「私はサイレンススズカだから」   作:花水姫

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第12話「本格化(兆)」

 

『駿川たづなパンツ見えちゃう事件』*1の直後、私は朝のHRの時間が迫っていたこともあり、「ギリギリ校則違反じゃないので注意だけにしますが、中が見えないよう気を付けるか、制服を買い替えてくださいね!」と注意だけをうけ、その場から解放された。

 

 その日の昼。いつも通りドーベルやフクキタルと一緒にお昼を食べている時*2、私は今朝のたづなさんの言葉が気になって二人に聞いてみることにした。

 

「ねぇフクキタル、ドーベル。ちょっと聞きたいことがあるのだけど」

「どうしました?」

「なに?」

 

 ある程度食べ終わってくる頃合いを狙って二人に声を掛ける。

 

「私のパンツって見える?」

「ふぐっ!?」

「…………」

 

 私の質問にフクキタルは飲んでいたものが気道に入ったのか苦しそうに咳をし、ドーベルは(何言ってんだコイツ)と言わんばかりのジト目*3で私を見てくる。

 結構深いところに入ったのか、フクキタルの咳が止まらなそうなのを見て、ドーベルが呆れた様子のまま私の質問に答える。

 

「なに? パンツ見て欲しいの?」

「いや、見て欲しいなんてことは無いのだけど」

「それは良かったわ。スズカにそんな趣味があったら友達やめてるところだったから」

 

 友達はやめないで欲しいなぁと思いつつ、なぜこんな話になったのか、事情を話すことにした。

 

「あのね、今朝校門の前で理事長秘書のたづなさんに言われたのだけれど、私のスカートが短くて校則スレスレらしいの。それでパンツが見えそうなんだって」

 

 私の話を聞いたドーベルは、少し悩んだ後「ちょっと立ってみて」と私を立たせ、私の全身を眺めていた。

 

「んー、たしかにそう言われるとスカート短いわね」

「やっぱりそうなのね。……おかしいわ、大事に使ってたはずなのに……、縮んじゃったのかしら?」

 

 実家がそれなりに裕福とはいえ、それでもトレセン学園の制服はかなりのお値段がする。

 ただでさえウマ娘は食費やら消耗品やらで、実家に苦労をかけているというのに、これ以上の出費は流石に心苦しい。

 

 私がそんなことを考えてしょぼくれていると、驚いた表情のドーベルが恐る恐る問いかけてきた。

 

「ちょっと、スズカ? もしかしてその制服、入学時に買ったまま?」

「え、うん。そうだけど」

 

 私の返答を聞いたドーベルが唖然とする。

 

「あ、アンタ……。世情に疎いとは思ってたけど、そこまで走ること以外に興味ないなんて……」

「えっと、どういうこと?」

 

 ドーベルがなぜ唖然としているのかわからず、首を傾げていると、ドーベルは徐に席を立ち私の目の前までやってくる。

 

「背筋伸ばして、目線を前に向けなさい」

 

 ドーベルが強い口調でそう言うので、言うとおりにすると、なにやら視界に違和感を感じた。

 

「ほら、なんか気づいたこと無い?」

 

 ドーベルに問われ違和感の正体を探す。

 

「あ、ドーベルと目線が合わないわ。初めてあった頃は同じくらいだったのに」

「そういうことよ」

 

 なるほど、つまり──。

 

 

「ドーベル背縮んだ?」

「はぁー!!?? あんたバカァ!? この年で身長が縮むわけないでしょーが!! あんたが伸びたのよ!!」

 

 滅茶苦茶目の前で怒鳴られた。ドーベルは私が聴覚過敏気味だということを知っていても、テンションが上がると顔を寄せて大きな声を出すのでそこのところは止めて欲しいと今でも思っている。

 

「……ケホ。そういえば、スズカさん背伸びましたよね。入学した頃は私の方がちょっと大きかったんですが、抜かされちゃいましたね」

 

 やっと喉と胸の違和感が取れたのか、フクキタルも席を立って私と並ぶと、手で自分の頭の延長線を私に寄せる。するとフクキタルの手はギリギリ私の頭頂あたりでぶつかって止まる。

 

「ほら、今はほんのちょっとだけスズカさんの方が高いですよ!」

 

 なんという事だ。私は私が気づかないうちに成長していたらしい。

 

「というかアンタ今まで気づいてなかったの? 下着とかどうしてたのよ。買い替えてないの?」

「買い替えてないわ。そんな必要ないもの」

「え、スズカさんホントですか!? 私なんて最近ブラがキツくなってきたんですけど……」

 

 私の発言に、フクキタルは驚きながら自分の胸に手を当てる。

 

「え? ブラってキツくなるの? あんなに伸縮性が良さそうなのに??」

 

 首を傾げる私を見て、ドーベルとフクキタルも首を傾げる。

 

「え、待って。ここ半年くらいスズカと着替える機会無かったから知らないんだけど。スズカ、もしかしてまだスポブラなの?」

「スポブラ? えっと、多分そうよ。小学生の時にお母さんが買ってくれたピッチリとした奴と同じ奴」

 

 

((スポブラだこれ────!))

