「私はサイレンススズカだから」   作:花水姫

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第14話「ジュニア級ローテーションと勝負服と」

 

 メイクデビューを無事勝利したことで、私は1勝クラスに上がることができた。

 これでOP戦や、格上挑戦となるが重賞に挑戦することができる。

 

 メイクデビューの翌日、私はハルカトレーナーと今後のローテーションについて相談していた。

 

「さて、無事メイクデビューを勝利できた訳だけど、スズカはジュニア級のあいだに出たいレースとかある? 今年最初の頃に聞いたスズカのクラシックの目標を目指すなら、ジュニア級の間に重賞制覇は必須。できるならG1を勝っておきたい所だけど」

「そうですね、阪神JFはドーベルが行くだろうから外すとして、朝日杯かホープフルステークスですかね」

 

 私が上げた2つのG1両方に出走するとかいう鬼畜ローテも組めなくはないが、公式には私が最初の担当となるハルカトレーナーにそんなローテを発表させたら、大批判は免れないだろう。

 

「その2つなら、私はホープフルステークスを推すけど、スズカとしてはどう?」

 

 ハルカトレーナーがホープフルステークスを推す理由を聞いてみると、主に私のクラシック級での目標が2400mだからだという。

 ジュニア級で出走できる芝のレースで、最も長い距離が2000mであり、時期的にも1つ1800mのレースを挟んでちょうど良い時期に開催されるG1だから、というのがあるようだ。

 

「わかりました、私もその方向で異論ありません」

 

 ハルカトレーナーの説明を聞き、ジュニア級での大目標をホープフルステークスに定めることを了承すると、私がそう言うのをわかっていたのか、ハルカトレーナーはすぐさまレースを1つ提示してきた。

 

「それならホープフルステークスの前にこれを挟みましょう」

「アイビーステークス、ですか」

 

 アイビーステークス。

 距離1800m、東京レース場左回りで開催されるレースで、格付けとしてはリステッドの1つであり、1勝クラスが挑むには格上すぎない格上挑戦となるだろう。

 

「アイビーステークスを推す理由としては、時期がホープフルステークスから遠すぎず近すぎないこと。東京の1800mだからコースの習熟に余分な時間を割かずに済みそうであること。勿論、レースの格付けとしても1勝クラスのスズカが挑戦するのに不自然すぎないこと。これらの理由があるわ」

 

 ハルカトレーナーの説明を聞き私は頷く。

 

 元々G1以外のレースに、私はあまり詳しくない。レースの勉強より自分のトレーニングを優先したからだ。

 だからレースの事を考えるのは、元からトレーナーに任せるつもりだった。

 

 ボクの頃から変わらない。細かいレースはトレーナー(調教師)が考えて、(ボク)は自分が誰よりも速く走る事に注力すればいい。

 

「わかったわ。それなら次走は10月4週のアイビーステークス。そしてジュニア級の間の目標は、()()()()をしつつ、ホープフルステークス。これで行くわ」

「はい!」

 

 

 ハルカトレーナーの言葉に私は強く返事し、私のジュニア級での大まかな方針が決まった。

 

 

 ⏰

 

 

 方針が決まった後は、ひたすら重バ場への適性を高める練習と、距離延長のためのスタミナトレーニングを行いながら、コーナリングの習熟に努めていた。

 

 ハルカトレーナーや沖野トレーナー曰く、私のスピードに関しては特に特訓など必要無く、このまま本格化が進んで成長するに任せた方が良いらしい。

 その分コーナリングや戦術、レース勘といったものを鍛えた方が良いとのことで、重バ場への適性強化と距離延長を目的としたトレーニングが主となっている。

 

 

 そんなトレーニングを続けて時は過ぎ去り、私はアイビーステークスを勝利して無事オープンクラスになることができた。

 

 え、そんなサラッと言うなって? 仕方ないのである。特に見所もなく走ってたら勝っただけなので、なにも報告なんてすることがないのだ。

 

 

 出た、走った、勝った。

 

 

 まさにこの三言に集約されている。

 

 

 そんな私だが、ホープフルステークスが近づいてくると、流石にイベントが全くないというわけには行かない。

 

 

「勝負服ですか」

「そ、勝負服」

 

 勝負服。それはG1でしか着用を許されない特別な衣装であり、G1ウマ娘はすべてこの勝負服を持っている。中にはURA賞の受賞などにより勝負服を複数所持するウマ娘も居るが、レースの世界に身を置くウマ娘にとって、勝負服を持つことはG1ウマ娘であることの証明であり憧れの象徴でもある。

 

 ジュニア級のG1では直前までG1に出走できるかわからない場合が多く、大抵は汎用勝負服である『スターティングフューチャー』*1で出走する事がほとんどだが、それでもクラシック級の皐月賞や桜花賞が始まる前までには作っておくことが多いらしい。たとえ出場できたG1がジュニア級の物のみだとしても、自分専用の勝負服を持っていることはそれだけで特別な事であるようだ。

