炎に誘われる蛾のように俺は彼女に惹かれた。   作:こーーーーーー

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前の話のifストーリーです。
やっぱりね、時代はハッピーエンドよ。
一応言っておくとどちらが正史だとかは明記しないのであしからず。



いつまでも待ってるから

「多分社長だと思う、ごめんレイ―出て―」

「わかったー」

 

 アイに言われてチャイムが鳴った玄関へと向かう。

 あと数時間もすればアイはドームでライブを行う。

 よくよく考えてみると、アイがデビューをしてから俺はアイのライブに一度も行けたことはなかった。映像の類では何度か見たことがあるが生で見るのは今日が初めてだ。

 だからだろうか、ドアノブが非常に重く感じる。

 ゆっくりと扉を開けると段々と男の姿が見え始めてくる。

 

「おはようございますレイさん。アイを迎えにきました。準備できてますか?」

 

 壱護さんとミヤコさんがそこにいた。

 その瞬間俺はドっ、と肩の力が無くなった。

 

「そんなに汗かいてどうかしましたかレイさん?」

「いえ、何でもないですよ。アイなら準備できてますよ。壱護さんがきたぞー」

 

 奥の部屋にいるアイを呼びかける。

 

「レイさん、気を付けてくださいよ。今のとかちゃんとチェーンロック使ってわなくちゃ危ないですから」

「そうですね、気を付けます」

 

 壱護さんと何でもない会話を繰り返していると後ろの扉からアイが来た。

 

「社長ーおまたせー。どうレイ、可愛い?」

「ああ、最高にかわいいよ。愛してる。頑張ってこい」

「うん、ちゃんと見ててよ」

「アクアとルビーと一緒にちゃんと見とくよ」

 

 アイは軽く顔を近づけてくるとチュッ、と唇をくっつけてきた。

 じゃあねー、手を振りながら壱護さんに連れられていかれた。

 我が嫁ながら相変わらず可愛い過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイがドームに向かってからしばらくして俺たちもミヤコさん連れて行ってもらってドームに向かった。

 関係者専用の出入り口から入り、俺たちは一般席ではなく関係者席というもっとも見やすい席に連れて行かれた。

 この席に座れるのは出演者の関係者か、今回のライブに協賛してくれた会社のお偉いさんくらいだ。実際端の方にはお偉いさんが見える。

 

「ついにママのライブだよ!まだかなまだかな!」

「ルビー、静かにしろよ」

「だってだって、ドームでのライブだよ!こんなの興奮せずにいられないよ!」

 

 ルビーは目の前の手すりにまで駆け寄り幕が下ろされているステージに今か今かと釘付けになっている。

 一見ルビーを宥め落ち着いているように見えるアクアだが手にはサイリウムが握られており今か今かと待ちわびているのが見て取れる。

 

「もー二人ともこの前のライブみたいに騒がないでくださいね」

 

 ミヤコさんが言っているのはSNSでバズったアクアとルビーのオタ芸動画の時の事だろう。

 

「まあまあ、今日くらいはいいじゃないですか」

 

 俺が宥めに入るとミヤコさんはそうですけどーとぼやく。

 

「アイのライブ見るの初めてなんだけど、やっぱりすごいのか?そんなにテレビとかとは違うか?」

 

 俺が二人に尋ねると興奮気味に答える。

 

「そりゃあそうだよ!もうママは神なんだから!テレビなんかで見るのと生で見るのはわけが違うよ!もう全員億、いや兆支払うべき!」

「父さんは何で母さんのライブ見たことないの?見ようと思えば見れたでしょ」

 

 ルビーの興奮とは逆に落ち着いた声音でアクアが問いかけてくる。

 

「タイミング無かった・・・いや違うな」

 

 アイと知り合った時はまだアイに知名度も人気も無かったし、俺にも自由な時間が多くあった。だから、行こうと思えばいつでも行けた。では、何故行かなかったのか。

 

「多分俺は怖かったんだよ、アイのライブを見るのが。アイは色んな人を引き付けて色んな人を焦がすアイのライブが怖くて仕方なかったんだよ。アイは俺が持っていないものを沢山持っているからな」

 

 俺はアクアとルビーの頭をなでる。二人ともアイに似たのか髪がサラサラしてとても撫でやすい。

 

「よう、久しぶりだな。早熟、レイ」

 