 

 私の発言になにか衝撃を受けたのか、フクキタルとドーベルは足下が覚束なくなり倒れ込むように椅子に座る。

 

「そんな、スズカの家はどんな教育を……。あまりにも走ること以外に興味が無さ過ぎるでしょ……」

「言われてみると、スズカさんって羨ましくなるほど綺麗な体型ですもんね……。ご飯いっぱい食べてるはずなのに私よりスラッとしてますし……」

 

 ドーベルは頭を押さえながらなぜか私の家の教育方針を嘆いているし、フクキタルは死んだ魚のような目で自分の脇腹を摘まんでいる。

 

 2人の様子からただ事では無いものを感じつつも、なぜ2人がこうなってしまったのかがわからない。そのため2人の間で右往左往していると、校内に昼休み終了10分前を告げるチャイムが鳴り響く。

 

「と、とりあえず私たちは午後の授業あるから……」

「スズカさんもチーム練習あるんでした、よね……」

「え、えぇ」

 

 2人はゆらりとお化けのように立ち上がると、私の肩を片方ずつ掴む。

 

「いい? 絶対に、ぜっっっっったいにまずトレーナーに身長を測って貰いなさい! いい!? 絶対だからね!!?」

「そうですよ! あとなんでこういう話になったのか、朝の話も含めてちゃんと説明してくださいね!? お願いしますね!!?」

「う、うん。わかったわ。説明して、身長を測ってもらう。わかったわ」

 

 2人のあまりの剣幕に怯え、高速で何度も頭を縦にふると、2人は納得してくれたのか手を離して歩き去っていく。

 

「それじゃ、私たちは行くわ……」

「スズカさん、絶対ですからね。忘れないでくださいねっ!」

 

 疲れたような覚束ない足取りでその場を後にする2人を、私はただただ見送るしかなかった。

 

 

 ⏰

 

 

「と、言うような事がありまして」

 

 フクキタルとドーベルを見送った後チームルームへと行き、2人に言われた通り私は会津トレーナーへと事情説明していた。

 事情説明後、会津トレーナーと共に保健室へと行き身長と体重を測る*4

 

「身長は155cm、体重は微増……。一年で5cmですか、かなり伸びてますね」

「すごい伸びてますね」

「すみません、こんなに伸びていたのに気づかないなんて、トレーナー失格ですね。身体測定もそろそろ共通身体測定があるので、それで良いと思ってしまっていました」

「い、いえいえ。私も伸びていたのに気づいてなかったので」

 

 自責の念に駆られるトレーナーを慰める。正直に言うと私自身も1年に1回の身体測定で十分かと思っていたのでお相子である。

 

「そしたら今日は予定を変更して、沖野さんが確保してるコースを一部使わせてもらって、タイムの計測とかをしてみましょう。成長期という可能性はありますが、ウマ娘の第2次性徴は大抵本格化と同時であることが多いので」

 

 トレーナーの言葉に頷き、保健室を後にしコースへと向かう。

 

 

 

 沖野トレーナーが利用しているコースにつくと、会津トレーナーは沖野トレーナーに事情説明を始める。

 

「なるほどな。まぁ今回は本格化前のウマ娘の担当をさせたのに、放置気味になった俺のせいもあるわな。デビュー前、デビュー後に関わらず毎月身長と体重は測って記録はつけた方が良い。デビュー後、特にレース前の追切の時期になったら体重だけでも毎日測って記録しておくんだ。アスリート、特に人間以上に飯を食べるウマ娘は体重の変化が顕著だからな」

「はい。ご指導ありがとうございます」

「ま、コースは外側なら好きに使ってくれ」

 

 会津トレーナーに指導をすると、沖野トレーナーは他のウマ娘への指導へと戻っていった。

 

 

 ⏰

 

 

 その後、様々な条件で走行タイムを計ったところ、若干タイムが伸びているようであった。

 

「どうですか?」

「そうですね、ずっとプールとサンデーとの併走だけだったので、一人での計測は久々ですが大体どの条件でも平均0.8秒ほど伸びていますね。サンデーのコーナリング特訓のおかげかもしれないですが……、身長の伸び率も鑑みて、ご飯の量を増やしましょうか」

