ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
色々気になることはあったけど、ネットナビ暴走事件については終息した。
エイリアさんの作ったインスタントパルスマンを使った作戦が一定の効果を発揮するということを証明できたので、炎山君たちのチームも渋々受け入れて協力する流れになったとか。あくまでナビを活動不能エリアに足止めしていくこと、1体1体ごとに対応していたこと、解放された後のナビたちは特にそのまま暴走することも無かったことなどが、功を奏したらしい。
……コンボイマン以外は。いや、コンボイマンも元に戻った後は暴走した訳じゃないらしいけど、そもそも車体が一番長かったせいで、インスタントパルスマンの射程範囲ギリギリとなっていたらしい。効果は微妙にあるのか「ギゴガガ」「ギゴガガ」とか本人いわく「まるで生まれたての小鹿のようだ」と言うらしい変形工程を経て、完了したのは深夜を過ぎていたとか。
とにかく。オフィシャルナビのゼロウィルス感染リスクは、止めようが戦闘しようが変わらなかったので、そこは目を瞑ることになっているらしい。
そんな話を、エイリアさんから伝聞で聞いた僕だった。ターボマンを確保した後、僕は父さんの研究室へ、名人さんは急ぎ足で別な階へ。快太君とは連絡先を一応交換してから、普通に別れていた。
その後のことが気になるかどうかで言っても、そのまま残留したらそのまま深夜コース確定だし、このあたりは当然の扱いだ。
なお快太君自身は、エイリアさんが後でタクシー代を出してデンサンシティまで送ったらしいとか、そんな話は置いておいて。
『快太君からメールで呼び出されて科学省電脳前まで来たら、シエルちゃんに引っ張られて光研究室の電脳まで連行された件』
「何と言うか、唐突だったよね……。今回は僕の方は楽だからいいけど」
『ご、ごめんなさい。エイリアったら忙しくって連絡をあの子に任せたものだから……』
翌々日というか週末、日曜日。有休をとった名人さんが帰りに才葉シティ名物のうなぎを食べてる動画がしれっと掲示板に乗ったりしてお祭りになったりといったことはあったけど、基本的には平和だった。みゆきお姉さんから次の仕事が舞い込んだから、ちょっとデザイン案を詰めるため夜更かししてたりとか、その程度。
そんな訳でちょっと寝ぼけた頭で起きた僕は、PETのメール通知に新着が来ているのを確認した。誰かと言えば快太君。ターボマンのことで話したいことがあるから、午前十時くらいにデンサンシティの科学省の電脳へと来て欲しいとのこと。
実際に僕が動く必要が無いのは有難い所だけど、なんで快太君からそういう話が来るのか。ひょっとして何か罠とかなんじゃ? と色々思ったりしながら、一応今日は家にいる父さんに確認する。と、「むしろ行きなさい、話はついてる」的なことを言われてしまった。まあ大して手間ではないからPCでモデリング案を作りつつエックスに行ってもらった。流石にもうスターマンみたいな、デリートをかけたバトルっていうのは起きないだろうという期待もあってのことだったけど。
そしたら電脳のリンクゲート付近で、シエルちゃんが待ち伏せしていた流れだ。
『その、バイト代は出すってエイリアも言っていたし、協力してもらえないかしら……。おそらく2時間も拘束しないはずだから。お金についてはエイリアと相談してもらって……』
『それを決めるのは僕じゃなくてガンくんだけど……』
「内容にもよるかな。とりあえず事情説明の分も時給に含めてくれるなら、話くらいは聞きますってエイリアさんに送っといて」
そんなこんなでシエルちゃんに手首を繋がれて(なんとなく連行ってフレーズが思い浮かぶ)、科学省内の電脳のリンクを辿っていく。最終的には光博士の研究室の端末の電脳に行きついたのか、そこでは大型ウィンドウ手前で腕を組んでるバンチョーマンと、ウィンドウに映る博士と名人の姿が見えた。電脳の奥には、コールドスリープカプセルみたいな装置(プログラム?)が何台も置かれている。
