ロックマンエグゼ世界でエックス的なナビを持ってしまった   作:黒兎可

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お久しぶりです。
前回の話にもうちょっと救いを、みたいなのを打とうとしたら文字数かなり多くなってしまいましたが、そのあたりはご了承ください……。最後の方に現代ガンサイとエイリアも出ます!
 
前回に続き、いじめパワハラ(被害者)描写注意……


第42話:番外編「小さな王子様」

 

 

 

 

 

 一人で解決できない問題の解決策は簡単に言えば「誰かの力を借りること」だと論理的には理解してる。

 誰かが自分を強くしてくれるなら同様に、自分もまた誰かの力になれる。

 それが惑星全体で繋がっていくような親愛の帯で結ばれるのなら、お互い支え合いながら生きていける世界になるならどれほど素晴らしいか、言うまでもないこと。

 

 だから私は人間として失格。

 私はそれを為すだけの心が存在しない。

 それが出来るだけの信頼できる相手も存在しない。

 

 自作したネットナビは、ネットナビであってあくまでも個人という人間ではない。

 私の才能なんて、私の異常な執着と生命と社会性を削って行っているだけの「ずる」でしかないと、そう教わった。

 マーティもそこに含まれる以上、私のやってることなんて結局、16歳の小娘のただの独り相撲で無駄の塊で。

 

 コーヒーを一杯飲むのすら、いつ誰に見られているのかという恐怖に駆られ、とてもではないけど昼食の時間、一人きりになれる時以外は彼らの視線を掻い潜って、ミネラルウォーターか水しか飲めない。

 生ぬるい水は朝にペットボトルに入れたそれだけ、冷蔵庫のあるところまで歩いている暇があるなら仕事をしろと徹底的に詰めて来られて、それに反抗しようとすればその目をすべて潰され、私の証言なんて誰も聞かれず、とにかく仕事を増やして、押し付けて、難癖をつけて、何をやっても無駄。

 それでも出来上がったものに対して、例え私が十全にスペックを発揮できる環境ですらないのだとしても、ちゃんと私の名前で公式に発表するのだからこの研究室の彼らはまだ良心的なのでしょう。

 

 もちろん、彼等から依頼されたサポート業務については、サポートだから例え「96時間の徹夜」を、機密と人手が足りないからとさせられたのだとしても、逃げることは出来ないし、私が主の研究じゃないからそこに私の名前はない。

 私の研究テーマも、研究内容も灰妻博士が却下しなかったもの、博士の研究の基礎に繋がるものだけ、手を出せて、それさえマシンスペックが追い付けばいくらでも手があると言うのに、私がもっと寝れればいくらでも手段を思いつきそうなものなのに。

 それでも3年間、私は私が私でなくなっていくことを自覚しながら、それでも「社会人として当たり前」の仕事を続けている。

 

 今やっているのは、電子ネットワーク上においてのある種のシミュレーションプログラムの構築。ドクター・リーガルからまた聞きしたラムダチップランタイムでも使えれば、それこそ本当に人間の人生のように美しく数多のパラレルなルートを構築して、ファジーに行ったり来たりする環境要因を自動生成して「遊べる」というのに……。

 ダメ、遊べるは禁句だと、仕事でそれを言ったらまた6時間ずっと寝ずに表計算用のテキストデータを「紙媒体から」「OCR失敗リスク回避のため」直接手打ちでやれって言われて、トイレにも行かせてもらえなくなる。

 だから、遊びじゃない、遊ばないから……、仕事なら、辛くないといけない、苦しくないといけない、楽しんだらそれは趣味で、責任感がなくって、なによりコンピューターは「神様じゃない」。

 

 おしゃべりなんて出来ないし「させてもらえない」し……、神様なんて扱う私は、異常者で、壊れた人間で、宇宙人で、気を狂わせ違った子供なんだ。

 