 後ろには五反田監督が立っていた。

 

「監督も来てたんですか」

「ああ、アイに招待されてな」

 

 ミヤコさんが席を立ち監督に譲ろうとするが監督はそれを断った。

 

「ここで見てかないんですか?」

「俺にも色々あるんだよ。それにアイの・・・母親のライブなら家族で見たいだろ」

 

 監督はそれだけ言うとじゃあなといい去っていった。

 流石にバレていたか。

 

「さあ、始まるぞ」

 

 観客も入りきり、ビーという音と共に幕が上がりステージから光が零れてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイのライブが始まった。

 隣でルビーがキャーキャーはしゃいでいるし、俺だって興奮を隠しきれずにいるでも。

 でもここまで落ち着いて入れるのはもう反対側に座る大人の、父親のお陰だろう。

 

「アイーーーーーーー!」

 

 俺以上に、ルビー以上に、ここにいるすべての人以上に間違いなくレイが一番興奮していることが見て取れた。

 本当に、レイを見ているとよくわかる。

 狂わずにいられないのだ。ズレずにいられないのだ。焦がれずにいられないのだ。

 その日のライブは伝説になり、アイドルアイは日本アイドル界のトップに立った。

 ライブを見た全ての人が後に口を揃えていった。

 あんな、嬉し恥ずかし、恋焦がれるような乙女のような表情を見たことはないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「カンパーイ!」」

 

 アイはドームでライブを終えた。

 そして、ついにアイも二十歳になり、酒を飲める年齢になった。

 

「へー、これがお酒かー、あんまり美味しくないね」

「まあ最初は飲みやすい物からでいいんじゃないか」

 

 テーブルには数々の酒類とつまみの数々がある。

 酒類はビールや缶チューハイ、ワインや日本酒まである。つまみもサラミやチーズ、チョコやポテチといった類まである。

 

「レイさー、なんか飲み慣れてない?禁酒していたんじゃ無かったの?」

「一応付き合いで少しは飲んでいたからなあ。それに禁酒してたのは家の中だけだし」

「何で家で飲まなかったの?」

 

 何でって、そりゃあお前なあ・・・。

 アイは悪びれずに聞いてくる。

 

「アイとアクアがいるし、なによりもあんな事があったんだから怖がりもするだろ」

「あんな事って?」

 

 本当にこいつなあー。

 

「だからさあ・・・四年前。俺の二十歳の誕生日の時に俺が酒飲んで襲っただろ」

 

 俺がそういうとニヤニヤしてすり寄ってくる。

 

「そういえば、そんなこともあったねー。もしかしてこの後襲われちゃう?キャー」

 

 全く、こいつは。

 俺が二十歳になると劇団のメンバーに祝われた。それは居酒屋でベロベロに酔わせれて何とか家に帰るとアイが家にきた。

 

『もー、帰ってくるのおそいよー』

 

 俺とアイは近所に住んでいた為、定期的にアイは俺の部屋に尋ねてきていた。だから俺も何の躊躇もなく入れて、アイが何処からか入手してきた酒を飲まされ、前後左右が分からないまま押し倒されて、襲ってしまった。

 お互いそれが初めてで、その時に出来たのがアクアとルビーだ。

 その一件があって以来、俺は少々トラウマなのだ。なんだってよく覚えていないうちに抱いてしまい、数か月後に妊娠したと聞かされてその後すぐに子供が生まれたのだ。

 色々、トラウマになっても、怖がっても情状酌量の余地はあるだろう。なんなら、その一回を最後に俺はアイとの肉体関係を持っていない。

 だからこそ―――

 

「ふぇっ⁉」

 

 ソファーの上にアイを押し倒すと、可愛げな声と共に驚きの表情を出した。

 

「俺はちゃんと責任を取りたい」

 

 前のようなヘマしないために、俺はアイを押し倒す。

 

「へっ、いやー、そのー・・・優しくお願いします」

「ああ、愛してるよ」

 

 初めてちゃんと俺は彼女と交わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアとルビーの時がタイミング良かったというだけで、三人目ということはならなかった。

 

「ねえ、大丈夫かな。変なところないかな」

「大丈夫だから落ち着けって」

「えーだってー、こんな落ち着けないよー。ちょっともう一回化粧直してくる」

「大丈夫だから。もう来るから」

 

