炎に誘われる蛾のように俺は彼女に惹かれた。   作:こーーーーーー

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後日譚というか、閑話というか、とりあえず書きたいから書きました。
思い付きです。色々違うところもあるかもしれないので暖かい目で見てください。


十五年越しのアイ

これは俺とアイが結婚式を挙げる少し前の話。

 

「めんどくさいよー」

「仕方ないだろ。ほら、手を動かせー」

「むぅー。たすけてミヤえもーん」

 

 俺とアイは結婚式の招待状を書いている。

 呼ぶ人は本当に俺たちと関わりがある身内の人だけにするつもりだが、それでもそれなりの数はあり、俺もはっきり言ってキツい。

 

「だから言ったじゃない。何処かに任せれば良いって」

 

 ミヤコさんと壱護社長が入ってきた。

 

「だってさ、折角の思い出なんだから大切にしたいじゃん。こういうのも思い出の一つって事でさー」

「何でも良いけどアイ、そろそろ仕事の時間だから準備しろー」

「はーい。わかってるよー」

 

 アイはそそくさとリビングから出ていった。

 

「レイさんもこれから用事でしたよね」

「はい。すみませんがアクアとルビーの事よろしくお願いします」

 

 ミヤコさんに頭を軽く下げ、ソファに座ってテレビに夢中になる双子に視線を向ける。

 アクアもルビーもちゃんとマザコン進行形で、今もくっ付きながらアイのライブDVDを夢中に見ている。

 

「えっ、レイどこか行くのー?」

 

 洗面所からアイがひょっこりと顔を出してくる。

 

「あ、まあちょっとな。今日は多分帰ってくるの遅くなる」

 

 後ろから「了解~」と聞きながら俺は扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京から車で1時間ほどかけてとある街に俺は来た。

 何故ここに来たのかというとそれは3週間ほど前に遡る。

 結婚式の日取りが決まり、誰を呼ぶかを考えていた時だ。監督は呼ぶ、壱護さんもミヤコさんも当然呼ぶ。俺の両親も呼ぶ。なら、アイの両親は?

 アイ自身も父親の方は会ったことないようだが、母親の方ならもしかしたら足取りを追えるんじゃないのか。

 そう考えてすぐに俺は探偵や興信所に探してもらい、ようやく見つけることが出来た。

 

「住所は・・・ここか」

 

 スマホの地図アプリを見ながら目的地である木造アパートについた。

 築数十年を感じさせる古いアパート。

 アパートの壁にはツタがビッシリと生えており、階段はギシギシと音が鳴り響いている。

 階段を渡り切り目的の部屋である203号室にたどり着いた。

 呼び鈴を押すと俺にも甲高く聞こえてきた。

 しばらくするとギィィと軋ませながら扉が開いた。

 

「・・・どちら様ですか」

 

 かすれた声の5.60代の女性が玄関から顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

『先に結論を言わせてもらいますと、5年前に亡くなっています』

 

 探偵に依頼し、その結果アイの母親である星野幸子さんは5年前に働いていた職場で働いていた火事で亡くなったらしい。

 探偵から星野幸子さんと関係している人を聞き出し会いに言った。

 1人は5年前に星野幸子さんと同じ職場で働いていた女性。そうして、もう一人は引き取り手のいない遺骨をしばらく管理している人だった。

 俺はまず同じ職場で働いていた女性と会い、その後遺骨を管理していた人に会いに行った。

 一人目の女性からは星野幸子さんの生前を聞き、管理していた人からは死後を聞いた。

 二人の話を聞き、最後に俺は今星野幸子さんが眠る墓地にやってきた。

 来る途中にバケツと雑巾、花と線香を買い数十分ほどかけて霊園にやってきた。

 

「えーっと・・・ここか」

 

 霊園内を歩き回り、やっと見つけたのが一つのお墓だった。

 墓石にはこれでもかと苔がくっついており、雑草も生え放題だ。

 

「うわー、これは大変だな」

 

 墓石にくっついている苔を取り、墓石を雑巾で拭いていく。

 拭いていくと見違えるほどに綺麗になり、年数が余り経過していないことがよくわかる。

 墓石の裏面にはちゃんと星野幸子と刻んである。

 次に地面に生えている雑草を抜き取る。

 念のためにと思いゴミ袋を持ってきて良かった。

 霊園についた時には明るかった空は気が付けば茜色に染まっている。

 

