ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
快太君&ターボマンとのバトルは、何と言うか本当に普通のネットバトルと言った感じだった。
お互いがチップフォルダ変えたりしながら、ちょっとずつ相手の戦闘パターンを把握して行ったりして、勝ったり負けたりを繰り返した。……流石にバンチョーマンによるダブルノックアウトはもう面倒ということで、そこはお互い暗黙の了解でチップ選択してたところはあったけど、まあそれはともかく。
『出来た……! ゼロウィルスのワクチンプログラム、名づけるなら『ゼロアビリティ』が! よしこれで――――――――ふぅ』
『主任ー!?』
『光博士!?』
光博士がそう言ってばたりと倒れたっぽいのを、名人たち光研究室の人たちが駆け寄っていく。画面外にフレームアウトしちゃったからどうなってるか見えないのだけれど、無茶し続けてたってことかな、ぶっ倒れるくらいだし。エイリアさんですら画面外に行っちゃって、シエルちゃんは「まともな食事をとらないとね」とか何とか言っちゃってる。
『ああ、済まない。流石に例のソースコードの解析まで並列でやっていたら、少し限界が……。ロックマンがあの近くで拾ってきたのだから、あながち無関係ではないと思うのだけれども』
『熱斗君たちのためでもありますけど、少しは体調を鑑みてください主任』
『大丈夫! 何故なら、私はまだまだ若い!』
『そう言う問題じゃないです光博士、私の方がピチピチです』
『それを言ったら私がこの面子だと一番若いことになるのだが……』
僕とエックスマンは大人組の会話に聞き耳を立てていた。いたら「ほへ~」って顔でもしてそうな快太君は、検証作業が終わったから接続切断(ログアウト)して帰宅。まだ日中だから一人で帰った。そしてターボマンはまた休眠状態に戻ってる。……あと、何故かエックスマンはプラグアウトさせてもらえなかった。
完成したその「ゼロアビリティ」というプログラムは、四角形のキューブ状のものだった。ミステリーデータとかのああいうひし形じゃなくって、4分割線が入ってていて、どっちかというとこれはナビカスタマイザーのやつに搭載されてそうな……。まだエグゼ3の時系列行ってないと思うのだけれどね、どうなんだろう。
『――――!』
『フム?』
そんなことを考えていると、突如エリアのリンクゲートが光って、データが転送されてくる。突然のことでバンチョーマンもやや腰に拳を構え、エックスマンもエックスバスターを構える。
転送されてきたネットナビは……、膝をついて、白い髪を振り乱す、刀傷みたいなのが所々にあってデータが分解されかかっているブルースだった。
明らかに手負いなブルースに、駆け寄るバンチョーマンとエックスマン、あとシエルちゃん。
『ブルース! アナタ、一体どうしたの、そんな状態で!?』
『ソード使いのお前が刀傷を負っているとは、中々不可思議だな』
『――――』
まあ、エックスは例によってコメントないんだけれど。
と、大人組もブルースが来たのに気付いてそれぞれ声をかけると同時に、ブルースの背後にPETのウィンドウが表示された。炎山君だ。
『…………
「わぁ――――」
『わぁ――――』
僕とエックスのリアクションが重なる。ついに、というか明確に光熱斗の存在を感じる一言が漏れた炎山君。
こういう状況でパパさん頼るってことは、なんとなくだけどそろそろ終盤かな? いやそうでもないか。
『アンティークエリアにあるパスコードを使い、侵入できるエリア「ゼロアカウント」。目的の敵はそこに潜んでいます。けれど……、ブルース!?』
『ぐぅ……、やはりプラグアウト、できません、炎山様……』
少なくとも諸悪の根源というか、おそらく例のゼロがいるだろうステージの手前まではいったらしい。ただそれはともかく、今のブルースの症状は見覚えがあった。
「エイリアさん、これってゼロウィルスだよね」
『ええ。炎山君とブルースは、今回の案件で最前線で調査、戦闘をしていますから……』
『そんなことは判り切ってます。だから、今は少しでもゼロウィルスの解析のために、ブルースでも役立ててもらえればって――――』
『……だったら丁度良いタイミングだったね。つい先ほど、ゼロウィルスのワクチンプログラムが完成した。
