スピカに加入した翌日のチームミーティングにて、私はスピカの面々と顔合わせすることになった。
「サイレンススズカです。今年入学したばかりの新米ですが、スピカの先輩方に恥じないウマ娘になるよう頑張ります。よろしくお願いします」
昼食を終えた午後一でチームスピカに与えられた部屋に集まり、沖野トレーナーの指示で私が挨拶をするとその場にいる面々から拍手が送られる。
現在スピカには2名のトレーナーと、私含め5名のウマ娘が所属している。
トレーナーはチームトレーナーである沖野トレーナーと、そのサポートをするサブトレーナーの会津トレーナー。
ウマ娘はトゥインクルシリーズの現役が、今海外遠征中でこの部屋には居ないダンスパートナー先輩と、その妹のダンスインザダーク先輩。それから、ゴールドシップという年齢不明経歴不明の葦毛のウマ娘。
あとはサンデーサイレンスが、ドリームシリーズで走っているスピカ所属のウマ娘になる。
以上のメンバーに加え、私を含めた5名のウマ娘がスピカの全チームメンバーである。
ウマ娘が20人近く所属しており、それにあわせてかサブトレーナーも4人ほどいたリギルと比べると、少数精鋭である感じは否めないが、これは先日聞いた新人の定着率が低いということと関係があるのだろう。
リギルは所属するウマ娘の内G1ウマ娘が4割、G3以上で勝利経験のある重賞ウマ娘まで範囲を広げると8割、そしてオープンウマ娘まで広げた場合、現在クラシック以上のウマ娘のうち10割が該当するという、トップチームに恥じない成績を誇っている。
対してスピカは、私以外の所属ウマ娘全員がG1ウマ娘であり、そのうち二人は種類は違えど3冠ウマ娘であり、ダンスインザダーク先輩もクラシック3冠を確実視されているウマ娘である。
ゴールドシップ*1は……たしかG1ウマ娘であったはずだ。
たしか皐月賞と菊花賞を獲得……した? ……いつ?
宝塚記念でとても大きな事件があったはずだが、直近の宝塚記念ではダンスパートナー先輩が…………。
……ぅっ、頭が。
ゴールドシップの詳細な経歴を思い出そうとすると、激しい頭痛が襲ってくるので、これ以上掘り下げないようにしよう*2。
とにかくスピカは現役ウマ娘の10割がG1ウマ娘という、すごい少数精鋭チームなのだ。
そんな凄いチームに私は快く迎え入れてもらい、私のスピカでの日々がスタートした。
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スピカでの生活は、今のところ何事もなく送れている。
沖野トレーナーは隙を見ては私のトレーニングを監修してくれるが、基本的には菊花賞が控えているダンスインザダーク先輩や、アメリカのトレセンにいる沖野トレーナーの知り合いと、ダンスパートナー先輩のための打ち合わせなど。日々忙しそうにしているため、1日のうち1時間も沖野トレーナーがついてくれれば良い位である。
結果的に、私のメイントレーナーとなっている会津トレーナーとの時間が主となるわけだが、今回はそれらの日々から抜粋してお披露目しよう。
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「スズカさんは暫く、プールトレーニングを主にしましょうか」
会津トレーナーとトレーニングをするようになって数日たったある日、私はトレーニング後に会津トレーナーからそう言われた。
「プールですか?」
「はい。東条トレーナーのレポートを読ませていただいて知っていましたが、スズカさんは基礎能力は十分デビューしてもおかしくないくらいです。ですが、スズカさん自身もわかっている通り、デビュー前でこれ以上身体─特に骨に負担をかけるのは良くないと判断いたしました。
ですので、基本的にプールでより長距離を走れるようになるためのスタミナと筋持久力をつけつつ、サンデーのコーナー特訓を行っていきましょう」
「あまり走らないようにする、ということですか?」
「そうですね、日々のストレス解消程度のジョギングであれば問題ないですが、10kmも走るとか、コンクリートを全力疾走するだとか、そういう骨に負担がかかるような走りは、本格化の兆しが見えるまでなるべく無しでお願いします。だいたい週に1日はサンデーからコーナリングを学ぶための時間にするので、そこで思う存分走っていただくか、それでも足りないようであれば水中トレッドミルをしましょう」
「水中トレッドミル、ですか?」
聞き慣れない単語に私が首を傾げでいると、会津トレーナーが説明を続けてくれる。
「水中トレッドミルとは、いわゆる水中で行うランニングマシーンのことです。普通のランニングマシーンより水中で行う分骨への負担が少なく、かつ水中で足を動かすので筋肉には高い負荷を与えられます。主に骨折をした後のリハビリで用いられるトレーニングですね」
「なるほど。でも、流石のトレセン学園でもそんな施設は無かったような?」
「そうですね。大きなウマ娘用リハビリ施設とかでもない限り、設置してないと思います。設置規模も維持コストも莫大ですので。ただ、私は個人的な伝手があって、サンデーの時にも紹介したので、スズカさんにもご紹介できますよ」
「わかりました、紹介してくれると嬉しいです」
「はい。それでは後で話をつけておきますね」
そうして私のレーニングメニューは、4日プール、1日コーナー練習、2日休日、2週間に1日水中トレッドミルといったメニューになっていた。
プールでのトレーニングは最初に筋持久力をつけると言われたとおり、最高速度ではなく持久力をつけることがメインであり、初めの頃は25mプールをどんな速度でも良いから休まず500m泳ぐというメニューだった。
