ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった 作:黒兎可
圧倒的いじめパワハラ描写注意
ついでに一章?完結したし匿名解除
我が国の科学省も、女性研究員が増えて来た。
3年前に入省した彼女の影響もあるだろうが、それでも男女の垣根なく優秀な研究者が増えるのは喜ばしい。男としては綺麗な女性が増えるのは目の保養だが、セクハラになるのでこれは内心に留めておく。ともかく、現代はネットナビが出て来たこともあってこの手の技術革新は凄まじいものがある。
「では、今日のミーティングを始めようか……」
「済みません、
「全くあの子は………………。仕方ない、先に会議を進めよう」
『『『はい、
俺の言葉に全員が頷き、彼女を置いての早朝のミーティングが始まる。こうして朝一番からチームで一丸となって仕事をするというのは、やはり気持ちが良いものだ。
課題としては昨日出た、官公庁向けのデータベースのバグ取りについてだ。
再現条件がいまいち無く確証を取れないのだが、どうやらデータ入力の際に何かの拍子で全てのデータが1つずつずれていく、というようなことらしい。
「どうしたものか……。テストは誰がやる?」
「あっ自分いいですか? ちょっと最近子供生まれたもので……」
「おうおう残業代で学費稼がないとなっ!」
「デバッグ処理どう考えても1日2日じゃ終わらないんですがそれは……?」
「デバッグどころか情報も出そろっていないからな。じゃあまずどうしようか…………」
そうこう話して既に1時間。ああでもないこうでもないと全員でアイデアを出しながらノートPCに資料を広げて、ついでに次の案件の会議を進めていると。
扉がノックもされずに開かれ、現れたのは例の彼女。
「防守くん、駄目だろッ! 会議に遅れたなら――――」
「――――おはようございます。後、バグの原因がわかりました。上位アプリケーション側のバッファオーバーフローに関してエラー回避がされていないことです。改良案はこちらになりますので、紙を配るから待ってください」
『『『ッ!!?!?』』』
朗らかに進んでいた会議が、その彼女によって破壊された。
彼女、エイリア・キャスケット・防守という小柄な少女は、無表情のまま紙束を一つ一つ出席者に手渡していく。途中、女子研究員が「一緒にくばろっか~」と気楽に言ったが、結構ですと無表情に断ってそのまま配り続ける。
なんて失礼な……。やはりこの子は社会性がない。三年前とは違った意味で、そして三年前と同様に。見た目だけでいえば二次性徴を迎えて大人の女性に近づいてきたが、単なるハーフの愛らしい少女というだけなのに。この性格じゃ誰からも可愛がられまい。まあ、もう諦めているが。
そして私に突き付けられた資料は、おおよそ30ページにおよぶ紙の資料で、しかしきちんと問題個所と起こった現象とが図示されていて、端的に言ってプログラムを少し齧ったことのある人間なら一目でわかるレベルのものだった。
思わず舌を巻く私に、しかし彼女は無表情のままPETを構える。
「プラグイン、マーティ
『あいよ、エイリア』
その人魚のようなイメージのあるネットナビは私たち一同を見回してニヤリとニヒルに微笑み、防守の言う通りに次々プロジェクターにプログラムのソースコードを投影していく。なるほど確かに、これに関してはバグだと言えるだろう。
「試験は?」
「夜通し、しました。灰妻博士の御指示通りです」
「そんなことは言ってないが、やれば出来るじゃないか。だが説明の仕方に配慮が足りない。コードを書いた人間を気遣うべきだ」
「阿るということですか? つまり?」
「防守君、このプロジェクトのテスターは『君だったね』。『何故気づけなかったのかな?』」
俺の「当然の質問」に、彼女は無表情にこちらを見て。
「………頂いた試験項目になかったからです」
「あ゛ー! あーッ、いけないなぁ、君はそれくらい『優秀なんだろう』? 先回りして予測して試験項目に手を加えておいてくれなければ…………、君のせいだろ」
「権限がありません。その権限が無いと何度も博士から言及されました」
「言葉の綾だよ、それくらいは気遣わないと仕事にならないじゃないか。全く何を学んでいるんだ。有料のスクールだってここまで丁寧に仕事は教えてくれないよ。今までアメロッパで何をやってきたんだね? もっと改めないと。改善! 改善!
