炎に誘われる蛾のように俺は彼女に惹かれた。   作:こーーーーーー

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勢いで書いてしまった。
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炎に誘われる蛾のように俺は彼女に惹かれた。

 俺が彼女と出会ったのは劇団のワークショップでの事だった。

 最初はなんだこの芋女はという感想だった。

 アイドルをやっているらしいがプロ意識はゼロで、常に安っぽい服を身に纏っている。

 演技も出来ているだけで、うまくもなく熱も感じない。

 周囲と話しているとこなんてほとんどみないし、常に隅にいる少女。

 でも、そんな薄暗い少女だがなぜか眼だけは惹いた。

 確かに顔は好い。十人中十人が美人だと叫ぶくらいには美人だが、それだけでは無い物を彼女は持っていた。

 だからだろうか、俺は炎に誘われる蛾のように彼女に近づき声をかけた。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

 その時のキョトンとした顔を俺は未だに覚えている。その時のなんだこいつみたいな顔を未だに俺は覚えている。

 これが俺、夜月レイと星野アイとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は雨宮吾郎。宮崎で産婦人科の医者として働いている。

 俺には推しのアイドルがいる。今徐々にメディア露出が増えてきている売れ行きアイドルグループB小町の絶対的センター、アイ。

 そんな完璧美少女のアイが突然活動休止を発表し、意気消沈しているところに1人の少女が診察しにてきた。名前は星野アイだった。B小町のアイが妊娠してきた。

 俺は何とか医師としての自分とドルオタとしての自分を和解させて安全に双子を生ませることにした。

 そんなあるとき、一人の男が病院にやってきた。

 

「いや、あのですから、こちらに星野アイという女性が入院しているはずなのですが!?」

 

 たまたま 通りかかった受付ロビーでそんなことを言っている男がいた。年は二十歳くらいで透き通る様な金髪。安っぽい黒のパーカーとジーンズを着てマスクと眼鏡を身に着けている、どこからどう見ても怪しいとしか言えない男が受付嬢に詰め寄っていた。

 

「うちの職員にこれ以上迷惑行為をするのでしたら警察呼びますよ?」

「先生」

「先生?」

 

 受付嬢が少しホッとしたような顔をする。

 

「こちらに星野アイという少女が入院しているはずなのですが?」

 

 男は強い剣幕で俺に目線を向けてくる。そこには焦りが垣間見える。

 

「いえ、知りません。こちらにそのような人物は入院しておりません」

「そんなことはないはずだけど」

「これ以上迷惑行為をするつもりでしたら警察を呼びますよ?」

 

 男は警察と聞くと、今までの態度が嘘かのように急に慌て始めた。

 

「いや、警察はちょっと。でも、ここに星野アイがいるはずなんですけど」

「警察、よびますよ?」

 

 男はそういうと一歩引きそのままボヤキながら病院を後にしていった。

 受付嬢からお礼を告げられてロビーから後にしながら考える。ここに星野アイは確かに入院している。だが、そこでは偽名を使っている。ここに星野アイが入院していることを知っているのは事務所の社長と俺くらいのはずだ。ならば、何故あの男は知っている?

 スマホで「アイ 入院」と調べても検索には引っかからないし、ネット掲示板やSNSにもアイが入院しているといったような書き込みはない。

 とりあえず社長さんに報告してアイには気を付けてもらおう。今度はもしかしたら強行手段に出てくるかもしれない。

 頭の中で考えをまとめていると気が付けばアイが入院している病室についた。

 

「あっ!先生ちょっといい?」

「ん?どうした?」

 

 開口一番にアイは俺の姿を見るとスマホをこちらにかざしてきた。

 

「ここの住所と名前ってこれであっているよね?」

 

 スマホには確かにここの病院名と住所が記載されていた。

 

「ああ、これであってるよ」

 

 アイはだよねーといいながらスマホをみて難しい表情をする。そんな顔も可愛かった。

 

「そうだ、さっき辺な奴が星野アイはどこだって訪ねてきたから気を付けろよ」

 

 俺がそういうとアイはひょんとした顔を向けてきた。

 

「ねえ、その人ってジーンズに黒いパーカー着てきた金髪だったりしない?」

「確かにその通りだったが、もしかして界隈で有名なストーカーだったりするのか?」

 

 それを聞くとアイは急に笑い始めた。

 

「先生、その人ストーカーじゃないから連れてきてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすみませんでした!」

「いやいや、気にしないでください先生。あの時名前を言わなかった俺も悪いですから。てか、そもそも諸悪の根源はこいつですから」

 

