ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった   作:黒兎可

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ちょっと欲張りすぎて文章量多めですが、後でまた文章追加するかもです…(勢いで書きすぎて説明不足の箇所ありそうなので)
 
トランスミッション編エピローグ


第40話「なんとかできる様に一緒に頑張りましょう!」

 

 

 

 

 

 デンサンシティの科学省。地上5階の一角にある「ビッグデータ分散解析研究室」の扉の前に、一人の男性がいた。

 青いトレーナーにアルファベットで「X」と白文字で描かれたトレーナーに白衣を纏った彼は、何故か首に赤いマフラーを巻いている。顔立ちは若いがどこか相応に疲れた印象で、愁いを帯びたような目つき。髪型は風になびいたように少し後ろに流れていた。

 

「ガンサイが見当たらないとなると、付き合いから言えばここに来ているかな? …………おや、留守だ。アテが外れたね。

 じゃあ、後は光博士の最先端研の方に――――」

 

「――――お久しぶりですね、鐘引(かねびき)当麻(とうま)博士」

 

 おや、と。背後からかけられた声に苦笑いすると、彼はその主であるエイリア・C・防守の方を見た。いつものように金髪のお下げ。白衣の下もネットナビを思わせるボディースーツの上からスカートとジャケットを着用している形であり、その服装ふくめて科学省の中では浮いていた。

 

「……やあ、そうだね。一月ぶりくらいにはなる、かな? キャスケット防守博士」

「ガンサイ君でしたらご推察の通り、光博士の研究室です。さっきちょっと会ってきました」

「そうだったか。じゃあ、僕はこれで――――」

 

 お互いニコニコと微笑みながら相対し、そのままの流れで彼女の隣を去ろうとする鐘引博士。そんな彼の腕を。

 

「――――逃がしませんよ」

 

 思いっきり掴むエイリア。微笑みながら既に背を向け立ち去ろうとしていた彼の右腕を、両手でつかみ、そのまま綱引きのように体重をかけて足止めする。

 鐘引博士は、そんな彼女に顔を向ける。表情は先ほどまでと大きく異なり、鋭く睨むようなものだ。

 

「一体、何の真似かな? 何度も何度もウチのガンサイを、危険なネット犯罪の中心に放り込むようなことをしておいて」

「その件についての謝罪は既に何度もしていますし、なんなら今からでもまた何度でもいたします」

「君の謝罪に、あまり意味はないよ。家内のナナだって、光博士をひっぱたいたくらいだ。あの子には珍しく、ね。

 それくらい、君たちがしていたことは非常識だという認識を持ってもらいたい。そして、取り返しがつかないことだとね」

「…………その『取り返しがつかない』の意味を、お聞きしたいのです」

「話すことはないよ。前にも言ったが――――――――」

 

「――――――――COmprehend COnnect ROllup Network」

 

 エイリアの上げたその名称に、手を振りほどこうとしていた博士の手が止まる。

 

「……どこで『ココロネットワーク』の名称を?」

「むしろ、博士がそれをご存じな事の方が意外です。

 私は…………、おおよそ七年ほど前、光博士の研究室で少し色々『ヤンチャしていた頃』に、視ました」

「見せてもらったのかい?」

「いえその、ちょっとちょちょいとハッキングを…………」

「それを人はクラッキングと言うんだよ、君さぁ…………」

 

『ま、まぁエイリアも今じゃ反省しているし、当の光博士がおとがめなしにしてくれたから、あんまり言ってやらないでくれないかい? アタイはともかく、エイリアはガラスのハートだから………』

 

「ちょ! ちょっとマーティ!? 何言ってるんですかっ」

 

 自分のPETを開いて思わず悲鳴じみた声を上げるエイリア。そんな彼女に苦笑すると、それで? と続きを促す博士。

 はっとして髪を整え、一度咳払いしてから彼女は続けた。

 

「おそらく、ガンサイ君とエックスマンとの間には、それに近いことが起こっていると考えました。現状のガンサイ君は『エックスマンを経由して』、常時その身体に『脳波と情報を上書きされ続けて』いる。だからエックスマンが動作不能状態以上のダメージを受けた際、ガンサイ君の側にも動作に影響が出る。