改善要求の反省文を書いてくれ。どうせ『わからないのだから』」
「そうそう!」「頑張らないとね~、天才少女なんだし」
くすくすと研究室の女子面子が笑い、私たちも笑う。
唯一、彼女一人だけが無表情のまま。
どうしてこの程度のいじりに乗れないのだろうか。
「………………それから、午後に半休をとります」
「何故それを今言うのだ? 会議中だよ防守君、会議中」
「今言わないとなかったことにされますから」
「いや、ちゃんと検討はするとも。この後調整が入るから……、十二時過ぎてからになると思うが。
でもバグを出したのは君だよ? まさかバグを直さないで帰るの? いくら官公庁だからといっても、そんなプロ意識の欠片もないようじゃこの先どこに行ってもやっていけないぞ」
「……………………………………」
『え、エイリア……、どうどう』
無表情のまま私たちを見回した後、彼女は「わかりました」と一言だけ呟いた。
ネットナビをプラグアウトすると、そのまま会議に出席することもなく部屋を退去していく。
扉が閉まったのを確認してから、全員で彼女の態度について論評し始める。全く、今ここにいる数名の方がまだ彼女より新人だというのに、よっぽど社会人として弁えた振る舞いをしてくれている。
彼女の採用は確か「人工知性研究室」の光博士のコネクションからだったか。ミスマッチにも程があるよ、ミスマッチにも。彼も民間のハードウェア系で天才と呼ばれた一人だったが、やはり人には適性がある。
「どうしてあの子、あんなにツンツンするんスかね」
「いやでも、アレはアレでいいじゃん? 胸も大きくなってきたし……」
「身長低いし、えっお前そういう趣味?」
「ちょっと男子ー! 学校じゃないんだからそういうの止めなさーい!」
「いやその言い方こそ学校みたいじゃん……フフ!」
「いっそお見合いでも組むか? 好みならほら、彼氏が出来たら落ち着くかもしれないし」
「多分何も言わないし、付き合ってくれるでしょ」
「「そーそー」」
「だが付き合うとなると、彼女の生活サイクルに合わせる必要があるぞ?」
俺の言葉に、ややぽっちゃりした研究員の彼は「いやぁ……」と困惑したように笑う。
「博士、『出来る人間にはしかるべき量の仕事を』ってキャパシティぎりぎりに詰め仕込んで仕事割り振るじゃないですか。それだと〇〇〇する暇も……」
「十六歳相手に犯罪なんですけどー! 信じらんない!?」
「ま、そういうのはあの子と一緒にデスマーチ出来てからっスかね?」
「博士、業務量は減らさないんですか?」
若々しく凛々しい新人の彼の言葉に、俺は首を縦に振る。当然だ、彼女はそうしなければならない。
「あの子は生まれ育ちが特殊だから、その分『普通の社会人らしさが無い』。少しはそういう教育を代行するのが、大人である私たちの仕事だろう」
「博士大人げなーい」
「実際、以前のような奇行は減ったし机で遊んでる時間も無くなっただろう? トイレだって7時間労働1日につき25分程度だったのが今では2回で5分以内だ。ディスプレイも4つに増やせとかマシンも2台にしてくれとか、ワガママも言わなくなった。ちょっとずつだが、社会人らしくなってきているじゃないか」
「あー、まあ確かに歌うのは煩かったっスけど」
「でも夜中、私、退勤する直前は歌ってましたよ? ららら~って」
「いかんな……。よし、監視カメラを設置して、反省文を書かせなければ」
俺たち一同は、彼女を少しでも「真人間にするべく」頑張っている。もちろん研究や開発も疎かにはしてはいけない。
それこそ、俺たちは科学省「最先端技術研究室」なのだから。
たった一人の子供の教育くらいで、時間を消費するわけにもいかないのだ。
そして雑談を交えながら、彼女が洗い出したバグについてどう関係各所に説明するか数人で話し合いながら、今度の飲み会はどうするかを話し合った。
当然、未成年の彼女は抜きにしてだ。