 俺は先ほど追い返した男を探して連れてきた。

 

「諸悪の根源って、まるで私が悪の親玉見たいに言って」

「いや、誰がどう考えてもお前がわりーよ。お前がもっと早く教えてればこんなことになんなかっただろ」

 

 男とアイが仲良さげに話すのをなんとも言えない表情で見ていると、男がこちらを見てきた。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったか、夜月レイです。この子たちの父親で、一応こいつの夫です」

 

 マスクと眼鏡をとり、そこには今超人気俳優の夜月レイがいた。

 夜月レイ、歳は二十歳の今や日本で知らないものはいないと言わしめる程の天才俳優だ。

 そんな、今若手俳優ナンバー1と言われる夜月レイが子供を作っている。しかも相手はB小町のセンターであるアイだ。

 そこから先の記憶は俺にはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか自分の頭の中で整理をつけた。

 話を聞くとレイさんが何故こんなに焦って病院に来たのかというと全ての原因はアイにあるらしい。

 ちょうどアイの活動休止発表の少し前から今度やる映画が撮り始められたようだ。原作も物凄く売れている有名作でその主演を務めるのが夜月レイらしい。やっとのことで映画も取り終わり、ひと段落ついて腰を落ち着かせようとしたときにアイから子供が出来たと連絡をもらったらしい。その連絡をもらってすぐ宮崎まで飛んできたようだった。なぜ、こんなに時間が空いてアイが教えたかというと「ごーめん、忘れてた」らしい。その時の表情も可愛かった。

 ちょっとした波乱もあったが、それも終わり出産予定日がすぐそこまで来ていた。

 

「せんせ、呼んだらすぐ来てよ」

 

 そしてアイが出産する日に、俺は何者かに刺されて命を落とした。

 そして俺はアクアに生まれ変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とアイとの間に子供が出来た。

 男の子の方の名前は愛久愛海で女の子の名前は瑠美衣である。もう一度言おう、アクアマリンとルビーである。キラキラネームである。

 最初聞いたときはさすがに目を見開いた。俺だって父親になるのだ。そりゃあ名前も沢山考えてきたし、スマホで「名前 由来」とかで沢山調べもした。色々な候補を考えてよし、一緒に決めようと思いながらアイの病室まで行くとなんともう決められていた。しかも役所にも提出されていた。 これにはさすがに空いた口もふさがらなかったし、苺プロの社長も驚いていた。

 まあ、そんなこんなで俺たちの間には子供ができた。

 東京に帰り、アイが休止中に俺も俳優業を少しセーブした。

 育児本を買いあさり、YouTubeなどで育児系の動画を見まくった。これでもかと見まくってよし双子の世話をするぞ、やる気を出したが杞憂におわった。

 そもそも、うちの子達全く泣かないのだ。

 夜泣きを全くしないし、そもそも泣くという行為をほとんどしない。お漏らしなどで泣くことはあるが、それもほんの少しだけで俺たちに知らせるために泣く程度だ。

 

「もしかして、うちの子は超天才かもしれん」

「どうして?」

「だってさあ、泣くこともあんまりないし。なんかちょくちょくこちらの意図を読み取るような行動してくるし、これで天才じゃなければ誰かのうまれかわりしかねーだろ」

 

 アクアをあやしていると、アイがルビーをあやしながら膝の上に倒れこんでくる。

 

「お父さんの愛が重すぎてやーねー」

「愛が重いってお前なあ」

 

 こんな可愛いのに当たり前だろと思いながら思いながら右手でアクアを撫でていると、アイが右手を取ってきた。

 

「私も愛してくれなきゃやーだー」

 

 取られた右手はそのままアイの頭に置かれた。少し触っただけでアイの髪の美しさが分かる。

 

「愛してるに決まってるだろっ!」

「あいたッ!」

 

 そのままデコピンをする。力を全く入れていない指が当たった程度のデコピンだ。

 

「てか、これからアイドル復帰するんだろ。大丈夫なのか。振付とかの方は?」

「当たり前でしょ、問題なし!子供たちと見ててよ」

「ああ、ちゃんと見とくよ見とく」

 

 それからしばらくすると、苺プロの社長が来てアイを連れて行き、数時間後にはアイたちB小町はテレビに映された。そこでもやはり、アイは全ての人間を魅了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイが復帰してからしばらくして俺もセーブしていた俳優業をまた入れ始めた。俺やアイが仕事の時は社長の奥さんである斎藤ミヤコさんが双子の面倒を見てくれている。最初こそしかたなくという雰囲気があったが、ここ最近はそんなものは消えてなくなっていて、子供たちとも仲良くしてくれてるらしい。本当に斎藤夫妻には頭が上がらない。