 ほぼ植物状態だった彼が、ああして元気に動くにはそういった方法が必要なんでしょう。違いますか?」

「……………………原理については、『仮説レベルでは』合っているとは思うけれど、だとしたらそれを仲介するココロサーバーはどこに該当するのかな?」

「えっ? PETではないんですか? ガンサイ君から、鐘引博士からもらったものだと言っていましたので」

「ハァ……。いいよ、わかった。そこまで推察したのなら、下手にあの子へあることないこと言われるより、教えて口止めした方がマシだ。

 僕が話せる範囲のことを教えてあげよう。ただ…………」

 

 廊下で話すことじゃないね、と。鐘引博士は観念したように両手を上げた。降参のポーズだ。

 電子ロックをタッチで解除すると、エイリアは自分の研究室たる「ビッグデータ分散解析研究室」の中へ。相変わらずと言うべきか人はいない。

 

 椅子を一つ薦めてから、インスタントコーヒーを雑に入れて手渡した。

 

「…………? えっ? コーヒーってこんな色がまばらになるものなのかい? あれ? 黒いところと水のところが分離してるけれど、どうして」

「す、すみません、私がやるとどうしてもそうなっちゃって……、ウチの研究室の子たちにもよくツッコミ入れられていまして…………」

「僕の知ってる珈琲じゃない」

 

 困惑しながらも苦笑いしてガムシロップを3つ入れると、彼はそれを口にした。「砂糖水、のお湯かな?」と困惑した様子が止まらない。エイリアも羞恥心が止まらない。

 

「それで? じゃあ……、まず何を聞きたいのかな」

「まとめると、3つほど。

 一つ目は、何故自ら作ったネットナビであるエックスマンのことを嫌っているのか。

 二つ目は、医学的にガンサイ君はどういった状態と『本当は』診断されているのか。

 三つ目は、ガンサイ君の身に一体何が起こったか――――手術の時に何があったか。

 お願いします」

「流石に要点がまとまっているね。……じゃあ一つ目から、かな」

 

 深くため息をつくと、鐘引博士は目を細め、どこか遠くを見つめる。その視線のまま、「認めたくないから、かな」と言った。

 

「認めたくない?」

「詳しくは三つ目の回答の時にするけれど、言葉通りだよ。エックスマンが『今のエックスマン』であり、ガンサイがああして元気に動いていることの因果関係を、僕は認めたくないんだ。『科学者として』『父親として』認められない、が正しいかもしれない」

「それは、一体――――」

 

 

 

「――――今のあの子たちを結んでいるものは、『科学的には』何一つ存在しないから、かな。何一つ証明できないんだ、あの子たちの繋がりを」

 

 

 

 鐘引博士の一言に、エイリアは目を見開く。

 

「ついでだから二つ目も一緒に応えよう。本来ならウチのガンサイは未だ『植物状態であるべき』なんだ。脳波計測でもすればすぐわかるが、あの子は『脳波を発していない』」

「えっ…………? それは、えっ? いえ、ちょっと何をおっしゃられているか意味が………………?」

「私も初めて、エックスマンを前にしてあの子が目覚めたときは、そんな心境だったよ。

 まあ、電気信号の類は行き来しているのは間違いない。でなければ人体として活動が停止していることになる。だけれど大脳が、その記憶と人格とを出力できているべきものが、正しく動作していない。『この目で見たから』それだけは、間違いないんだ」

「……………………」

 

 思っていた以上に想定外の事が彼の身体には起こっているらしい。エイリアは、自分の手が震えはじめたのを自覚する。マーティがPET越しに「大丈夫かい?」と聞くが、それに受け答えする余裕もない。

 だって、そうならば。父親たる彼が言うことが正しいのなら、鐘引ガンサイは――――。

 

「…………脳死判定を、受けたんですね」

「………………まあ、ね」

 

 そこから奇跡的に蘇ることはあるだろうが。それでも、脳の人格を形成する何かが欠損し、人体として活動していたのだとしても「感情ある生命体」のそれではとてもない「生きているだけの状態」。本当の意味で植物状態だったと言われ、全身が動かなかった状態からそうなった経緯に、エイリアは先走る。

 

「手術ミスですか? いえ、ミスとは限りませんけれど」

「失敗した、のは間違いない。……じゃあ、三つ目について教えよう」

 

