ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
「LA↑~LA↓~LA↓LA↓LA↑・LA↓↓・LA↑~LA↑LA~♪ LA↑~LA↓~LA↑LA↑LA↑・LA↓・LA↑~LA↓↓LA~♪ ――――」
鼻歌? ハミング? 口ずさむメロディと、それに一切タイミングが一致しないリズムでガガガガガガガガッ! って猛烈な勢いで叩かれるキーボード。姿勢は凄い良いんだけど、そんな調子で4つ左上、左下、右上、右下にそれぞれ配置されたディスプレイを切り替えながら猛烈に何かタイピングして、それぞれの画面で何か高速でビルド? とかが通ってるのが表示されたり、あるいはプログラムの文字が猛烈な速度で増えたり減ったり切ったり張ったりされている光景は、妙な凄みを感じる。
そんなエイリアさんが仮設テントの奥で、あからさまに近寄りがたい気配を放ちながらプログラミングしてるっぽい光景を、僕と快太君は呆然として見ていた。
「相変わらずだなぁあの人は……」
「それは、えっと、プログラミング力的な…………?」
「いや、切羽詰まって集中すると無意識に歌い出すのが。光主任の場合は飲食トイレ睡眠全部が抜け落ちて黙々と作業するマシーンになるし、私の場合は独り言が倍増して寄声を上げているらしい。
何、人間は限界を超えると色々バグるものだ………………」
「大人の社会って怖い」
「健康第一にしないと……」
『業界の闇を感じるね……』
遠い目をしながら(眼鏡で見えないけどそんな気はする)乾いた笑いを浮かべる名人に、快太君、および僕とエックスマンの感想だった。
そんな僕らに「いや、常時そんな訳ではないぞ! 光主任はちょっとアレだが」とかアレなことをボソッと零しつつ、PETを開いてオフィシャルの他の人たちに声をかけ、顔合わせする名人。多分オフィシャル証みたいなのを出してるんだろうとは思うけど、僕と快太君はテントの入り口で待機だった。
「エイリアさん、エイリアさん―――オイとっとと我に返れエイリア・C・防守博士!」
「LA~♪ LALA~LA~LA――――って、はい? ああ、江口君ではないですか。今日はどうしてここに?」
「話せば長い様な短い様な……」
『やっぱり名人よりエイリアさんの方が年上っぽいね……』
ぼそっと呟くエックスマン。まあ僕もそうなんだなぁと実感はしたけど、その話はともかく。色々事情を説明してるらしい名人と、それを受けて「あら!」と僕の方を見てちょっとだけ嬉しそうに手を振るエイリアさん。金色のお下げが左右に揺れる。
ああいう仕草見てると本当に23歳なのか疑わしくなるくらいの少女っぽさだった。
今までのポンコツっぽさから、ぶりっことかあざとさアピールとかじゃなくて絶対天然だっていう確信がある。
こっちに駆け寄ってきたエイリアさんは、僕と隣の快太君を見て「君は初めましてですね~」と二人ともの頭を撫でた。
とりあえず快太君に自己紹介した後、エイリアさんは僕に向き直る。
「才葉シティのセントラルでの話だったので近くにいるかもしれないとは思っていましたけど、まさかこっちに顔を出すとは思ってませんでした、ガンサイ君。お姉さん少しびっくりです。……えっと、一応この間相談された
「それは、話し終わってからで。
いやー、名人に『一人じゃ寂しい(超訳)』って引っ張られまして……」
「寂しいとは言っていないぞっ! 保護者と言う訳じゃないが、同伴者は増えた方が良いと判断しただけだ」
「どういうこと?」
「どういうことです、名人?」
僕と快太君の疑問に、エイリアさんは「あぁ……」と何か察したみたいに苦笑い。
そして名人はサムズアップし、きらりと歯を光らせて微笑んだ。
「これにて私の仕事は終了だ。後はそこのエイリアさんの指示に従ってくれ。じゃあ研究室に行こうか、ガンサイ君」
「えっ?」
「出来ればで良いが、君の方の用事が終わり次第もう一度こっちに来て、快太君を駅まで送ってあげてくれ。最近物騒とは言わないが、流石にネットナビ無しではるばるこっちまで来てしまった子を、そのままの状態で返す訳にもいかないだろう」
結構図々しい事言ってない、この名人!? いや、そりゃアニメみたいにスーパーエージェント的な活躍を期待してた訳じゃないけど、本当になんか面倒事押し付けようとしてる話だった。現実の名人じゃなくってゲームの方の、つまり非実在人物がベースになってる名人だから、イメージ違うと言われれば違うけど。