 

「今日はここまでですお疲れさまでした。皆さんありがとうございましたー!」

 

 収録が終わると時刻は22時を迎えようとしていた。

 今日はアイが箱でのライブがあるらしく、ミヤコさんが家で面倒を見てくれている。せっかくだし何か買って帰るかと思っていると、今日一緒に共演した人たちが集まって盛り上がっていた。

 

「どうかしたんでか?」

「あ、夜月くん?見てこれ。めちゃくちゃ可愛くない」

 

 そういってスマホを見せられた。そこにはSNS挙げられた動画らしく、どうやらアイドルのライブらしい。だがアイドルを映しておらず、映しているのは双子の赤ちゃんだった。赤ちゃんがオタ芸をしていた。うちの子達がアイのライブでオタ芸をしていたのだ。

 えっ、ナニコレうちの子達可愛すぎだろーーーー。てか、アイも可愛すぎだろーーーーーー。

 パシャリという音にも気づかずにその動画を見入っていしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイの顔もめちゃくちゃかわいーじゃん」

「うるせーよ」

 

 あれから家に帰って気づいたことだが、あそこにいた誰かが俺の反応した表情を撮ってそれを動画の引用リツイートしたらしく、それもまた見事にバズった。

 コメントには冷静な俳優夜月レイの可愛い一面などと書き込まれていた。

 

「ふふ、い~じゃんレイも十分かわいいよ」

「俺はそんな売り方してないからな、てか、お前にいわれたくねーよ。めちゃくちゃかわいい顔してるじゃねえかよお前」

 

 スマホの画面にはいつもはしないようなかわいい表情をしたアイが写っている。こちらの画像もまたバズっている。

 

「えへへ、わかちゃったもんねー」

 

 彼女の表情を見てわかる。ようやく彼女は自然に笑えたのだろう。

 別にいつも笑っていなったわけではない。当然アイドルなのだからいつも笑っていなければならない。だが、その笑みは決して自然な笑みではない。そこには打算があって計算があって、自分がどう見えるかと考えながらやっている。だからこそ、どことなく嘘くさく見えていた。

 だけど、この笑みはちがう。心の底からの笑みだ。俺では決してこの笑顔を出すことはできなかっただろう。本当に我が子達には感謝しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 1年が過ぎた。

 アクアとルビーも大きくなり、気づいたときには立って歩いてたし、言葉も話していた。しまいには極楽浄土なんていうどこで習ったか分からない言葉も使い倒していた。やぱり、うちの子達は天才であったか。

 アイの活動もどんどんと脚光を浴び始めており、前以上にメディア露出が増えてきていた。そして今日、アイは初のドラマ撮影の仕事が入っていた。しかも俺と同じドラマだ。

 俺はメインキャストでアイはちょい役のセリフもない役だが、劇団のワークショップからの事を考えるとお互い大した進歩だろう。

 

「おはようございます。夜月レイです」

 

 スタジオに入ると周りの人から挨拶が帰ってくる。とりあえず、台本を読んでいると入り口から声が聞こえた。

 

「苺プロダクションのアイです。本日はよろしくおねがいします」

 

 入り口にはアイが立っていてその後ろにはマネージャーであるミヤコさんがいた。そしてミヤコさんの横には二人の子供が立っていた。アイとアクアだった。

 なんとか、驚きを隠しきる。

 

「そっちの子供は?」

 

 アイの前で何処か威圧的な雰囲気を醸し出しながら監督はアクアとルビーに視線をみけていた。

 

「・・・私の子供です」

 

 ミヤコさんは監督の圧を食らっていた。怒られるとでも思っているのだろう。大丈夫だろうけど。

 

「もしかして、これが働き方改革ってやつか。時代だなー」

 

 この監督何処かぬけてんだよなー。

 

「アイさんよろしくおねがいします」

 

 一応ここではお互い他人だ。ここまですぐそばにいて挨拶をしないというのもそれはそれで変だから一応挨拶くらいはしておこう。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。レイ」

「「「・・・・・・」」」

 

 時が止まったかと思った。

 ミヤコさんは空いた口が塞がらず、アクアとルビーも咳込んでいるというか噴き出していた。

 それで、口走ってしまった当の本人はてへっとまるで緊張感のない表情を浮かべている。

 