 あれはWWW(ワールドスリー)のネット犯罪が過激化するちょっと前だったかな、と。鐘引博士は辛そうに言う。その顔は、どことなくガンサイがゼロを助けないと、と言っていた時のそれを思い起こさせた。

 

「過激化する前とは言っても、同時多発的に大規模にやっていなかったというだけだ。お陰で発生した列車事故の際、巻き込まれ、打ち所が悪かったウチの息子は小脳と脊椎を損傷してね。そのせいでほぼ全身が不随になっていた。

 日に日に、目から生きる気力が失われていくガンサイを、僕は見て居られなかった。息子を見て、死にそうな顔をする家内を見て居られなかった。

 だからアメロッパの高度再生医療が日本でも許認可されるまで、代替措置として電子機器による人体の外部操作を考えたんだ」

「外部操作?」

 

 理屈としては、脳から出た電気信号やら何やらを、仲介する機械をもって身体の各部分に電気信号を送る、というようなもの。欠損した箇所の代替えをマシンに仲介させようとした、ということだ。

 

「嗚呼、ちなみに表向きに端子とかはないよ。一応、無線式を前提としていたからね」

「つまり、ガンサイ君にはそういった仲介装置が、えっと、脊椎のどこかに埋まってる?」

「うん、そうだね。…………埋め込むところまでは、上手く行ったんだ」

 

 ただそこで大きな問題が起こったのだと、彼は述懐する。

 

「手術はここ、デンサンタウンの科学省本庁で行った。この手術は未だ失敗の可能性も大きく、その際に『人格の同一性』を担保できない。だからこそ、パルストランスミッションシステムの使用許可を光博士に得る必要があった」

「パルストランスミッション……」

 

 人間の脳波、その電気信号をネットワーク上に送り込む技術。現在においては、その危険性から停止されているシステム――――。

 ネットワーク上で人間の脳波を放つネットナビ。ガンサイの手術に用いられたパルストランスミッションシステム。エイリアの疑問が符号されていき、徐々に、徐々に、彼女へと真実を伝えようとしてくる。

 

「光博士の息子さんが解決した、WWWの事件。セキュリティレベル5以上の研究員には情報共有されているから、君は知っているね」

「究極プログラムの一つ、エレキプログラムの奪取事件…………」

 

 後輩である炎山が色々とポカをやらかした事件でもある。普段なら失笑してしまいそうなところだが、彼女の心はそこにない。このタイミングでその話題を出されることの意味を、わずか9歳で大学卒レベルの知的脳活動レベルを持っていた彼女は、正しく理解する。

 

「当然だが、彼らがこの科学省にエレキプログラムがあると確信したのには理由があってね。以前にも停電騒ぎが何度かあったのを知っているかい?」

「え、ええ。…………オフィシャル活動がメインでしたが、私の研究室もここにありましたし、はい」

「後から調べた結果だけで言えば、それもWWWによる超高レベルの発電装置を探すための作戦だったということになるんだが――――その時に問題が起こった」

 

 ごくり、とつばを飲み込んだエイリア。

 

「手術中に停電を起こし、パルストランスミッションが切断され、ガンサイ君の心がネットワーク上に取り残された……?」

「それだけだったら、ガンサイとエックスマンはああなっていないんだ」

 

 それだったらサルベージ可能だったと光博士は言っていたからね、と。彼はエイリアから目を背け、どこかを睨むように視線を細める。

 

「…………パルスアウト直前だったんだ」

「えっ?」

「言葉通り、だね。ガンサイの精神データを一度身体に戻し、動作範囲がどうなるかという検証をする前段階だったんだ。

 丁度そんな時――――パルスアウト中に、全ての電源が一度、落ちた」

「――――――――ッ!?」

 

 エイリアは、言葉につまった。言葉を続けることが出来なかった。

 

「パルスアウト……、パルスイン…………、トランザクションのデータの整合性までは保証できないとありましたね、確か。技術的にはデータの完全性を保証されないと。データ転送時に失敗をした場合、転送をなかったことにして直前の状態に戻すことが出来ない。

 それは、つまり人間のナマのデータというのは、デジタル化しても一つの形を持っているものだから、あくまで一つのバイナリ、不可逆不可分の実行ファイルのようなものであって、だからつまり――――」

 

 

 

