょっと、皆も『わかってるわかってる』みたいな顔してるんですか! 本当に全然違うから、一体何ですかその勘違いは!」
みゆき先輩に怒られます~! と後ろで色々言ってるサロマさんだけど、マサさんのあの感じはテコでもわかってくれなさそうだから、ここは正々堂々勝負して買って早い所退散した方が良さそうだ。
後多分、サロマさん後方もサロマさんを揶揄う目的でああやってるんだろうし。愛はあるけどちょっといじりが強い揶揄い方だ。何となくそういうのはわかるのだ(いじめられ経験値)。
というわけで。
「行くぜぃ、シャークマン!」
『おうとも!』
「エックスマン! バトルオペレーション、セット――――」
『――――イン!』
開始の号令と共に、人の腕と足が生えたサメみたいな姿をしたシャークマンは、見た目のイメージ通りにその場の地面パネル、フィールド下に「潜った」。
えっいきなりそういう戦法なの!? とびっくりした僕とエックスマン。同時にこちらの前後に三つずつ、鮫の背びれが生えてくる。
攻撃パターンの想像がつかないけど、こういう時はエグゼのゲームに置き換えて考えるんだ。
自分フィールド9マス、相手フィールド9マス。とするならあの背鰭の配置は、手前から奥に一つずつになるんだろう。前後に出てきた理由はわからないけど、そこはゲームと実世界との違いって見たらいいか。
だとするとあのモーションで攻撃ってなったら、キオルキシンのダッシュアタックみたいに、こっちとパネルの列が揃ったら突撃って感じかな。
そうなると、多分あのうち2つ、前後含めれば5つはダミーだ。
とりあえずエックスバスターをチャージして、隅っこに移動した時に位置の揃った背鰭が突撃してくる。
それをかわしながら、エックスバスターを射撃……!
前方、貫通していったエックスバスターでダメージを負った気配はない、とすると――――。
「後ろだエックス!」
『――――!』
飛び跳ねて背後から猛烈に迫ってくる背鰭を回避するエックスマン。こういう三次元的な動きはゲームじゃないからこそなんだけど、エックスマンがさっきまで立っていたところに、シャークマンの頭が出てきて大きく顎を開き、噛みつくようなモーションだ。
いや怖い怖い怖い! エックスマンと共有してる視界、ほぼ目前の位置を掠める巨大なサメの頭。自分は完全にサメ映画の対決シーンだ。猟銃とかないよここ!?
いや、ショットガンならないわけじゃないけどさ……。
「バトルチップ『ショットガン』、データスロットイン!」
再び背鰭が同時に潜り、再び出てくる。状況としてはシャッフルしたということなんだろうけど、とりあえず前方の背鰭へショットガン――――命中!
あっ、どうやら本体だったみたいだ。のけぞって口を開いて溺れてるみたいな動きだ。……いや、やっぱり等身大のサメみたいなデザインしてるからデカいな、シャークマン。
たたみかけよう、とロングソードをスロットインして距離を少し近づけた僕とエックスマンだったけど。
「そう簡単にはいかねーぜぃ! バトルチップ『アクアタワー』、スロットオオオオ、インッ!」
腕をブンブン振り回してチップを装填するマサさん。と、あばあばいってたシャークマンがいきなり体勢を変えて、こちらを見てニヤリと笑った。しまった、ブラフだった! 初めから見た目ほどダメージを受けていなかったかシャークマン!
とはいえエックスマンもすぐに止まれない。既にロングソードの構えに入ってる。
そんなままにシャークマンの足元(下半身埋まってるけど)から立ち上がった水の柱は、ロングソードを振り切ろうとするエックスマンに徐々に距離を詰めてる。
激突、いや、アクアタワーはそのままエックスマンを飲み込み――――。
『――――まだだ!』
飲み込まれながらも、エックスマンはロングソードを振り切った! シャークマン、エックスマン双方にダメージが入る。
流石に予想外だったのか、一度地面から出てシャークマンは距離をとった。
「へっ、やるじゃねーか。だがこっちも魚屋商売! そー簡単には負けてやらねぇぜ!」
「が、頑張ります!」
「ヒュー! お熱いねぇ! サロマちゃんもしっかり見といてやれよぅ!」
「あっそれは違います」
「照れんな照れんなガンサイよ!」
「だから本人も違うって言ってるじゃないですか!」
『サロマ、諦めろ。しばらく全然会話にならない』
ウッドマンのツッコミ虚しく、結局マサさんの誤解は解けそうになかった。
※ ※ ※
「あっガンサイ君。お待ちしてました……、って、どうしましたか?」
「いえ、何でもないです……、何でもないです……」
『どうしたの? エックス、あなたのオペレーター』
『――――負けたんだ、ネットバトル』
科学省一階、待合場所のテレビの前に座っていたエイリアさんは、僕を見て嬉しげに駆け寄ってきた。