「え、なにお前ら知り合いなの?仲良かったりする?」

 

 

 未だに近くにいた監督が聞こえてないなんてことはなかった。

 アイはどーしよーと言い訳を考えているがまとまりきっていないようだ。

 

「昔に何度か劇団のワークショップに彼女が参加していたんですよ。そこからの付き合いなんですよ」

「へーあっそ、じゃ、頑張ってくれー」

 

 それだけ言い残すと監督は去っていき、アイ以外の全員がはぁっと思い息を吐いた。

 

「おいこら、アクアとルビーが来るなんて聞いてねえぞ」

「だってー、二人がパパとママの仕事姿を見たーいって言ってたからー」

「いやだからって先に一つくらい連絡があってもさぁ」

「まあまあいーじゃんいじゃーん。かっこいい所見せてよねパーパ」

 

 そういうとアクアは足早に去っていった。

 おお、お前はパパの味方かアクア。

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

「どうですか、監督?」

 

 撮影がひと段落ついた休憩中に俺は監督を訪ねた。

 

「ああお前は相変わらず上手いよ。合格だ。ちゃん筆者の考えってやつとカメラに対する見せ方が出来ている。120点だよ」

 

 褒められてしまった。わかってやっているがこうして面と言われるいると照れてしまう。

 

「違いますよ。俺の事じゃなくてアイの事ですよ」

「あー、彼女の事かー」

 

 ふーと監督は煙草を吹かす。紫煙はゆらゆらと持ち上がっていく。

 

「ここ、禁煙ですよ」

「俺達しかいねーからバレねーよ」

 

 抜けた顔をしていた監督の表情は一変して真剣になった。

 

「演技は普通だな。平凡、並だといっていいだろう。だが・・・」

「目を惹きますか?」

「ああそうだな。おまえの見せ方は現場にあるもの全てを使う見せ方だ。小道具を照明をカメラも、なんなら共演する演者すべてをお前が内包して利用している。だけど彼女は違う」

 

 煙草独特の香りが鼻孔をくすぐってくる。アクアとルビーの為にも服に匂いを付けたくないのだけどな。

 

「さっき早熟ベイビーがこんな事を言っていたよ。カメラにさえ可愛いと思ってもらえばいいからMVと同じ感覚だって。お前と同じことを感覚で、お前以上のことが出来るのならそれは紛れもなく才能だよ。天才だ。だからこそ・・・」

「カットしなければならないですか」

「ああ。可愛いすぎるってのもつくづく罪だよな。その点、引く演技も出来るお前は間違いなく長生きするから安心しろよ」

「そうですね・・・」

 

 本当にアイにはこの先も長生きして欲しい。

 紫煙を吹かす監督を見ると青ざめたような恐怖しているような、でも微かに笑っていて楽しみで仕方がないみたいな子供じみた表情をしている。

 

「どうかしたんですか?」

「いやな、もしアイとお前が主演を務めるような作品が出来上がったらどんな作品になるのだと思ってな」

「そりゃあ・・・名作になるに決まってますよ」

 

 今回もアイと共演してはいるがアイはちょい役として呼ばれただけだ。俺の役との絡みはゼロだといっていいだろう。だからこそ、夢想してしまう、そんな考えが紫煙と共にふわふわと浮いていった。

 

 

 

 

 

 

 あれから一か月後オンエアがあった。

 家族四人でドラマを見たが当然のようにアイの出演シーンはほとんどカットされていた。その事実にアイは仕方ないかーと流しているがアクアとルビーは憤慨していた。どうやら双子はすくすくマザコンとして育っているらしい。俺主演なんだけどな。

 

「私さぁ、演技そんなに下手だったのかな」

 

 アクアとルビーが布団に入り、二人でソファーに座っているとそんなことを言ってきた。

 

「まあめちゃくちゃ上手いかと言われるとそんなことはないが、それでも下手ではなかったから。そこは安心しろよ。お前はただ可愛すぎたんだよ」

「そりゃあ、私は可愛いし、プロだしね」

「そうだけどな、お前の隣にいた人は可愛すぎる演技派女優で売っているんだ。それよりも可愛いお前が写っているとダメだろ。だからまあ、そういうことでもあったんだよ」

 

 アイは「そうかーなら仕方ないねー」と笑っていた。

 そこには特に悔しがるといったような表情を見せていないいつも通りのアイがそこにいた。

 俺は深いため息を吐き、隣に座るアイを引っ張る。

 

