誤字報告感謝です。
今回はトレーナー会議の件なので、9.5話としました。
夏休みが終わり、新学期となってひと月がたったころ。
トレセン学園内のとある会議室の中に、複数のトレーナーが集まっていた。
「それじゃ、皆集まったみたいなんで、『第2回 サイレンススズカのトレーナーどうする会議』を始めたいと思いま~す。イェーイ!」
司会を務める、チームスピカのチームトレーナーである沖野が、変なノリで会議の開催を宣言するものの、約一名を除いて拍手もしてくれないため、会議室の空気が一気に冷め切ってしまっていた。
「いいからサッサと進行して頂戴。皆秋の重賞に備えなきゃいけない所なのに、時間を作っているのだから」
「はい」
チームリギルのチームトレーナーである東条ハナの言葉に、沖野は殊勝な様子で頷くと真面目な表情を見せ進行を始める。
「えー、皆さんには先日予めおハナさんから、1ヶ月間サイレンススズカのトレーナーを担当した際のデータと、レポートが送られていると思いますが、まだ目を通してない人は……居ないみたいだな。
それなら、話は早いんで本題に入らせて貰いますが、今日の本題は『誰のとこで面倒を見るのが一番サイレンススズカのためになりそうか』、だ。
一応レポートにも書いてあるけど、実際に担当したおハナさん、サイレンススズカの人となりについて、聞かせてもらっても?」
本題を言い終えた沖野が、まずサイレンススズカの性格について、東条に話してもらうために話題を降る。
「わかったわ。サイレンススズカだけれど、日常における本人の性格としては、素直でとっつき易いと思うわ。トレーニングの指示も、こちらの意図をキチンと伝えれば素直に従う。自主トレに関しても、こちらがしないで欲しいと言えば、しなくなる程度には従順ね。
本人は、怪我をせず現役を長く続けるのが第一目標らしいから、かなりこちらの指示には素直に従う傾向があるわ。
ただ、レース関連の気性だけど、先行や差しといった周囲にウマ娘が居るような状態になると注意力が散漫になる傾向があるわね。
本人も気づいていないようだったけど、多数のウマ娘が近くを走るのがストレスに感じるタイプのように見受けられたわ。
本格化が遅れるようなら、もしかしたら改善もできるかもしれないけど、本人は私の評価を受けて、改善するより逃げを貫きたいと申し出ているのが現状ね。
──以上よ」
自分の所感をあらかた語ったところで、東条は沖野に目線を向け語り終えたことを伝える。
「なるほどな、側にウマ娘が居ると落ち着きが無くなるタイプか」
東条の話を聞き、感想を呟いたのは中央で最高齢のトレーナーである
「東条の嬢ちゃんは改善できるかもしれねぇって言ったが、それはどうだろうなぁ。サイレンススズカはまだ本格化前なんだろ? 俺の経験上、本格化前から表に出るような気性難な部分は、本格化するとより強く顕著にでる。まぁまずこの気性難が改善することはねぇだろうな」
「六平さんは気性改善は諦めて、本人の希望通り逃げ育成した方が良いって感じっすかね?」
六平の意見を確認するように、司会の沖野が訊ねると、六平は頷いて肯定した。
「気性とか性格については他に質問とか意見は……無さそうだな」
沖野が会議室に集まったトレーナーの顔を見ながら意見を求めるが、特に出てこないようなので、次の議題へと進める。
「じゃぁ、次の議題っつーかこの問題の本題だわな。とりあえず今サイレンススズカを、スカウトしたいと思っているトレーナーやチームは居るか?」
司会として沖野が確認をとるが、その場の誰も手を上げない。
「──なら、スカウトする気は無いが、最終的に面倒を見ることになっても良い。と思っているトレーナーは手を上げてみてくれ」
そして質問を変えると、その場のトレーナーのほとんど*1がすぐさま手を挙げる。
その様子を見て、沖野は困ったように頭を掻きながら、大きなため息を吐いた。
「ハァ~~、だよなぁ~~~~。いや、俺だってそうだもん」
「ハッハ! 仕方ねぇわな。速くなればなるほど、故障する可能性が高くなる逃げウマ娘……。完全に諸刃の剣ってやつだ。できるなら自分じゃない適切な奴が担当した方が良い。だが、この才能が日の目を見ないのもトレーナーとしては許せない。ならば、どうしても決まらないならば自分が泥をかぶろう。ここに集まった奴は皆、そんな事思ってるだろうよ」
