ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
自宅のリビングにみゆきお姉さんが来訪しているという異常極まりない状況に、思わず思考が真っ白になる僕。
エックスマンも似たような気持なのか、さっきからコメントどころかPETにチャットの通知すらない。
そんな大混乱状況を軽くスルーしながら、みゆきお姉さんは緑茶を一口飲んだ。……なんとなくシャンプーとかと一緒に蚊取り線香の匂いもする人なので、意外とそのたたずまいは似合っていたりする。まあ、僕の勝手なイメージだけど。
母さんは割と早々に「じゃっ、あとは若い二人に任せて……」みたいなお見合いめいたことを言って退散してたけど、その勘違いはいくら何でもどうなんだろう……? 年齢差考えようよ母さん。というか、あっ、あの足取りだとショッピングモールとか行っちゃってそうだし……。
「…………お邪魔してるわ、改めて」
「いや、それはわかってますけど……。何で?」
「個人的なメインと公的なメインと2つあるけれど………………、まずは手短に済む方から片づけようかしら」
言いながらみゆきお姉さんは、ショートバッグの中からケースを一つ取り出す。百均で売ってる、バトルチップを適当に入れておくケースだ。現実だとSDカードとかのそれに近い。
渡されて見ると、そこには……、えっと、何のマーク? BというかΣというかをあしらったマークなのはわかるんだけれど。
「名人さん、江口博士からよ。あなたの持っているチップのデータフォルダをベースに、全体のチップ容量を底上げしたもの」
「えっ? 何で名人さん……?」
とりあえず言われるがまま、エックスマンの入ってるPETにスロットイン。チップ内部からバトルデータ化された電子チップフォルダが展開されたのを見て、エックスと僕は噴き出した。
いや、ショットガンとかはそのままなんだけどソード系は一部属性を除いてワイドブレードとかロングブレードとか入ってるし、ついでにウッドマンとかシャークマン、スカルマンまで含めて皆ナビチップがV3になってる!? リカバリーも300来てるし。バトルオペレーションの対応が1か2かわからないから、どこまで今後引き続き使って行けるかわからないけど、少なくともナビチップについては重宝しそうな感じの構成になっている。
というかちゃっかり、シエルちゃんもV3だしホーリーパネルも当然のように入ってる!?
いや、これをわざわざ名人がつくってくれたのも謎だし、みゆきお姉さんが運び屋さんやってきたのも何もかも謎なんですが!!?
疑問をぶつけると、みゆきお姉さんは「名人さんが頑張ったもの」と一言。
「お詫び、だそうよ。巻き込み続けて、エイリアさんたちが何も返せないなら、今一番必要としているだろうものをまずは作ろうって。それくらいの誠意がなければいけないだろうって、東奔西走してたわ」
「そ、そりゃ、確かにかなり助かるチップフォルダではあるんですけど…………」
「ちなみに写真とったわ。………………これ」
「へ?」
すっとPET画面を見せて来るみゆきお姉さん。そこにはマサさんとサロマさんとみゆきお姉さんと名人、4人で1枚の写真に入ってるもの。……名人は何でそのオレンジっぽい配色のマスクとかしてるんだろう? ただでさえ眼鏡が反射して目がわからないから、不審者レベルが上がってる気がするんだけど。ちょっとゲートマン系の色合いだ。
「多忙による不摂生がたたってそろそろ顎がたるんで来たから、ダイエットが終わるまでつけてるそうよ」
「あのだから、せめて僕が疑問で聞いてから答えません……?」
「結果は変わらないわ。………………定期健診前の前の追い込みと自戒とも言っていたわね。子供達のイメージを守るのも大変そう、というところかしら」
まあ写真の中で、特にサロマさんが一番うれしそうにピースしてたりするのを見ると、その職業的な苦悩もわからなくはない。なんならみゆきお姉さんも無表情ながらピースとかはノリノリっぽいので、このダウナーさで意外と浮かれてたのかもしれない。お茶目さんだし。
いる? と言われたので、写真を欲しいと言ったら、パケット料金が勿体ないからとエクステンションチップでプラグインして、直接データ転送させてもらった。
「名人、貴方には合わせる顔がないとも言っていたわ。…………ちょっと太っちゃったという意味もあるかもしれないけど、『前に講釈を垂れたほど、大人たちが責任を果たせていないから』って」
「名人さん個人には、あんまり迷惑かけられてないと思うんだけどなぁ……。で、何でその話をみゆきお姉さんが知ってる感じです?」
「サロマからネット占いということで紹介が来たもの。………………自分のナビを失って、少し落ち込んでいたようだったわ。少し悩んでいたので相談にのった、が正解かしら」
「あぁ……」
間違いなくバンチョーマンのことなんだろうというのはわかるんだけど、そのことについて僕がどうこう言う段階は既に過ぎていた。
「で、もう一つというのは…………」
「ええ。貴方たちに――――――――最終選択を迫りに」
「『選択?』」
ええ、と。みゆきお姉さんはテレビをつけて、「そろそろかしらね」とか呟いた。
普通に国営放送のニュースだったのが、ぱっと、画面がジャックされて切り替わる。…………うーん、この演出みたいなのって、ワイリー様が最終戦争だの何だの言ってた時のアレを思い出すなぁ。
って、そんな冷静に見ている場合じゃない。画面には例の顔色の悪い教授。バサッ! ってマントを払いながら、彼は高笑いを上げていた。
『ファーッハッハッハッ! 愚かな人民たちよ! 我らWWWのネットワーク支配計画は終わりではない! ドクターワイリーの失踪ですべてが終わったと思ったか? とんだ茶番だ! 我らは意志ある限り永久に不滅ッ!