 

「アイビーステークスを勝ってG1に出走できることがほぼ確定したから、今の内に考えといても良いと思うの。特にスズカの場合、クラシック級の目標を考えると来年の3月中旬までには勝負服を受け取っておきたいし」

「今から勝負服を申請してホープフルステークスに間に合うんですか?」

 

 単純な疑問として質問したのだが、私の質問にハルカトレーナーは苦い顔をする。

 

「う~ん、シンボリ家とかメジロ家とか……、お抱えのデザイナーがいるなら間に合うと思うけど、URAを通じて依頼をするとしたら流石に間に合わないでしょうね」

 

 アイビーステークスが終わった現在は11月頭。ホープフルステークスは12月末である。約2か月でオーダーメイドの服を仕立て上げろというのは、よほどの強権が無い限り難しいらしい。特にウマ娘の勝負服というのは着られれば良い訳ではなく、レースの規定を満たしており、ウマ娘のレースに耐えられる物でなければならないため、材料や縫製など普遍的な衣服とは一線を画す物が要求される。

 

「URAを通じて勝負服を依頼するとして、3月中旬までに間に合わせるとしたら、デザイン案はいつまでに提出する必要がありますか?」

「それなら、今月中にURAに提出できれば間に合うはずだから、11月4週目までに私に案を渡してくれれば大丈夫よ」

「わかりました」

 

 ホープフルステークスを視野に入れなければ1カ月ほど時間があるとのことなので、その日は持ち帰って考える事になった。

 

 

 

 ⏰

 

 

 

 さて、勝負服のデザインを私が考えることになって、サラッと私がデザイン案を提出できるだろうか。いや、できない(反語)。

 そういう時に頼るのは、いつもの面々である。

 

「と、言うわけで勝負服を考える事になったの」

 

 というわけで、私は去年末あたりからタイキシャトルが加わったイツメンに相談を持ち掛けていた。

 

「Wow! 勝負服! ベリー羨ましいデース!」

「スズカさんはホープフルに出るんですか」

「へぇ。スズカにデザインなんてできるの?」

「はわ~、とても素晴らしいですね~」

 

 上から順にタイキシャトル、マチカネフクキタル、メジロドーベル、メジロブライトである。

 

 

 私のデザインセンスを問うてきたドーベルに向かって、私は逆に質問する。

 

「ドーベルは私にデザインなんてできると思う?」

「思わないわね」

 

 あっさり返されたが、これは私自身も思っていることなので別に腹は立たない。

 高校生になっても、お母さんが買ってくれた服を着ているJKのセンスを信じてはいけない。

 

「皆私服がお洒落だし、意見が聞けないかな~と思ってね」

スズカが女子高生の癖に無頓着なだけよ……

 

 私がそう言うとドーベルは渋い顔をして独り言を言うが、残念ながら詳細はわからなかった。しかしきっと、私が私服に無頓着な事を呆れているのだろう。

 

「Hmm、そうですね~。スズカの勝負服ですか」

「スズカさんは、小さいころに自分の勝負服を考えたりしなかったんですか?」

 

 タイキが腕を組んで真剣に考えてくれる横で、フクキタルが質問してくる。

 

「そうね、あまり考えたことなかったわ」

「そうですか~、誰もが一度は考えると思ってたんですが……。スズカさんですもんね」

 

 私の答えにやっぱりと言いたげに頷くフクキタル。フクキタルは私の事をなんだと思っているのだろうか。

 

「スズカさんにはぁ、白が似合うと思いますよ~」

「そうね、ブライトみたいに色から考えるのもアリだと思うわよ」

 

 まじめに考えてくれたブライトが私に合う色を告げると、それに同調するようにドーベルが使いたい色から考えてみろと助言してくれる。

 

「色、色かぁ……」

「スズカと言えばやっぱりGreenデース! いつも付けてるイヤーカバーのImageが強いデスね!」

 

 色の事に思いを馳せているとタイキから緑が推薦される。やはりイヤーカバーや髪飾りの印象が強いらしい。

 

「白に緑、かぁ」

 

 少々考えるが、白と緑なら組み合わせても特に変なことにはならないだろう。

 

「スズカさんは使いたい色とか無いんですか?」

 

 フクキタルの言葉で再度色を考える。

 色、勝負服の色と言うならば……。

 

「黒と黄色」

 

 そう、ボクの上に乗っていた人が着ていた服の色は、今思い返すと黒と黄色だった。馬だったころは人間と同じ色なんて見えていなかったはず*2なのに、今思い返すときっちりとその色が思い返せるのは不思議ではある。

 

「黒と黄? スズカにしては結構奇抜な色ね」

「そうですね。ブライトさんが言った白やタイキさんの緑とは逆の色ですね」

「うん。だけど、そうね。『勝負服』というのなら、黒と黄色が使われた服が良いわ」

 