「いやー疲れたー」

 

 額から流れる汗を拭いとる。

 そういえば、最後に兄の墓参りに行ったのはいつだっただろうか。

 この業界に踏み入れてからは行っていない。高校の頃も休日にはバイトを入れていたので行くことはなかった。

 

「もう十年以上墓参りに行ってないのか」

 

 よくよく考えれば結婚した報告も子供が出来た報告もしていない。

 

「今度行くか」

 

 そんな事を考えながら花を飾り、線香に火を灯す。

 線香の煙が上へ上へと昇っていき、茜色に混じっていく。

 俺は一歩下がり、手を合わせる。

 

「初めまして。夜月レイと申します。今度アイさんと結婚しますので報告に来ました」

 

 時間にして数十秒。

 

「また、そのうち来ます」

 

 最後に頭を下げ後にする。

 車に向うために歩いていると目の前に人影が見えた。

 

「やっぱり、ここに来たんだねレイは」

「・・・アイ」

 

 アイは一人俺の目の前に立っている。

 

「こんな所に何の用なのレイは?」

「見てわからないか?墓参りだよ」

「わからないよ。なんであんな私を捨てた人の墓参りをするの?」

「たしかに一回お前の事を捨てたけれど、お前の母親で、俺の義理の母親な事には変わりないだろ」

「わからないよ。その人は私を捨てたんだよ。そんな人が親な訳ないよ」

 

 アイは落ち着いた様相だが、言葉尻にはどことなく焦りが見受けられる。

 

「それならなんでアイはそんな赤の他人の墓を建てたんだ?わざわざ探偵を雇って、わざわざ自分から生前の知り合いに尋ねに行って、遺骨を受け取って墓を建てた。昔はともかく今は親と少しながら認めているからじゃないのか?」

 

 遺骨を管理していた人は若い女性が受け取りに来たと言っていた、同じ職場で働いてた女性はまたかとボヤいていた、依頼した探偵は犯罪歴と名前しか分からなかったのに仕事が異様に早かった。

 

「俺は赤の他人の墓を建てる方がよっぽど分からない」

「わからないよ、私だってわからないよ!」

 

 今まで聞いたことのない怒号が聞こえてきた。

 

「私は捨てられたんだよあの時!結局女としての自分をあの人は選んだと思っていたんだよ!私はお母さんの異物だから、自分は要らない子だったって思っていたのに!それなのにあんな話をされたらわからなくなるよ!」

 

 星野幸子さんは当時ちょうど人気をあげていた女性アイドルの雑誌の切り抜きを常に肌身離さずに持っていたらしい。ライブにこそ行ってはいなかったらしいがそのアイドルが写る雑誌は毎回買っていたらしく、CDも数多く存在していたようだ。

 

「私の事を捨てたと思っていたのに、私の事をずっと応援していたんだよ。そんなの、わかるわけないじゃん!」

 

 こういうアイを見るのは初めてだ。

 アイは俺なんかよりもよっぽど強い。けれど、誰にだって弱点が存在していてそれがきっと母親なのだ。

 彼女は母親の事に関してはあの頃から一歩も成長していない。今も母親に捨てられた少女でしかないのだ。

 だから―――。

 

「別にわからなくていいんじゃないか?」

「へっ?」

 

 素っ頓狂な声が聞こえてくる。

 

「親子って言っても別人であることに変わりはないだろ。他人の考えなんて誰もわからないもんだ。俺もアイの考えもアクアとルビーの考えもわからない。それが当たり前なのに十五年以上会っていない死者のかんがえなんてわかるもんか。それをわかろうとするのは傲慢がすぎるだろ」

「なら・・・私はどうすればいいの?」

「どうもする必要はない。そのために俺がいるんだろ。アイが一人じゃわからない時に一緒に考えられるように俺がお前の横にいるんだろ」

 

 俺は一歩二歩とアイに近づき抱きしめる。

 相変わらずアイの身体は小さくてすぐに壊れてしまいそうだ。

 

「むしろ良く頑張ったよ。二年近くも1人で考えていたんだから。気づけなくて悪かったな」

「違うよ・・・これは・・・」

「だから一緒に背負わせてくれよ。十年だって二十年だって一緒に考えさせてくれよ」

 