なんだかこう、素直なリアクションすぎて犬の尻尾とか生えてそうとか思っちゃったけど、それはともかく。
水道局と入り口が共用だったので多少迷子になりながらたどり着いたそこで、僕は少しだけ落ち込んでいた。
端的にいえば、マサさんに負けてしまったんだ。
『HPがやっぱり足りないから、僕ね。……元々ネットバトルは想定してカスタマイズしてなかったから』
『そうなの、ふーん。……あなたのオペレーターも、まだまだ子供らしいのね。意外と。てっきりもっと大人びてるものかと』
『ガンくんは大人びてるんじゃなくって、一人ぼっちだから色々気を回さないといけないだけだよ。馴染めない、仲間はずれ、色々あるけどガンくんはお陰でビビりになっちゃったからね。やーいやーい、ぼっちキングー』
「少しはオペレーターに気をつかっとけ」
思わずPETに軽くチョップ。当然破損するパワーなんて与えないけど、エックスマンは僕に対する物言いはかなり容赦がないのだ。少しは不満を表明しないと。
エイリアさんはそんな僕らを見て「仲が良いんですね」とか言ってくる。
マサさんとのバトル、決まり手はエックスマンの言う通りHPの差だった。
流石にネットバトルでのチップカスタムは中々うまくタイミングが掴めないと、致命的な隙になりかねない。だからと言ってエックスマンの場合、ロックマンみたいにバトルチップでの拡張スペースをメモリに多く残しているので、やっぱりそういう方法での戦い方なんだ。
だからこそ、攻撃を避けられずに技を連発されたりすると、回復用のリカバリーの転送が間に合わない。
残念ながら負けてしまった僕は、流石にマグロの刺身盛り合わせを断念した。男泣きに男泣きである。我がことながら、まさかご飯で泣くとは。PETではエックスマンも一緒に膝をついて嘆いていた。いやだから、僕が食べられなくてもエックスマン関係ないよね……?
ともかく思わず泣いちゃった僕に、サロマさん大慌て。ある意味自爆したようなものだから気にしなくても良いと思うんだけど、そこで割引なしだけで終わらないのがマサさん。マグロはまけてやれないけど、と、エビの天ぷら6本を500ゼニーで売ってくれた。安い!? って、そういうことじゃない。なんだかこれだと僕が駄々をこねた構図になっちゃう。流石にそういうのを求めていたわけじゃないって言いたかったんだけど。
『大丈夫だガンサイ、一緒にししゃも天500ゼニーも買えよ! それならって値段設定だ』
こっちの面子を鑑みてくれたらしく、そういう流れで購入させてもらった。
でもどっちにしても、負けた上にお情けをかけてもらったような構図には変わりないので、なんだかなぁ……。不貞腐れてるわけじゃないと思うんだけど、それでもいまいち落ち着かない。
メンタルが小学生に引っ張られてるのか、思ったより感情の制御が上手くいかないらしい。初めての発見だった。
その話を部分部分ぼかしながら愚痴ると、エイリアさんはくすくす笑って「10歳なら普通だと思います」と僕の頭を撫でた。
「私なんていまだに、自分の悲しいって感情がうまく制御できないから、炎山君相手によく泣かされてますもの」
「それ大丈夫なんです……? えっと、エイリアさんの方が先輩なんですよね。いじめられて……」
「そういうわけじゃありませんから! 大丈夫、オフィシャルネットバトラーにいじめはありません!」
自分で説得力を削られましてもですね……。「それに」と、少し髪を撫でてから気を取り直して、エイリアさんは言う。
「先輩と言っても、あくまで経歴が長いとかで、命令権があるわけじゃありませんから……。オフィシャル的にはそろそろ権限でも追い抜かれそうですし」
これでも権限レベル6のエージェントなんですけどねー、と、若干自虐めいて笑ったエイリアさん。その、後輩に立場を抜かされる時の微妙な感情は分かるので、僕もまた曖昧に笑った。……いや、まあ僕の前世? の場合、バイトはみんな仲が悪かったわけじゃないからエイリアさんほど落ち込んだりはしなかったんだけどさ。
【折り畳み式PET(1、2モデル)でのプラグインポーズ】
・牛川マサヒデ
「プラグイン、ッシャアアアアアアアアアクマンッ!――――」
右手で引き抜いた端子を頭上に掲げ「とったどー!」みたいな勢いで空を仰ぐ。
「――――トランスゥゥゥミッションッ!」
そのままブンブン振り回してから振りかぶりプラグイン。※有線式の場合は腕を振り回さない。
【長文解説にならないレベルの作者メモ】
・マサさんの本名・・・ 本作ではこうなります。苗字はビーフ指令から。サロマさんも苗字は薔薇に関係する予定。ちなみに漢字で書くと、「牛川雅秀」となります。
※マサさんはゲスト枠なのでボス枠ではありません
今回は多分「お前かい!」ってなるかと思います