※ ※ ※
――――コンピュータは史上唯一、人間の願いを聞き届けてくれる神様なの。
――――宗教的にアレなら妖精さんでもいいけれどね。
今でもよく思い出す。彼女、エイリア・C・防守が科学省に入省した時のことを。
彼女は、良くも悪くも子供だった。少女だった。おそらく見た目以上に幼い精神性をした女の子の幼児そのものだった。
入省前の面談として、上司と共に一度だけ彼女の自宅……今は「既に引きはらわせた」あの開発環境を見たことを思い出す。
独特なヘッドホンを頭にかけ、好きな音楽を流しながら、3台のパソコンを前に「歌いながら」コーディングする。それがあの十三歳の少女のスタイルだった。
右手と左手それぞれでコンピューター1台ずつキーボードを。それぞれが左右の2台ディスプレイ接続であり、もう一つのコンピューターに「音声入力で」ドキュメントを作る。音声入力のコンピューターにはノーマルネットナビがおり、そちらが彼女の言葉と実際のコードに合わせてドキュメントをしたためているようだった。
そんな状況に好きな姿勢で、時に彼女自身も歌いながらコーディングする様は、明らかに異質すぎた。たとえそれで、俺の目の前で、面談を開始してから「実技を見せてもらえないか」と言いつつ、彼女のプロフィールを聞きながら、ものの30分でエレベーターシステムの自動テスト用アプリケーションと、そのテストに使用するマシン機器の設計図および材料一覧とその購入先とがまとまったドキュメントが出来上がったのだとしても。
『
アメロッパ宇宙センターで人工衛星開発局局長たるドクター・リーガル。彼が光祐一朗博士を経由して、日本の科学省に推薦したのが彼女だった。
なるほど確かに、ここまで「常識はずれな」方法で、ロクにキーボードも打ててるか怪しく見える彼女がしっかりと開発している様を見れば、なるほど確かに魔女といえるだろう。
――――私はそんな妖精さんたちの言葉を、生まれた時から知っていただけ。
――――みんなより上手におしゃべりが出来るから、いっぱい言うことを聞いてくれるの。
だが俺は確信した。これは「怪物だ」。そのまま社会に放り込まれれば、間違いなく彼女は壮絶な挫折を経験する。それも、彼女自身がどうにもできない、知らない形で。
科学省に入省というのは、ドクターリーガルいわく「初代
だからこそ、俺は一つ確信をもって、彼女を教育することにした。
『はかせはかせー、にほんごじゃないと、だめ、なんです?』
舌ったらずな日本語を矯正して、正しく発音できるようにし。少なくとも省内でのコミュニケーションに難があっては仕事にならないのだから。
『なんで、私ばっかり失敗をみんなの前で言うの?』
彼女が一番能力が優れているからこそ、その優れた力の彼女ですら間違いを犯すのだと。だからそれを出して、彼女ですら間違える部分を全員で共有して、私たち自身も彼女自身も注意していかなければいけないと。
『なんで皆、陰口を言うの? なんで注意してくれないの? 私、真面目にやってるのに』
だったら歌う癖を直せと。そんなんじゃ社会人として今後、馬鹿にされ続けるのは当たり前だ。姿勢も悪いし、背筋を正し…………、キーボードが2つもあるからそんなことになるんじゃないか? 音声入力なんてなくても、あれだけ素早くコーディングできるなら不要だろう。
マシンのスペックだって、彼女だけ優遇するわけにもいかない。端末は一人1台。一番スペックが高いのは、室長たる俺のものだけだ。
『どうして私の言う事、要望を全部、否定するんですか……? 他の研究室とか、施設とか見て回りたいのに、どうして私はお昼休みもずっとここに居ないといけないんですか……?』
開発能力は高いが、彼女の考えはまだまだ浅い。開発結果もまだまだ詰めが甘い。だからそういったことを学んでほしくて、自分で考えて欲しいからこそ指示を出したというのに……、嗚呼、出した指示に対して考えた結果を先に言ってこないから! それくらい常識だろうと教えるのまで俺たちの仕事かと思いはした。レビューなどしなくても自力で気づけるようになるべきだ。