「ふぇ、何急に⁉」

「別にここには俺しかいないだから別にアイドルしなくても、母親してなくてもいいんだよ。悔しかたっら悔しいっていえよ。泣きたかったら泣けよ。誰も見てないから安心しろよ」

「・・・バカ・・・ありがとう」

 

 顔は見ていないが多分泣いてはいないのだろう。それでも彼女は顔を伏せている。彼女はいつか泣ける日が愛せる日が来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キー、ママに抱き着かれてズルいー」

 

 二人の様子をアクアとルビーは扉の隙間から覗いていた。

 

「別にいいだろー夫婦なんだから。てか、お前もいつも抱かれてるだろー」

「それでも、いいなー。あんな弱弱しいママに頼られたいー。よしよしして一生守りたいー」

「いや、さすがにそれはきめーよ」

 

 あの二人には本当に産ませるなら普通の子供を生ませてやりたかった。

 アクアとルビーはお互い俗にいう転生というものしてきていた。

 両方とも前世ではアイが推しというオタクでもある。

 

「ほらルビー、気づかれる前にさっさと寝るぞ」

「うん」

 

 静かに扉を閉めて二人は布団の中に入る。

 

「・・・なあ、ルビー聞いていいか?」

「何?お兄ちゃん」

 

 真っ暗な部屋でアクアはルビー尋ねる。

 

「結局のところルビーは父さんの事をどう思ているの?」

 

 アクアもルビーも最推しと言える存在はアイだけだ。だからこそ、アクアはルビーがレイの事をどう思っているのかが気になった。

 

「最初は誰の許可得てアイに触ってんだ殺す、てめえのぶら下がっているもん千切ったろかって思ったよ」

「いやこえーよ。さもそれを当然みたいに言うなよ。過激派すぎだろ」

「でも、今は悔しいけどお似合いだと思うよ。パパはママにも私たちにも優しいし愛してくれるから」

 

 ルビーは寝ると言いその後には寝息が聞こえてきた。

 

「そうだな、本当にアイの相手が父さんで良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、久しぶりにどこか行こっ!」

 

 今日はお互い仕事がないオフでお互い自由に休みを使える。

 いつもならアクアとルビーもいるのだが今日はいない。なんとアクアが子役として撮影に呼ばれたのだ。父親としても鼻が高い、やはりうちの子は天才なのかもしれない。

 

「行こうって俺たちが一緒にいるのが見つかるとやばいぞ。壱護さんも口酸っぱく言われてただろ」

「大丈夫、大丈夫、だからねっ、行こうよ」

 

 こうなると昔からアイは譲らない。

 

「わかったよ。せっかくだし、どこか行くか」

 

 アイはヤッターといいながら着替えるために自分の部屋へといった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして思うとアイと二人でどこかに行くのは子供たちが生まれてからは一度も無かったかもしれん。それこそ二人が生まれる前はよくアイに呼び出されて色々な所に行っていた。その頃は俺もアイも人気はほとんど出てなく変装なんて全くしていなかった。

 だが、今は違う。俺は様々なドラマやテレビ番組に出るようになったし、アイも今やB小町のセンターとして世間に浸透しようとしている。だから、今が一番大事な時期でもあるのだが、アイもたまにはストレスを発散したいのだろう。

 俺も着替えをして準備をし終えてしばらく待つとアイが行く用意が出来たようで部屋から出てきた。

 

「おまたせっ」

「俺も今支度終えたところだから。行くか」

 

 家を出るとちょうどいいことに呼んでいたタクシーがきた。

 

「・・・タクシー呼んでたんだ」

「ああ、一応細心の注意はしといた方がいいだろ」

 

 タクシーに行き先を告げて車にゆられる。

 何故だかタクシー内でのアイの口数は少なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、複雑~」

「どうしたんだよ、急に」

 

 時刻は三時過ぎている。休憩程度で入ったカフェでアイはテーブルに突っ伏して膨れていた。

 

「だってさー、なんかめちゃくちゃ手慣れてない?昼食食べたところも気づいたら予約していたし、さっき見た映画の席も予約してたし」

「そりゃあ、せっかくなんだからそれくらいするだろ」

「でもさー、昔はさあそんなこと全くしてくれなかったじゃん」

 

 昔ってお前なあ。

 

「一体いつの話してんだよ。あの時はお互い人気も無かったし金も対してなかったけど今は違うだろ。てか、そもそもあの頃お前まだ子供だったし」 

 