水中では使う筋肉も全く違うせいか、かなり疲労感があり筋肉痛などにもなったが、2週間後にはペース配分や、遅いが疲れにくい泳ぎ方などを習得し楽々泳げるようになった。
500mを楽々泳げるようになったら、今度は25mを1分で泳ぐペースを維持しながら500mを泳ぐ。
次は25m/1分半のペースで1000m。
その次は25m/1分のペースで1000mと、どんどん要求が高まっていく。
ペースを守れなかったり、泳ぎきれなかったりしても怒られるなんて事は無いが、そのメニューを楽にこなせる体力がつくまでは、ひたすら同じメニューを繰り返すため精神的に辛い物はあった。
そんなプール漬けのトレーニングを行っていると、二カ月がすぎた頃、フクキタルから「スズカさん水泳選手になるんですか??」とか聞かれたりしたが、私も会津トレーナーも断じてそんなつもりは無い。
プール漬けであまり走れない日々が続くと、週に1日のサンデーさん*3と一緒に走るコーナー練習が思いっきり走れて気持ちいいのだが、サンデーさんもサンデーさんで見て覚えろ理論*4であり、理論の説明など全くなくひたすらサンデーさんとの併走を要求される。
なんどか併走を続けたある日、サンデーサイレンスのコーナリングの秘密が類稀なる体幹によって支えられた横への傾き、そして顔がラチスレスレを通る命知らずな度胸にあると気づいた会津トレーナーであったが、流石にそんな命知らずなことができるはずもない。
そもそもウマ娘が走る速度で走っている中、身体をいつもより更に横に傾けること自体が転倒しそうで怖いし、その状態で内ラチに近づくとラチが顔の横を過ぎ去っていく感覚が更に恐怖を掻き立てる。
サンデーさんには「そんなscared*5じゃ勝てるもんも勝てなくなるぜ」とバカにされ、そのことを聞いたゴールドシップは「私に名案がある」と言うと、私を木に括り付け、顔面スレスレに剛速球を投げる*6という、ゴールドシップの手元が狂えば一瞬で死ねる訓練をさせられたりした*7。
それを見ていたサンデーサイレンスは大笑いするし、会津トレーナーはゴールドシップに言いくるめられて訓練を止めないしと、その日は生きた心地がしなかった。
しかも一番納得がいかない所は、その経験があったせいで内ラチスレスレに身体を傾ける行為が上手くいくようになった事だ。
私の心境としては「自分で身体を動かせる分制御が利くし、160kmで横を過ぎ去る硬球より怖くないな」という気分*8なのだが、そのことを見たゴールドシップがドヤ顔で「な、ゴルシ様の言う通りだっただろ」とサムズアップしていた*9。
そんな頭スピカな生活を続けていると、流石の私も不満が溜まってくるもので、週2ある休日にフクキタルやドーベル達とお出かけの際、カフェなどで駄弁るタイミングになるとスピカであった憤懣やるせない出来事を愚痴ったりしている。
愚痴る私を、2人はニコニコした様子で私を見てきたりするので、なぜそんな楽しそうなのか聞くと2人して「スズカ(さん)が楽しそうだから」とか言うので、私の怒りは有頂天になりそこのカフェにあった『昇天ウマ娘MAXパフェ』*10を2人に奢らせたりしたこともあった。
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そうしてプールたまに走る。みたいな日々を送っていれば気づけば年末。
チーム全員で有マ記念に出場するダンスパートナー先輩を応援しに行ったり、年末年始は実家に帰省したりとイベント事もあったりしたが、まだデビューもしていない私の何が変わるわけもなく。
朝起きてジョギングして授業を受けてプールで泳いで──。
そんな日々を送っていると、気づけば私がトレセン学園に入学してから1年とちょっとの時が経っていた。
そんなある日。毎日のようにジョギングを熟した後、制服に着替えて登校していると、声をかけられた。
「あの、サイレンススズカさん? ちょっと待ってください」
呼び止めたのは、毎日校門で登校するウマ娘と挨拶を交わしている理事長秘書の駿川たづなさん。緑色の制服がやけに似合うお姉さんである。
「えっと、たづなさん? なんでしょうか」
私を呼び止めたたづなさんは、神妙な顔つきで私の身体をジロジロと見つめると、言いにくそうにたどたどしく言葉を紡ぐ。
「えーっと、その、大変お聞きしづらいのですが……。サイレンススズカさん、……制服のスカートを改造とかしてたり、しませんよね?」
「いえ? してませんけど……?」
不審に思いくるりとその場で一回転してみるが、自分ではどこもおかしなところは見当たらない。
「あ! あまりみだりに回転してはいけません!!!」
私が回転すると、たづなさんが慌てて私のスカートを押さえる。
「えっと、見てわかる通り改造とかしてませんけど」
「ホントですか? スカート切ったりしてませんか??」
「してませんけど……」
誰が好き好んで高い制服のスカートを切るというのだろうか。
私がちょっと不機嫌になりかけたところ、たづなさんが私の側に顔を寄せ周りに聞こえないように小声で話し始める。
「その、最近毎日見てて思っていたのですが、サイレンススズカさん……制服のスカートが短すぎて、校則ギリギリになってます……」
「はい?」
たづなさんが何を言っているのかわからず、つい首を傾げてしまう。
私の制服は
「何を言っているんですか? たづなさん」
「だから!」
たづなさんの言う事を欠片も信じない私にしびれを切らしたのか、たづなさんが地団駄を踏みながら大きな声を出す。
いきなり何を言い出すんだこの女。
────to be continued.
最近今更ながらカグヤ様は告らせたいを見たので、今回はちょっとコメディちっく。
公衆の面前でパンツと叫んだたづなさんの明日はどっちだ!
次回へつづく!