 ライブの時や撮影の時にも見せないようなレベルで緊張している。

 ドームでのライブも終わり、色々と区切りがついた時に俺は自分の父親に電話を掛けた。

 俺は高校を卒業したと同時に家を出ている。だから、父親に連絡したのなんて数年ぶりだ。

 なら、なぜ連絡したのかというと、それは婚姻届けにある。

 俺の欄もアイの欄も記入した。だが、それでも書けないところがある。

 アイの方の記入欄に身元引受人である斎藤夫妻が記入し、承認のところも斎藤夫妻が記入した。だけど、俺の欄は?別に記入は親じゃなくてもよく、実際俺も自分で書こうとしたが、連絡を取ってなくても一応は俺の親だ。

 だから俺はこうして父親と会うことにした。

 

「てか、そんなに緊張するなら別に来なくてもよかったのに。ただ報告してサイン貰うだけだぞ」

「こういうのはちゃんと挨拶が大事だって社長が言ってたもん」

 

 俺は最初一人で会おうと思い父親に連絡したのだが、一体どこでバレたのか気づいたらアイが知っていて当日に行く言ってと聞かなかった。

 

「それにさあ、もう遅いけど私たちの結婚は認めて欲しいし、アクアとルビーの事もちゃんと祝福して欲しいもん」

「そうだな。ちゃんと二人の為でもあるもんな」

 

 そういっていると、個室になっているカフェの扉が開かれた。

 

「初めまして!星野アイと言います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父親は仕事の合間を縫ってきてくれたらしく、用件が終わるとすぐに帰っていった。滞在時間は20分もなかった。

 アイは気疲れしたらしく、テーブルに身を投げてへちょーっとしている。

 

「ねえ、どうして仲悪いの?いいお父さんだったじゃん」

「・・・別に険悪な関係といったわけではねえよ」

「もしかして・・・お母さんと何かあったの?」

「まあ、そうだな。そうか、アイに話したことなかったけ?」

 

 アイはうんと首を縦に振る。

 別に俺と父親の関係は悪くない。ただ、お互いが接するのに慣れてないだけだ。

 俺には十歳年上の兄がいた。兄は結構優秀な人で将来の夢は弁護士で、そのために日本で一番の大学に進学しようと頑張っていた。特に母はそれを応援していたし、兄はそれに応えようと必死に努力していた。

 しかし、兄は大学受験に失敗して、浪人してしまった。

 それでも兄はまだチャンスがあると前向きに考えて口にしていた。実際来年も再来年もある。

 予備校に通い始めて最初の夏に兄は交通事故で亡くなった。

 友達四人で息抜きのドライブに出かけていたらしい。

 タイヤがパンクし、ハンドルを取られてガードレールを突き破って高速道路から落ちていった。

 四人とも即死で、兄が運転手だったらしい。

 そんなことがあり、兄の受験を最も考え、最も感情移入していた母親が壊れた。

 元来仕事で家にいない父が余計いなくなった。

 だからか、母の執念ともいえるものが俺に向いてきた。兄が死んだのは自分のせいだから。だからお前は兄みたくならないためにも勉強しろと、言ってきた。

 小学生の頃はそれでもよかった。まだ自我もちゃんと形成されてはいなかったから。

 でも、中学に上がるころには自分の考えを持ち、高校の頃にはそれに反発していた。

 親に隠れてバイトして、劇団に出入りする様になって、もう会う気はないという心意気で高校卒業と同時に家を出た。

 

「そこからはアイも知っているだろ。劇団でアイと出会ったんだから」

 

 アイはそういえばそうだねーと呟く。

 

「ならさ、どうして今日連絡したの?」

「別に他意はねーよ。ただ、父親には言っておくべきだと思っただけだから」

 

 俺が家を出てから一回だけ、俺は父親と会ったことがある。

 アクアとルビーが産まれる一年ほど前の事だった。

 俺が劇団ララライでやっているのを何処からか聞きつけて俺の舞台に来てくれた。その時の俺はまだここまで売れておらず、演じてたのもセリフそこそこある程度の役だ。

 最初は叱られるかもと、連れ戻されるとも考えたが父親からの言葉は「がんばれよ」の一言だった。

 

