今回はレース描写ありなのでちょっと文字数あります
※2023/06/16 修正
ウイニングポスト10の特性〈○○ギア〉の説明が
「○○mのレースの序盤から道中で、速度を上げることがある」
という表記であったため、該当の特性を緑スキル枠から黄色スキル枠に変更しました
ドーベルの好意で、勝負服をメジロ家お抱えのデザイナーに頼んで作って貰えることになった私は、直近の休みを利用してデザイナーの人と打ち合わせをすることになった。
「始めまして、メジロ家のデザイナーです」
「わざわざご足労いただきありがとうございます。今回依頼させていただく、サイレンススズカです」
「サイレンススズカの担当トレーナーの会津ハルカです」
わざわざトレセン学園までデザイナーさん本人が足を運んでくれており、その場で身体測定やデザインのヒアリングが始まる。
「必要な計測は終わりましたので、続けてデザインのヒアリングに入りたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「お願いします」
「では早速ですが、現状でイメージしているデザインなどはありますか?」
「詳細なデザインは無いんですけど、色は黒と黄色を使って欲しいです」
私の言葉を逐一メモを取るデザイナーさん。
「形やスタイルなど、こだわりはありますか? 例えばドレスタイプが良い、セーラー服タイプが良いなど」
「えっと、そこもこれといった物は無いです。ただ、あまり装飾がゴテゴテしてない走りやすそうな物が良いです」
「スカートタイプやパンツスタイルなどの要望は?」
「それもどちらでも良いですけど……。あ、タイツをいつも履いてるので、タイツと組み合わせて良いようなボトムスが良いです」
「かしこまりました。タイツは今お履きになられている物と同じでよろしいですか?」
「はい」
次々と要望を確認しては、メモを取ったり手持ちのスケッチブックに描き込んだりを繰り返すデザイナーさん。その仕事振りは一流の風格が感じられる。
「他に用いて欲しい小物などはありますでしょうか」
「えーっと、あ。今つけているイヤーカバーと髪飾りはそのまま装着したいので、頭の装飾は少な目が良いです」
「かしこまりました。他に細かい要望や、確認しておきたい事項などはございますか」
「タイツにサポーターというか、走っているときの衝撃を和らげるような仕組みって付けられますか?」
「……一般的なランニングタイツや、サポートタイツと呼ばれるような物に近い機構で良ければ可能だと思われますが」
「それなら、それをお願いします」
「かしこまりました。サポートの対象は筋肉でしょうか、骨でしょうか?」
「骨……ですかね。関節というよりは骨全体というか……」
「ふむふむ、関節のサポートなどよりは、全体的な怪我の防止・衝撃の分散に注力したいというお考えで、間違いないですか?」
「はい」
「かしこまりました。それでしたら、タイツなどに関しては少々通常の物より締め付けがキツく感じられたり、着用の際に手間などが発生するおそれがありますが、問題ないでしょうか」
「はい、大丈夫です。ランニングタイツならいつもランニングの際に履いているので、締め付け感等には慣れています」
「かしこまりました。それでは、追加で脚の太さを測らせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「はい」
「タイツやニーハイソックスなどを勝負服に含める際は、極力ストレスが減るようこまめに脚の大きさ、太さを測る必要があるので、トレーナーの方も測る場所と計測の仕方を覚えていただければと存じます」
「わかりました」
その後、要望を聞いて追加で必要な身体データを測定し終えると、デザイナーさんのヒアリングは終わった。
その約1ヶ月後、試作品と共に再度やってきたデザイナーさんにフィッティングをしてもらい、私の勝負服は本決まりとなった。
12月半ばには完成品が届くらしい。
なおフィッティングの際にお値段の試算もしてもらったが、滅茶苦茶高くついた*1ので、出世払いということにさせて貰った。ますますG1で負けられない理由ができてしまった……。
⏰
