ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
PETに届いたニュース速報を見て、僕は思わず変な笑いが出た。ちょっとした動画つきのそれは、今や一大珍事件として才葉シティの電脳をにぎわせている。
『うおおおおおお! 誰か~~! タスケテ~~~~!』『パラパラパラパラパラ!』『オーンオンオンオーン!』『であ~~~る! フン! フン!』『ウワォ~~~~~~~ン!』『ほああああああああああッ!』『ブロオオオオン! ブロオオオオン!』
映像の先頭はスポーツカー型ネットナビのターボマン、なんだけど、その後方にはヘリコプター型のネットナビ(アニメで見た気がする)、巨大トラック型のネットナビ(コ〇ボイ司令官!?)、あと狼みたいなSFマシンっぽいネットナビとか潜水艦型ナビとか、とにかく「乗り物の姿をしている」のか「乗り物に変形してるのか」は知らないけど、そんなナビたちが電脳上を大騒音を鳴らして爆走している。
一種の暴走族みたいな光景だ。ただ乗り物がバラバラすぎて、なんか笑ってしまう。
でも、当事者たちからしたらたまったものじゃないはずだ。
このナビたち、ターボマンを含めて「フラッシュマン集団催眠事件」の被害者のナビたちだ。
そのナビのうち、ゼロウィルスに浸食されていたナビだけは、フラッシュマンの催眠が解けても暴走状態が解除されず、この映像の有様となっている。
集団でまとまっているのは理由は不明だけど、コ〇ボイ司令官みたいなトラック型のナビがこれまた良い声で「我々は何者かに集められてしまったのかもしれない……、行くぞ! 逆襲だ!」ってもう半分くらい暴走してそうなことを言ってるから、示し合わせた訳じゃなく、たぶんゼロウィルスが何かやってるんだろう。
この間のフラッシュマン事件がまだ記憶に新しいので、そこから色々想像できてしまう。
詳細は不明だけど、エイリアさん曰くフラッシュマンは外部から操作されていた、ということらしい。ゼロウィルスを使ったリアルタイムのハッキングで、疑似人格プログラムを部分的に動作停止させているような、そんなものだとか。
『まるで何かの本能です……。白血球とかアレルギー反応を思わせますよ』
電話越しだったけど、彼女のその一言がなんとなく印象的だ。
ゼロウィルスに感染したナビが、ゼロウィルス感染者と過去に戦ったネットナビを攻撃する、という特性が、ゼロウィルス間で情報共有されていなければ発生しえないという話だ。
つまり、それらを統括するマザーウィルスのような存在がどこかにいる。良く知らないけど名前に上がったドリームウィルスとドリームビット(こっちは知ってる)より、はるかに密な関係ということだった。
……アニメを知ってると、たぶんそれはマザーと言うかファザーと言うか、あのゼロなんだろうけどって思うんだけどね。
当然、そんなことは言わない。何で知ってるのかって話だし、基本僕は自分に火の粉が降りかからなければ、ロックマンエグゼに介入する気はないんだ。
主人公とは縁遠い所で生きたいのが本心。
光博士が言ってたような、トラブル体質だけは本当勘弁してください…………。
話を今に戻して。
『これは酷い』
「これは酷い」
いつものように? エックスマンと感想が一致する。動画の映像では、オフィシャルが天まで聳え立つバリケードを作って「此処は通さないぞ!」って複数のナビで捕縛作戦をやってたんだけど、バリケードにジャイロが爆撃、F1カーは燃えるタイヤエフェクトを飛ばし、オオカミ型のはレーザーを撃って司令官(?)は「ほあああああ!」ってひき逃げアタック。玩具メーカー繋がりかな? さながら映像はトラ〇スフォーマーめいた地獄絵図。
シエルちゃんの「あううううッ!」って目を回す可愛い声が響いたりと、かなり惨憺たる状況だった。
オフィシャルが公式でこんな映像流していいの? 権威失墜しやすいから一般人にナメられたりするんじゃない? とか思ったけど、どうやら目的としては注意喚起ということらしい。
見かけたら下手に関わらないようにすれば、あの暴走ナビたちも大体は避けてくれるらしい。というか、本人たちも走りたくて走ってないとは思う。
…………コ〇ボイ司令官は別として。明らかに一人だけ、テンションが違うからね。
もしかしたらサイバトロ〇マークの代わりにデストロ〇マークついてない? と思って映像を逆再生したりして探す僕と、そんな僕に「呆れたような」エックスだった。