 ずっとそんなことが、頭の中でぐるぐる回ってる。

 周囲に研究員が私しかもういなくなっても、他の面々が小学生の科学省見学に来ているのに対する対応に回っているのだとしても、私に手を抜くことは出来ない。

 だから頭の大部分はプログラムのことを考えているのだけど、それでも頭のどこか何パーセントは全く別なことを考えていて…………、以前はそれこそ思考の()()が10の複数分割単体統合処理(マルチスレッドシングルタスク)型と6つのシンプルな複数並列処理(マルチタスク)型だったのに、今じゃ3つのマルチスレッドに、1つの簡単な単体処理(シングルスレッド)が限界になってる。

 たぶん、()()()のために睡眠時間を削ったのが、ダイレクトに響いてるんだと思う。

 

 マーティなしで1時間もかからず出来たあんな簡単な分析も、今じゃマーティに代用してもらって1週間くらいはかかってる。

 作業効率が悪いどころじゃないのだけど……、効率を重視したら人間として大事なものを失うって灰妻博士はそう言ってた。

 だから、あんな「気色悪い」ような私なんて、いらない、殺す、徹底的に殺して作り替えると、博士のやってることからは、そんな気を感じる。

 

「…………、終わった、今日の分」

『お疲れ、エイリア。……少しは寝な? 今日で2時間睡眠連続記録が14日を超えてるじゃないか。いくらアンタが「遺伝子的にも」頑丈で、死ににくいとは言ったって、無茶続けてれば限度があるものさ』

「ありがとうございます、マーティ。だけど……、まだ無理」

 

 嗚呼、マーティ相手にすら敬語が出てる……。

 外の人は言うに及ばず研究室の中の人に関してすら敬語を崩せない。

 いつまた何か下手な発言をしてそれを起点にまた説教と新しいタスクと教育を割り振られるか判らないし、それをやればやるほど私の寝る時間は減っていく。

 

 敬語は防衛策であって、本当はもっと気楽に歌でも歌いたい。

 歌いたいけど……、最近は鼻歌ですら歌おうとすると、声がかすれる。

 殴られはしなかったけど、13歳のあの時に灰妻博士からずっと一挙手一投足、社会人としてあるべき形とマイクロに指導されたのが、トラウマになっているみたい。

 

 おかしいわね、あれだって「必要なことのはず」なのに。

 だっていうのに、泣いてもいないのに、目から涙が止まらない。

 そのせいか、最近は仕事や勉強だけじゃなくもっと色々なことに目を向けろって言われて、灰妻博士から優しく2時間くらいお説教されて、諭されたりした。

 

 最近はしきりに甘寺(あまでら)さん、ちょっとぽっちゃりした同じ研究職の40代の男性の方と二人きりにさせてくる。

 あの人、研究室の中では最近優しい人になってるけど、子供な私に対してしょっちゅう胸とかお尻とか見てくるから、なんとなく嫌だ。

 それだけは「感じたことのない」恐怖があるから、マーティに頼んで二人きりの時は外部へと通話したり、カメラ映像撮ってたり、警備が近いところに行ったり、色々やってるけど。

 

 それだって、そういうことじゃないって昨晩、お説教されて、そのお陰で今の今まで仕事が伸びた。

 タイミング処理を見ないといけないのに、お説教が入って最初からやり直しになって、その間にエラーチェックもしないといけなくって、つまりずっと寝れない。

 仮眠をとってると必ずと言って良いくらい甘寺さんが入ってくるから、マーティに起こしてもらって、そのお陰で最近はずっと2時間睡眠。

 

『エイリア……、このままだとアンタ、死ぬよ? 心身どっちかがねぇ』

「でも、これが必要なことなんでしょ? だったら仕方ないもの。適材適所ってそういうことだって、何かあったら責任はとるって、博士も言ってくれてるもの」

『現行法的にもギリギリ躱す様になってるし、こっちから警察に相談しても「ネットナビ何て信用ならん」とか言って全然とりあってもらえないし、アタイとしてはアンタがちゃんと、一緒に連絡して相談した方が絶対いいんだけどねぇ』