「でもあれだね、そしたら私はレイのお母さんにも感謝しなくちゃいけないね」

「なんでだよ」

「だってそうでしょ、お母さんがそうじゃなかったらさ、もしかしたら劇団に来なかったかもしれないんだよ。そしたらアクアとルビーも産まれてなかったし、私は好きな人が出来てなかったじゃん」

 

 俺はその愛の言葉に意表を突かれた。確かにそうかもしれない。

 

「そうだな。俺はお前を愛していなかったかもしれないしな。ありがとうアイ」

「ふふっ、どういたしましてー」

 腕を組みながら喫茶店出て、俺たちは市役所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アイのドームでのライブを終えて一年が経った。

 アクアは五反田監督のもとへ弟子入りし、役者として進んでいる。本人は裏方志望などと言っているが何本か映画などにも出ていて、どれも好評だしアクア自身まんざらでもない事が表情から見て取れる。

 ルビーはダンスのミッションスクールに通い始めた。先生からの受けも非常によく、大人顔負けもダンスを見せているらしく、再来週にはダンスの公演がありそこでルビーはセンターで踊るらしい。

 アイはアイドルとして以外にもメディアへの露出が増えていった。タレントとして様々な番組に呼ばれ、女優として様々なドラマや映画、舞台にも呼ばれた。

 今ではメディアにおいてアイという人物は毎日必ず目にするほど、アイは脚光を浴び、売れていった。だけど、未だ俺とアイの共演は出来ていない。

 俺とアイは婚姻届けを出して結婚した。もちろん、世間に公表はしていない。

 苗字はアイではなく俺が変更したことにより、夜月レイから星野レイになった。

 何故俺が変えたのかは俺自身よくわかってない。別にアイが苗字を変えたくないとかは思っていない。多分、たまたまだとか、そういう気分だとかそういった感じなのだろう。

 子供たちが産まれて五年が経った。

 時間というものが思ったよりも長く、けれども短いものだと感じてしまう。

 ああ、俺はアイと出会えて、アクアとルビーの親になれて良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアはいつもより30分早くに目を覚ました。

 別に今日はこれといった予定はない。なら何故早くに起きたのかというと、リビングから聞こえてくる二人の声が原因だった。

 

「―――――」

「―――――」

 

 言い争っている。アイとレイが喧嘩している。

 

「ウソ―――」

 

 絶句だった。

 アクアはすぐさま自分はまだ寝ぼけているのだと思い、頬を叩いてもう一度リビングを見る。二人の姿が変わることはなかった。

 な、何故だ?

 アクアは二人が喧嘩しているところを見たことがなかった。いつも仲が良くて昨日だってアーンをやっていたくらいにはイチャイチャだった。

 それなのに何故二人は喧嘩している。

 

「ハァー、とりあえず俺もうこれから仕事だから」

「はぁ?ふーん・・・あっそっ、なら好きにすれば」

 

 レイはそそくさと玄関に向かい、アイはいつもなら玄関まで見送るのにキッチンに戻っていった。

 ちょっ、ちょっとー!

 アクアは思った。うちにもついに倦怠期が来たのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日目

 いつものアイならアクアとルビーを寝付かせると、レイの帰りを一人起きて待っているのだが一緒に寝ていた。

 二日目

 いつもはアイとレイがくっついて眠っているのアクアとルビーを挟んで距離を取るように眠っていた。

 三日目

 一日目と二日目はまだおはようとおやすみを言っていたが、とうとうそれすらなくなった。

 四日目

 

「ちょっとおにいちゃん。どうしようどうしよう!」

「ばかっ、騒ぐな!」

 

 アクアとルビーはとうとう戦々恐々としていた。

 いつもは同じベッドで寝ているはずなのにとうとうレイがソファーで眠り始めたのだ。

 いくらお母さんっ子のルビーといえどこれにはさすがに家庭の危機を感じていた。

 

「やだよ、このまんまパパとママが離婚とか。いやだよ!」

「さすがにそれはない・・・と思うが・・・」

 

 ルビーが半泣きになりながらすり寄ってくる。

 内心アクアもルビーと同じことを考えている。

 今までめちゃくちゃ仲が良かったのだ。

 アクアもルビーも最初はすぐ終わると思っていた。いくら喧嘩しても元々はバカップルだから一日二日で元に戻ると。

 だが、気が付けば喧嘩してから四日経っていた。

 そうして五日が経ち、六日が経ち、七日が過ぎようとしていた。

 アクアもルビーも一度さすがにやばいと思い、ルビーがアイに話そうとしたのだがアイの笑顔に黙らされた。笑っているのにとても怖かった。

 