ネットバトルしろーとか言わないあたりエイリアさんよりは大分マシなのかもしれないけど、あー、快太君とかもびっくりして目を真ん丸にして固まってる。
じゃあと僕の肩を抱き、一緒に立ち去ろうとした名人。ところがその頭一つ低い所から、ぬっと手が襟首に伸びた。ぐえっ!? となる名人に、その腕の主なエイリアさんはニコニコ微笑んだ。
「ここで帰るなんて人情味がないと思いませんか? 江口君。なんなら道義的責任というやつですよ、江口君」
「え、エイリアさん、だけど私この後スカイタウンのウェザーコントロールシステムのプログラム君たちの再コーディング作業が――――」
「今から行っても遅いですし、どうせ明日は有給取るなら1時間くらい誤差ですよ、誤差。こんな可愛い子たちを困らせるだけ困らせて素知らぬ顔で帰ったら、ソウルバトラーさんに馬鹿にされません?」
「ぐぅ、それを言われると弱いな…………」
ソウルバトラー? 首をかしげる僕と、多分一緒に疑問符を浮かべてるだろうエックス(音声だけ)。そんな僕らに、これまた名人の腰から声だけでバンチョーマンが補足してくれた。
『エグチのライバルのような、実況仲間のような、そんな腐れ縁だな。最近は一緒にイベント関係で登壇することも多い、熱き
ハチマキをしている、という話を聞いて、でも記憶の底でそんな彼の姿を思い描けない自分が色々アレだった。前世というか現実世界と言うか、あっちでのリアルイベントへの参加ってホビーフェア1回きりだったからな…………。
あと、そんな全国大会の話は快太君も知ってるのか知っていないのか「はえ~」ってリアクションからは推し量れなかった。
腕を組んで色々悩んでるらしい名人に、エイリアさんは僕たち三人を見回して言った。
「実は快太君のターボマンと同様に、ジャイロマンのチャーリー・エアスターさん他数名から同様の話が持ち上がっていましてね? 大体2時間ほど前に本部に打診して、別動隊として私一人で動いてる状態でした」
「別動隊? エイリアさんが指揮をとるんじゃ」
「そっちはもっと『バトルが得意な子』が来たので、指揮権を圧倒的実績と根回しで奪われちゃいまして……」
へっへっへ、とさっきの名人さんめいた遠い目に乾いた笑い。快太君が「やっぱり大人の社会って怖い」とかぼそっと言う感想が、妙に身につまされる空気だった。
「まとめると、つまりエイリアさんは『デリートしない』作戦の別動隊チームみたいに動いてるってことですか?」
「そうなりますね、はい。と言っても一人だけなんですけど……、オフィシャル的には人望ないからなぁ、は、ハハハ……」
「け、研究者として凄いのはなんとなくわかりますから! えっと、それで何で名人だけじゃなくて『僕まで』引き留めを?」
そう、名人の襟首は手放したけど彼の左手首をがっしりホールドしてるだけではなく、もう片方の手で僕の右手を握ってるんだ、エイリアさん。
まさか、まーたバトルしろとか言い出すんじゃないだろうなこの人…………。一応聞いてみると「今回は人がいますので、流石にそこまでは!」とのことだった。
「ただ、ちょっとだけ! 三十分くらいご協力いただければなーと思いまして、ええ! 江口君だけでなく、ガンサイ君とエックスマンに!」
「『エックスって呼んでください』」
「えっ? は、はい。ガンサイ君とエックスに、です」
「こだわりはそこなのか、成程な」
まずはこれを見てください! と、エイリアさんは僕たち三人をテントの中へ。そこにはこう、なんだろう……、ナビマークはないんだけど、メーサー光線でも撃ちそうな古い特撮怪獣映画に出てくるSF戦車みたいな形をしたナビがいた。ナビだ、だって適度にデフォルメされてる上に、上部にこれまたデフォルメされた頭がついてるんだもの。
「この子は、
「相変わらずナビ制作に関してはイカれた能力だな……」
「江口君、年上のお姉さんで大先輩の私にその言いぶりは何ですかー!」
ぷんぷん怒ったエイリアさんは江口名人の脇腹にエルボーを執拗に打つ。あんまりパワーがこもってないからじゃれ合いみたいなノリなんだろうけど、それにしては本当に執拗で、最初はノリが良かった名人も「あの、そろそろ話進まないし……、長いですエイリアさん……」と疲れた声を出した。