昼休み? その時間もあれば、優秀と言う触れ込みで入ってきたのだから、もっと勉強すれさせないと。そうしなければ戦力にならない。
『休ませてください。寝る時間をください』
そんなの「ノルマを終わらせれば」良いだろうに。俺や、他の研究員たちが納得できるものを作ればいいだけだと、彼女の生意気な休暇の申請は善意で却下し教え諭して、微笑みながら背中を押す。机に戻っていった彼女は落ち込んだ様子だったが、それでも仕事にしっかり取り掛かるのはなるほど、正しく社会人らしさが身に染みてきている。
『…………どうして皆さま、メールでも口頭でも口調に優しさがないのですか? もっと簡単に、大事にせず、個人的な注意だったら一言一言で良いと思うんですが。時間当たりの生産性でいうと――――』
いいから黙ってやれッ!
それが社会なんだ、文句を言うんじゃない。大体あれだけ出来る人間なんだから、そんな風に「サボるんじゃない」疑問を呈する暇があるなら少しは反省文でも書いて今後に生かせ。
『…………………………………………』
やがて何も言わなくなった彼女は、黙々と仕事をこなすようになった。最初の頃は出席していた懇親会も「仕事があるので」と断り、昼食の談笑もせず省の外へと食事にいっていた。いくら昼食の時間が2時間あるとはいえ、コミュニケーションが不足しているんじゃないか? 以前よりは業務調整して出歩くようになったのは良いが。
全員でどうレクリエーションして彼女をもっと研究室に適応させるかという話題は、良く上がる。
仕事に真面目なのは良いが、もっと色々なことを知らないと人間的に成長したとは言えない。反省文を書かせても、こればっかりはいまいち理解していないようだから、それこそ彼女にちょっとホの字のようなウチのナンバー2の、ちょっとぽっちゃりした彼なんか良いんじゃないかと思うが…………。少しは「色」を知ることで人間的な深みも出るだろう。
そんな風に考えてる最中、彼女はネットナビを自作し、またサボるようになった。
机で腕を組んだり、ネットサーフィンばかりして。そもそもナビを作るなんて時間どうやって捻出したんだ。そんな暇があるならまず仕事をしろ。限界に挑め。
禁止はされていないからと言って、そんなことをしている暇など我々にはないのだ。
何故なら俺たちは、科学省でも花形研究室なのだから。
※ ※ ※
「これは…………?」
「こんにちは、灰妻博士。先月のフォーラムで登壇した時以来ですかね」
光博士。光祐一朗博士が、私よりも先に部屋にいた。
リモートミーティング、アメロッパのドクター・リーガルとの会議の出席者は、彼の他に宇宙研の星河博士や他数名。とはいえ他に誰かが来るよりも先に光博士が足を運んでいたことに、俺は驚かされた。
「一度開発が始まると『ロボットのように』作業機械になると聞いていましたから、こんなすんなり来てるとは思ってませんでした」
「ははは……、いや、まーね。僕もちゃんとネットナビがいますから、そこはそっちに任せて『起こしてもらってます』。最近は良い時代になりました」
「本当、駄目ですよ? いくら公務員とはいえ社会人なのだから。社会人として、周りに配慮して生きて行かないと」
「配慮…………、そうですか」
「ん?」
どこか含みのある言葉の濁し方をする光博士。疑問を返せば、彼は「全体ミーティングの少し前に、ドクター・リーガルから話があるそうです」と衛星通話アプリを起動した。
画面に映ったドクター・リーガルは、以前よりも無精ひげが増えたように見える。
そしてドクター・リーガルと挨拶に軽い世間話をした後、彼は私に言った。
『貴方に我が国の魔女を預けたのは失敗でした、灰妻博士。…………貴方にはこのプロジェクトを降りてもらいたい』