「そんなことしてる暇が合ったら仕事しないと――――またお説教と、サポート業務が増えて、私の仕事の時間がなくなっちゃう。

 コンピューターと話せなくても、触れ合える時間がなくなっちゃうもの」

 

 首がまっすぐ据わらない、ずっとふわふわ揺れているような感覚の私。

 左の瞼が1分おきくらいにピクピク震えて、気が付くと口の端から涎が垂れてる時もある私。

 もう5日間もお風呂にもシャワーにもいかず、自宅にも帰れず、ラジオ体操もできず、簡単なストレッチしか出来てない私。

 

 こんなに頑張ってる私で、まだまだ社会人としては半人前以下なんだから、もっと、頑張らないと。

 

 きっと灰妻博士たちは「もっと苦しい環境を乗り越えて」来たのだから。

 

『……これじゃアメロッパに保護されるんじゃなくって、()()()と一緒に逃げた方が良かったんじゃないかい? いや、直には全然しらないけど、アンタから前に聞いた話を鑑みると、ねぇ』

 

 それこそ無駄な仮定だと、私はマーティの発言に首を左右に振った。

 

「そんなことしてたら、マーティを私は作らなかった。私は、マーティと出会うこともなかったの。それは、何か嫌だな」

『…………そう言う所だよ』

 

 だから逃げた方が良かったんだ、と。マーティは凄く寂しそうな顔をして、PET越しに私を見つめていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 不具合……、仕様上の欠陥を最初から見つけられずに怒った問題が見つかったから、サポート業務として甘寺さんの担当してる清掃用ロボット、その展示室のプログラムのバグ取りに行くことになった。

 おかげでシミュレーションはまた最初からやり直し。脱力してそのまま意識がフワっと上に昇っちゃいそうになったけど、なんとか踏ん張った。

 灰妻博士が「もうちょっとで社会人としてまともになれるから、エイリア君には期待してるよ! ()()とね!」って言ってくれたから、だから、頑張らないといけない。

 

 もう日本において、私には彼しか残っていないのだから。

 

 私の「遺伝子上の母親」の方が、私を拒絶した以上は――――。

 

『エイリア! エイリア! エレベーター! ボタン押し間違えてるよ!』

「へ? あ、らいけない」

 

 地上2階を押そうとして地上20階を押してしまった。

 ボタンの配置なんて全然違うのに、何やってるんだろう私。

 キャンセル操作ってどうやるんだったかしら……?

 

「…………」

『エイリア?』

 

 ボタンを押そうと手を伸ばして……、私は動けなかった。

 頭頂部に痛みを感じて、脊椎から両足の踵まで太い針でも刺されたような痺れが走って、思考がぼんやりとしていたから。

 ぼうっとしたまま20階まで到着して……、私に呼びかけるマーティの声もなんとなく遠くになっていて、ただゆらゆらと、ふらふらと、変な歩き方で進みだして。

 

La()…………、やっぱりダメね」

 

 今ならきっと歌えると、なんとなくそう思っても、それでも喉がつぼまって、ポリープみたいなのが出来ているような感覚が残って、声は出てくれなかった。

 かすれて、息のタイミングがおかしくなって、軽くせき込む。

 

 ぼんやりと、なんとなく、私はその場に立っていた。

 

 何も聞こえない。

 誰も話しかけない。

 今この場には、私しかいない。

 

「窓ガラス……、押したら開くのかしら」

 

 ふと、そんなどうでも良いことが気になって、大した感じもなく興味本位で、ふらふらと、私は一歩一歩、通路の先にある大型の窓のところまで足を踏み出していって…………。

 段々と眩しい光が入って来てそれにあたると只でさえぼんやりしていた頭の中が白くなっていくようで。

 嗚呼、気持ち良い。こんなに気持ち良いのを、もっと味わえたら、とか思って、もっと足を進めていって――――――――。

 

 

 

「――――さん? おねえさん? おねえ…………、えいっ」

「きゃうッ!!!!?!?!?!?!?」

 

 

 