なお快太君は快太君で、そのⅠパルスマン君というらしいナビの方をじーっと見ていた。
「と、ともかく! このIパルスマン君はナビのメインフレームと、簡単な受け答えだけする形で作ってあります。形態としては良性ウィルスみたいな状態になっていますね。
で、このIパルスマンを使って、対象ナビに紐づいたPETのグローバルなプロトコルアドレスから、プラグイン・アウトエリアを疑似的に拡張して照射します。それで理屈上は、外部から変形機構を操作できるナビを強制変形させることが出来るはずです。
ここまでは大丈夫ですか?」
「ちんぷんかんぷんです!」
「ちょっと専門用語多すぎて判り辛いです……」
「えっ!?」
快太君、満面の笑みと挙手での意味不明だ発言。面食らったエイリアさんだったけど、僕もなんとなくしかわからないので、あまり快太君にどうこう言う話ではない。
名人は「そう言う所がアレなんじゃないかな……」と言いながら、もう少しかいつまんで説明を始めた。
「つまり、あのIパルスマンを使って、君や他のオペレーターたちのバトルチップ転送が有効な範囲を無理やり広げる、ってことですね」
「ご、誤解を恐れず言うならそうです。シエル!」
『はい、エイリア!』
あっ、Iパルスマン君の頭部の上から、本物の戦車みたいにフタが外れて、シエルちゃんが顔を出した。なんとなくPETを取り出して、画面にエックスマンを向ける。シエルちゃんはエックスマンに、さっきのエイリアさんじみた風に手を振っていた。
そうか、ネットナビと言っても他のネットナビが乗りこんだりするって、そういう概念もあるのか。ふむふむ…………。
「射程の調整はどうかしら?」
『駄目、かしら。やっぱりメインストリート全体を覆うレベルで疑似パルスを照射するのは難しい。試験するにも、他のネットナビにサポートしてもらわないと無理そう!』
「予想通りです、か…………。そうなると、ますます二人にはちょっと協力して欲しいですね」
「結局、何をやりたい感じなんですか?」
このままエイリアさん主導で説明させると、また専門用語とかが飛び交って分かりづらそうな気がしたので、こっちから積極的に確認した。
つまり、作ったパルスマンの試験に協力してもらいたい、ということらしい。
「現状、別動隊として動いている私なんですけど、立場的にはデリート派の方が色々強いと言うか……。こっちのIパルスマン君の有用性を示せれば問題ないんですけど、今のままだとそれも難しく」
まずパルスの照射されてる空間まで対象ナビを追い込んでもらわないと、と言うエイリアさん。まとめると要するに、暴走しているナビはその移動速度が速すぎて、PETの対応している空間をあっという間にすり抜けてしまう(追いつけない?)。だからその範囲をある程度拡張するナビとしてIパルスマン君なんだけど、その拡張エリアもメインストリート全体を覆いつくすほどじゃない。だから実験して実証するにしても協力者が必要なんだけど、今そっちの指揮をしている人は、とてもじゃないけど人員を貸し出してくれる状況じゃないってことか。
そういう刑事ドラマの管轄違いみたいな手柄の取り合いとか忖度とか確執あるから、
「つまり、やって欲しい事って言うのは……、エックスとバンチョーマンにテスト対象、この場合はターボマンを追い込んで欲しいってことですか」
「はい! そうなります。暴走してるとは言え、彼等は一応自分の意志でハンドルくらいは動かせるようなので、頑張れば誘導できるのではと。…………大型トラックのコンボイマン以外は」
「そんな名前だったの、あのキャリアー付きの赤いやつ!? そのまんまじゃん!」
『そのまんまじゃん!』
僕とエックスマンの絶叫に不思議しそうな反応をするけど、はっとして適当に誤魔化した。いや、僕の側のタカラでトミーな知識は流石に全然通用しないから、彼等からすると突然意味不明な絶叫挙げた人になっちゃうから、うん……。
「直接対決しないなら、短時間で済みそうだけど…………。どうしよっか、エックス」
『今までの傾向から言うと、アレだよね』
「アレだねぇ」
思わず顔を見合わせる僕とエックスマン。うん、こーやって軽い気持ちで手を出して、なんだかんだで暴走ナビとのバトルまでたどり着くのが今までの経験則だ。