ホープフルステークス。
一年の最後に行われるジュニア級レースであり、ジュニア級でG1に格付けされている数少ないレースである。
G1なので憧れるものは多いが、クラシックに集中するウマ娘は出走しないことが多かったり、そもそも早熟な娘でないと出走条件を満たせなかったりと、意外と穴場なG1といえる。
開催場所は中山レース場で、距離は2000m。
クラシックG1初戦の皐月賞と同じ条件である。
そう聞くと出走すれば皐月賞で有利になれるかもしれないと思うが、意外とそうではないらしい。
皐月賞まで4ヶ月の間が空くこと、同じ条件の弥生賞が皐月賞のトライアルに指定されていること、ジュニア級というトレーニングの完成度にバラつきが出る時期に開催されるとあって、ホープフルステークスに勝ったウマ娘が、皐月賞の最有力候補かと言われると、そうでもないらしい。
それでも有マ記念が同日に中山レース場で開催されるため観客はとても多く、その熱狂や衆人環視の中に置かれるストレスや緊張感を知るには絶好の機会でもある。
そんなホープフルステークスに出走するため、私はここ中山レース場にやってきていた。
控え室には入り終えており、あとは次のレースが終わり、コースを整え終わったらパドックに呼ばれるのを待つのみである。
勝負服に着替え終わった私に、ハルカトレーナーが着心地を確認してくる。
「勝負服の調子はどう? フィッティングの時から体型に変化は無いはずだから、キツすぎるとかは無いと思うけど」
「特に問題ありません。全身を覆うタイプのタイツも、着心地バッチリです」
完成した私の勝負服は、脚にかかる衝撃を全身で分散できるよう全身タイツを着用し、その上から服を着る形となっている。
全身タイツが黒に黄色のラインが足の部分に入った物で、服自体は白メインで黄色の模様がアクセントとして入っている形になっている。
ボトムスは無駄な装飾やヒラヒラを嫌った私に合わせてくれたのか、ホットパンツというのだろうか、ハーフパンツより丈の短い身体のラインに沿ったズボンとなっている。
私の注文通り、タイツは脚を中心に全身を流れるように締め付けつつ補助する形となっており、いつもより立っているのにかかる重力が少ないように感じるのは、勝負服を着用した高揚感によるものだけではないだろう。
「うん。私から見ても、特に問題は無さそうね」
ハルカトレーナーに360度見てもらい、問題がないことを確認してもらう。
「それじゃ、一応最終確認。今日の目標平均ラップは12秒。G1だし末脚も解放して良し。末脚を残すための道中のラップタイムは、スズカの判断に任せるわ」
「はい」
「例年通りなら、平均ハロンタイム12秒で先頭を走りつづけられれば、確実に勝てるわ。もし本当に12秒で走りきったらそれこそレコードよ。そして、今のスズカならそれができると、私も沖野トレーナーも確信している」
「わかりました。期待に応えられるよう最善を尽くします」
ホープフルステークスは2000m丁度。平均ハロンタイムが12秒なら、ゴールしたときの時計は2分フラット。ホープフルステークスとしては文句なしのレコードタイムである。
「あと、逃げのスズカには関係ないかもしれないけど一応。今回はメジロブライトが出てるわ。スズカの友人だから知ってるだろうけど、逆にスズカが出るとわかっててホープフルステークスに合わせてきたのは、なにか策があると思って警戒して頂戴」
「はい。私も、
そう。今回のホープフルステークスでは、メジロブライトが居るのだ。
ドーベルと共に私に話しかけてくれて以来、ドーベル繋がりで私と友誼を結んでくれたウマ娘。
本人のおっとりした性格故か、エンジンの掛かりが遅い娘である物の、その天性のステイヤーとしての素質は、プール詰めになった私ですら追いつけないスタミナと持久力として現れている。
最高速度、加速度共に私の方が一回りは高いが、その分本人の最高速を長く持続させる筋持久力、そして、それを支える莫大なスタミナはあちらが上。
いわゆる人競技のマラソンランナーのような走りを得意とするウマ娘であり、長距離レースでの削り合いとなったら、対抗できるのはライスシャワー先輩か、ダンスインザダーク先輩くらいであろう。