さぁやり直そうじゃないか、かの超大国共の軍事衛星の確保からなぁ! もはやハッキング用のロケット発射すら不要ッ! 軍事衛星を乗っ取り、軍事基地を制圧し――――世界崩壊の終末戦争を改めて始めるのだァ!』
「演説までドクターワイリーのパクリとか終わってるよ……」
『狂信者というより、出来の悪いファンって感じだね……』
僕とエックスの散々な感想に、ふっふっふ、と肩を震わせる声。見れば、みゆきお姉さんが視線を逸らして、失笑をおさえていた。ちょっと耳が赤い。
見るが良い! と、教授は画面映像を切り替える。
そこに映ったのは、人のいないコロシアムみたいな電脳空間と、そこにリンクゲートから現れたロックマンだった。
『ハーッハッハッハッ! よく来たな、WWWに歯向かう哀れなネットナビよ! 今、貴様たちの哀れな末路を全世界に見せつけてやる!』
『ここは……?』『お前は、教授!』
思いっきりロックマンが映像に映っちゃってる!? えっ、これ色々大丈夫なの!
僕の懸念とか色々気付いていないらしい熱斗君とかをよそに、教授はロックマンをディスプレイカメラのウィンドウから見下ろす。
『まさか「マーティ式の」ファイヤーウォールを突破してくるとは思っていなかったが……、伊達にワイリー様に楯突いたわけではないということか。少しは認めてやろう』
『へっ! ドリームウィルスなんて、何度でもおれ達がやっつけてやるぜ!』
『クッククク…………。貴様らがドリームウィルスにたどり着くことなど、永遠に出来んよ』
『何だと!』『……ッ! 熱斗君、大量のデータが転送されてる…………!』
ゲーム主人公らしい堂々とした物言い。ちょっと調子に乗ってる感じなのが煽り力が高い。
そんな熱斗君の言葉に、でも教授はそこそこ余裕そうだった。
そして画面に、次々とリンクゲートを介さず大量に転送投入されてくるのは――――。
『デリィィィィイイイイイトッ!
刮目して見よ! 恐れ慄き、絶望せよ!
ゼロウィルスの集めたデータをもとにドリームウィルスを介して生み出された、強化コピーナビ軍団をッ!』
転送されたのは、ちょっと色合いがダークチップつかったみたいに紫のオーバーレイでもかかったような、ファイアマン、ガッツマン、ニードルマン、ブライトマン、アイスマン、クイックマン、カラードマン、エレキマンの8体。
なんとなくラスボス戦前のボスラッシュかな? とか思っちゃった僕は、ゼロ3のミッションオール100を人力でやったときのことを思い出していた……、友達はカードEリーダー持ってなかったからね!