 胸元がひんやりと冷たくなってきている。

 小さな身体が微かに震えている。

 声にならない音が聞こえてくる。

 でも、きっと多分それでいいのだ。

 

「ありがとう・・・」

 

 吹けば消えてなくなりそうな声が聞こえてきた。

 俺はいつまでも離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 襟を正し、鏡を見る。

 鏡の中には白いタキシード服を身に纏っている俺が映し出される。

 

「似合っているじゃないかレイ」

「監督」

 

 スーツを着ている監督が扉の所に立っている。

 

「そういう監督のスーツ姿も新鮮で似合ってますよ」

「うるせぇよ」

 

 監督は近づいてくると近くの椅子に腰を下ろした。

 

「それにしてもついにお前が結婚かー」

「ついにって、前からしてたじゃないですか」

「それでも、結婚式ってなると色々べつだろ」

「お先に失礼します」

 

 監督が肘で小突いてきた。

 その時ドタン、と大きな音と共にアクアとルビーがやってきた。

 

「パパ!」

「おお、アクアもルビーも似合っているぞ」

 

 ちゃんとしてスーツとドレスを着込んだアクアとルビーがとてとてと走ってくる。

 

「パパ来て!ほら来て!」

「ほら父さん」

「ちょっ、わかったからルビー、わかったから服離して伸びる」

 

 ルビー引っ張られて、アクアに押されて俺は連れて行かれる。

 そうして連れてかれたのは一つの大扉の一室だった。

 ルビーは扉を開け、アクアが押してきた。

 そうして無理矢理入れられた部屋は新婦控室。

 目の前には白いウエディングドレスを身に纏った女性がいる。

 

「どうレイ?」

「綺麗だよ、とても」

「レイもカッコいいよ」

 

 いつもステージで身に纏っていた赤い衣装ではなく、白いウエディングドレスというのが新鮮でより印象にのこる。

 

「ありがとうね。私と結婚してくれて」

「それはこっちのセリフだ。ありがとうなアイ。あ―――」

 

 その続きの言葉を言おうとすると、指先を口元に当てられて言葉を止められた。

 

「その続きはまた後でね」

「ああ、わかったよ。言うのを楽しみにしとく」

 

 アイの微笑みはとても綺麗で可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ式の時間だとレイが部屋から出ていった。

 私はメイクさんに最後のメイクをしてもらい、部屋を出る。

 部屋を出ると社長が待っていた。

 社長は目を見開いて呆けている。

 

「斎藤社長、今までありがとうございました」

「はっ⁉」

「ほら、行こう社長」

「・・・このクソアイドル」

 

 斎藤社長は私の横を歩いて大扉の前につく。

 

『新婦の入場です』

 

 扉の先から聞こえてきた声と共に大扉が重厚な音を立てて開いていく。

 抹茶ラテに釣られて斎藤社長の話を聞いたのが最初だった。

 それからアイドルを初めてしばらくして、鏑木プロデューサーに誘われたワークショップでレイと出会った。

 レイと話すようになって、休日に一緒に遊ぶようになって、レイの二十歳の誕生日にプレゼントした。そして、アクアとルビーを授かった。

 当時は気に食わなかったとか、気の迷いとかと思っていたけど今ならよくわかる。

 今ならこの気持ちにようやく名前を付けることが出来る。

 レイがそっと顔を覆い隠すヴェールを取り、目と目が合う。

 昔と変わらないかっこよくて優しい顔が少しぼやけて目に映る。

 

「愛してるよレイ(あなた)。―――やっと言えた」

「ああ、俺も愛してるよ」

 

 私はようやくこの気持ちに名前を付けられた。

 この思いは絶対嘘じゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいっ!」

 

 アイは言葉と共に高くブーケを投げた。

 ブーケは綺麗な放物線を描いて飛んでいき、小さな手にストンと落ちた。

 俺とアイはお互いに笑う事しか出来なかった。

 ああ、幸せだ。

 子供たちの未来に幸あらん事を。

 




読んでくれてありがとうございました。
この4か月くらい書きたいけど思いつきませんでした。
もしかしたらまたこんな感じで書くかもしれないし、書かないかもしれません。
ちなみにアイの母親の名前は適当に名付けました。もしちゃんと名前があったらすみません。
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