いきなりのその宣言に困惑する私。光博士もそれは同様で、理由を聞いたのだが、いまいち理解できない。
『貴方の教育が悪かったと言ったのです。知古である光博士のツテを頼り、最もバトルネットワークの動作環境が進んでいる日本で更なる飛躍をしてもらいたかったのですが、それは失敗だったと言いました。ええ、私の落ち度です』
「何を? 防守君はしっかり社会人として、研究者として成長しています。いずれは世界に名をとどろかせるような――――」
『――――それでは遅いと言っているのです。いえ、そして「もはや不可能になった」。
クロス・アルカディア社はご存じですね』
ドクターの言葉に、私と光博士は顔を見合わせる。世界三位の情報系企業。ビジネス系か軍事系まで幅広い分野で名前を聞く。有名どころとしてはアルカディアデータベースか。
『アルカディアデータベースのシステム仕様アップグレードが六年前にあったことはご存知ですかな』
「覚えています。うちの研究室に導入する時も少し話をしましたね、ドクター・リーガル」
『懐かしいですね、光博士。……灰妻博士も知っていますね』
「え、ええ。……うちでも使用しています。バージョン管理系が中心ですが、以前の者より相当使いやすくなりましたからね。音声や画像などのバイナリもかなりの高圧縮率で、しかもメモリが軽いという――――」
『――――それを為したのが、当時若干9歳だった
その発言には、俺も光博士も、思わず絶句した。
『一部ではありません。ソフトウェアの設計から開発、テスト、既存のソフトのリファクタリングを始め、おおよそ折衝が発生しない作業項目については、彼女はたった一人で――――当初15年から30年計画でされていたシステムそのものの改良を、彼女はたった一人で、3カ月程度で終了させました。その中には彼女独自に開発した処理方式もあり、契約の関係でアルカディアの方が特許申請中です』
その数字がいかに異常なことは、流石の俺でも解る。
もともと在野の開発者だった光博士なんかは、俺よりももっと顕著に目を見開いて汗をかいていた。
『魔女、エイリア・C・防守
なのに、何故彼女のその能力を買っていたにも関わらず、その能力を潰すような真似をしたのですか』
「潰すような? いや、俺はただ彼女がより円滑に人間関係を作れるようにと、社会人の基礎を――――」
『そんなもの、お前の頭の中だけにしか存在しない架空のものだろう。場所によって大きく変わるし、何より「頭ごなしに言うことを聞かせ続けた」そうじゃないか。
レーザーマン』
言いながら彼は自分のナビを使って、こちらのディスプレイにいくつかの資料を投影する。
それは、私の叱責する映像と、彼女のここ最近の勤怠時間――――サービス残業と言う形で「勉強させていた」分の情報。
そして、それを「外部から」提示されて、私も彼が何を言わんとしているかに気付いた。私に先んじて、光博士が苦々しい顔をして言う。
「ここまで色々と言ったり、恫喝すると、もはやパワハラだね。もともと指導との境界が曖昧だけれど、トイレの回数まで時間をはかったり記録するのはちょっと……」
「い、いや、だって何度もトイレに行くのはおかしいですよね。サボってるとしか考えられませんが――――」
『彼女のネットナビ、マーティと言いましたかな? 彼女から時折メールが来ていました。トイレでエイリアが泣いていると。そしてそれすら、トイレに行く回数が減らされた時点で泣くことすらしなくなったと』
彼女がそういった感情的な挙動をするのは、昼休みの間だけだと。
それすらも、最近は食事の量が減ってきていると。
い、いや、だが、この程度で心が折れるようでは、世界のどこにいっても通用しない――――いや? 通用している? あの、最初のとても社会人としては著しく異常極まりなかった、あの怪物のような少女が?