 いきなり足元から伸びた小さい手に、胸を揉まれた。

 いきなりで意味不明すぎて、思わず相手の腕を絡めて関節を極めようと動いて、でも全然手の長さが足りなくって、反射で足払いをしてしまって。

 転んだ子供は…………、男の子は、きょとんとした顔で私を見上げていた。

 

 ぼんやりしていた思考が、急に薄ら寒い今に戻ってくる。

 お風呂場でシャワーを浴びていたら、気が付いたら湯船で猫背になって鼻先が水面にくっついていた時くらい、ひやりとした。

 今、私は猛烈な勢いで、この6歳くらいの男の子を叩き伏せた? 

 

 いくら変なイタズラされたからって、いくら何でもそれはちょっと、まずいのではないでしょうか?

 しゃがみこんで、男の子を抱き起し、頭をさする。

 男の子はされるがままに、私の顔をじっと見ていた。

 

「だ、大丈夫、ですか? 頭打ったり、していませんか?」

「うん。だいじょう、ぶ。…………きれーだね、おねえさん。げんきなさそうで、きづかなかったけど、オレ、びっくりした」

「へ!? えっと、あ、ありがとう?」

「おっぱいおおきいし、やわらかかった」

「それはいけません、そんなことしちゃいけませんっ」

 

 めっ! と男の子の鼻先を摘まんで注意する。

 男の子は女の子と子供を守るために強く育つのだから、今の内からそんなにひどい事をしちゃいけません。

 あの灰妻博士も私が無能を晒して、研究発表の死霊が笑いものになった時にフォローしてまとめて代案を出したりして場をまとめてくれたりするくらいなのだから、男の子はやっぱりそうあって欲しい。

 

 一方的に、自分が好きな立場を要求しているようにならないよう、気を付けないといけないけれど。

 

 男の子はやっぱり、じーっと私の顔を見てくる。

 ……よっぽど気に入ったのか、本当にこう、穴が開くくらい。

 それにしても、こんな階にいるとか迷子かしら……? 年齢的にデンサンシティの小学生の社会科見学の生徒の一人?

 

「いえ、違うわね……、小学生だったらそもそもセキュリティレベル的にここまで来れないだろうし、監視カメラに映像がないはずもない。

 とすると科学省関係者で、今日は確か電信電波研究グループの合同会議も入ってたと思うし……、そちらの関係者の御家族の子ですか?」

『よく覚えてるねエイリア、そんなこと。アタイに調べさせたわけでもないのに』

「時間があったら出たかったのです、低次元ネットワークの要領で高次元ネットワークを世界的に張り巡らすのを最終目標にしてそうなので、どういう論文を出すかとか、質疑応答とか。……暇は結局ないんですけどね」

『ぬか喜びどころじゃないねぇ……』

 

「おねえさん、めいたんてい?」

 

 私の言ってることが判っていないにしても、どうやら何かすごい頭良さそうなことを話しているというのを前提に、そう判断したらしい男の子。

 名前を聞くと「なのるほどのものじゃない」と、コミックの主人公みたいなことを言い出して、これはこれでちょっと面倒くさい。

 怒って真面目に答えさせて問い詰めた方が早そうなのだけど……、生憎そこまでする余力が、今の私にはなかった。

 

 一瞬気合は入ってたけど、長くはもたずまたふわふわと首のあたりがしてきた。

 今怒ったりしたら、力加減とか色々間違えてしまいそうで、それはそれで危ないもの。

 見ず知らずの子供、どころか科学省関係者の子供となると、何か粗相が合ったらまた灰妻博士からお説教とタスクが課されるのだから、私はロクにお姉さんぶることもできはしない。

 

 まばたきをしようとすると……、目が重くて、なかなか開かない。

 

「おねえさん、ねむいの?」

「…………わかりません」

「わからないの?」

「ええ。……寝たら、危ないんです。だから、いっつも気を張ってないといけないんです」

「おねえさん、あくのそしきの、かんぶ?