そこにいるエックスと、今休眠状態のターボマンの協力のお陰でね』
光博士の言葉に驚く炎山君。「ただしデメリットやリスクもある」と断りを入れる光博士。名人さんは画面から外れてるので、今何やってるかわからない。
『本当にこれは出来たばかり、つまり臨床試験のようなものが行われていない。実際に使用して、どういった反応が出るかはまだ未知数だ。効果は保証できるけれど、現状のウィルス症状に対して鎮静化した後、ゼロウィルスがナビの体内でどう反応するのか。
本当なら何があっても症状が発生しないだろうエックスに力を借りようと――――』
『――――リスクは承知の上です。使わせてください、光博士。現状のままではブルースの回復すらできません。お願いします』
画面越しだけど頭を下げる炎山君。ブルースもそれにならって、少し顎を引いた。
エイリアさんは息を飲み、シエルちゃんはやきもきしたようならしくない顔。
バンチョーマンが半眼になって、そんな炎山君とブルースを見ている。
『……わかった。どちらにせよ、サンプルケースは多い方がいいからね。今、圧縮データを送る。バトルチップ形式だから、そのままスロットインしてくれ』
『ありがとうございます。
…………これか。よし、「ゼロアビリティ」データスロット・イン!』
そしてシエルちゃんの前に置かれていた「ゼロアビリティ」のキューブは分解されて姿を消し、ブルースの全身が一瞬光って…………。
『……何か猛烈にフラグな気がするんだ、ガンくん』
「奇遇だね、エックス」
エイリアさんや光博士たちの技術力は信頼してるけれど。それはそうとして、この展開から何が起こりそうかと考えると…………。とりあえず物理フォルダこと巾着袋の中から、バトルチップを卓上に広げ始めた僕だった。
結論から言うと、まあ、予感的中だった。
『く、うおおおおおおおおおッ!』
『ブルース!? どうした、ブルーーーーーーーース!』
データスロットイン直後、しばらくは効果が効いてたとは思うんだ。
炎山君の回復系チップやら何やらのデータは受け付けていたから。
でもプラグアウトしようとした瞬間、サングラスの色が赤くなって絶叫を上げた。
『これは、一体何が……、エイリアちゃん!』
『シエル!』
『言われなくても解析中よ。…………えっ? なんで、ワクチンプログラムは効いてるのに……!?』
正直言って今すぐプラグアウトしちゃいたいところだけれど、これで「科学省全滅!」とかになっちゃうと流石に洒落にならない。僕とエックスマンがいることでどれくらい良い影響があるかわからないけど、今までのパターンからして「まぁそうなんだろう」と半分くらい覚悟を決め始めてた。
エックスなんて、既にマスクオンしてるし。表情はなんとなく暗い様な気がする。
そして明らかに様子がおかしいブルースは、そのまま僕らの方へ――――来ない。
そのフミコミは、シエルちゃんの方目掛けて……!
「いけない、エックス!」
『ッ!?』
反応が遅れる僕たち、それ以上に完全に予想外すぎたのか、目が大きく開くだけのシエルちゃん。
振りかぶったブルースはソードで一閃しようと――――。
『オーラフィスト!』
――――そして、その一撃は防がれた。バンチョーマンが飛ばした拳が、ブルースの斬撃を代わりに受けた。
弾かれた斬撃に「何?」とブルースは踏みとどまる。驚いたまま腰を抜かすシエルちゃんの前に、高速移動で現れたバンチョーマンは、もう片方の拳でブルースを殴りつける!
メットガードというか、シールドを展開するブルースだけど、ブレイク効果があるのかダメージが貫通して、そのまま弾き飛ばされた。
『ブルース……』
『フム。ここは私が引き受けよう。エグチ、準備は良いか』
『珍しいな。お前自ら前線に立とうというのは』
フッ、と笑い、バンチョーマンはメットと言うか帽子の位置を整えてから、エックスマンやシエルちゃんの方を見る。警戒のためバスターを構えてるエックスと視線があった後、背を向けてブルースの方を見た。
『ゼロウィルス事件解決のためには、この二人も犠牲にさせるわけにはいかないからな。
特にエックスに至っては、民間のナビだ』
『まあ確かにそうなんだがな……。わかった、いくぞ!