どうやらそのまま、教授はロックマンたちがあの大量のナビに敗れる姿を見せて、抵抗は無駄だと公表するつもりらしいけど。…………、うん、初手ガッツマンから優先的にぶっ倒しにいくあたり、熱斗君はちょっと鬼だと思うんだ。
そんな映像を見ながら、みゆきお姉さんは僕に声をかけた。
「………………ここが分水嶺。ここから、貴方がどうするかで、貴方の未来も変わってくる」
「分水嶺? って、その……、いや意味はわかるけど、何の分水嶺?」
なんでもない事のように、みゆきお姉さんは続けた。
「――――ここからエイリア・C・防守からかかってくる電話と依頼を受けるか否かで、貴方とエックスマンが、これから何度も命の危機を経験するか、ということよ」
そう言った瞬間、PETに通話の着信音が鳴る。
タイミングがあまりに良すぎて、あとみゆきお姉さんが一切笑ってなくて、ぞわりと僕は心臓を掴まれるような感覚を味わった。
恐る恐る、なんとなくみゆきお姉さんから視線を外さないまま、エックスに頼んでサウンドオンリーで通話をかけてもらう。
『ご、ご無沙汰しています、ガンサイ君。……その後、調子はどうですか?』
「おはようございます。えっと、ぼちぼちです。…………あー、テレビでジャックされた映像とか見ていたんですけど、ひょっとしてその関係で、何かありました?」
今までの経験則から、大体展開は読める、様な気がする。
ぐっ、と何かをこらえるような声が聞こえて、エイリアさんは言った。
『…………否定できませんが、その前に。
ゼロは、さきほどオーバーホールが完了しました。現在、マーティを相手にメインフレームの動作の最終調整中です』
「あっ、それは良かったです! ……って、その人選で大丈夫なんですか?」
『ええ。というより、ゼロ本人がそうしてくれ、と。…………償いで返せるものはないから、せめてデリートしない程度でも、直接殴り合わせてくれと』
一方的に殴られる、という形じゃないのが、ゼロがいかにちゃんと情緒を育んだかが窺えて笑ってしまいそうになる。マーティ自身は八つ当たりと、贖罪と、色々入り混じった精神状態だったはず。だから一方的に殴るだけじゃなく、殴られるという方が受け入れやすいだろうという考え方なんだろう。
『それとは別に、さきほどまでオフィシャルで、あのロックマンではないナビたちによる強襲作戦が練られていました。が、それが破綻したんです』
「破綻?」
『…………光博士いわく、あのネット領域から大量のゼロウィルス亜種が漏れていると』
「いや、亜種って…………」
『その亜種は、厳密にはゼロウィルスではなく、ドリームウィルスの一部というのが正解でしょうか。おそらくゼロウィルスの設計データを流用しているのでしょう。……感染したナビの動作を低下させるわけではなく、そのナビを強化した形でコピーしたボディを生成し、対象のナビにぶつける。
先遣隊として調査していたメンバーのナビが、これによりデリートされました』
「あー、…………なんとなくわかった」
つまり感染してるところとかそういうのは同じだけど、その結果がナビの暴走じゃなくってコピーナビを出現させて襲わせるって方に機能が変わったものになっていると。
いや、どんだけなんだよドリームウィルス……。ってことは今、熱斗君たちが戦っているコピーナビも、そういう経緯で生み出された連中なんだろう。
『江口君のバンチョーマンがいれば、正式に依頼を出したかったところでしたが、現状それも望めません』
それは、バンチョーマンがエックスマンを、僕たちの我儘を庇ったから…………。
『……本当はこれ以上、ご迷惑をかける立場でない事もわかっています。でも、他に縋れるものが、私にはないんです…………!
だから、お願いします。あの教授を捕まえるために、力を…………貴方の力を貸して………………ッ』
通話越し、サウンドオンリーの音声通話だけで良かったと思う。
エイリアさんが、今凄い酷い顔して泣いてるのが、声でわかってしまったから。
そんなの、正面から映像付きで言われてしまったら、本当に断るに断れなくなっちゃいそうだったから。
音声はみゆきお姉さんも聞いている。でも彼女は、何も言わずに僕の目を見ている。
これが分水嶺、とみゆきお姉さんは言った。つまりここでエイリアさんに協力をしなければ、何事もなく終わる、と。…………それこそ事件はロックマンが解決するのだろうから、何もなければ僕もお役御免というか、こういう大規模な事件に巻き込まれることはないと。
まあ、それこそエグゼ2とか3とか、後続作品の世界の危機レベルなやつは多分、自動的にどうしようもなくなるんだろうけど、その事件について僕が1ミリたりとも中心に近づくことは、きっとなくなるはずだ。
僕はPETのウィンドウを最小化して、エックスマンと視線を合わせる。
エックスマンは普段通り何も言わず、でも微笑むこともなく僕を見ていた。
「……………………何をやればいいのか、メールか何かでまとめられるならお願いできますか?」
僕の結論に、みゆきお姉さんは微笑んで肩をすくめた。
エイリアさんは「えっ?」と、むしろ困惑する声を上げた。
「……状況的に本当、どうしようもないってのは伝わりますし、いち民間人としては色々思う所はないわけじゃないですけどね?」
『え、ええ。ですから、その――――』