「ご飯の量、ですか?」

「はい。スズカさんは制服がキツくなった感覚が無かったんですよね?」

「はい」

「本来ウマ娘も人間も、幼児~成長期までは横に伸びる時期と縦に伸びる時期を繰り返します。ただ、成長期に入ると縦に伸びる時期の間隔がすごく狭くなるので、横に伸びる時期と重なって縦だけに伸びるようになるんです。あ、この横に伸びる、っていうのは体重が増加する──脂肪や筋肉が付く時期、という意味です」

「どのくらい食べた方が良いですか?」

「できれば今の栄養バランスを維持しながら1.2倍くらいは食べてほしいですね。勿論お腹がいっぱいであれば無理はしなくて良いです。それこそお米だけでも2倍にする、とかでも大丈夫です。とにかく成長期の間は成長するために必要なエネルギーを余分に摂取する必要がある、と考えてください」

「わかりました」

 

 トレーナーの解説を聞き頷く。今後しばらくはなるべくお代わりをするようにしよう。

 

「今後は本格化の兆候をなるべく早く掴むため、週に1日時計を計測する日を設けましょうか」

「今より沢山走れるなら異論はありません」

 

私の言葉に会津トレーナーは若干苦笑いになりつつ、言葉を続ける。

 

「制服は、本格化も想定して少し大きめのを買うか、まだ買いたくないならスパッツかタイツでも履くようにしましょう」

「はい。そうします」

 

 

そうして、『駿川たづなパンツ見えちゃう事件』当日は終わった。パンツの件は薄手のタイツを履くことで暫定解決とした*5

 

 

 

 

 

 

私の成長期が発覚してから3カ月ほどがたった。

 

あれから私はぐんぐんと身長が伸び、3カ月で1.5cmほど伸びている。このままのペースで伸び続けたら、来年の4月には161cmくらいになってしまいそうだ。

 

 

「完全に本格化が始まりましたね」

「あぁ。完全に本格化だな」

 

私の週ごとの身体測定や、走行タイムのデータなどをまとめた資料を見た、トレーナー2人の意見が一致する。

 

「ただ、身長の伸び方に比べて、タイムがあまり上がってないのが気になるな」

 

沖野トレーナーは資料を見ながら気になる点をあげる。その疑問に関しては私自身が思いついている原因があるため、私から話す。

 

「沖野トレーナー、そのことなんですけど。身長が伸びて脚も伸びた、というか体型のバランスが変わったのか、サンデーさんに教えてもらったコーナリングが上手くいかなくなっちゃって」

 

私の話を聞き沖野トレーナーは少し考える。

 

「なるほどな……。本格化で一気に体形が変わるようなウマ娘には良くあることだが、特殊なコーナリング技術であるサンデーのコーナリングがかえって裏目にでたか」

「いわゆる本格化に伴うスランプという奴ですね。これはスズカさんがどのくらいで身長の伸びが止まるかにもよりますが、走法の修正やコーナリングの再習得は少しずつ続けつつも、本格的なトレーニングは成長が落ち着いてからの方が良さそうですね」

「会津の言う通りだな。スズカは本格化で身長が伸びるタイプみたいだから、暫くは基礎トレだけにして成長が落ち着くのを待った方が良さそうだ」

 

 

トレーナー2人と行ったミーティングにより、私はしばらく筋肉を落とさないことを重視した基礎トレを行うことになった。

 

沖野トレーナー曰く、本格化で体型が変わるタイプは、少なくとも1年かけて変わっていくようなので、あと半年は最低でも伸び続けるだろうと言われた。

私の本格化の兆しがどれほど続くかはわからないが、来年か再来年にはデビューとなるのかもしれない。

 

その時が楽しみでもあり、またそれまで本格的なトレーニングができないというのも、ヤキモキする心持である。

早く本格化したいものだ。

 

 

*1
公衆の面前でたづなさんが「パンツ見えちゃいます!」と叫んだ事件。たづなさんのパンツが見えちゃうわけではない

*2
ドーベルとはこの半年の間に、ほぼ毎日お昼を一緒に食べる仲になった

*3
チベットスナギツネのようなジト目

*4
トレセン学園保健室にある身長計は体重も同時に計測できるタイプ

*5
靴下履かなくて良いし、サポーターとかが入っているタイツも良いなとスズカは思った





というわけで高等部までデビューしない理由説明です。

次回も一気に時間を飛ばす予定です。

メジロドーベルのトレーナーはどれが良い?

  • スピカ加入(会津トレーナー)
  • リギル加入(おハナさん)
  • 上記以外の個人トレーナー
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