 だめだよ、しっぱいしたら、ばくはつして、しんじゃうもの」

 

 ちょっと何を言ってるか意味が分からないけど、それでも男の子が心配してくれてるって言うのはわかる。

 だったらこんなところいたらいけない、と男の子は私の手を取って……、えっと、ちょっと待って、とその場に留まろうとするけど、既に色々へろへろだった私は男の子に引っ張られるまま、一緒にエレベーターに入って、1階へと向かって……。

 

「迷いがない……? 君、迷子だったのではないんですか?」

「まいごでも、ここにもどればね、だいじょうぶだから。オレ、おとうさんしんぱいするけど、おかあさんならいけってぜったいいう」

「そ、そうなの……?」

「おんなのこ、しにそうなの、ダメ。こころがないてそう、たぶん」

 

 そ、そうですか……。

 まあ社会人だけれども、まだ女の子って年齢ではあるものね。

 

 

 

 ………………あれ? 女の子って年なのよね、私。

 

 

 

 なんかこう、ついぞすっかり忘れかけていたことを思い出して、私はふと冷静になる。我に返るって言ったら良いのかしら。

 私って、今いったい何やっているのかしら。シミュレーションプログラムを作る過程で、光正博士(ドクター・ライト)レポートを閲覧して、ポリゴンなしにどの数値情報を参照してもとにすれば仮想空間()なもののシミュレーションが成立するか調べてて……、偉人だけど文献が古いからとか言われて、あれってつまり新しい方式を私に作れっていっているのでは?

 えっ? 以前の私ならいざしらず、今の私に?

 何を考えているの、灰妻博士。今更コンピューターを増設したって、音声入力の準備をしたって、キーボードをそろえたって、ディスプレイを四つ繋げたって、もうどうあがいても元にはもどらないのよ? 私、ずっとそうなってしまったのよ?

 

 それで、全然考えも思考もまとまらくて、ふらふらして、マーティの声も段々聞こえなくなって……、今は話していないわねマーティ。何か空気を読んで黙ってるのかしら。

 

「あとオレ、ともだちいないから」

「それは、お気の毒に……。えっと、お姉さんがお友達になって、あげましょうか?」

「ともだちって、かわいそうだから、なるものじゃない。オレ、ひとりぼっちでいい」

「それはそうなんでしょうけど……」

「おねえさんもひとりぼっち?」

「えっと……、………………言い返せませんね」

「オレ、しんぱいするの、おとうさんたちだけ。だから、おとうさんたちがいないいまなら、そとにでても、へーき。おねえさん、だれも、しんぱいしないの?」

 

 …………アメロッパに居た頃、一緒に過ごしていた子供達とも離れ離れになって。ゲイトもあの後消息がつかめないし、そう言う意味では「信頼できる相手」が灰妻博士しかいないこのニッポンって、私にとって独りぼっちというか、とんでもない敵地なのでは?

 というより、この子何かこう、変な思い切りの良さがありますね……。

 

 そのままぐいぐい私を引っ張って、エレベーターの外に出て、科学省の外に出る男の子。どこに向かうのかと思ったら「おねえさんのおうち、どこ?」と聞いてくる。

 

「私の家? えっと、何でそれを……」

「おねえさん、ねないとだめ。おかあさん、ねないとにんげん、しぬって。ぜったいしぬって。

 でもほてる、おかねかかるって。おねえさん、おとなだから、おうちあるでしょ?」

「…………そんなに目の下に隈、出来てます?」

「できてない。きれい。かわいい」

「そ、それはどうも……」ストレートな物言いに慣れてない。

「だけど、つらそう」 

 

 すっごいつらそう、と男の子は私の手をぎゅっと握る。

 

「ひとりで、だれもいないの、ダメ。おねえさん、つらいのに、だれも、おねえさんのせきにん、とってくれてない」

「………………………………」

「オレは、いやだな。……ひとりぼっちパラダイス、はじまる?」

「その変なパラダイスはすぐに終了しましょうね」

 