とはいえ横にいる快太君をそのまま放置するのもどうなのかなぁという……。不安そうに僕たちみんなを見回している。名人は既に電話を始めてるから、多分このまま参加する方向なんだろう。
そんな状況で、躊躇してる時だった。
「――――相変わらず無駄なことをしていますね、先輩」
ちょっとキザったらしい声。「げっ」とらしくない風に嫌そうな顔をするエイリアさんと、はっとして振り向く僕。
テントの入り口から、無表情に部屋に入ってくる小学生。年は僕と同い年くらいで、赤と黒と緑系の迷彩カラーな服装に、特徴的な白と黒の髪型。染めてる訳じゃなく天然らしいと何かで見たか聞いたかした覚えはあるけど、こんな卵の殻を被ったみたいな人物をこの世界で僕は一人しか知らない。
「伊集院、炎山……?」
「ん? 誰だお前は。関係者以外ここは立ち入り……って、どうせ先輩ですね。困りますよ、勝手に色々されたら。おれだって、先輩がバトルできないから色々手を回してるって言うのに」
「きょ、許可は取ってますもの、炎山君! 炎山君こそ何しに来たんですか! 嫌味を言うだけ言いに来たなら帰ってください、その工数で生産性は生まれませんッ!」
「一応、今日の合同作戦の『チーフ』なので。一番偉い以上、最低限は先輩が何やってるか確認しないといけませんからね。それにしても……、ッ!? ロックマンッ!」
『炎山様?』
エックスマンが映ってるPETを見て、やっぱり衝撃を受けたような顔をする炎山、つまり主人公のライバル君。ナビのブルースの声に「あっ、いや、何でもない」と一度咳ばらいをするも、視線はじっと僕とエックスマンを見てて何とも気持ち悪いというか、居心地が悪い。そのまま少し考えて何かを聞こうとしたタイミングで、快太君に「あっ、やっぱ似てるよね! ロックマン!」とか言われた。
「えっと、君もオフィシャルの人? ターボマン、助けてくれるよね? 熱斗シショーみたいに!」
「それを決めるのは、おれ達じゃない、上の意向と状況だ。……何だ、お前、ひょっとして光の知り合いか?」
「熱斗シショーはボクの心のシショーっす! いつか熱斗シショーみたいな――――」
「――――フッ、止めておけ。あんな只のガキ、目指したところで意味などない」
ふっ、とか、クールぶって決めてる炎山。なんか最初の方のアニメよりもニヒルな感じというか、ちょっと嫌味っぽい? エグゼ3のキャラよりもそんな印象が強いので、ひょっとして1とか2はこういうキャラだったのかな。
むっとしてる快太君を見ながらそんなことを思っていると、エイリアさんが後ろで爆弾発言(?)をかました。
「ぐ、ぐぬぬ…………! 随分と年下の子相手に、大人げないこと言ってるじゃないですか! 炎山君だって、ついこの間まで一人称が『おれ様』だったくせに!」
「なっ…………!? そ、その話は今全然関係ないだろッ!」
「科学省の時だって失態犯した分そのあと挽回のために他の事件に駆り出されるようになってイライラして書類提出し忘れたり、民間の子にバトルで負けてから必死にトレーニングしてるのだって知ってるんですからね! あんまり大人げないことしちゃいけません!」
「アンタが一番大人げないぞっ!?」
顔を真っ赤にして激昂すると、そのままエイリアさんにケンカ腰で詰め寄っていく炎山君。その姿を見て、やっぱり飛び級してたりしても精神は年齢通りかなーとか、ちょっと現実逃避をした。
そっか、やっぱり彼が今回の作戦主任だったか。……薄々そんな気はしてたけどなぁ、ここで顔合わせかぁ。
【作者メモ】
・エイリアの鬼コーディング:基本的にプログラム形式は全部ネットナビと同様の形式で作成する。今回は最低限の機能だけだったので、二、三時間でバグ取りまで終了してる。
本当に1から組み上げてると考えると、大体常人の三百倍くらいの速度で完成させていると言える。
・インスタントパルスマン:突貫作業で作ったのでインスタントが頭についてる。人格プログラムはほぼナシ状態で、外部からナビが乗り込んで操作するマシンのような扱い。
この「乗り込みシステム」を見て、ガンサイが何かのアイデアを思いつくのは別な話。
・炎山の「おれ様」:ゲーム初期にあるキャラ振れの一種。エグゼ2編に入るともっとおかしい(可愛い)ことになるので、こっちでもそれなりに理由付ける予定。