「それはそうと、エネルギー供給とかってどうやってるんだろう? そろそろネットワークアップデートで、PET給電でのHP回復って出来なくなるよね」
『――――』
エックスマンの「PETによってはもう出来ないらしいよ?」というチャット文に、冷汗が少し流れる。今までの戦績的にある程度は戦えてるけど、バトルオペレーションに自信はない。マサさんに負けたような形で、いつ普段からエックスマンを倒されるかと、そういう恐怖が強かった。
なんにせよ、それでも暴走し続けているナビたちは本当、そのうち力尽きちゃうんじゃないかな……。それこそ何かしら給油でもされない限り。
「で、これのお陰で才葉シティのメインストリートは全面封鎖と……」
『――――』
エックスマンの「どこにも行けないね!」というチャットメッセージに半笑いだ。
現在の才葉シティの電脳は、区画ごとにメインストリートという大きな円形のサークルに接続されている。逆に言うと、全てのマップがここを中心としていて、横に伸びたりはしてもライン同士繋がったりしていない。だからこのメインストリートが交通封鎖となると、ネットナビは他の電脳へとアクセスすることが出来ないんだ。
なんならビーチストリートとかデンサンシティ(秋原町とか)の方面に繋がる道すらメインストリートを基準としているので、文字通り完全封鎖状態。
ネット商人に会いに行くためにリアルで移動して商人の場所まで出向く必要があったりするとか、ある意味先祖返りしたような状況だった。
『低次元ネットワークのネットサーフィンなら出来ると思うけど? 俺、集めてこようか』
「いや、ずっと見てると授業遅れるくらいのめり込んじゃうし……。
真面目な話、プラグインに限るならいっそのことエンドシティにでも行った方が近いかな」
場所としては山梨と静岡の中間くらいを示す位置にあるエンドシティ。江戸と愛知とがモチーフになった古都風の県という不可思議すぎる場所なんだけど、実は才葉シティからするとお隣なので、ルート的には近いと言えば近い。アキンドシティ(大阪)とか比較にならない(そもそも才葉シティ自体愛知に相当する位置なので)。
『メトロは止まってないから良かったね』
「それな! うん。今、お昼休みだからあんまり関係ないけど。……はぁ」
『?』
チャットで「どうしたの?」と問いかけて来るエックスマンに、僕は遠い目をする。
場所は教室じゃなくて屋上に来てるけど、なんか空中に浮いている施設あるな、あれ一体何なんだろう……。それこそエグゼの後のシリーズで才葉シティが敵の攻撃とかで、マップになったりしない? ちょっと怖いな。
フェンスに背中を預けながら、PETのエックスマンにため息をついた。
『どうしたの? 午後からのネットバトルの授業が退屈?』
「いや、そうじゃなくって……」
『特別ゲストが来るとか言って詳細教えてくれない先生に絶望?』
「しないしない、そういう身近な話じゃなくってさ。
…………この調子だとまたゼロウィルスに関わるんじゃないかなって」
『――――――――』
そもそもターボマンを始めとしたゼロウィルス乗り物暴走族ナビたちだって解決されていない。はっきり言ってここ最近の僕の周りは異常だ、その勢いに任せるようにそっちに僕が巻き込まれないとも限らない。
他にもエックスマンがエックスっていうだけでも色々アレなのに、アイリスって娘、シエルちゃん、存在はしてるらしいアルエットなど含めると、どんどん色々な何か妙な因縁がゼロウィルス周りに収束してる気もする。
ついでに言うとコピーマンがコピーエックスだと仮定すると、もはやエックスシリーズじゃなくてゼロシリーズのノリなんだ。一体どうなってるんだろうこの世界……。
別に、そういう因縁があったからといって必ずしも「ゲーム通りの」人物として存在している訳じゃなと思うんだけどね。エックスとか良い性格してるし(怒)全然悩まないし。僕もそこまで悩む性質かといえばそうでもない。どっちかというと父さんが年中悩みまくっているくらいだ。
「みゆきお姉さん、エイリアさん、コピーマンのオペレーターさん、ナルシーさんに西古レイと来ててこう……、ナビとオペレーターの関係も十人十色だよねって思うんだ。
ただ、やっぱりネットバトルの腕は上げた方がいいよね? って考えたり」
『エイリアさんとか、シエルちゃんじゃなくてマーティ相手だと、どうなるんだろうね』
「だからってネットバトルの練習しようにもハブられるし……」
『――――――――』