 うん、ちょっと核心的なことを言われて、心がぐらっと来ました。来ましたけどそれはそうとして小さい子らしいよくわからない物言いで、びっくりしてる私もいる。

 というより、意外と見た目より幼いのかしら、この子……? 活舌はしっかりしていますけど、言葉が直情的過ぎるというか、見た目5、6歳くらいのようだけれども、2、3歳くらいのイメージ。

 だからこそ、その言葉はあまりにストレートに私に刺さる。

 だれも責任を取ってくれない――――例え私が「ここまで」、魔女と呼ばれていた私がここまで地に落ちたのだとしても。これほどまでに思考にずっともやがかかったようになって、これが永遠に続くような恐怖に囚われ続けているのだとしても。

 それでもドクター・リーガルから師事するよう言われた灰妻博士は、あの普段は気の良い、父親というものがいたらああいう人なのだろうと思えるあの人は、私がこうなったことに、何一つ責任をとってくれない。

 

 責任をとってくれないどころか、ええ、思い返してみれば――――。私がどんなに一人で泣いていた時も、例え口ではどれほど殊勝なことを言ったのだとしても。あの人は「嗤っていた」。馬鹿にするように、いい気味だとでも言うように嘲笑っていた。

 

 ――――どうして私が、そんな連中のために押しつぶされないといけないのだろう。そんなの、どうして黙って見ていたのだろう。

 

「……ありがとうございます」

「?」

 

 真剣な表情の男の子の頭を撫でる。こうしてみると前髪がちょっと特徴的な跳ね方をした、可愛らしい子じゃありませんか。……ずっと話してたのに、私、こんな可愛い男の子の顔すら認識できていなかったのね。眼中にすら、入っていなかったのよね…………。

 そして、頭を撫でている手の力が妙に入らないと言うか、すぐに落下するというか。

 

「確かに、まずは寝ないと問題がありそうね。……マーティなら、今の私の状態を確認できるかしら」

「おねえさん?」

 

 なんとなく男の子を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめたまま、私は色々と考えを巡らせながら自宅に向かおうとして、踏みとどまって、行ったり来たりする。

 私が「魔女」と呼ばれていた頃の記憶を少しだけ探し、そうですね……。あれは、医療系のシステムを数日で組んだ時でしたか。その時の流れたカルテのうち記憶に残っているものから、今の症状を分析すると……ラクナ型か、無症候性の脳梗塞も併発している可能性がありますか。ええ、単に寝不足で能力が落ちていると言うよりも、直接的に、物理的に、私の能力やスペックを保証していた脳回路自体が壊れてしまっていると、そう考えるのが妥当かもしれません。

 精神的にも鬱症状……というだけでもなく、今こうしてテンションがいきなり上がっていますから、そのあたりの診断はどうなっているか定かではないのだけれど。

 というより、そんな当たり前のことにも全く思考が回らなかったのだもの。間違いなくそういった精神症状の類も出ているのでは? 自分で診断できるだけの能力はないのだけど。

 

 何でこうまで一気に考えがクリアになったのかしら。

 未だにふらふらと平衡感覚は怪しく、両手両脚が痺れて来てずっと止まらないというのに。

 

「そうですね。とりあえずは……、あなたを親御さんのもとに送り届けたら、まず自宅で寝ることから始めます」

「……お、おねえちゃん?」

「フフ♪」

 

 特に何がどうこうということもないのだけれど…………、それでも私はなんとなく、久しぶりに年頃の少女のように、気楽に笑って、男の子の額にキスをした。

 だって……、間違いなくこの「小さな王子様」が、私に手を差し伸べてくれたのだから。そのお陰で、久しく感じていなかったくらい、心が高揚しているのだから。

 

 そんな私に、マーティが腰のPETから「ショック療法というか吊り橋効果というか……」と、そんなことをぼそりとつぶやいていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「サロマちゃんのお弁当ですね。今日は買えたようで何よりです」

「はい! まあまだ食べませんけど、お昼前だし……っと、それはそうとエイリアさんお疲れですか?」

 