「――――――失敗したんだ。パルスアウトに失敗したガンサイのデータは、ネットワーク上に残ったまま、破損した。サルベージしても転送途中だったデータがどうなっているかなんて不明だ。だからどうあがいても、あの子の心は本当に壊れてしまったんだ」

 

 

 

 両手を重ねて、胸元を押さえるエイリア。明かされた事実に理解は追いついているが、心が追い付いていないようだ。呼吸が荒い。過呼吸にはなっていないが、マーティが心配したように叫ぶくらいには。

 目元から涙がこぼれるエイリア。そんな彼女を「意図的に」無視して、鐘引博士は話を続けた。

 

「息子のデータは、ガンサイのデータはそのまま放置すれば崩壊する一方だ。バトルネットワークの仕様上、ミステリーデータの『最小格納サイズ』にまで圧縮されれば、一体何が起こるかなんて想像もつかない。

 だから僕は、光博士に協力してもらい。ガンサイの破損したデータを覆うネットナビのメインフレームを――――入れ物を、あの子が生きていたという証を残したかった」

「それが…………、エックスマン…………?」

「光博士が開発したロックマンは特殊なネットナビなんだ。どう特殊かはプライベートに関わるから、興味があるなら彼に聞いてくれ。

 ただ、ロックマンは設計思想からして『膨大な実体ファイルを』そのまま内部に格納した上で、ラムダチップランタイム、超大型メモリの超高速アクセスシステムにすら対応できるだけの最適化が組まれている。

 あれこそ天才の所業…………、というより、天才が執念を燃やした末の所業かな。君に嫌味を言う訳ではないけれどね」

「…………いえ、そんなことはどうでもいいです」

「そうかい? じゃあ、続けよう。

 エックスマン本体は、ネットナビとして最低限の機能を一応は持たせた。ロックマンにある『疑似人格プログラム』と『疑似人生模擬実行プログラム』とのネゴシエーションをするアプリなど、基本的な部分も時間がなかったからそのまま搭載した。

 ただ、疑似人格プログラムがないから動作するはずはない、と――――その時は思っていたんだけれどもね」

 

 ただ、動いたんだ、と。彼は拳を強く握り、震えながら続ける。

 

「信じられるかい? ガンサイをネットナビらしく色々変わった容姿にはした形になっていたけれどもね。それでも息子そっくりの顔と声で、まるで息子みたいな振る舞いをしながら、それでも息子じゃない存在というものを目の当たりにする親の気持ちというものが」

「それ、は…………」

「いや、ごめんね。少し八つ当たりしてしまった。わかるわけがない。わかっちゃいけないんだ、そんな異常極まりないことなんて。

 そしてそれとほぼ同時に、ガンサイ本人も意識を取り戻した――――――――それも、一部の記憶を欠落した状態で」

 

 検査にかけて「科学的には」未だに脳波の活動を見られないことがわかった。

 ネットナビの動作を検証して、どうやらネゴシエーションをしている部分のアプリケーション群が脳波をシミュレートするようなプログラムとして動作していた。

 

「あの後、色々改修してもっと最適化はしたが、エックスマンが動作している理屈はそう変わっていない。それは、解析をした君ならもうわかっているね」

「…………」

「そういうことなんだよ。『ココロネットワークを仲介するサーバーも』『エックスマンが発している脳波を受け止める装置も』何もない。だというのに、ガンサイは動き出したんだ」

 

 まるで僕の知っている息子に、まるで僕の知らない誰かが乗り移った錯覚をしてしまうくらいに。

 

「エックスマンから出ているガンサイの脳波も、これもまた奇妙でね。アウトプットこそあれど、インプットを保存なんてしていないんだ」

「それは……」

「じゃあ、一体何だっていうのかな。僕と家内の息子は、ネットワークと現実世界とに存在するあの子は、一体、何になってしまったって言うんだ」

 

 だから認められないんだ、と。彼は震える手を見つめる。

 

「そんな、もはやオカルトでもなければ説明できないようなことなど、認められるはずはない。科学者として、一人の親として。例え動作検証した結果、エックスマンの動作に不整合があった場合、ガンサイにも問題が起こるのだとしても。

 そんな状態になってしまった僕の息子を――――僕の息子を取り込んだ『得体の知れない』エックスマンという、あのネットナビの存在を」

「…………鐘引博士、それでもエックスマンは、ガンサイ君ではないんですか? 愛することは、出来ないんですか?」

「愛しているよ! 僕は、息子を!