 アイが何故唸り始めると俺の足を蹴り始めた。痛いって。

 

「あっ、ごめんね。ちょっと社長から電話が来たみたい」

 

 バイブレーションする携帯を手にしながらアイは人ごみの中に消えていった。

 

「やあ、お久しぶりです」

 

 振り返るとそこには1人の少年が立っていた。

 歳は17.8くらいでぱっと見はもの腰の優しい少年が立っている。

 

「げっ、おまえかよ」

 

 カミキヒカル。それがこの男の名前で、多分俺とは一生相容れないだろう。

 俺とこの男の出会いは劇団ララライでのことだった。当時中学生で入ってきたこいつは他の劇団員に有無を言わせない演技と共にやってきた。中学生とは思えないという評価をこいつは得ていた。

 だけど、こいつは常に劇団で独りだった。別に素行が悪いだとか、コミュニケーション取っていないとかそういうことではない。ただこいつはいつでも誰といても独りでいたのだ。

 

「最近は結構お仕事もたくさん入ってるようで、大変ですね」

 

 カミキヒカルは堂々となんの躊躇もなく先ほどまでアイが座っていた席に腰を下ろした。

 

「そこ、他の人が座っている席だから」

 

 座るなと、てか帰ってくれと意味合いを持たせて言うが、お構いなしなようで終始微笑んでいるだけだ。

 こうして正面を向いて顔をみると、こいつはアイに似ていると思ってしまう。こいつもアイと同様に人を引き付ける。

 誰もが、こいつの顔に立ち振る舞いに、そして目に魅惑されて狂わさている。

 つくづくアイと似ていると思うがそれ以上に、俺と似ていると感じる。

 それはまるで不出来な合わせ鏡のような、どこか一つだけが決定的にずれ居てる、そんなボタンのかけ間違いの様な気持ち悪さを、嫌悪の感情がこいつを見ていると湧き出てくる。 

 

「それにしても今絶賛の若手俳優がこんなところにいるとは、しかもアイさんと一緒にいるとは誰も思いませんよね」

「何が言いたいサイコパス」

 

 眼光を鋭くして睨む。

 昔からこいつは得体のしれない恐怖を持っている。

 

「別になんの意味もありませんよ」

 

 カミキヒカルはそれだけ言うと席を立ち上がった。

 

「アイさんが戻ってきたみたいなので僕はこれで失礼します。家族末永く安らかな日々を願っていますよ」

 

 カミキヒカルはそれだけ言い残すと人ごみの中に消えていった。相変わらず気持ちの悪いやつだ。

 

「お待たせー。もしかして今の人と何か話してた?」

「いや、何も話してねーよ」

 

 そろそろ帰ろう、と言いカフェから出て人ごみの中に紛れる。

 

「さっきの男の事、アイは知っているか?」

「さっきの人?いや知らない人だけど?あ、でも少しレイに似てたかもね」

「ああ、そうだな。もしかしたらちょっと似ているのかもな」

 

 人ごみの中を歩いていると通り沿いに一つの大きなショーケースが目に映った。

 純白のウェディングドレスをマネキンが来ていた。

 

「綺麗だねー」

 

 アイの呟きに俺はああ、と言葉を返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアとルビーが生まれて気が付けば三年経ち、ついには幼稚園に入園した。我が子の制服姿が可愛いすぎる。

 アクアはなぜか知らないが京極夏彦の本をいつの間にか読んでいた。多分天才なのだろう。

 ルビーはアイの振りを完璧に覚えていたらしい。親としてルビーが踊っている姿を早く見たい。やはり天才か。

 アイはそれからもどんどんと人気になっていき、今や日本中誰も知っているアイドルにまで上り詰めていた。そしてついに、もう少しで20歳を迎えるという日にアイはドームでのライブを控えていた。

 

「ついにドームだな」

「うんそうだね。ちゃんと見ててよ私のライブ」

「ああ、見ているから安心しろよ。それよりも、実際どうなんだ?」

 

 来週に控えたアイのドーム公演。すべてのアイドルの夢の果てともいえる場所にアイは手を掛けたのだ。

 

「それはもちろん完璧だよ!」

「そういうことじゃなくて。どうなんだ」

 

 ドームは全てのアイドルの夢であり目標だが、それはアイの目標ではない。

 

「アイはちゃんとアクアをルビーをファンを愛せているか?」

 