そんなメジロブライトだが、今回は中距離。
私に有利な条件での対戦で、流石に負けはしないだろうが、今回の出走者の中で私に最も近づくのは彼女だろう、と言うのは沖野トレーナーとハルカトレーナー、そして私の3人の間で一致している。
『サイレンススズカさん。そろそろパドックに集合してください』
ハルカトレーナーと最終確認をしていると、扉の外から係員に呼ばれる。
「それじゃ、私は沖野トレーナー達に合流するから、ゴール前で待ってるわ」
「はい」
ハルカトレーナーが出て行ったのを確認して、私の長くなってしまった髪を括る。
頭が内ラチスレスレを横切るサンデーさん直伝のコーナリングを練習し始めてから、レースの時はこうして髪をくくるようにしている。
直前になって髪を整えるのもどうなのかと思うが、今ではレース前に髪をくくるこの作業が、一種のルーティンとなってしまっていた。
簡単にお団子状に髪を括った私は、控え室を出てパドックへと向かうために部屋を出る。
パドックの待機場所へと集まると、1枠1番からパドックでの披露と紹介が始まる。
私の枠は5番なので結構すぐなのだが、その前にブライトを見つけたので声を掛けておく。
「ブライト」
「わぁ、スズカさん~どうもですぅ」
ブライトもキチンと勝負服を仕立ててきており、ライトグリーンのストライプが可愛らしい出で立ち*2である。
「スズカさんの勝負服素敵ですね」
「ありがとう。ブライトとドーベルのおかげで、こうしてホープフルステークスに間に合わせることができたわ」
「いえいえ~、私一人だけ専用服というのも恥ずかしかったのでぇ。スズカさんも専用服で来てくれれば、恥ずかしさもやわらぐので~」
ブライトはそう言ってくれるが、このブライトが周囲の目を殊更意識するとはとても思えないため、私に対するお世辞であろうことはわかるが、あえてそれを指摘はしない。
「そう。それなら、感謝も込めて今日は
私の言葉にブライトは目を一瞬見開くと、一層深めた笑みを浮かべる。
「うふふ~。ドーベルやフクキタルさんより早く、スズカさんの
「えぇ。だから、千切られても文句は無しよ」
「わかってますよ~。私もスズカさんに負けるつもりはありませんから、簡単には千切らせませんよぉ」
お互いに笑顔を浮かべながら、その視線の間には火花が散るのを幻視する。
わかってはいたがブライトも勝つつもりで、私を倒すつもりで来てくれている事が嬉しく思う。
「次、私だから、先に行くわね」
「はい。またゲート前で会いましょう」
私の枠番が5番であり、ブライトが7番のため私の順番の方が早く訪れるため、挨拶もそこそこにパドックへ向かいブライトと別れる。
あぁ、本当に楽しみだ。
⏰
パドックでの披露が終わり、ゲート前へ向かうために地下バ道を通る。
地下のためか、靴につけられた蹄鉄の音がやたらと響くこの独特な空間が、否応なしにレースへの期待感と高揚感を高めてくれる。
『さぁ、次々とウマ娘が入場してきます! 今年のジュニア級最後のレースにして、来年のクラシック戦線を占うジュニアG1』
『誰をも魅了し、心を奪う希望の星が誕生するホープフルステークス! 今1枠1番からゲートインです!』
「ブライト」
「……」
5番と7番のため、近くにいるブライトに声を掛ける。
「待ってるわ」
「──はい」
言葉は少ないが、伝えたいことは伝えた。私は待っている、望んでいる。ブライトが、私の背に追いすがることを。
『続きまして3枠5番サイレンススズカ! デビューしてから2戦2勝、2戦とも大差で決着と本日の注目ウマ娘! 人気はもちろん文句なしの1番人気です!』
実況にあわせて、スムーズにゲートインする。
『4枠7番メジロブライト! 現在3戦1勝と直近2戦では勝ちを逃していますが、全てで連対とこちらも実力は疑いようがありません! この評価はすこし不満か3番人気です!』
次々とゲートインする中、瞼を閉じ集中力を高める。
天候は晴れ、バ場状態は良。なんの憂いも無い。私が私らしく走れば勝てる。
そうトレーナーが言ったから。私はそれを信じて、いままでトレーナーと共に鍛えてきた私自身を信じて走る。
『すべてのウマ娘のゲートインが完了しました──』
目を開く。