「さあ、お風呂入るわよー」

 

 アイに連れられてアクアとルビーは風呂に入る。

 アイが二人の頭と身体を洗い湯船に沈ませる。

 

「ねえ、もういい加減仲直りすれば?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、もういい加減仲直りすれば?」

 

 

 お風呂に入りながらアクアにそんなことを言われてしまった。

 ハハハ、と乾いた笑みで誤魔化すことしかできなかった。

 もともと何で喧嘩したんだっけ?

 喧嘩した原因を思い出せない。

 忘れてしまえるほどに、どうでもいいことが発端なのだろう。

 実際、社長にも「大丈夫か?」と聞かれた。B小町のメンバーにも「最近大丈夫?元気なくない?」と声をかけられた。なんとか笑って誤魔化したが正直きつかった。

 もう一週間レイと話せてない。

 最初はすぐ仲直りをすると思った。私はちゃんとレイの事が大好きだし、レイも私の事を愛してくれているはずだから。

 でも、お互い売り言葉に買い言葉でヒートアップしていき、気が付けば一週間が経っている。

 はっきり言ってもう限界だ。ここ最近寝るときは身を丸くして寝ようとしている。睡眠が浅いのが見てわかる。隈を化粧隠すのが大変だ。食欲だって減っている。

 そして何よりも、母としてこれ以上子供たちに迷惑はかけられない。

 アクアとルビーを寝かしつけて一人ソファの上で横になる。

 

「ああ、硬いなあ」

 

 思ったよりもソファは硬くて狭かった。

 キイィ、と静かに扉が開く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイと喧嘩して一週間が過ぎた。 

 今日の撮影も全て終わり、楽屋に戻ろうとすると共演者たちの話し声が聞こえてきた。

 

「いやー、今奥さんと喧嘩しててさー。ちょっと帰りにくいんだよねー」

「お前、早く仲直りしないとあとあと辛くなるぞ」

 

 タイムリーに刺さってくる。

 些細なことからアイと喧嘩した。もう、何で喧嘩したのかもよく覚えていない。

 ここまで続いている原因の9割はお互い売り言葉に買い言葉で、引っ込みがつかなくなったことだろう。

 

「夜月さ~ん」

 

 後ろには一緒に共演している女性が立っている。

 歳はアイと同じくらいで今絶賛可愛い若手女優として売り出してはいるが、アイの方が数億倍可愛い。

 

「いまから皆さんでご飯を食べに行くんですけど、もしよければどうですか?」

「ご飯ですか?」

「はいっ、せっかくですし来てくださいよぉ。皆さん来ますし、それに最近夜月さん元気ないじゃないですか~」

 

 せっかくの誘いだ。こういうのに強制力はないが、コミュニケーションの一つとして顔だけでも出すのがお決まりだ。

 返答しようと思ったがその前に気になることがあった。

 

「そんなに元気がないように見えましたか?」

「ええ、そりゃあもう。結構皆さん心配していましたよ」

 

 そうか、そんなにだったか。

 もうかれこれ一週間が経過している。

 これ以上意地を張っても仕方ないな。

 

「お誘いありがとうございます。でも、すみません。この後予定があるので」

 

 俺はそれだけ告げると足早にスタジオから去っていく。

 時刻は8時を過ぎたところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ただいま」

「・・・おかえり」

 

 

 扉を開けて電気をつけるとアイがソファの上で横になっていた。

 時刻は既に十時を過ぎている。

 

「なあ・・・」

「ねえ・・・」

 

 言葉が重なってしまった。俺もアイも言いたい言葉は一緒なのだろう。俺たちは視線で譲り合っている。ならば、夫として父として俺から言うべきだろう。

 

「すまなかった。酷いことを言い過ぎた。許してほしい」

「私の方こそごめんなさい。レイに強く当たりすぎたね」

 

 俺とアイは再度顔を見合わせるとクスッ、と笑みを零して肩の力を抜いた。

 

「それでさあ、これ買ってきたんだ。仲直りの印ってことで」

 

 俺はそういい、白い箱をアイに渡す。

 