項垂れる沖野の様子を見て、六平が豪快に笑いながら、この会議室に集まったトレーナーの思いを代弁する。
「えー、じゃぁ次……。他薦で良いので、このトレーナーが良いんじゃないか、とか知り合いのトレーナーに、怪我の予防とかそういうのが得意な奴を知っているとかある人」
次の手段ということで、沖野が他薦を募る。しかし、それも出てこない。
しばし沈黙の時間が流れる中、一人の女性トレーナーが手を挙げる。
「お、奈瀬トレーナー! 思い当たる人居たりする?」
手を挙げたのは
「いえ、思いつく人物は居ませんが、少々意見を述べても良いでしょうか」
「おう、問題ないぜ」
「正直、誰が良いか。というのは聞いても無駄ではないでしょうか。現状中央に在籍しているトレーナーの中で、東条トレーナーほどウマ娘のトレーニング理論に精通しているトレーナーは居ないでしょう。それこそ、東条トレーナー以上の怪我を予防するための知識を、僕含め他のトレーナーに課すのは酷なのではないでしょうか」
奈瀬が言う通り、例年沖野と共にリーディングトレーナーのトップを争っている、東条のトレーナーとしての腕は一流を越えていると言っても過言ではない。それこそ既に引退した奈瀬文乃の父か、年齢と後進として甥を育てていることを理由に新規担当の受付を停止している六平くらいであろう。それも六平はトレーナー会議に参加する際に「ロートルの自分は新しいウマ娘とは合わないだろう」と言って、あくまでもご意見番としてこの会議に参加している。
詰まるところ現状では、もはや誰かが故障するかもしれないという恐れと共に、サイレンススズカを受け入れるしかない状況になってしまっている。
「そうなんだよなぁ。かぁ~」
言いたいことは言ったという風に着席する奈瀬を見やり、再度沖野が大きなため息を吐く。
prrrrrrr
その瞬間、沖野のポケットの中のウマホが鳴る。
「すんません、緊急以外で電話すんなって言いつけてあったんで、マジの緊急かもしれないんでちょっと出てくるわ。マジで緊急だったらそのまま向かっちゃいたいから、おハナさん続きお願いしていい?」
「わかったわ。早く出てあげなさい」
会議のメンバーと東条に確認を取り、沖野は速足で部屋を退出する。
⏰
沖野は東条に後を任せていた事もあって、速足でスピカのトレーナー室を目指しながら電話を取る。
ウマホの画面に出ていた発信者の名前は、会津ハルカ。沖野のチームスピカに所属しているサブトレーナーであった。
「会津、なんかあったのか?」
「あ、チーフか? 私私、私だけどよぉ」
しかしウマホのスピーカーから聞こえてきた声は、番号の主の会津とは違う、ガラの悪そうな声だった。
「あぁ? なんだよサンデーか。どうした? 緊急時以外電話すんなって伝えといただろ」
声の主はサンデーサイレンス。一応沖野が面倒を見ているスピカに加入しているウマ娘であり、現在は次のドリームリーグに向けて練習しているはずであった。
「いや、緊急っちゃ緊急なんだよ。許せって」
そういうサンデーサイレンスの言葉に、本当に緊急なのか怪しく思ってきた沖野は、いったん立ち止まり通話を続ける。もしサンデーサイレンスの用件が沖野がその場に居なくても良い話の場合、おハナさんに謝りながら会議に再度参加する必要があると思ったからである。
「なんだよ、知ってると思うけど俺今会議中なのよ。んで、緊急連絡かと思って会議室飛び出してきちゃったわけ。しょーもない用件だったらさすがの俺もキレるからな」
「あぁそれそれ。その会議ってこの前私とシービーに面倒見させたガキの話だろ? 確か、名前は……」
「サイレンススズカな」
「そうそう。そのサイレンススズカの件でよ、チーフに頼みがあるんだわ」
「それって今じゃなきゃいけない奴か? 俺この後戻った時に、おハナさんに怒られるの覚悟しなきゃいけないんだけど」
「あ? 今チーフが言ってる会議って、サイレンススズカのトレーナーを決める会議なんだろ? だったら今じゃなきゃいけねぇな」
電話口であるが、いつものサンデーとは違って真剣な雰囲気を感じたため、沖野は覚悟を決めてサンデーサイレンスに訊ねる。
「わかった。で、なんのようだ?」
「あぁ、それは────」
⏰
⏰
(たくっ、何考えてんだサンデーの奴)
サンデーサイレンスとの電話が終わり、通話を切った沖野は会議室へと足を進めていた。
会議室の扉をノックしてから開ける。