「それでも、流石にこのまま引き下がっちゃうのも、どうかって思うんですよ」
うん、それだ。自問自答して、とりあえず考えてみて、出した結論はそれだった。
こういうとこの世界に酷く失礼な感想かもしれないけど、それでもホビー系? ゲームな作品だからこそ、世界の危機なんてそれこそ日常茶飯事だ。
そんな中で、蚊帳の外で僕に被害が絶対及ばない、僕の生活が一切脅かされないと言うのなら、そりゃ喜んで身を引くさ。だってパッチのお陰で軽減されたとは言ったって、エックスマンの戦闘は実際に痛い。痛覚が悲鳴を上げる。
でも、そんな保証何てそれこそ1ミリたりともないのだ。
流石に急に卒業式の日に知らない奴からナイフで腹刺されたりとかトラックに轢かれたりとか、そんな話はないだろうけれど。それこそ僕自身が一切コントロールできない範囲で、勝手に世界が終わりそうになって、そこに少しでも助力することでもっとマシな状況になったらみたいな、そんな話があるとするなら。
それは、その後のことをある程度は鑑みて、協力できる範囲で協力するし。事前の話と違うことになれば、それなりに謝ってもらったり、色々話し合ったりもするだろうけど。
だからこそ無関係でいて良いかというのとは、別問題。
向こうから求められているのなら、きっと今、間違いなく、誰かが僕の力を必要としてるなら。
…………なんてクサいこと言っちゃったりしたけど、エイリアさんの「なんでもする」が気になってる下心とか、あとアニメファン的な心理で事件の顛末が気になったりとか、野次馬根性な話もないわけじゃない。
原作に積極的に関わりたくない、という心持は捨て去った訳じゃないけど。まあそこは臨機応変にしようということだ。
だって僕、まだ公的には小学生だし。それくらいのファジーさはあっても良いと思う。
『――――――――そうなるとますますデリートされる訳にはいかなくなったけどね』
「何か言った? エックス」
『なんでもないよ、ガンくん』
とにかく協力する旨を伝え、また泣き出したエイリアさんに色々言ってから、一旦通話を切った。
ため息をついてから、みゆきお姉さんと視線が重なる。
「あー、これって大丈夫なんでしょうかね」
「………………現時点では、まだ視えないわ」
「そうですか」
「でも、前にも言ったと思うけれど…………、もっと周りを頼っても良いのよ。
具体的には私のお店でアルバイトしてお小遣いを増やすとか」
「わざわざ毎日デンサンシティまで行くほどの暇はないですよ……」
「あら残念」
くすりと笑ったみゆきお姉さんは、ロックマンの動向を見て何かあったら連絡するわ、と言ってお茶を飲んだ。
冷蔵庫のペットボトルは他にも飲んで良いですからと言うだけ言って、僕はエイリアさんのメールが来る前に、急いで2階の自室へと向かい。
「とりあえずこれが、今回のラストオペレーションになるのかな?」
『もう色々諦めた感じが強いね、ガンくん…………』
「まぁ、なるようになるでしょ。――――プラグイン! エックスマン・トランスミッション!」
自分のPC筐体に、例によって腕をクロスさせたり回転させたりしながら、プラグ端子を接続した。
※ ※ ※
「まあ、なんとなくそうなる魂という気はしていたけれども……。じゃあ、出番よ」
そう言いながら、ガンサイの去った階段の方を一瞥してから、自分のPETを見る黒井みゆき。そのPETは、ガンサイは気付いていなかったがスカルマンのナビマークのもの「ではない」。
寒色で暗い色合いのそれは、いつかテレビ局での事件の際に持ち込んでいたもの。
「さっきの写真に搭載したアドレス簡易ビーコンのプログラムで、エックスマンの位置は捕捉できる。………………行先はウラインターネットが入り口になっている。であれば、貴方の協力があれば、より安全にあの子たちが辿り着けるはずよ。
……まったく、ここまでサービスするのは今日だけだもの、もうっ」
その画面、暗いディスプレイに怪しく光る、デジタル的な光と2つの目に見える何かに、少しだけ頬を膨らませてから、彼女はそのPETを座ったまま構え。
「プラグイン。…………ダークマン、トランスミッション」
まるで拳銃を構えるように両手をそえたそれを、ガンサイの家のテレビのプラグ端子に向け。まるで「ひとりでに」動いたかのように、PETから有線のプラグ端子が、拳銃の弾丸のように射出され、受けのソケットに接続された。
【作者メモ】
・マスク名人:バンチョーマンデリートに伴い帽子をやめて、ゲートマンのマスクに変更になってる。ちょっとずつ2の衣装に近づいていってる感じ。
が、本作的にメインの理由はみゆきお姉さんに語った通り。
・中継されるボスラッシュ:教授的には絶対に倒すため、ロックマン1体ごときにロックマンのコピーをあてるのではなく今まで戦ったナビを強化してぶち当てている。このあたりはゲーム原作の流れを踏襲。
理由付けはドリームウィルスのパワーアップの一環と言うことで。
・ゼロ最終調整中:最終決戦に乗り込みたいので、意気揚々と訓練中
・オフィシャル部隊:詳しくは次回だけど、教授の現在いる場所を特定するため、別ルートから侵入しようとして失敗した。
・「ここまでサービスするのは今日だけだもの、もうっ」:ちょっと拗ねてるかもしれない。
次回、デンセツのエイユウ(予定)