ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
エックスマン、エックスの背後のディスプレイは真っ黒。なのにガンサイ、彼のオペレーターの声は聞こえる。……エックスは、それに応じて声をそろえてる。バトルオペレーション・セット、イン、の声。
絶対に視えていないはずなのに、相変わらず二人は息ぴったりね……。
「って、えっ!? 画面閉じてるのに、これでどうやってオペレーションするの……?」
音声接続は切れてないってことは、テレビ電話のまま画面を真っ暗にしてる、折りたたんでいるってこと。フラッシュマンの頭部のライトによる催眠光線のようなものを視認すると、人間はあっという間にある種の暴走をしてしまうから、その対策なんでしょうけど、それにしたって無理があるんじゃないかしら……!
私たちだってそこまで解析できた時点で、エイリア、私のオペレーターは既に手の施しようがなかったくらいだけれど、それにしてもよ……!
研究室で色々会議してた光博士と一緒に催眠されたエイリアは「LA~♪ LA~♪」ってオペラ歌手風になりながら白衣の裾をドレスのスカートみたいに翻してた。
今は、自称勇者となってしまった光博士とか、他の研究員たちの子供みたいな暴れ方、ごっこ遊びみたいなのを、歌いながら止めに入ってる。……周りが見えなくなっている彼等は、そのまま研究機材とかコンピューターとかを壊しちゃいそうだから、エイリアは(自分も催眠にかかってるけど)辛うじて正気な分、そっちを優先しているってこと。
だから、私はバトルチップでのサポートはほとんどない。
もともと研究用だからナビの読み込みメモリのリソースの大半を、解析用プログラムに使ってる関係もあって、あまりバトルチップを使えないナビなんだけど、流石にリカバリーとかも使えないって言うのは色々厳しい。
だから、せめて他のオフィシャルの応援が到着するまでの間、そういった縛りが殆どないらしいエックスに力を借りたかった。
一般人を巻き込むのが本意ではないにしても、それしか選択肢がないという状況で、彼に甘えざるをえない私とエイリアは、やっぱりオフィシャルには向いていないんだと思う。
それこそマーティ……、私の姉、もしくは母にあたるナビなら、また事情は違うのだけれど。
振り下ろされるフラッシュマンの手。放射される凸型、もしくはT字型のスパーク。
それをエックスマンは、当たり前のように後方に跳んで回避してる。
「――――!」
『エックス、あんまり近寄りすぎないように……、そこでストップ! チャージ!』
バトルチップのサポートはないけど、ガンサイの声が聞こえる。「エックスバスター!」の声と同時に、エックスマンが射撃。ガンサイの声を聞くより前に、エックスマンはバスターを構えていて、声と同時に撃ってる。
それこそ息がぴったりとか、そんな次元じゃないくらい。画面が見えないのにそんなこと判断できるとしたら、もう、何か超能力か何か、ネットナビの認識を超えてありえないことが起きている。
エックスバスターが当たった直後にフラッシュマンが怯むけど、「視ていないのに」ガンサイの声は的確に、あまり近寄りすぎないようにとか、そうやってエックスマンのサポートをしてる。
なんなら「エックスの視点で」「エックスではないものを視ているような」物言いをしている。
「これがフルシンクロ……? いいえ、そんな観察なんてしている場合じゃないっ」
防戦一方というわけじゃないけど、攻勢一方というわけでもない。
火力が弱いエックスマンは、ある程度は躱せてるけど攻めきれない。だから時々被弾して、その時は威力差でフラッシュマンよりもダメージを受けている。
そんな状況を、見ているだけの私じゃない。
戦闘型ナビじゃないからと後方に下げられた私だけど、それでもまだ出来ることはあるはず。ガンサイのPETの真っ暗なディスプレイを見て、フラッシュマンの頭部のライトを見て。私自身、あの光り方のパターンに違いを見つけた。
「人間に催眠をかけるときと、ネットナビに催眠をかける時で発光パターンが違う……?」
それは確かに納得がいくところではあるのだけれど。ネットナビに搭載されている「疑似人格プログラム」と、有機生命体である人間とで、光学情報の認識の仕方は違うのは当たり前。私たちはよりデータをデータとしてデジタルに識別してるし、人間はもっと複雑でフレキシブルに判定してる。
だからこそ、人間向きの催眠パターンしかしていないとすると……。フラッシュマンは、ガンサイのサポートを恐れている?
つまりフラッシュマン自身、そこまで戦闘向きのナビじゃないってこと?
「…………だったら、アンチパターンを作ればっ」
あの発光に対して、PETの画面のフラッシュパターンを「対消滅する形で」点滅させられれば、人間の識別できる1秒での切り替わりを、なんとか制御できるかもしれない。
そうすれば、ガンサイがPETを見ても戦える……、バトルチップを使えるようになる!