嗚呼そうか、彼女は「怪物だから」世界に通じたのか。
『もともと彼女は、我が国の汚点の一つ…………、「人工的に天才を作り出すプロジェクト」と称しましょうか。そのプロジェクトで生まれた、非検体のクローン人間の一人です。
その事実が発覚するまで、生まれてから8年の間、ずっと彼女はある場所で軟禁されながら様々な開発をしていました』
「ドクター・リーガル、それは……? 僕たちは聞いても――――」
『何、今更だよ。彼女が潰れた以上、もはやどうしようもない。――――魔女は死んだのだ。火炙りにさらされて、残りかすだけが残った。
レーザーマンの分析でも結果が出ている。重度の躁鬱症に、学習性無気力。健康診断の脳波計測でも結果は出ている――――彼女の思考は委縮した。脳に、深刻なダメージが入ってしまったのだろう』
多感な時期に力任せの崩壊したマイクロマネジメントはさぞ応えただろう。そう語るドクター・リーガルに、俺は言葉がつまった。
しかしあの程度で、という気持ちしかない。俺の若い頃なんてもっと酷かったというに。
だがそんなこちらに何一つ視線を送らず。彼は光博士を見て、皮肉気に肩をすくめた。
『私もこのプロジェクトが終わったら、今の椅子がなくなってることでしょう』
「あなた程の人でも!?」
『それくらい重大事案なんですよ。少なくともアメロッパに……、否、世界にとって。
……彼女の後を頼みますよ、光博士』
「ぼ、僕ですかッ!?」
『今回の一件、既に日本の科学省の上層部には伝えております。そう時間はかからず沙汰は下るでしょう。ここ数年は色々体制が変わっている最中。貴方のような方にせめて上に立っていただかなくては――――いつまで経っても、世界は止まったままだ』
そう遠い目をして、深いため息をついた彼は。その無精ひげの理由に、それを整えるだけの精神的余裕すらないのだと察して。
しかし、それでも俺は間違っていないと――――その後、当時の俺の研究室が解体されて、後釜に光博士が座った後も、今でも、ずっと思っている。
※ ※ ※
「はぁ……、レイヤーもパレットも、なんであんな図太くなっちゃいましたかねぇ」
『それだけアンタがいないと色々キツいってことだろ? WWWの与えた経済的損失の分析とか、ゴスペル事件の発生件数調査とか公共機関から色々言われてるし。
まあちょっと最近残業気味だから、休ませた方がいいとアタイ思うけれどねぇ』
「残業して終わるならまだしも、生産性に直結しませんからね~。LA~♪」
『アンタも結構お疲れじゃないか』
ッ!? 思わず俺は息を飲んだ。
エイリア・C・防守。あれから何年も経ち既に成人している。
現在はビッグデータ研の研究室長。たった3人しかいない研究室だが、それでも時折、研究成果として名前が挙がってくる。
ネットワーク移行にまつわる研究室の1研究員「となった」俺と違い、彼女はしっかりと出世した。中途半端に光博士が「以前の怪物」だった彼女に戻そうとしたせいか、俺の研究室にいたころよりも明るくなっている。
そんな彼女だが、廊下でのすれ違いざまに俺を見て、何も言わずに横を通り過ぎていく。
その目には、なんら感情もない…………、わずかだが、以前の彼女の姿がダブり。
特に何か言うわけでも無いが、俺は胸の内に暗い笑みを浮かべ――――。
『アンタも休んだらいいんじゃないのかい? 予定はまだ余裕あるだろう。せっかくだからエックスたちの所にでも遊びに行ったらどうだい、デートデート。この間だって一緒に映画見に行ってお泊りしてきたじゃないか』