肌がヒリつく感覚を覚えるほどの
(──開く)
そう思った瞬間に私は駆け出し、私の視界の横を開くゲートが横切る。
〈ロケットスタート〉
〈高速逃げ〉
〈坂越え〉
〈クラシックギア〉
『地固め』
〈異次元の逃走劇〉*3
『スタートしました! 出遅れはありませんが一人だけ抜け出したのは5番サイレンススズカ!』
『相変わらず抜群のスタートセンスですね。ジュニア級でここまでのスタートの上手さは驚く他ありません』
今回はトレーナーからの制限もない。ブライトに全力を見せると言った。
だから
『大逃げ』
『先駆け』
『5番サイレンススズカ、ハナをとっても止まらない! どんどん離す! まだ離す!」
『彼女は今までも後続を離す逃げを打って勝ってきましたが、ここまでの独走は初めてかもしれません。息が持つのでしょうか』
中山レース場2000mはスタートし始めての直線と、第1コーナーに上り坂があり、なおかつ一周してホームストレッチへ帰ってくるという、短い直線とカーブのキツイコーナーで構成された小回りが重要なレース場である。だからか、前方脚質が有利な一方、そこまでハロンタイムが速くならない傾向にある。
でも私には関係ない。平均ハロンタイム12秒、いやそれより速く駆け抜ける!
『サイレンススズカ番手を10バ身ほど突き放して早々とコーナーに入る!』
流石に急カーブと上り坂の合わせ技はキツイ。速度を維持しつつなるべく膨らまないようにするので精一杯だ。
『なんという事だサイレンススズカ! ほとんど速度を落とさずに綺麗にコーナーに入ります!』
『驚きのコーナリングです。デビュー当時からコーナーが上手かったウマ娘ですが、更に磨きがかかっていますね』
『後続はサイレンススズカに追いつけるのか!? それともサイレンススズカが垂れてくる事に賭けるのか!!』
『難しい判断ですね。お互い初めての2000mでこの判断を下せるジュニア級ウマ娘はいないでしょう』
速度を維持しつつ曲がるとそこは第2コーナー。中山レース場の第2コーナーは下り坂区間でもある。
坂の定石はゆっくり上ってゆっくり下る。と言われることが多い。これは坂の勾配がキツイ京都レース場*4で良く言われることだが、ジュニア級にも言える事である。その理由は単純に上り坂で加速するのは技術とスタミナを要求され、ジュニア級ではそこまで特訓しきれないこと。そして下り坂では単純に速度が付きすぎて危険であるということ。これらの要因が上げられる。
しかも中山レース場ではキツめのカーブもついてくるため、ただでさえ速度を落とす急カーブに加え、上り坂と下り坂がついてくる1角と2角は、特に速度に気を付ける必要があると言われている。
でもそんなことは私には関係ない。
私のコーナリングの師はあのサンデーサイレンスである。
死神に中指を立てながらコーナーを曲がるとすら言われた、命知らずなラチを擦るようなコーナリングをするサンデーサイレンスに言わせたら、下り坂で加速しない奴は『coward』*5である。
そしてサンデーサイレンスの格言の一つが「cowardに勝利の女神は微笑まない」。
彼女はどこまでも前のめりに走ることを信条としている。
そんな私が、下り坂を恐れて良いのだろうか。怪我をしたくないという理由で下り坂を恐れた私は、本当に
もう後続の足音が聞こえる距離ではない。私が2角に入っている中、後続集団は1角に入る頃合いだ。本来ならこんなところで加速する必要はない。
でも、それが本当に
2角を曲がっている最中、後続集団に視線を向けた時、集団の後方で走っているブライトと目が合った気がした。
ホントに目が合うはずがない。彼女はただ先頭である私を見ていただけだろう。
でも、目が合ったと思った瞬間、ブライトは加速した。
色んな人からズブいと言われる、ブライトの加速は決して速いものではない。それこそ今だって、ただ位置取りを調整しただけのように見えただろう。
でも何となく感じた。彼女は周囲が遅くならざるを得ない、中山の第1第2コーナーで位置取りを上げてくる。それは私に追いつくためであり、
そんなライバルを持つ私が。
そんなライバルに見られている私が。
恐れに
(──そんなこと、あっていい筈がない!!)