そうと決まれば話は早い。
「ウィンキ、マンネン、トッター、お願い!」
『――――!』『――!』『――――――!』
私の周囲を飛んでる3つの疑似ホワイトウィルス、有害じゃないウィルスもどきの3人にお願いして、光学パターンの記録を任せる。
その間、私は私の処理リソースを7割解析に回す。……そうすると動けなくなっちゃうけれど、幸いなことにフラッシュマンはウィルスをこちらに送ってきたりはしない。
「……後はお願い、エックス」
そう言いながら、私は目の前に表示される複数の解析ディスプレイを、並列して計算を始めた。
※ ※ ※
シエルちゃんが後方で何かやってる…………。
ロックマンゼロだったら、ミッションによってはシエルちゃんが同行してのものも確かにある。ハッキングだったり脱出だったり、あとはラスボス前に心配で思わず基地から出てきちゃったりとか。
だから戦闘中、背後でシエルちゃんが何かをやってるっていうのはあんまり違和感はないんだけど、思ったよりも気が気じゃない。
『……後はお願いね、エックス』
なんか死亡フラグみたいな発言とかもしちゃってて、縁起でもないんだ。
エイリアさんのプログラミング結果だけじゃないと思うけど、是が非でも守らないといけないって気になってくる。意図的にシエルちゃんをああ育てたんだとしたら、エイリアさんは大した人だ。
でも直後に何か解析しながら「La〜♪」って歌っちゃってたりして、微妙に緊張感を削がれるというか……。
『っ!』
「痛っ!」
気が散ったせい、ってわけじゃないけど、フラッシュマンのネオンライトがヒットする。地面に次々に生成される電球というか電気エネルギーの塊というか。痛い。痛いんだけど傷ついた痛さというより、検査とかで筋肉に電気を通されたような妙な痛みだ。ヒットダメージは10。動き的に、一応はチャージショット扱いなのかな……?
ただ、フラッシュライトをやってこないのが救いといえば救いだ。こっちのフィールドに電球を設置して、フラッシュマンの両腕を振り上げるのと一緒に行われるスタングレネードと麻痺を同時に仕掛けてくるような技。確かインビジ無効だったはずだから、あれをやられると地味にきつかった。
流石にPETの俯瞰視点も使えない上に、麻痺して動きもできないんじゃどうしようもないからね。
「スパークアームくるよ!」
『エックスバスター! 二連射!』
『くォッ!』
バスター威力はそう高くないけど、回避を繰り返した結果一応は蓄積ダメージが連続したのか、技を中断させることに成功。でもブラフかもしれないから、警戒して接近しないで豆鉄砲を当てる。
コピーマンとかビデオマンとかみたいに変化球な技は使ってこないから、こういうバトルで普通に押してるのが何か新鮮だ。
いや、それを言ったらさっきから頭部が変に光ってるから、PET開けられないので変化球されてはいるんだけど……。
でも僕のエグゼ3経験値って、初期のチップが揃ってなかった頃慣れてなかった中でフラッシュマン相手に、最終的にロックバスターだけで粘りがちしたものなので(チップ使い切った結果)、ある意味で原点回帰と言えるかもしれない。
『ゼロウィルスを追うナビを排除…、排除…、ロックマン、排除……』
「だからエックスマンなんだってば……」
『逆恨み? メインフレーム一緒だからって、ちょっとは気にしてほしいよね。アーマー結構気合い入れてデザインしてるんだし』
「やったの僕だけどね? デザインしたのもモデリングしたのも!」
さも自分の手柄みたいに言ってきたエックスマンに、思わず突っ込んでしまった。
しかし、そろそろ疲れてきた。バトルチップ使わないでバスターでゴリ押しとか、正直もうやりたくない。エックスマンはナビ専用チップを作っていない分拡張性が高いのだけど、こういう絡め手とかをされるなら制作も考えた方がいいかな……。
そんなことを考えていると、PETの隙間から漏れる光の点滅が、弱くなったような気がする。
何かの罠かなと警戒して画面を開けられないけど、しばらくそのままにしてるとシエルちゃんから『ガンサイ、もう大丈夫よ!』と声が掛かった。エックスマンの視界越しに確認すると、PET画面を見ながら「ふぅ!」と汗を拭いてご満悦だった。
ちょっと、いやだいぶ可愛い。
ほとんどゼロシリーズのシエルちゃんの顔そのものなので、青少年には色々と刺激が強い笑顔だ。
その顔でクズテツとかドンソクとかミッションリザルトしたりミニゲームでいじめない場合に限るけど。
『フラッシュマンのPET越しの催眠、ヒプノシス・フラッシュのパターンを解析して、今エックスのPETのプラグインモニターに展開してるわ! 今のうちに早く、バトルチップを……!』
言われてみると、PETのディスプレイの周囲に例のサイバーエルフもどきみたいなのが、ぐるぐる周回して光っている。ひょっとしてさっきやってた解析作業って、そういうこと……?