バトルオペレーション・セット――――』
『――――イン!』
二本そろえた指を暴走してるっぽいブルースに向けるバンチョーマンは、何と言うか……、エックス視点で見る限り、凄い頼りになりそうな、そんな背中だった。
※ ※ ※
『バトルチップ「イアイフォーム」、スロット・イン!』
『ぅぉおおおオラァッ!』
状況としては凄い緊迫するべき話だっていうのに、名人とバンチョーマンとのコンビが戦う姿は、不覚にも見入っちゃった。
ブルースのソード系攻撃の範囲を誘導して1マス? レベルのギリギリ回避で往なしたり。恒常的にバスター扱いのオーラフィストを、ブルースのガードが解けた瞬間を狙い撃ちして放って行ったり。かと思えば相手のフミコミに対してスタンディングバットだったり、何と言うか、まるで「解析されつくした敵」に対して戦うみたいな、そんな効率的なバトルだった。
『凄いです江口君! あの炎山君のブルースを圧倒してるなんて!』
『いえ、まぁガチでメタ張って練習していればこうもなるというか……』
「それ以上に、炎山君のサポートがないから押されてるって感じがします」
僕の一言に、ウィンドウ越しの炎山君がぴくりと眉を動かす。
そもそも今のブルースの動きは、オペレーターのサポートがない自律型ネットナビのような動き、つまりはゲームのAIじみたそれだ。シャークマンやバンチョーマン、ターボマンあたりの戦った経験を思えば、そこにどんな違いがあるかといえば「ナビ本人だけではない発想」「俯瞰視点からくるサポート」「追加バトルチップ」が大きいと思う。
そう言う意味では、今のブルースは本来のブルースからすれば片手落ちってところなんだろう。
「って、それはそうとガチでメタを張ってた……? ブルース狙い撃ちってことですか?」
『嗚呼、そうだ。いつかのリベンジマッチ用にな!』
『……元々、名人の連勝記録をおれ様が止めたから、対策されてるとは思っていましたが、これほどとは』
あっ、一人称が「おれ様」になってるよ炎山君……。よっぽどブルースが圧倒されているのにびっくりしてるのかな。エリイアさんが少し意地悪そうな笑顔を浮かべてる。
『ガンサイ君の言っていた話だが、自律型ネットナビと通常のネットナビ、腕が熟達すれば後者の方が強くなる可能性が高いと私も思っている。オペレーターとの絆……というのも当然だが、フルシンクロと呼ばれるレベルまで行動が一致できれば、それぞれの処理コストを激減させて戦闘することが出来るからね。
確かに複数枚のチップを事前内蔵しているような状態になっているナビ改造も強力だが、だからこそ逆にそれでメタを張ることも出来――――ッ! バンチョーマン!』
『ヌゥ、コイツ……!』
『ヒッァッハッハッハッ!』
『ブルース! 落ち着け、おれ様の声が聞こえるか? ブルース!』
ブルースがらしくない、獣じみた声をあげる。炎山君なんて当然のように無視して、両腕をソードに切り替えてフミコミ。フミコミクロス!? この時代にあったのそれ!!?
バンチョーマンも回避しようとした先に二重に襲い掛かってくる剣は回避できず、振りかぶりかけたバットで受ける。でも威力の問題か、バットの打撃は振り抜かれるソードの威力に負けて…………。
『ヌオォォォ!』
『きぇぃィィ!』
ニヤニヤ笑うブルースのサングラス、赤くなっている奥でギラリと、本当に獣じみた表情が見え隠れしていた。戦闘狂というか、理知的っぽいブルースからは想像もできないような、そんな凶暴さって言ったらいいかな。
そこから徐々に、徐々に、まるでブルースの戦い方が「進化してる」というか。ナビとして決められたプログラム通りじゃないような動作をして、バンチョーマンに襲い掛かっている。それこそチップ読み込みによるラグなんてゼロどころか、「ソード生成中に」斬りかかっている勢いだ。
流石にそんなルール無用みたいなファイトに、バンチョーマンも押され始める。
『ハァッ! ダアアアアアアアアッ!』
『くそ……ッ、エグチ!』
『バトルチップ『フレイムソード』、スロット・イン!』
『よし、おォリヤアアアアアアアッ!』
腕を切り裂こうと襲い掛かるブルースに、バンチョーマンはバットとは反対の手を変形させたフレイムソードで応戦! 今までバットを変形させてたのに、あえて腕を変形させたって、それは……、いやでも、そのお陰でバンチョーマンは辛うじて今の一撃を受け流した。
『ハァ……、ハァ……、流石に「二度も」その手を喰らうつもりはないからな。
ブルース、いや、その奥に居る
『ひひ、ひひひ……ッ!』
『――――』
「今のって……?」
ぼそっと呟いたバンチョーマンの一言。音声自体はPETで拾えなかったけど、エックスマンの視点ではしっかりと聞こえてしまった。
今の暴走状態のブルースを、バンチョーマンは知っている……?