 ただ、それでも感情が追い付かないんだ。こればかりは、たかだか1年で慣れるようなことなんかじゃない。慣れられるようなことなんかじゃないんだ…………」

 

 感情的に怒鳴ってしまったと謝罪する彼に、エイリアは頭を左右に振った。

 

「………………私は、人の子宮を介して生まれていないですけれど。戸籍上の母とも数度しか会ったことはありませんけど。それでも親っていうものが、子供に愛を向けたなら、どういう感情を抱くかは、子供の側で判る気はします」

「…………防守博士」

「だから、信じてあげてください。きっとガンサイ君も、エックスマンも、どっちも彼なんですよ。例え説明をつけられないんだとしても」

 

 そして、意を決したようにエイリアは言う。

 立ち上がり、自分の胸に手を当てて、真摯に。

 

「………………多く巻き込んでしまったのだから、私は、あの子のために何でもするって決めました。あの子にもそう宣言しました。だからいつか、エックスマンとガンサイ君の問題だって、きっと私がなんとかします。

 なんとか出来なくても、ずっとあの子たちのそういったことに、私が責任を持ちます。

 それくらいしか、命の危険に対して返せるもんなんてないですから」

 

 それでも足りないかもしれないですけど、と。少し寂しそうな顔をするエイリアに。鐘引博士は呆然としたような顔をして、ポツリと一言。

 

「……ウチの息子にプロポーズするつもり、かな? 年齢、けっこう離れているけれど…………、大丈夫?」

「えっ?」

『あ~あ…………』

 

 その自覚がなかったのか、びっくりした顔で固まるエイリア。脳が処理に追いつき、みるみるうちに顔が耳まで赤くなり。思わず呆れた声を出したPETを開いて、自らのナビに「少女のように」怒った。

 

「ちょっと! マーティ、あなたどういうこと!? そ、そ、そんな風に受け取られるような無責任なことを言っちゃったの、私!!? その声は気付いていた声ね、どうして教えてくれなかったの!!?」

『いやー? アタイ、エイリアは結構本気だと思ってたしー、べっつにー?

 大体あーいうのがタイプだろう? アンタ。困ってる時になんだかんだ助けてくれて、一緒に居てあんまり疲れないで、年下の男で。年上はあのパワハラハゲ思い出すから恋愛対象にならないし、もういっそ腹をくくっちゃえば――――』

「そもそも全ての大前提として、社会的に大問題でしょーーーーッ!!!!!?!? 小学生相手に! 私、ショタコンじゃないもんッ!

 そ、そ、そんなことガンサイ君に言っちゃったなんて、私、私…………ッ」

 

 唐突に始まったエイリアとマーティの口喧嘩(?)。そのポンコツ具合を見た鐘引博士は「ウチの子も大変だな……」と、さっきまでとは違う意味で遠い目をして苦笑いした。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「――――――――」

『……ガンくん、ガンくん!』

「――ハッ!? え、えっと、うん、だいじょうぶ。わかってる。どうせエイリアさんだから、深い意味はないんだって思う、うん、だいじょうぶ、ぼくはへいきだ」

『ダメっぽいね。流石ムッツリ大将軍――――』

「おいコラッ」

 

 エックスマンの軽口に、思わず腰のPETへチョップ一発。お陰で冷静さを取り戻せたので、そこだけはありがとうって言っておいた。

 目の前で光博士も、なんだか呆然としてる。「これ見ちゃって良かったのかな、僕」とか言ってるんだけど、そんなのこっちに言われてもよくわかんないです。

 

「えっと、付き合ってはいないん、だよね」

「うん。…………あー、えっと、キスはその、ほっぺとかで、ご褒美ってことでもらいたい的なことは言ったですけど」

「なるほど、それで思いつめちゃったのかな? 彼女」

 

 ドリームウイルスとの戦闘となると、流石に想定外だったろうからね、と光博士は苦笑い。名人さんは今日、有給なのでお休みだ。

 