まあ「やーいやーい、ぼっちおぶざぼっち、ぼっちを磨いたぼっち!」とかエックスの煽りにチョップを入れるのも慣れた手つきだった。
実際、僕はクラスだと浮いている。
もともと精神的には大学生だったのもあって、勉強は適当にやっててもまあまあ出来るし(四則演算の延長ならそう難しくない)、スポーツも下手ではないんだけど、その代わり会話が致命的に噛み合わない。
皆がアニメの話題を出している時に一人で映画の話題とかを出したりしそうになるし、ネットバトルの大会の中継の裏でサッカー特番とかあったらそっちを見ちゃうようなタイプだ。
さらに今年度の初めの方で入院したのもあって、いよいよ僕と彼等との溝は大きくなっている。
陰口叩かれたりはしないけど、一部の子からはシカトされたりして、コミュニケーションとる気力が段々なくなってくるというか……。まあ別に苦にはならないんだけれども。そのあたり、彼等よりは大人なんだ。
つまり、大森君がむしろ珍しい方で、普段から割と遠巻きにされてるってことだ。
ネットバトルしようぜ! って誘っても仲間外れにされそうという事実。
『流石にそれは落ち込みそうだね。というか、不登校になりそう。ガンくん、悩まないかわりに打たれ弱いし』
「別にそこまで打たれ弱くはないしっ」
『じゃあ言って来ればいいじゃん。せっかく少しアップグレードしたんだし』
そう言って両腕を広げるエックスマン。その現在のHPは300になっている。アーマーのベース交換、換装のついでに、今度の大型アップデートにそなえてHPメモリを大量購入して投入したのだ(放置しておくとHP30とかそんな値まで落ちるから)。
まあそれは置いておいて。エックスはエックスでネットバトルしたいというか、上昇した性能を試してみたいって思ってるって事らしい。今の状態ならシャークマンにもたぶん負けないからね。地味にリベンジしたがってるのは知ってるんだ。
だからといって今の状況で科学省までメトロに乗っていくのは何か悪手な気がするんだけれども…………。
「そうは言っても、チップパワーは足りないんだけどね……」
『そこばっかりは仕方ないんじゃない? ガンくんも僕も、あんまりネットバトル好きじゃないわけだし』
「まあね。…………最近エックス、よく話すよね。どうしたの?」
『気分の問題。あとガンくんがずっと独り言をしゃべってるように見えるって気付いた』
どういう気遣いだコイツ!?
いや、実際チャットメッセージ送ってくるエックスに応対してるとそうなっちゃうんだけどね!
色々突っ込んだりしてぜいぜいしてから、やっぱりため息一つ。この先のことを色々考えて、やっぱり憂鬱にならざるを得ない。
主人公の熱斗君に関わらないってことは、シナリオに巻き込まれないって言うメリットはあるんだけど、その代わり身近で起きた事件には諦めて被害に遭うか自力で解決するか、どっちかしか選択肢がないってことだ。
助けを求める、というのも一つの選択肢だけど、それだって自力でどうにかするってカテゴリーの一つだろう。
そういう事件は起こって欲しくないんだけどなぁ……、と、そんな風に色々思いがこもったため息をつくと。
「――――――――ハッハッハ! 随分と
はっ!? と驚いて周囲を見渡す。凄い良い声、それこそアニメとかでもう二度と聞けないような良い声が響いた。
『ガンくん、上!』
「上? …………、給水タンク!」
エックスマンの一言で、屋上出入口の上に設置されたタンクの上から来てると判断。勢いよくそこを見ると、こう、形容が難しい人がいた。
形容が難しい割に、エグゼに少しでも知識がある人は8割以上の人が知っていそうな、そんな有名人。なんなら「この世界でも」ちょっとした有名人。
「今日の持ちナビの機嫌を取っていたら、何やら不穏な気配を感じてね。不穏というよりは、妙に『引き寄せられるような』感覚って言ったらいいかな。
とぅッ!」
初代の仮面ラ〇ダーみたいに、両腕を上げてジャンプ。そのまま空中で一回転して、僕の目の前に着地した男性。
この人、見たこと有る! バンカラっぽい帽子姿なんて初めてだけど、眼鏡に白衣姿なその男性、ホビーフェアで「実物」を見たこと有る僕からしたら全然別人なんだけど、それでもキラリと光る眼鏡に通じるものを感じて、思わず声に出してしまった。
「え、江口名人さんだー!」
『え、江口名人さんだー!』
「“さん”は要らない!」
あっ、エックスマンも一緒に絶叫してる。
というか「あの」セリフじゃないか、マジかよ!? 本当に名人だ!