『――――解析結果が出たわ! エイリア、転送する!』
『わかりましたシエル! …………、えっこれは?』
バンチョーマンが足止めしている間、ブルースの解析結果が出たらしい。大人組が一斉にエイリアさんのPETウィンドウに集まってくる。……こうしてみると、名人が口を開かないあたり確かに新人というか新入社員っぽさはあった。まだあんまり詳しくないというか、そこまで玄人ではないって全身からそんな雰囲気が出ている。
光博士は「やられた……」と疲れた声を上げた。
『そう来たか。……いや、となるとますます生物じみているな』
『現状のウィルス症状に対策を打たれたら、その状態からさらに変化して別症状を出そうとしている……? こんな、超高速で自律進化するなんて、一体どんなプログラムですかッ!?』
『名人、持ちこたえられるかい? パッチを充てる方法を今から考える。多分5分もあれば組み直せると思うけれど……』
『や、やってみます光主任。バンチョーマン!』
『くぉ……ッ、オーラオールラッシュの隙さえ見せないか』
徐々に、徐々に押されているバンチョーマン。本人いわくゼロウィルスは大丈夫だって言ってたけど、だからってこのままどうにか出来る未来が見えない。
ここでブルースが暴走して、それこそ科学省壊滅とかになったら、下手すると今後の原作崩壊どころの騒ぎじゃない。つまり、それこそ何かもっとヤバいレベルの事件が引き起こされてこの世界終わっちゃったりするんじゃ…………。
「エックス」
『―――――うん、わかってるよガンくん。俺も……』
エックスバスターを構えたエックスはそのままチャージし、バンチョーマンとブルースの間に距離が出来た時点でダブルチャージショット。
予想外の方向からきた一撃に、シールドを展開するブルース。驚いた様子のバンチョーマンの前に、エックスマンはバスターを構えて立った。
『ここからは俺とガンくんが引き継ぐよ、バンチョーマン』
『その顔。何か対策があるということ、か。……フッ、皮肉なものだな。「今度は」私が庇われる側か』
『?』
『ガンサイ君、何を考えているんだ!?』
『素人ネットバトラーは引っ込んでいろ! 光じゃあるまいしッ』
「えっと、多分大丈夫です。……というか、今の状況だと僕とエックスくらいじゃないと、時間稼ぎは無理かなって」
アナライズ結果として、名称とHPが表示される。現在のHPは360。丁度良いと言えば丁度良いのか、いや微妙だな……。以前のバトルを考えると、名人というかバンチョーマンのファイトスタイルおよびチップフォルダ構成だと、時間稼ぎには向かない。対してエックスマンと僕の場合はそれが出来るのだけど、問題は僕の身体というか神経的な痛覚がどこまで耐えられるかってことだな……。
「……お手柔らかに頼むよ、エックス。
バトルオペレーション・セット――――――――」
『――――――――イン!』
『フフ、ハァッハハハハハッ!』
両腕にソードを構えて斬りかかってくるブルースのフミコミを後退してギリギリかわすエックスマン。そして僕は、机に広げたチップからシエルちゃんとホーリーパネルとリカバリー系のものを探し始めた。
【作者メモ】
・時系列:大体今ごろグラビティマンと戦闘手前な熱斗君
・バンチョー自ら!?:「これ以上お前たちに犠牲が出ては困るんでな」
・動揺する炎山:もともと熱斗に負けるまで、ブルースのオペレートはほぼせず半自律型動作に任せていた(エグゼ1)。なのでブルース単体での戦闘でバンチョーマンが完全に対策出来ているとなると、自分の腕を上げないと負けると確信したため気合を入れてる
・新人な名人:名人自身かなりプログラミング関係は出来るけど、単純に他の二人が頭一つ二つ抜けてヤバいってだけ。
・初手システマシエルの準備:競技としてのネットバトルじゃないからね仕方ないね。
というわけで、アンケート結果反映につきボス戦1はブルースとなります。
次回、泥仕合(予定?)。