 ドーベルとフクキタルを筆頭に、相談しているイツメンが皆意外だと言うが、それでも私は黒と黄色がいい。

 

 たとえあの人がこの世界に居なくても、あの人をボクの背に乗せて走ったことは忘れたくないから。だから、せめて色だけでも共にしたい。

 

 

「そういえばスズカさんはURAを通じて申請するんですか?」

「えぇ。そのつもりだけど」

「ホープフルステークスには間に合うにはいつまでに提出すればいいんですか? 勝負服の申請って確か、使って欲しい色とか、こういうコンセプトで作って欲しいって事を伝えるだけでも良かったはずですよ?」

「そうなのね。でもトレーナーが言うには、もう年末のG1には間に合わないらしいから、来年の3月を目安にして今月中に提出すれば良いらしいわ」

「あ、そうなんですか。ならまだ悩む時間はありますね」

 

 フクキタルの問いに答えつつも、フクキタルが言った色とコンセプトを伝えるだけで良いというのを考える。どうしても考え付かなかったら、それでも良いかもしれない。

 

「そういえばドーベルは阪神JFに行く予定なのよね? 勝負服はどうなの?」

「え、い、一応メジロお抱えのデザイナーが居るから、その人に作ってもらう事になってる……」

「もうデザインは決まってるの?」

「一応、基本的なデザインは伝えてるわ」

 

 最近知ったのだがドーベルは絵を描くらしく、基本的と言っているが実際には、自分で考えた詳細なデザインを伝えているのだろうことは想像がつく。

 

「……ねぇスズカ」

「どうしたの? ドーベル」

 

 ドーベルに呼ばれたので聞いてみるが、ドーベルは口をモゴモゴさせるだけでなかなか言葉を切り出さない。

 こういう時のドーベルは言いたいことはあるが、恥ずかしかったり踏ん切りがなかなかつかないだけであることが多い。

 

 だから私たちは大抵ドーベルの決心がつき、言ってくれるのを待つのだが、ドーベルと最も付き合いが長く、なおかつ独特な時間で過ごしているブライトだけは違った。

 

 パン! と手を叩くとニコニコしながら私に向かって言う。

 

「あぁ~、きっとドーベルはぁ、スズカさんの勝負服もメジロ家で作ってはいかがですかと言いたいんだと~」

「ちょっ! ブラ! ちょ!」

「そうなの? ドーベル」

「そ、そうよ」

 

 ブライトに暴露された内心が恥ずかしかったのか、ドーベルは頬を染めながらそっぽを向く。

 

「その、私だけバッチリ勝負服決めてたら恥ずかしいし、別にスズカと一緒に走るわけじゃないけど、でもブライトもジュニアG1には出ないって言うし、だからってわけじゃないけど家なら今からでもホープフルステークスに間に合うと思うし……」

 

 相当恥ずかしかったのか、早口で言い訳にもなってない言い訳をまくしたてるドーベルが微笑ましく感じてくる。そう感じたのは私だけではないらしく、イツメンの表情がいつもより笑顔に見える。

 

「だ、だから、別にスズカのためじゃないけど、私がおばあ様に掛け合うのもやぶさかではないというか」

こう言ってますけど、ドーベルがおばあ様にお願いするなんてすごい珍しいんですよ~。それほどスズカさんに勝負服を着て欲しいのだとぉ

 

 誰に言い聞かせるわけでもない言い訳をまくしたてているドーベルを横に、ブライトが私の耳元で囁いてくる。ドーベルは結構実家に隔意を持っているらしく、メジロ家そのものと言える現当主のおばあ様とやらは結構苦手らしい。

 そんなドーベルがおばあ様に掛け合ってでも、私の勝負服を作ってもらうように掛け合うのは、それほどの意味があるのだとブライトは言う。

 

「ドーベル」

 

 そんなドーベルの気持ちが嬉しくて、私は指をもじもじさせているドーベルの手を握ってしまう。

 

「な、なに!?」

「ありがとう。とても嬉しいわ。是非お願いしても良いかしら」

 

 手を握られたのが恥ずかしかったのか、ドーベルの顔がみるみる内に赤くなる。

 

べ、別にスズカのためじゃないんだからね! で、でもしょうがないから掛け合ってあげるわ」

 

 そう言ってそっぽを向きつつ、ドーベルの表情は嬉しそうだった。

 

 

 

 

 でも照れ隠しに大声を出すのはやめて欲しい。

 

 

 

 

 

*1
原作ウマ娘にて★1★2ウマ娘が着用しているもの

*2
馬の色覚は明確に判明していないが、赤が判別できない二原色だろうと言われている。なお人間が見ている視界は赤青緑の三原色である





というわけでスズカさんの勝負服だけ、箱庭内での勝負服を参考にアレンジしたものに変更しようと思います。
文章で伝えるのは難しそうなので、簡単に挿絵でも書けたらなと思っておりますが、絵を描くと時間がかかるので悩ましいところです。
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