 アイは愛を知らずに育った。詳しくは知らないがアイの幼少期は孤児院で過ごしていたらしく、母親の最後の一言が愛していないという言葉らしい。

 それでもアイは愛を知りたいから、愛していると嘘をつきながらアイドルを続けている。いつかちゃんと愛してるを言うために。

 

「・・・さあ、どうなんだろうね。よくわからないや。やっぱり私には無理なのかなー」

 

 アイは笑い飛ばすかのように笑う。その笑みはどこか痛いたしい。

 まあ、言ってしまえば予想はできていた。だからこそ、俺は今日色々な所を回ってきたのだ。

 

「なあアイ。いや星野アイ」

「えなに、どうしたの急に?」

 

 俺は隅に置いていたパンブレットの数々をテーブルに置いた。

 

「俺と正式に結婚してくれないか」

 

 俺がそういうとアイは時間が止まったかのように素っ頓狂な表情をしている。その表情はどこか懐かしくて一番最初に話しかけた時も思い返せばそんな表情だった。

 アイと俺は結婚してない。確かに子供を作って同棲しているが役所に結婚届は出してないし、子供の親権は斎藤夫妻に移してある。本当にあの二人には頭が上がらない。

 

「え、嘘なんで。だって私まだ愛せないんだよ。自分の子供にもまだ愛してるって言えてないんだよ。あなたにも言えてないんだよ」

 

 そんな事はもとより承知している。

 

「俺はお前が好きだ。愛している。別に俺の事は愛さなくていい。アクアとルビーの二の次でいい。それでも、俺はこれから先お前と寄り添って生きていきたい」

 

 一枚の紙をアイに差し出す。その紙の記入欄の左側はもう埋まっている。

 

「本当に私でいいの?私まだ・・・愛せてないんだよ。それなのに・・・本当に私でいいの?」

「俺がアイを誰よりも愛してやるから。アイは俺以外の全てを愛せるように俺が愛し続けてやるから」

 

 俺はそっとアイを抱きついてきた。

 嗚咽交じりの声が聞こえてくる。

 胸元が微かに湿ってくるのが感触でわかる。

 俺はただただ確かにアイに抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくするとアイはいつもの表情に戻っていた。

 

「てか、これなに?どうしたの?」

 

 アイがそういってテーブルの上にあるパンフレットに手に取る。

 

「いやそりゃー、結婚するんだから式はどこでやるかと色々決めなくちゃいけなかっただろ」

「もーそれでこんなにパンフレット集めるとかレイ私の事好きすぎ。愛しすぎー」

 

 再度は思いっきり抱き着いてくる。

 

「当たり前だろ。俺がアイのウエディングドレス姿を見たいんだから」

 

 アイはそのままソファーの上に俺を押し倒してくる。

 

「私が成人になるの来週だけど今日はいいよね。許されるよね。お酒一緒にのもー。レーイ」

「いや、許されねーから。そもそも俺はお前に無理矢理飲まされて押し倒されてから禁酒してるんだからやめろー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人のイチャイチャをアクアは扉の隙間からのぞき込んでいた。

 アクア自身遅かれ早かれこうなるだろうと、なんなら何故まだこうなってないのかと疑問にさえ思っていた。

 

「もういいかげん静かにしろよー」

 

 ため息をはきながらアクアは布団の上で転がり回るやつに目を向ける。

 

「ーーーーーーーーーーーーー」

 

 ルビーは現実を受け入れられないのかゴロゴロ回ったかと思えば、今度は跳ねていた。

 

 

「ルビー気づかれるだろ。いい加減静かにしろ」

「むー、だっておにいちゃんはいいの。ママに男が出来て」

 

 グルグル巻きの布団からぴょいっと顔を出して訴えてくる。

 

「そりゃあ、知らない奴なら心が沈むけど、もう俺たちが産まれて何年たっていると思ってんだよ。ルビーもパパパパーって言ってるだろ」

「そーだけどさー。・・・ママは絶対処女受胎だと思ってた」

「いや、さすがにそれはこえーよ。発想がもう末期すぎるだろー」

 

 アクアは再度ため息を吐きルビーの布団の中から取り出す。

 

「とりあえず、祝福しよーぜ。アイのあんな顔見たことないだろ」

「うん・・・わかってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイと改めて結婚するようになってから、アクアとルビーを構おうとするがアクアには振られてしまう。もしかしたらもう反抗期かもしれない。お母さん的にはめちゃくちゃ嬉しい。ルビーはむしろ今まで以上にくっついてきた。

 逆にレイはルビーから距離を取られていた。もしかしてお父さんと一緒に洗濯しないでと言われるのではとビクビクしているらしい。アクアに慰められててちょっと羨ましかった。