名人が光博士と並んでるの見ると凄いアニメを思い出すけど、これって単に博士の部下ってだけだよね、多分。
『では、私は解析ブースに入るから……』
『バンチョーマン』
『エックスか。数日ぶりだな』
その場から離れて、例のエックスマンをスキャンした時の筐体的なところに移動するシエルちゃんに、バンチョーマンと軽く挨拶を交わすエックスマン。
僕の方も、大人組に挨拶をする。
「おはようございます、光博士に、名人さん。……エイリアさんは?」
『だから“さん”は要らないが……』
『やあ、ご無沙汰だったねガンサイ君。エイリア君は、ちょっとお花を摘みに行ってるよ』
光博士が柔和に微笑み、名人は眼鏡の位置を直しながら顔をそむける。と、画面の端っこからタオルをハチマキみたいにしてる頭がひょっこり覗いていた。
「えっと、見切れてるけど快太君?」
『うん、ボク! この間はありがとう、ガンサイさん!』
背伸びをしてるけど届いていないのか、諦めて手を振ってこっちに存在を示す快太君がちびっ子らしくてかわいい。まあちびっ子と言っても僕と2、3歳くらいしか年も違わないと思うけど、子供はやっぱり背の大小が激しいからな……。
あっ、名人さんが頑張って持ち上げてる。恰好はゲーム通りの感じだけど、ちょっと腕がプルプルしてて名人の非力さを物語っていた。やっぱり研究者一筋ってことなのかな本来は。意外とイベントとかない時は、気を抜いて小太りしてるのかも。
『さて、エイリアちゃんが来るのは時間が掛かりそうだから、彼女抜きで少しだけ説明しておく。今日来てもらったのは、ゼロウィルスのワクチンプログラム研究の現段階について、ちょっと協力をしてもらいたいからなんだ』
「協力?」
『うん。マシンボット系ネットナビ、とここでは仮に呼ぼうか。ターボマンを始めとした彼等「暴走車だった」マシンボットナビたちを、こちらで預かってデータの解析を行っていたんだ。この話は聞いているかい?』
「えっと、エイリアさんから翌日に通話で」
『彼らに共通しているのは2つある。そのうちの一つは、マシン状態では制御不能の暴走状態に陥るものの、人型形態では問題がないってことだ。疑似人格プログラムには影響が起きておらず、また通信ラグが発生する程の高負荷処理が内部で展開されない。
これで面白いのは、今までのゼロウィルスとは別に「型が変わったわけではない」、という一点になる』
出ている症状や効果が違うとはいえ、ウィルス自体は共通の物、ということかな。
『その通り! 同じウィルスなのに全く別な症状が出たってことだ。このサンプルデータをもとに、現時点でのゼロウィルスの動作状態を解析する手掛かりになればと思ってね。うまくすれば、現時点でのゼロウィルスに対する特攻ワクチンが作れるかもしれない』
「それは凄いです! ……けど、現時点?」
『ああ。解析結果なんだけれど、ゼロウィルスは時間と共に徐々に進化、変態していくようなウィルスだといえる。それが、おそらくはとあるエリアを中心に感染範囲を広げているってことだ。
デフォルトでのナビからナビへのハッキング症状……、ゾンビ映画とかみたいな、ああいう風に他のナビを襲うような症状は出ていないからね。そこだけはまだ救いだから、これ以上予想がつかない進化を遂げる前に食い止めないと』
そう言う光博士の表情は段々と真顔になっていって、なんとなく名人の言ってた、光博士の追い詰められた時の「睡眠食事排泄全ての機能を失ったようなロボット状態になる」みたいなことになりかかってるのかなーとか、そんなことを思ったり。
これひょっとすると、ロックマンも感染してたりするんじゃないのかな? 明らかに切羽詰まり具合が尋常じゃない。ゲームで出て来たさわやかな微笑みが失われている。
『オフィシャルでもエース、炎山君のブルースも段々と重症になってきてしまってね。この解決が急務となっているんだ。上の方から直々に依頼されちゃった』
「それはそれは……」