「沖野……どうしたの? 緊急の用件じゃなかったの?」
扉を開けると進行役を引き継いだ東条を始め、部屋の中のトレーナーの視線が釘付けになり、一瞬怯む沖野。
「いや~、おハナさん悪いね。緊急っちゃ緊急だったんだが、この会議に関わることだったんで、帰ってくることになっちゃったわ」
「はぁ、それで? この会議に関わるってどんな内容だったのかしら?」
謝りながら先ほどまで自分が座っていた席へと戻る沖野に、東条は小さいため息と主に緊急電話の内容を聞く。
「っと、その前にサイレンススズカのトレーナーってまだ決定してないよな?」
「えぇ、残念ながらね。この調子だと言い出したあなたか、すでにトレーニングを直接見てる私が責任をもって受け持つ事になりそうよ。というかそういう方向で会議は決着してしまおうか、と今話していたところよ」
結局最初に沖野と東条だけの間で話していた通りに、そのどちらかで面倒を見ることになってしまうらしい。しかし今の沖野にとっては望んだ状況だった。
「あ~、それなら良かった、んかな?」
「それで? はやく用件を言ってちょうだい」
急かす東条に「わるいわるい」と謝りながら、沖野は他のトレーナー達の顔を一度見たのち口を開く。
「今回のサイレンススズカの担当の件、俺に任せて貰えないか?」
沖野のその言葉に、会議室の中は疑問符で埋まる。
「はぁ? あんた何言ってんのよ。だったら最初からアンタが面倒みればよかったじゃない」
会議室に集まったトレーナーの思いを、東条が代弁する。そうすれば、このような会議など開かなくて済んだのだ。
「いやね、正直俺もまだもっと最善の方法が無いかとも思ってるんだけどね? いや、さっきうちのチームの奴からさ、サイレンススズカの面倒を見たい。って話が来ちゃってさ」
「はぁ~?? そういう事はちゃんと確認しときなさいよね」
「いや、確認したんだって、トレーナーには! ただ、その面倒見たいって奴、うちのトレーナーじゃなくてさ。
沖野のその言葉を聞いて会議室が若干騒がしくなる。スピカにはウマ娘のサブトレーナーが居ないことは周知のことであり、沖野のチームに所属しているウマ娘が面倒をみたいと言う事は、それすなわちアスリートウマ娘がアスリートウマ娘のトレーニングなどを管理したい。と言っていることになるからだ。
「誰よそんな突飛なこと言いだしたの……。いや、あんたのとこなら何人か居そうだけども……」
ファンの間では『気性難ウマ娘の掃き溜め』と悪名が轟いているチームスピカは伊達ではなく、有名無名問わずなかなかに特徴的なウマ娘が集まる事が多い。
「言いだしたのはサンデー。サンデーサイレンスなんだわ」
「サンデーサイレンスが?」
あの自分以外全部敵、とでも言わんばかりに四方八方に喧嘩を売りまくるウマ娘が、まさか後輩の面倒を見たいなどと言いだすとは思わなかったのか、東条をはじめとした複数のトレーナーは驚きに目を見開いている。
「あぁ、正確にはサンデーと、サンデーの面倒を主に見させてた会津。会津ハルカに、サイレンススズカを任せて欲しいらしい」
⏰
話は沖野がサンデーサイレンスに電話口で用件を聞いた時まで戻る。
「で、なんのようだ?」
「あぁ、それはな。サイレンススズカ、うちで預かってくんねぇか?」
電話口のサンデーサイレンスの言葉を、一瞬理解できなくて沖野は固まる。
「はぁ~? なんつった??」
「あ? 聞こえなかったのか? だから、サイレンススズカをスピカに加入させてくれって言ってんだよ」
聞き間違いどころか、今度はちゃんと意味が間違わないように詳しく言ってきた。
「マジかよ、今の会議はどこのチームもそれを積極的にしたくないからどうしよっか、ってなってるんだけど」
「Huh? 知らねぇよそんなん。良いからサイレンススズカはスピカに加入。OK?」
「OK? じゃねぇわ! 全然OKじゃないの! 理由は? せめて理由は言ってくれ。そうしないとさすがに納得できないって」
めちゃくちゃ横暴で一方的なサンデーサイレンスに若干キレる沖野。流石の大聖人沖野といえど堪忍袋の緒には限界がある。
「チッ、しゃーねぇな」
「お前なぁ、それが人に頼む態度かよ……」
どれだけ言っても治らないサンデーの口の悪さに呆れつつ、若干の諦めもこめて話の続きを促す。
「あのガキと一緒に走って思ったんだけどよ、アイツまぁコーナーがなってないわけよ。んで、それをこのサンデーサイレンス様が直々に叩き直してやろうと思ってな」