恐る恐る画面を開けてみると、さっきまで不規則に点滅してたように見えたフラッシュマンは、今は薄らぼんやり光ってるように見える。
もちろんエックスマン越しに見ると相変わらず不規則なような、規則的なようなって感じで点滅しているんだけど、シエルちゃんの言った通り僕の方に影響がない感じになっていた。
現在のフラッシュマンのHPは、140。対してエックスマンは115。……結構削ったな、僕ら。
だったら後は……。
「バトルチップ『エリアスチール』、データスロットイン!」
前方に出てきたフラッシュマンは相変わらずデリートデリートと言って、僕らの状況が変わったことに気づいている様子もない。
まずエリアを詰めて、ついでに前列だったのでダメージも狙う。
エックスバスターのチャージを始めるエックスマンに、キャノンのスロットインを準備して――――――うわッ!
『ガンくん!?』
『ガンサイ!』
襲われた。さっきまで周りに人がいなかったのに、今僕は羽交締めされていた。PETを落としてしまい、拾い上げることもできない……!
背が高いこの人は誰だ……? 白衣が見え隠れしてるから科学省の人なんだろうけど、入り口は封鎖されてたんじゃ。いや、違う? ひょっとしてもう、内部もいよいよ限界に達してきて――――。
何にしてもエックスマンにバトルチップを送れない。それと同時にエックスがこっちに気を取られてるのがいけない。このままだと本格的にまずい!
「君はさっきの……! クソ、放しなさいこの研究員風情が!」
「私は最終処分プログラム。私は最終処分処理プログラム……」
「えぇい、そんな訳のわからないプログラムが貴方の封印されていた本質でいいのですか!」
襲われてる僕を見て、西古レイが助太刀にきた。きたんだけど、彼は思ったより非力だった。見た目でいうと中国拳法(アジーナ拳法かな?)とか使えそうな感じなんだけど、パンチ1発の威力が明らかに非力だった。
催眠療法とか言ってたから、ひょっとしたら日頃運動不足なのかも……。
『ぐ、うわああああああッ!』
『エックス!?』
フラッシュマンのスパークアームが直撃するエックスマン。くそ、普段なら一人でも対応できるはずなのに、明らかに僕に気を取られて本調子が出せてない……!
万事休すか? いや、こんなところで諦めてたまるか。
ほぼノータイムで結論が出たので、僕は研究員さんの腕に噛みついた。若干呻き声を上げて、拘束が緩む。
すかさず脇の下をくすぐって隙を無理やり作り、腕の拘束から逃げ出した。
逃げ出してもPETすぐ近くだし、どうしようもないんだけれどね……!
しまった、慌ててたからそこまで考えが回らなかった。
「やばい、流石に詰んだかも……」
「――――――にょろりッ!」
ただ、幸運なことに時間は稼げたらしい。
魚のホネみたいな剣が僕と研究員さんの間に刺さる。いきなりのことで面食らった西古レイは、腰抜かしてその場から動けないみたい。
そんな状況で「気張れガンサイ!」と言ってくる声は、間違いなくマサさんだった。
……何故か蛇みたいに、地面をうねうねしながら移動している。
「いやそれはどういう状況ですか!?」
「おうおう、ガンサイ! 詳しい説明は後でするから、今は早いとこ逃げろ! ここは俺が時間をかせぐぜ、にょろにょろり!」
「にょろり……!?」
言動を見ると、マサさんも催眠術にかかってるってことなのか? それにしては正気みたいだし、エイリアさんとかみたいに術のかかりが浅かったのかもしれない。それにしてはうねうね独特の動きで地面を猛烈に素早く這ってたりするけど(速すぎてちょっとキモい)。
そのまま「ぬめぬめ、にょろーり!」とか言いながら、魚の骨の剣を口に咥えて、暴走してる研究員さんと渡り合っていた。おかしいな、だからあの人普通のネットバトラーだよね……?