 今日は、とある事情からデンサンシティの科学省に来ていた。都合良く父さんも、今日はこっちでお仕事があるらしいので、帰りは回るお寿司でもおごってもらおうかな。

 それはともかく。光博士の最先端研究室、その奥のエリアが光博士の個人部屋になってる。そこで待ち受けていたエイリアさん。用事には関係ないし何だろうって思ってたら、まず手始めにガッツリとちゅーってされた。

 口に。口と口に。

 一体何がどうしたのか全然わからないというか、なんとなく脳裏でロックバスターかエックスバスターのチャージショットの音が聞こえた気がした。まさかこんな、光博士も見ているタイミングでご褒美される(動詞)なんて思って無くって、不意打ちどころの騒ぎじゃなかった。

 続けて色々とまた謝罪をされて、その上でさらに。

 

『何でもすると言ったからには、今後はたくさん私を頼ってください。ガンサイ君のお父さんほど頼りになるかはわかりませんが、これでも天才少女なんて呼ばれてた時代もあるんですからっ!

 いつかガンサイ君とエックスマンの問題も、私がなんとかします! なんとかならなくっても、責任もって一生、なんとかできる様に一緒に頑張りましょう!』

 

 それってつまり「一生傍にいます」的宣言では? とか、疑問を問い返す前に、走って去っていったエイリアさん。あっちもあっちで何か忙しいのかは知らないけど、いくら何でも慌てすぎでは……?

 まあ、発言については多分、ぽんこつ的な何かが発動したんだろうと流しておく。こういうのは深く考えたら負けなんだ。ゲーム的セオリーでは。何かしらフラグは立ったのかもしれないけど、小学生が成人してるお姉さん相手に何をどうこうって話なんだから。

 

「やあ、ガンサイ君。久しぶりだね」

「光博士も…………、治ったみたいで」

「あはは…………。ビンタされたのは自業自得だからね。君が何か言う事じゃないよ。これは大人同士のやりとりだから」

 

 そんな前置きはともかく。パソコン端末を起動すると、PETを接続する光博士。僕もそれにならい、エックスマンをプラグイン。

 小さな双子の男の子みたいなナビたちが色々と動いて、プログラム君たちが大量に行き来するこの端末の中から、メールのファイルを一つ持ってきてくれた。

 

『――――――――』

「これが、ゼロからの」

「うん。君のメールアドレスを聞いていなかったから、と言ってね。元気でやっているようだよ」

「元気でって、これは…………?」

 

 メールには短い文章と画像ファイルが一つ。そこに映っていたのは、フォルテみたいなマントをつけたゼロが、白いバリアに包まれた「見覚えがあるような」シルエットのナビから放たれる、オーラ球みたいなのをゼットセイバーで斬っている一枚。

 添えられたメッセージは、一言。「また会える」という、微妙に何を言いたいか的を外した言葉だった。

 

「……ゼロって結構、天然さん?」

『――――――――』

「あっはは。どちらかというと、まだまだ子供なんだろうね。いかに多くのデータを集めていたとしても、ゼロの自我は生まれてまだ間もない。通常の疑似人格プログラムのように、多くのものを直に見て、多くの相手と触れあって、学習し成長していくんだ」

 

 光博士の言葉を聞きながら、メッセージをもう一度反芻する。また会える、か。……それはゼロ本人のことを言ってるのか、それとも戦っている、多分復活したサイコマン(バンチョーマン)のことを言っているのか。

 少なくとも、今頃名人は少しだけ元気になって休日を満喫してるんじゃないかなって、そう思った。

 

 と、もう到着したか! と光博士が言って僕に笑う。

 そう、実はこっちはおまけで本題は別なんだ。ゼロからのメッセージも大事って言えば大事なんだけど、そっちよりもこっちの方が、ちょっとそわそわしてる。

 

 そして、来た。部屋の自動ドアが開いて、そこから現れたのは。バンダナ姿にオレンジジャケットと、ローラースケートに変形する靴を持った、リュックサックの男の子。僕より身長は小さいけど、あの顔つき、手元から聞こえるあのナビの声。間違いない。

 

「ついたよ、パパ! ――――――――って、えっと、誰!? 見覚えあるぞお前! だけど思い出せない……」

『熱斗くん、駄目だよそんな、同年代の親しくない相手にお前とか言ったら』

 