「あー、まぁそれは大変いいことだと思うんだけど、サイレンススズカのトレーナーがなかなか決まんないのって、そういう事じゃなくてだな──」
「わーってるよ。脚だろ?」
今から説明しようとした内容を当てられたことに驚き、沖野の肩が跳ね上がる。
「おまえ、気づいたのかよ」
「そりゃぁな。あの速さで本格化が来てないって言うじゃねぇか? んなバケモンが本格化したときの最初の懸念点なんて、脚以外ウマ娘のどこにあるってんだよ」
ウマ娘の脚はガラスの脚と呼ばれているのは有名であり、トップアスリートのウマ娘の中には、薄々そのことを感じているウマ娘も居るという。サンデーサイレンスもその口なのだろう。
「んで、お前はその脚をどうにかできるのか?」
「いや、無理」
「は!? おまえな~、それがどうにかできないのにサイレンススズカを受け持つってのは、つまりトレーナーとしての人生とか名声とかを捧げるってことに近いのよ。それをする覚悟が皆なかなかつかないから、会議が困窮してたんだわ」
「まぁまぁ、落ち着けよチーフ。チーフが私がどうにかできるか聞いたから、
沖野はサンデーサイレンスのその言葉に引っかかるモノを感じた。その言い方はまるで──。
「まるで、どうにかできる奴を知ってるみたいな言い方だな」
「あぁ。知ってる」
「マジかよ! 誰だそいつ! あとそいつ中央のトレーナー資格持ってるよな!?」
「ハハッ、焦んなってチーフ。ちゃんっと資格も持ってるし、それどころかアンタが知ってる奴だよ」
「俺が知ってる?」
サンデーサイレンスにそう言われ、考えを巡らせる沖野。しかし沖野の中には思い当たらない。当然だ、思いついていたら最初からその人物にサイレンススズカを紹介している。思い至らなかったから、今日わざわざ複数のトレーナーに時間を貰い会議を開いているのだから。
「ダメだ、思いつかねぇ。ていうか、そもそも俺がそういう人物を思いつかないから、会議開いてんだわ」
「ハハッ! まぁ思いつかねぇのもしょーがねぇ。ソイツ自身も自分がそんなことできるって思ってねぇんだからよ」
「で? 誰なのよソイツ」
流石にそんなことを言われてしまっては、もう考察のしようがないので、沖野はサンデーサイレンスに答え合わせを求める。
「そいつは──」
「そいつは?」
あいづはるか……。あいづハルカ……。会津ハルカ──。
「はぁ? アイツが? 確かにウマ娘身体学の成績は良かったらしいけど、別にそんな大天才とかそんな話は聞いたことないぞ?」
「そりゃそうだ。ペーパーテストでわかるような類の才能じゃねぇよありゃ。なぁチーフ。事故の後遺症で脚の骨格が歪んだ私が、なんであんな無茶なローテで走り切れたか考えなかったか? 私が特別だからか? まぁ間違ってはないけどよ、それだけじゃぁない。それだけじゃぁないんだよチーフ」
自尊心の塊みたいなサンデーサイレンスが、自分の偉業を自分だけの力ではないという。
そう、そう言えば現役の頃からそうだった。主にトレーニングを見ているのは沖野自身だったが、サンデーサイレンスは沖野の事を「沖野」と呼び捨てで呼んでいた。それなのに、いつの頃からか「チーフ」呼びになっていた。
その時は「なぜトレーナーじゃなくてチーフなのか」と聞いたことがあるが、「チーフトレーナーだから」という答えが返ってきただけだった。
しかし今思い出せば、ほぼ同時期からサンデーサイレンスが
それが、会津ハルカ。沖野が面倒を見ているチームスピカのサブトレーナーである。
サブトレーナーとは、チームトレーナーの業務量を調整する役目があると共に、まだ一人でウマ娘を管轄することが不安視される新人が付くことが多い。会津ハルカは後者であり、まだトレーナーとしての歴は浅い。
浅いどころか、沖野がそろそろ個人の担当を持っても良いのではと提案しても、そのことをはぐらかす人物だった。まるで、スピカから離れたくないと言わんばかりに。
そういうトレーナーも一定数はいる。チームトレーナーの激務と責任の重さに、トレーナーとして担当を持つ前から心が折れてしまい、事務に転向するものもいれば、サブトレーナーとしてチームトレーナーを支える事を至上命題とした、
沖野は、会津ハルカもその口なのだろうと思っていた。会津ハルカは沖野からしてみればまだ20代と若く、いずれ気に入ったウマ娘が現れた時にでも奮起してくれれば良いと思っていた。ウマ娘に甘い男は、人間にもそこそこ甘かった。