 特に意識しているわけはないけど気が付いたらレイとくっついていることが気づいたら増えていた。昔からそうだけどレイのもとは安心する。

 気が付けば一週間が経ち、ついに今日はドームでのライブだ。準備を済まして、これからライブだとSNSに投稿する。

 その時、玄関のチャイムがなった。

 

「多分社長だと思う、ごめんレイー出てー」

 

 わかったーという声を聴きながら最終チェックをしていると玄関で大きな音がした。

 何事かと思い玄関に行くとレイが血を出して刺されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファンを裏切りやがって!男なんて!ガキなんて作りやがって!」

 

 腹のあたりが燃えるように熱くなってくる。

 

「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!この売女がっ!」

 

 腹の色々な所が熱くなってくる。

 

「レイッ!!!!」

 

 背後からアイの声が聞こえてくる。

 目の前に立つ男は赤いナイフを宙に掲げている。俺はその腕を掴み壁に叩きつける。

 

「おいこら―――確かにアイは嘘つきだ。打算で誰に対しも愛してるというがなあ―――それでも、俺はあいつのことを愛してんだよ。てめえ如きに売女だと言われる筋合いはねーんだよ!」

 

 男は思いっきり体を捻じり俺を投げ捨てると声をあげながら立ち去って行った。

 

「レイッ!レイッ!」

 

 吹き飛ばされて壁に倒れこんだ俺にアイが抱き着いてきた。

 

「おいアイ。これからライブだろ。抱き着くと汚れちゃうぞ」

 

 ヒューヒューと掠れた息が口から吐き出されていく。全身から色々なものが零れ落ちるのが、亡くなっていくのがよくわかる。

 

「なんで!どうして!ねえなんで!」

「父さん、今救急車呼んだから!」

「―――アクアお前はさすがだな。ここまで視野が広いなら将来は役者か―」

 

 口からドロッとしたのが零れ出てくる。

 

「アイは怪我とかしてないよな。お前これからライブなんだからな。そんなに抱き着くと血が落ちなくなるぞ」

「死なないでよ!いやだよ!一緒に生きようってこの前言ってくれたばっかじゃん!」

「いいからしゃべるな!出血がっ!」

「アクア―――アイとルビーの事よろしくなあ―――お前は俺よりもしっかりしているんだから、お前なら二人を任せられるよ」

「ルビー―――アイ譲りで可愛いからなぁ、将来はアイドルとかやってるのかなぁ。アイと一緒に踊っているところ見たかったなぁ」

「パパっ!パパっ!」

 

 だんだんと足のつま先から感覚がなくなっていくのがよく分かった。

 

「―――ああ、アイのウエディングドレス姿みたかったなー。俺が着せてやりたかったよっ」

「うん、着るから。色んな所で着て、色んな所で結婚式あげようよ。だから、死なないでよっ。レイ」

 

 段々と前が見えなくなってきた。

 

「アイ―――ごめんなぁ。俺が世界で一番、だれよりも、お前を愛してるよ」

「私も愛してるから!レイの事世界で一番愛してるから!だから、お願いだから!死なないでよ!生きてよっ!」

「・・・俺の事はいいんだよ。アクアとルビーに言ってやれよ―――俺はアイと結婚出来てアクアとルビ―の父親になれて嬉しかったよ」

 

 

 

「ああ―――愛してるよ―――ライブ頑張って来いよ。見て―――る―――か―――」

 

 

 アイはその日、一人の為にライブをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜月レイがアイドルのファンに刺されたことは瞬く間に広がった。

 そして、芋づる式で夜月レイとアイドルと内縁関係であったこと、、そのアイドルがB小町のアイであることが瞬く間に広がっていった。

 SNSでこそアイとレイとの関係にバッシングをしている輩がいたが、その日のアイのライブを見たファンからのコメントによりそういったコメントは埋もれていった。ドームでのアイのライブはファンたちに刺さり熱烈な声と共に伝説になった。

 そして、アイはその日のドームでのライブを最後にアイドルを卒業した。

 

「それじゃあ、行ってくるねママ、パパ」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。愛してるよアクア、ルビー」

 

 双子を見送ると

 

「愛してるよ、レイ」

 

 女性は写真に対して優しく微笑んだ。

 

 

 

 




おかしい。アイ生存で家族水入らずのイチャイチャあったか家庭バッピーエンドを書きたかったのに何故こうなった。おかしい。
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