加えて追加情報として、これは確かに一刻の猶予もないかもしれない。……って、炎山君の方もあれから感染するの早すぎじゃないかな? いや、それこそ僕らが知らないだけで他にも色々事件に当たっているんだろうけれどさ。
それで、どうして僕たちと? という話を聞くと「ここからは私が代わろう」と名人が光博士と入れ替わり画面の前面に来た。……抱えられてる快太君が、こっち見てピースピースしてる。
『主任は先に機材の準備に取り掛かった方が良いと思います。ここからは私が引き継ぎましょう』
『済まない、ありがとう江口君……、いや、名人』
『ッ!? しゅ、主任に言われると背中が痒くなりますね……。いや、それはどうでも良いか。
さて、ガンサイ君。ゼロウィルスに感染したナビの主症状について、君は知っているかい?』
ニュースとかで出た範囲なら、と断ってから少し反芻する。えっと、動作とか機能が低下するとか、ナビがオペレーターの言うことを聞かなくなるとか、チップスロットインが反映されなくなるとか……、あとフラッシュマンの時みたいに、洗脳されているみたいな挙動?
『そう、洗脳だ。そして先ほど言っていたほぼすべての話に、エイリアさんの解析結果を加えると一つの事実が浮かび上がる。ゼロウィルスとは、ネットナビに潜みながら「ナビを操り」「特定の情報を収集し」「どこかに送り続ける」ウィルスだと。プログラム君への感染事例も例外ではない』
『何かわかんないけど、すげー!』
快太君がひたすら何言ってもすげー! って言うだけのマシンになっちゃってるのはともかく(あんまり理解してない? してないフリ?)、そう言われるとなんとなく腑に落ちるというか、アニメに出て来たゼロの話でもウィルスがどうとかそういう話だったかなーとうろ覚えの記憶が、フワフワしている。
「えっと、多分それこそ普通にネットナビが動作してるのに必要なリソースとかまで食いつぶして動作してるから、ナビが変調をきたすってことですかね」
『おまけに、ゼロウィルスのマザーと仮定しようか。マザーウィルスが欲する情報を集めるために、ネットナビ自体の疑似人格プログラムにバグを引き起こして、暴走までさせるという寸法だ』
「何それ怖い」
『怖いし気持ち悪いよ、寄生虫じゃないんだから……』
『ネットナビがパラサイトに恐怖する、か。ふむ……、フフフ』
かなり恐ろしいことを言われてしまっているけど、そこで名人が「話を戻そう」と一旦ゼロウィルスの説明を中断した。ウィルスの挙動のサンプルを取りたいがため、ここにいるナビ2体でしか今の所対処が難しいのだと。
『私のバンチョーマンと、君のエックスは、どちらも偶発的ではあるがゼロウィルスの影響を受けないナビとなっているからな』
「あ、その話なんかしてましたね、スターマンに、バンチョーマン」
『――――?』
『あの程度のウィルスでは、な。ゼロウィルスとして見ても
いや、なんかバンチョーマンが変な発言してる。エックスの視界越しに見えるバンチョーマンの得意げな表情に、にこにこ無言のままのエックスだった。
『バンチョーマンは私の研究テーマ「既存プログラムの保護、再構築」の試作を組み込んで応用している。おそらくはそれが作用しているのだろう、というのが光主任の結論だ』
「保護と再構築…………、バックアップってことじゃなくってです?」
『もうちょっと高度なことをやっているぞ? まぁそれはともかくだ。
今回の検証に当たり、動作時間の関係から、比較的症状が軽かったターボマン。彼に協力をしてもらおうとオフィシャルから指名が入ったんだ。快太君が来ているのはそう言う訳だ』
「あれ? ゼロウィルス感染ナビって、PETごと動作停止じゃ……」
『PETどころの話じゃないんす!』
『ああ。さっき言ってたマシンボットナビのもう一つの症状が、それだ。…………彼らはプラグアウト出来ないんだ』
それは何と言うか……、えっ? いや、どういうこと? エイリアさんのインスタントパルスマンの効果が通用したってことは、ナビ自体はバトルチップを受け付けたってこと、つまりPETとのリンクは残っているってことなんじゃ?