しかしそんな会津ハルカがサブトレーナーとなったのは、確かにサンデーサイレンスとほぼ同時期である。そして今でこそ思うが、あのサンデーサイレンスがそんな新人トレーナーを簡単に
「サンデー」
「Ah?」
「お前から見て、会津なら、会津ハルカなら、サイレンススズカを怪我させずに走り切らせることができると、そう思っているんだな?」
沖野は訊ねた。自分も知らない、気づかなかった
そしてその答えは──。
「当然だろチーフ。アイツは──
サンデーサイレンスが認めた。自分のトレーナーは会津ハルカだと。チームトレーナーの沖野ではなく、サブトレーナーの会津ハルカこそが、自分の杖であると、そう認めたのだ。──あの、サンデーサイレンスが。
沖野の口は自然と歪んで笑みを作っていた。
ウマ娘でも人間でも、予想外の、予想以上の才能に出会ったときは自然と笑みが出てしまう。沖野はそういう人間だった。
そして、自分が気付かなかった天才が、サンデーサイレンスが認める天才が、自分の下にすでにいたのだと、今気づいた。
「わかった」
だから沖野は認めた。サンデーサイレンスという優駿の見る目を信じているからこそ、サンデーサイレンスが信じる人物を信じることに決めた。
沖野はいつも、ウマ娘を信じて進んできた。
雨の中裸足で駆ける変なウマ娘を見た時も。
事故のせいで脚の骨格が歪んでしまい、誰もが諦め投げ捨てたウマ娘を見た時も。
どんな時も、目の前のウマ娘の才能を信じて歩んできた。
「わかった。サイレンススズカは、お前と会津に任せる。んで、その責任は俺が取ってやる」
「言うね~、チーフ」
「あぁ。俺はチームスピカのチームトレーナー、チーフトレーナーだからな。上の役目ってのはいつでもどこでも、下の奴がやることの責任を取ることなんだよ」
覚悟は決まった。
一度信じたら最後まで信じぬく。
走らないと言われたウマ娘も、走れないと言われたウマ娘でも。
沖野はどんな時でも最後まで信じる事を止めなかった。そうして、スピカは大きくなってきたから。
「Phew! いいぜ、カッコいいねチーフ。じゃぁあのガキの件、頼んだぜ」
「あぁ、頼まれた。サイレンススズカは、チームスピカが貰う」
そういって通話は終了した。
⏰
と、他人に語るとこっ恥ずかしくなる内容はぼかし、サイレンススズカを受け持つ理由を告げた。
「ふぅ、各々はどう思いますか?」
沖野の話を聞き、進行役を受け持っていた東条が参加者に確認を取る。
「いいんじゃねぇのよ。沖野のボウズもなんかあった時は責任取るって言ってるんだ。なら任せてみようや」
真っ先に六平トレーナーが賛同し。
「良いと思います。ハルカトレーナーとは個人的に面識がありますが、そうですか。サンデーサイレンスが認めるほどの……」
奈瀬トレーナーも賛同の意を示す。
その二人を筆頭に、沖野の──サンデーサイレンスの要求を認める旨が、各トレーナーから返ってきた。
「わかりました。当然、私も問題ありません」
そして、東条ももちろん認める。そもそも最初から沖野が受け持てと内心思っていたくらいだ。それがサブトレーナーになるとはいえ、沖野が管轄するならば、特に問題はないだろう。
東条ハナは、トレーナーとしては自分の同期であり、ライバルでもある男のことを内心認めていた。
「それでは、後日沖野トレーナーからサイレンススズカ本人に、事情説明と共にスカウトするという結論でこの会議を終了したいと思います」
最後に会議の結論とともに締める旨を東条が告げ、反対意見が出ないのを確認すると軽くうなずく。
「以上で『サイレンススズカのトレーナー決め会議』を終了したいと思います。皆さん、お忙しい中時間を作っていただきありがとうございました。それではお疲れさまでした」
東条ハナの締めの言葉をもって、前代未聞の一人のウマ娘の進退を決めるトレーナー会議は終わった。
サンデーサイレンス好きなので贔屓しちゃう。
いつも誤字報告助かっています。
熱意が冷めやすいタイプなので、誤字をなくそうと置いてしまうとすぐ投稿しなくなっちゃうので、この作品は書き上げて1,2度読み返したら投稿してしまっています。
改めて、誤字報告してくださる皆様には頭が上がりません。
この場を借りてお礼を申し上げます。
次回はついにスピカ加入とオリトレの登場。になる予定です