 ……本当なら会うつもりはなかったし、これからも本当は積極的に関わるつもりはない。

 だけど、それでも聞きたかった。どうしても、ゼロの別れ際の姿とか、今回の事件がどうだったかとか、そういう話を誰かと共有したかった。

 

 多分、僕くらい事件に巻き込まれて一緒に苦労していた人は、彼をおいてほかに居ない。

 

 だからこそ、僕は手を差し出して。

 

「こうして対面では、初めましてかな? 光熱斗くん。――――僕は鐘引ガンサイ。こっちは相棒のエックスマン」

『―――――――』

 

「あー! お前、あの時のそっくり野郎!」

『だから熱斗くん、その言い方…………。えっとー、よろしくね? 二人とも。

 ぼくはロックマン。こっちはぼくのオペレーターの熱斗くん』

 

 あらら、なんだか握手して締めるって感じの空気じゃなくないや。綺麗に締められるって思ったんだけど…………。

 その後、何かよくわからないけど小学生らしい謎の対抗心を燃やされて、こうなったらネットバトルで勝負だ! って感じになって。

 

「プラグ・イン! ロックマン.exe(エグゼ)・トランスミッション!」

「わーっ! わーっ! わーっ!」

「な、何でテンション上がってんだよ。気持ち悪いよお前……」

「それはショックなんだけど!?」

 

 生で初めて見た熱斗君のプラグインの姿に、謎の感動を覚える僕を。それこそ珍獣でも見るような目で見て来る熱斗君は、どーも苦手な奴認定してきてるみたいだった。

 …………ま、まあ、あんまり仲良くなるとそれこそ原作に巻き込まれちゃうから、ほどほどにって距離感は大事なのかもしれないね、うん。

 

『――――――――』

「だからちょっとはオペレーター気遣おうか、エックス」

 

 画面に「だからガンくんはボッチなんだよね~、ボッチロンリースター☆」とか煽りメッセージを出して来たエックスにPET越しにチョップをして、ロックマンに苦笑いされたり。

 

「どっちが最強のロックマンか勝負だ! 行くぜ!

 バトルオペレーション・セット――――」

「だからエックスマンなんだってば……。まあ、いいけどね。

 バトルオペレーション・セット――――」

 

『『――――イン!』』

 

 こうして原作主人公と戦ったりというのも、それはそれで悪くないなと、少しだけ初心を忘れたりしても、いいよね。

 エイリアさんはともかく、それでも、これくらいのご褒美はあったっていいと、最近は思うようになった。

 

 

 あっ、ちなみに結果はボロ負けでした。やっぱり強すぎで勝てないんだよね熱斗君たちさぁ、みゆきお姉さん…………。

 

 

 

 

 


【作者メモ】

・折り畳み式PET(1、2モデル)でのプラグインポーズ、光熱斗編:

「プラグ・イン!――――」

 ゲーム原作同様にホルダーから出すなりしたPETを振り上げてジャンプ。着地の際に肩幅に足を開く。

「――――ロックマン.exe(エグゼ)・トランスミッション!」

 掲げたPETを腰に構え、アニメ一期OPなどと同様にジャックを引き抜いて、振りかぶって接続。

 

・鐘引当麻博士:マフラーはきっと風も吹いてないのに靡いてる。

 ガンサイたちをみてる心境としては「昨日まで息子だったものが突然2体のアトムになった天馬博士」みたいな感じ。エックスマンによってガンサイが生きていることの因果関係を認めたくないのが、エックスマンを使ってのバトルオペレーションに文句をつけない理由の一つ。何かの拍子でエックスマンがデリートされても、何事もなく息子が生活してくれる奇跡を願ってる。

 

・エイリアの問題発言:本編でも言ってるけど無自覚ポンコツ。その手の経験が全然なく恋愛ドラマや少女漫画もほぼ見ないので初心の極み。

 

・ガンサイの心境の変化:熱斗君のバトルを見て「勝てっこないよねこれ」とはなったけど、お陰で逆にちょっとファン心理が働いた。一度直に会って話してみたいって衝動にかられたから、エイリア経由で光博士にお願いした。

 

・この後の二人:ロックマンの額を光らせたい! とかそういう話になって、モデリングのお仕事の話になったりする。けれどあんまり会話が長く続かない。ガンサイのぼっち気質は伊達ではないのだ。

 

 

 




次回、番外編(予定)
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