『何かが競合しているのか、それすらわからなくてね。だから実際にもっと動作してもらって、ナビの内部でどう動いているかというのを確認したいんだ。
おそらくターボマン自体はこれ以上は問題動作を起こさないだろう、という仮説に基づいてのね』
『仮説っす!』
「いや、仮説って……。最悪、バトル中に別な形で暴走する可能性だってあるってことじゃないですか」
僕の確認に「否定はできないな」と名人さん。
『だから、それも踏まえての話だ。最悪何か起こった時、バンチョーマンならデリートせず制圧して動作停止カプセルに戻すことが可能だろうが、流石に対戦しながらいきなりというのは無理がある』
「それで、エックスですか……」
『事情を知っていて、快太君とも縁があるとなると、緊急のことだから時間もないとなると、ね。…………ちなみに炎山君も君を推薦していたりする』
「いや何で!? 全然面識らしい面識ないですよね、この間初めて顔合わせただけじゃん!」
『――――!?』
あんぐりして思わずツッコミを入れてしまった。エックスもすごい呆けた顔してる。えっ何で本当、全然謂れがわからない。ひょっとしてアレ? エックスがロックマンに似ているからとか、そんな理由!?
仔細はわからないが、そんな訳で君のお父さんとも話がついているんだ、と名人さん。少し冷汗をかいてる感じだったから、これ父さん結構名人さんに色々言ったんじゃないのかな……。顔が割と不愛想めだから、慣れないと結構怖いのと、エックスは明らかに何か隠し事がありそうな存在だし、そっちも踏まえてバンチョーマンで頑張って責任とって守れとか言われてるのかな。
画面の快太君を見ると、なんとなく笑顔だからいまいち状況をわかっていなさそうだ。
『ガンサイさんとバトル、楽しみ!』
「えっと、そうなんだ」
『うん。ロックマン、熱斗シショーみたいなナビだから、なんかキンチョーする!』
うん、やっぱりこう、本当にわかってなさそうだ。だけどなー、ここでいちいち色々指摘するのもちょっと大人げないし…………。
それに、名人が言っていた「変化するウィルス」ってところが、やっぱり気にかかる。前にも何か聞いた気がしたけど、今の所エックスは抗体が有るわけじゃなく、ネットナビで感染しうるところをエックスが使用していないから発症しない、みたいなことだったはずだ。いつそれが代わり、今エックスの問題ない動作をしているところに影響するか、それは流石に断定まではできない。
そう言う意味では、今の所問題はないけど。だからこそ、一日も早いゼロウィルスの解明は急務、ということなんだろう。
父さんが折れたのも、そのあたりが原因かな。
まあ、必要性はわかった。わかったからこそ、最後に確認。
「ちなみにこれ、アルバイトだとするといくら貰えますか?」
『…………そのあたりはエイリアさんと話してくれ。私はそこまで偉くないんだ』
僕の、最初にシエルちゃんが言ってたあたりの再確認に、名人は胃痛を覚えたような苦い表情を浮かべた。
【作者メモ】
・全長が超長いコンボイマンビークルモード:コンボイマンは後続のトレーラー、トレーラー内部に格納されているローラープログラムを含めた三位一体のナビだ!(政宗ナレーション)
・ブルースも感染:熱斗君たちがゼロアカウント突入するのもそろそろ。
・名人の研究テーマ:アニメ版からきてます。つまりバンチョーマンは「何を」保護して「何を」再構築しているのか……的な話。
・名人あんまり偉くない:宣伝部長だけど役職手当とかはない、そんな研究員。技量はともかくまだまだ研究員としては新米な方なので、エイリアには頭が上がらない。