 デンサンシティの科学省、エイリアさんの研究室に僕は遊びに来ていた。……エイリアさんの部下? 後輩? の女の人の研究者さんたちに「可愛い!」「あーもう、エイリア先輩ずるいですー!」とか色々よくわからないことを言われながらもみくちゃにされたりして、で二人は二人でどこかに出かけて行ったみたい。出張なのかな? よくわからなけど、そんなわけで()とエイリアさんは二人きりだった。

 まあ、遊びに来てたって言っても、名目は違う。

 一応ゼロウィルス事件以降、ドリームウィルスとの戦闘で悪影響が出ていないかのチェックをするというものだ。

 

 母さんはともかく、父さんは、前はエイリアさんの話題を出すと少し目を細めてたけど、最近は苦笑いして「行ってらっしゃい」って言ってきた。前にエイリアさんが父さんを探してたこともあったし、何か話したりしたのかな?

 

『――――――――』

「だからエックス、オイオイ」

 

 PET画面にチャットで「そうだよガンくん、女の子が死にそうになってるのは助けなくっちゃね、ぼっちの分際でも」とかアレなことを言い出したので、いつものように軽く画面にチョップを入れる。

 いや別に、エイリアさん大人だからそういうのはちゃんと自分で管理してるよね、たぶん。僕みたいな10歳ないし……、な人間が物を言う話ではないと思うんだ。大学生とかならいざしらず。

 

 で、なんとなーく身体がずっと左右に揺れてるエイリアさんは苦笑いしながら、部屋の奥に設けられてる大きなサーバールームを半透明な壁越しに見ながら話してくれた。

 

「あー、わかります? その、ちょっとマリンハーバー(※オフィシャル本部のある拠点)の方でシステムメンテナンスと言いましょうか、アップグレードのバグチェックと言いましょうか……。

 エックスマンもそうですけど、ゼロウィルスの件を受けてセキュリティシステムの見直しが入ったので。久々に開発一本で頑張りましたね……、一週間くらい」

「『一週間!?』」

 

 思わずエックスと一緒に驚くと、エイリアさんは何とも言えない表情で僕とエックスマンのPETを見てくる。どうしたのエイリアさん、と聞き返すと、ますます困惑してるっぽさが増す。

 

「まあ、早い自覚はありますが。そんなに大した粒度の構成でも無かったし、ドキュメントも既に出来上がっていたので、私の担当は基礎モジュールの一部と試験だけだったから、2日くらい徹夜したくらいですので、お気になさらず」

 

「いやだからって徹夜とかしちゃ駄目ですよ? 大丈夫か――」

『――どうかはよくわからないけど、マーティはちゃんと監督してるよね? してないと――』

「――倒れちゃうんじゃないかなっておもうんですけど、こう、プログラマーって」 

 

「…………(また『一人』になっていますね…………)」

 

 ジュラシ〇クパ〇クのワンオペシステム管理を強制されていたエンジニアさんとかじゃないけど、偏見かもしれないけど父さん含めて、ああいう仕事は明らかに不健康だ。だからなおのこと、健康には気遣ってもらわないと。

 エリイアさん美人だし、スタイルも良いし。胸、大きくて柔らかいし。

 

「その最後の一言はちょっと余計ですね……。ん、んー、ガンサイ君相手だと、不快感はあんまりないですけどね」

「うわー! ごめんなさいっ」

「ふふふ……」

 

 考えていたことが、大体口から出ていたらしい。ただ謝ると、怒るでもなく、なんだかちょっと照れくさそうにしてるエイリアさん。……前のキスの件もそうだけど、なんだろう、この人が何考えてるかたまにわからなくなる。

 

「エックス、何か知ってる?」

『知る訳ないでしょ、ぼっち敗北者』

「ぼっち敗北者!?」

『熱斗君とロックマンに負けて、さんざん負けーって煽られてたし、おまけにぼっちとか救いがないんじゃないかな?』

「もうちょっとオブラートに包むってこと覚えようかエックスはさー! 別に気にしてないしっ! 全然っ!」

 