「……って、今のうちだ! レイさん、PETでここにプラグインして! 今ならまだフラッシュマン、回収できるかもしれないから!」
「そ、そんな馬鹿な……、接続ラインは残っていても、プラグアウト操作は拒否されるというのに」
「だから、行動不能状態にします。後1発でなんで、タイミング、合わせてください!」
僕の一言に驚きながらも納得したらしい西古レイ。おずおずと電球みたいな装置が取り付けられていたPETのそれを外し、端子を伸ばしてプラグインした。
フラッシュマンの背後にも、PETのディスプレイが表示されたのをエックスマンの視界で確認した上で。
「今だ! バトルチップ『ウッドマン』、スロットイン!」
今のフラッシュマンの残りHPは87。ウッドマンの威力は全範囲で60、かつ一応は属性ダメージ弱点2倍が働いている。
唐突に目の前に現れたウッディタワーに戸惑うフラッシュマンは、そのまま周囲もウッディタワーに囲まれ、最後は地面から競り上がってきたタワーに貫かれてダメージを負った。
えぐいな、絵面……。実際あの形に傷跡は残らないんだけれど、もしエックスマンが戦わないといけなくなったら、何か対策考えないと……。痛覚フィードバックのせいで最悪気絶しそう。
フラッシュマンのHPがゼロになった後、デリートデリート繰り返してるフラッシュマンをプラグアウトさせて、西古レイは心底安心したように微笑んだ。
「嗚呼良かったフラッシュマン。これで……」
PETを抱えて泣き崩れる西古レイを前に、僕は少しだけ安心して一息漏れた。
何にしても、今回はデリートされなくて良かった。うん、仕方ないとはいえ目の前でデリートはちょっと堪えるよ……。
※ ※ ※
「これで、良くはありませんから! 状況を考えてください!」
わっ! と大声を出しちゃった。僕だけじゃなく西古レイも。僕らの背後には、両手を腰に当てて顔をすこし赤くしたエイリアさん。見た目ですごい「怒ってます!」ってアピールしている。
エイリアさんは今だ「デリートデリート」と唸ってるPETを、西古レイが呆然としてるうちにシャットダウンすると、腰から黒手錠を取り出して彼にかけた。
「な、何を? 私は今回、事件解決に奔走して――」
「市民ネットバトラーのライセンスを取らず民間での対応、および情報セキュリティライセンスの権限違反の可能性があります。今回のナビの被害規模から言っても、一応事情聴取は必須です。そのレベルのロジックでの作成が出来たとしても、本来は人体に関係するレベルのプログラミングなら、その研究は権限の関係で『閲覧できない』もののはずです」
「それは……っ!」
ちょっと何を言ってるかよくわからなかったけど、西古レイには心当たりがあったらしい。
「何より、科学省で事件を起こしたというのが一番問題です! 詳しくはマリンハーバーでと言いたいところですが、現在メトロが停止していますので、まず科学省の一区画を借りて簡易的なものになります。大人しく着いてきてください」
「く……、くそぅ……」
それではまた、と、大急ぎで立ち去っていくエイリアさん。僕にも一応挨拶はして帰っていったけど、それにしては大慌てすぎやしないかな。
シエルちゃんも「エイリアが正気に戻ったので、私もここで」と言って、そのまま発電所の電脳を抜ける。その前後で、暴走してた人たちはその場に一度倒れた。しばらくすると頭を振って起き上がっていくけど、これってどういう原理なんだろう。正気に戻ったってことなんだろうけど、術者が倒れたからって催眠が解けるわけでもないだろうし。
「僕、何してたんだろう……」「レアチップは! レアチップのナイヤガラはどこでマス!」「悪い、世話かけたなガッツマン……」
色々なリアクションを見てると、案外、わからなかったけど何かしらの方法で、リアルタイムに操ってはいたのかな? と思った。あまりにもタイミング一致しすぎだし。
「何と言うか、今日は慌ただしかったね、エックス」
『――それはそうとガンくん、帰りのメトロ大丈夫?』
「……あっ」
やり切った! っていう燃え尽き症候群みたいなのに浸っててすっかり忘れてたけど、そうだ。メトロ内でも大変大混乱して大暴走して、あっちはあっちで大事件だった。
鉄道のサイトから情報をエックスに集めてもらう。結局、デンサンタウンや秋原町とか方面は夕方、才葉シティとか外部の県は夜になるとのことだった。ニュースサイトでは、既に駅が人でごった返している映像が流れているし……。
大混雑で逆に危ないという話だったので、父さんに電話したらホテルに泊まって帰ってこいと言われる始末。
「どうしよっかこれ……。バイト? 代除いたらお金もそんなに持ってないし、今から格安ビジホとか探しても、あの混雑だと似たようなこと考える人いるよね」
『とりあえず、みゆきお姉さんに相談すれば?』
それもそうかということで、とりあえずPETの電話帳から、みゆきお姉さんの骨董店の番号を引っ張り出した。
なお後日エイリアさんから軽く聞いたところによると、西古レイは普通に逮捕されて取り調べ中だそうだ。
フラッシュマンには科学省内の「人間の脳とネットナビの疑似人格プログラムに対して光学情報が与えるパターンと変化」っていう研究中のデータ(持ち出し禁止)とかが使われていたらしく、情報漏洩の共犯だったってことになったらしい。科学省内に犯人がいるということで、捜査協力で恩赦が少しあるとからしいけど……。これ、やっぱり3の頃には新
次回、爆走してたターボマン編(予定)