「ケーキ。・・・この時間までよく売ってたね」

 

 箱の中には四つのケーキが入っている。

 

「まあ、色々なところまわったからな。それで帰ってくるのが少し遅れたけど」

 

 俺がそういうとアイは腕を肩に回してきた。

 

「もう、本当に大好きだよレイ。一緒にお風呂入ろ!背中流してあげる!それで、一緒にケーキ食べて、一緒に寝よ!」

「ちょっ、分かったから、倒れる倒れる。危ない危ないって!」

 

 朝起きて、アクアとルビーはさらにめんどくさくなったとため息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイと初めての夫婦喧嘩をしてから半年が経った。それ以降アイと一緒にいるようになった。試練が愛を強くするというのはデマではなかったらしい。

 子供たちと共に家族四人でテレビを見ていると携帯が鳴った。

 

「はい、夜月ですが」

『もしもし、俺だ俺だ。今時間大丈夫か?』

 

 相手は五反田監督であった。監督、それじゃあ、誰か分からないって。

 

「どうかしましたか?」

『いやな、近々正式なものが事務所から行くと思うが、これは俺の口から言っておきたくてな』

 

 監督が真剣な表情だと声色から把握できた。

 

『今度俺が監督を務める映画の撮影が始まるんだ。そこでなぁ・・・』

 

 もったいぶるように監督は言葉を吐く。

 

『お前とアイの二人を主演にするつもりでいる。おめでとう。共演だよ』

 

 その後、俺は監督と少し話をした。

 何を話したかなんてよく覚えていない。

 俺はその後、アイと子供たちに向かって抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

「もー、危ない事するんだから。ルビーとかめちゃくちゃ嫌がってたよ」

「いやー、すまんすまん」

 

 アクアとルビーを寝かしつけ、リビングにいるのは俺とアイだけだ。

 

「ついに共演だね。私も結構有名になったと思ったんだけどなあ、ここまで長かったね」

「そうだな。でも、さっき聞いたらしいけど本当はもっと早くから俺とアイの共演の話は来ていたんだとよ」

「えっ、そうなの!」

「ああ。でも監督が、俺があいつらを主演で共演させてやる、って壱護さんとかに言って断ってもらっていたらしい」

「へー、そしたら監督には感謝しないとだね。アクアの面倒も見てもらっているし、私たちのためにそこまでしてもらうんだから」

 

 アイはそういうと俺の肩に頭を乗せてきて、手を握りしめてくる。

 

「愛してるよアイ。世界で一番、誰よりも俺はアイを愛している」

「うん、知っている。ありがとうレイ」

 

 俺は強くアイの手を握りしめる。

 絶対に離れないように、俺がアイを離さない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 子供達が、レイが眠りにつくと私は1人寝る前にお酒を飲む。これが最近の日課だ。

 お酒自体別にそこまで好きじゃない。

 レイとならいくらでも飲めるけど1人ではこの一杯で十分だし、限界だ。多分お酒にそこまで強くないのだろう。

 それでも私はこうして毎夜1人でお酒を飲む。

 飲み終わると頭が少しボヤーっとしてきて気分が高揚してくる。

 ベッドの中に入り3人の寝顔を見る。

 ルビーは私に似て可愛い。ルビーも成りたいと言っているし将来は間違いなくアイドルであろう。一緒にステージ上で踊りたい。

 アクアはレイに似てかっこいい。アクアは否定してるけど役者をやりたそうなのが見てわかる。レイとアクアが一緒に撮影しているところを見たい。

 そして、レイの寝顔は本当に―――

 私は口を開いて言葉を吐こうとするが出ない。

 別にこれが初めてではない。ずっと、いつもここで止まってしまう。一言が言葉に出せない。

 けど、それでも私は言いたいのだ。

 酩酊して、相手が眠っていなくちゃ、それでも言えない言葉だけど

 

「アクア、ルビー、レイ、愛してるよ」

 

ああ、やっと言えた。この言葉だけは絶対嘘じゃない。

 

「だから、ごめんね。いつかちゃんと言えるようになるから。お願い、待っててね」

 

 

 




呼んでくださってありがとうございました!
評価とコメントお願いします。

あと、まだエンドしねーから!
この後一話続くから待っててください!多分そっちはだいぶ難産。
書きあげられるのだろうか。オラに元気を分けてくれたまへぇー
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