「(気にしてるんですね……、不憫な)」

 

 このこの、と画面を何度も指先でつつく。別にタッチパネルというわけでもなく、PETを壊す訳にもいかないのでソフトタッチで、だけど気分は北斗神拳。その動きを完璧に読み切ってるように、エックスは僕の指が下りる先を確実に回避してくる。

 こんにゃろーめ……。

 

「ま、まあ、とにかく、疲れたら寝てくださいね? ウチの母さんもよく言ってますから、寝ないと人間は死ぬんだって。簡単に死ぬんだって」

『そう言いつつガンくん、モデリングの調子が良い時は気が付くと2時とか周ってるよね。やーいやーい、親不孝ぼっちー』

「えっくす~~~~~?」

 

 なんでそう、真面目な話を茶化すかな君は……。ただエイリアさんは「そこはもう、しっかり判っていますので」とニコニコ言って胸に手を当てる。…………少し「もにゅん」って感じでたわんで、大きいな……。

 

「だから、ガンサイくんもダメですよ? ちゃんと寝ないと。休まないと。そうせず無理をして――――失ったものは、戻ってこないんですから」

「……はい」

 

 何も言い返せない僕の頭を、エイリアさんはニコニコしながら撫でて来る。

 なんとなく気恥ずかしいのだけど、エックスがPETの中で「あれ……?」とか首をかしげて。

 

 エイリアさんの背後のモニターで、何か調べ物をしていたらしいマーティも、僕とエイリアさんを見て「オイオイ……?」と、何だかちょっと戸惑っているような表情をしていた。

 

 

 

 

 


【作者メモ】

・引き続きパワハラ被害者時代のエイリア:

 只でさえ保護者不在、心のよりどころが無い状態でマイクロマネジメントから始まり延々と心を折られ続けたせいもあり、この流れ。またネットナビの性能については、ムーアの法則から考えて黎明期なこともあって、オーバースペックなマーティレベルで完全自律思考しているような動きをするネットナビなどそもそも存在に眉唾な偏見のある時代なので、マーティから警察への連絡は(科学省内のコネも含めるが)握りつぶされる。

 

・16歳エイリアが担当させられたいたシミュレーションプログラム:

 簡単に名づけるなら「疑似人生模擬実行プログラム」。例の灰妻博士の主研究として取り組まれていたもので、ざっくり言うと、個人の人生単位でリ〇グシリーズのループを実行するようなシステム。人工知能の人格というものに対するアプローチとして、光博士は心の形を、灰妻博士は自然発生する心を、みたいな違いがあったので、それが研究内容に影響している。

 本作設定ですが、後にプロジェクトは凍結になるものの、エイリアがほぼ完成させていたそれを光博士が引き取って、ロックマンに組み込まれることに。光彩斗としての人生シミュレーションをロックマンとして過ごしながら実行することで、ロックマン自体の振る舞いをより人間らしく近づける試みがされていたりする。

 

・電信電波研究グループ:

 後の最先端電波技術研究室(ガンサイ父の所属する研究室)の母体。

 

・小さな王子様:

 科学省関係者のちびっこ。なんかよくわからないけど、ちょっとヤバかったエイリアの手を引いて、色々心配してくれた男の子。大したことはいっていないししてもいなかったけど、当時のエイリアが久々に体感した「第三者の視点」であり、これが切っ掛けで環境による疑似洗脳? みたいな状態から我に帰れた。さあ逆襲だ!(政宗)

 ちなみに髪型はDASHのロックっぽい感じ。多分その後のエイリアの異性の好みに大きな影響を与えた。誰なんだ一体(棒読み)。 

 

・何とは言わないけど覚えてる?:

 ガンサイは忘れてる……忘れてる? まあ忘れてる。

 エイリアは気付いていない。

 

・寝ないと死ぬ:

 筆者も色々あって体感した真実ですが、中々寝れない日々を過ごしておりますので皆々様もご注意を汗。  

 

 

 

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