「がが、ガンサイ君とデート…………!? ってマーティ、だから違うからーッ! 歳の差考えてよ、もーぅッ!」
『そうやってマジな反応するから、あっちのお
「…………ッ」
その後、惚気のような会話で「少女だった頃の」彼女らしきトーンで言葉が出たのに、気が付けば俺は舌打ちをしていた。
【作者メモ】
・エイリア(少女時代):Drリーガルの手で光博士の伝で日本の科学省へ。中学生くらいの女の子には過酷なパワハラと勤務体系により心を病みマーティを作るが、それですらギリギリの状況を光博士に救われることに。日本式OSを前提とした開発とチーム運用を学ばせる意図があっだが、そもそも基礎スキルは脳に受けたダメージのせいで完全回復は難しい。
以降はやさぐれながらちょっとずつ精神的に社会復帰していくが、いまだに当時受けたパワハラにより「染みついた」パワハラ癖がちょっと残っているので、自制気味。
ビジュアルイメージはゼロシリーズのシエルちゃんそのまま。デザイン自体は多少エグゼナイズしてる。
・魔女時代のエイリアの能力:人間技じゃないことを平然と行う。映画とかのスーパーハッカーとかがそのまま現実世界に出て来たようなノリの存在。アメロッパ汚点の一人にして最高傑作の一人。
数値化するとおおよそ1000人日案件を14人日(エイリア一人)くらいに収めて、デバッグ済ドキュメント完備かつ特許申請可能な新処理方式が2つ3つ生えてくるレベル。(※マシンスペックが追いついていることと、仕様凍結はする前提条件下) これを600人日(チーム)に収めるとは言え既存方式のみ、ドキュメントやテストはガタガタのレベルまで落としたのでそりゃリーガルも怒る。
マーティに解析能力を持たせたのは、エイリア本人の脳が破壊されて自分の能力が落ちていくのを日々感じていたので、少しでも落ちた能力のサポートになればという側面もあったかもしれない。
ただ逆に、ネットナビに特化した結果他の処理能力が格段に落ちたのもあるので、一長一短な選択でもあった。
・灰妻博士:過去のエイリアの上司。彼なりの善意でエイリアを教育していたつもりだが、結果的にエスカレートにエスカレートを重ねてしまい完全に虐待? めいたパワハラに。とか言いつつも実際、彼女の能力に高さにポジションを奪われる恐怖や嫉妬、ズルいとかそういう感情もあったと思われる。
現在は下っ端のような立場になっているので、因果応報にはなってるようだが、これはエイリアに内緒でマーティがパワハラの証拠をひたすらに集めまくっていたお陰。
・クロスアルカディア社およびアルカディアDB:現実世界でいう〇racle的なのに相当する企業。要はネオ・アルカディア…!
・エイリアの出生:おいおい……だけど、実は部屋の扉の向こうで誰かが聞いてたのがトランスミッション編に影響してるかもしれない。
・レイヤー、パレット:エイリアの部下。元ネタは名前そのままなのでお察しくださいと言うことで汗
・バトルネットワーク:本作では、いわゆる電脳世界というもののシステム全体のサーバ及びクライアントアプリケーション。Web3.0の概念を先取ってると思うので、ネットナビの容量に対して動作が軽かったり時々自己再生したりできるのはこの辺りに由来。
たぶんエグゼ世界はト○ンOS相当のものが国内覇権を握ったと思うので、その辺りがネットワーク機器普及の一助になったイメージ。エイリアは窓か林檎相当のシステム使いだから、そこも軋轢の一助。
・書き終わった後の作者の体調: 吐 き そ う