でも実際それくらいびっくりだ。光研究所から派遣された大会69連勝とかいう成績を持つネットバトラー、江口さん(下の名前は不明)。通称は名人。ゲームではネットバトルを世界に広めるため、アニメでは科学省の研究者というかエージェントとしての側面が目立っていた人だ。この人「今の時点で」確か二十代前半だったりするので、エイリアさんとは別の意味で凄い人でもある。
モデルはリアルの「ロックマンエグゼ」開発者の一人とかだったはずだ。イベント会場で実物をお目にかかったことがある。友達と一緒に幕張まで繰り出して、それはもう大盛況だった。事実上大スターだったし、雑誌でも名人は名人だった。
おかげで目の前の名人さん、ゲームやアニメのイメージなこの人とはイメージが色々違うんだけど、こっちの世界でも名人さんは名人さん。イベントは見てないけど、どうやらエイリアさんが担当してたあのクイズ番組、後でゲストで出ていたらしい。後日エイリアさんから聞いて、少しだけ悔しかったりした。
さて、ダンディズム溢れる声の名人さんだけど、一体どうしたんだろう。この人って光博士の研究室の人だから、ネットバトルの技術とか科学省のチップの使い方広めたり、大会に出たりするとき以外はデンサンシティに居るんじゃないかって思ってるんだけど……。
あっ、才葉シティにも僕の父さんが務めてる研究所あるし、居ても変じゃないのか。
ただ何でわざわざ学校に? と思って、どうして名人がここに来てるのかと聞いてみた。
「何、本来はこっちにある科学省の研究所で打ち合わせがあったんだが、セントラルシティのメインストリートの復旧が終わってないと色々準備が出来ないからとフリーになってしまってね。
今日の午後、こっちでオンライン授業をする予定だったから、暇だし来て見たんだ」
「オンライン授業! ってことは、ゲストって名人さんだったんだ……!」
「“さん”は要らない!」
「名人!」
「そう!」
会話しててわかったけど、ノリがどっちかというとアニメの名人だった。
名人は僕との会話で腕を組んでポーズを決めた後、「そうだね」と少し思案する。
「こうして会ったのも何かの縁だ。少年、私とネットバトルをしてみないか?」
「ネットバトル! 名人と!? あれ、でも名人って公式試合以外は試合禁止されてるって噂が…………」
「幸か不幸か、科学省の宣伝部長のような仕事まで引き受けてしまっているからな。負けると科学省のイメージダウンにつながると言われてしまっていて済まない……。
だが同時に普通のネットバトルじゃない、ちょっと変わったネットバトルの仕方で教導したりする分には問題がない」
教導? というのに首を傾げた僕に「実践してみればわかる」と帽子のツバをくいっと横に回した。……今気づいたけど、帽子の頭頂部からツンツンした髪が出てる。どんな構造だその帽子!? 穴開いてるの!!?
ただ、名人とのネットバトルは興味がある。リアルイベントの時は結局対戦したりすることも出来なかったので、例え「ほとんど別人」であっても小さい頃に出来なかったことが果たせるって言うのは、かなり大きい。
名人と僕。二人そろって扉のプラグインソケットの前に立つ。
「プラグイン! エックスマン・トランスミッション!」
腕を交差させ突き出し、ぐるっと回して腰に構えてプラグイン。
もはやお約束なこのあたりの動きに口上。
そして隣の名人も。
「プラーグ・イン! 『バンチョーマン』
何か全然知らない名前のナビだー! アニメでも聞いたことない名前だぞよたしか!?
そして名人はPETからプラグインケーブルを引き抜いて。特にポーズを決めずに接続した。
…………あっ、何かこういう所はすごい、普通に研究者っぽい。全然動きに無駄がない。
PETもエイリアさんみたいに有線式だったりして、色々新発見があってびっくりだ。
というか、エイリアさんだって研究者なのに何であの人、あんなお侍さんみたいなポーズしてるんだろう……。
そしてエックスマンの前に現れたネットナビは…………、何て形容したらいいのかな。名前の通りバンチョーなんだけど、顔が凄い濃いと言うか。ボディビルダーみたいに体格が良いし、手にはバットみたいなの持ってて古典的な番長のスタイルでそこは名前っぽいけど。
あと顎が割れてる。ケツアゴってやつだ。
「ロックマン…………? なるほど、そうか。君が鐘引博士の。
まずは小手調べだが、気を抜くな! バンチョーマン!」
『言われずとも、な。……………………む、貴様がエックスだと?』
『――――?』
そしてそのバンチョーマンは、紫色の目をエックスマンに向けて、驚いたように見開いた。
【長文解説にならないレベルの作者メモ】
・バンチョーマンのビジュアルイメージ
お ま た せ 。(汰威超之Σ)
・名人さん
1に未登場だったので出したかった。相方?もそのうち…