『コーナー巧者〇』
『逃げコーナー〇』
『サイレンススズカ! 第2コーナーで加速!』
『下り坂を利用して加速しましたね、最近は下り坂で加速することがブームになっていますが、ジュニア級で、しかもこの中山で行うウマ娘が居るとは思いませんでした!』
『後続集団はまだ第1コーナー! 下り坂を利用しサイレンススズカまだ離す! もうどのくらい離れているのか私では判断が付きません!』
下り坂で加速を得て、
先ほど見た後続集団のペースから見て、現在は20バ身近くは開いているだろう。
下り坂で得た加速を利用して
加速することで得たスピードを消費しながら、スピードに任せて脚を動かすだけに終始することで、バックストレッチで息を入れる。
これは直線が2度くる中距離以上じゃないとできない。
『前方一人ポツンとサイレンススズカ、1000m時点のラップタイムは約1分!』
『クラシック級ならば平均的なペースですが、ジュニア級でこれはハイペースと言わざるを得ません。後続の娘達はこのハイペースにどう対処するでしょうか』
『そう言っている間にサイレンススズカが第3コーナーに入ろうとしています! 後続集団はやっと向こう正面の直線に入ったところ!』
『これはもはやサイレンススズカのスタミナが持つかどうか。それに焦点は絞られたと言っても過言ではありません』
第3コーナーに入る。中山2000mではここから終盤だと言って良いだろう。
後続とは十分離した。3角と4角は坂などもないので、現在の速度を極力維持しつつも若干速度が落ちることを許容して
『向こう正面に入って7番メジロブライト徐々に位置取りを上げています!』
『メジロブライトはサイレンススズカが持つと判断したのでしょうか。対照的に周りの娘達は持つはずがないと判断したみたいですね』
『この判断が吉と出るか凶と出るか! 一方一人独走状態のサイレンススズカは最終コーナーに入り、まだ垂れる様子はありません!!』
『驚異的なスタミナですね、まさに一人だけ次元が違うと言っても過言ではありません』
さぁ、最終コーナーだ。息は入れた。ここを抜ければ315mと短い最終直線と、緩やかな長い上り坂が待っている。
4角に入る際に、メジロブライトが更に位置取りを上げているのが見えた。差しの筈のブライトが、3角に入る前にすでに先行集団の真ん中程度まで上がってきている。
ここで思い至る。ブライトはその豊富なスタミナを以て、1000mの超々ロングスパートをかけるつもりだ。
けっして高くないトップスピードを補うために、長く使える脚と豊富なスタミナを利用して。2000mの半分の距離をスパートしようとしている。
ブライトはまだ諦めていない。
ならば、私も手を抜くわけには行かない。
敬意を払おう。私が4角に入った時点で10バ身以上離れた絶望的な差で、後方脚質が不利と言われる中山で、それでも彼女はまだ私の背を諦めていないことを。
あぁ、残念に思う。多分
私が
私とブライトの主戦場は、絶望的なまでに食い違っている。
だから数少ない対戦だから、彼女には見ていて欲しい。
サイレンススズカを。
異次元の逃亡者を。
4角を抜ける瞬間に加速する。
『サイレンススズカ垂れない! このウマ娘は垂れない!』
上り坂だろうが関係ない。
(
瞬間、私の眼前が開ける。
どこか懐かしさを感じる草原。
ずっとずっと走り続けたいと思わせる地平線まで続く芝と、私の背を押す気持ちのいい追い風。
(あぁ、これがきっと────)
『サイレンススズカまだ走る! まだ加速する!! このウマ娘にスタミナという概念は存在しないのか!?』
『これは完全に決まりました。まさかあの速度で走りながらここまでの末脚を残しているとは』
(──
『これは決まった! 5番サイレンススズカ! 後ろからはなんにも来ない! まさに一人旅!』
領域を理解した瞬間、私はゴール板を踏み超えていた。
『タイムがでまし──っ! すみません、タイムが出ました! タイムは1分59秒7! まさかの2分切り! 文句なしでレースレコードです!!』
『なんというウマ娘でしょう。この娘のクラシックが楽しみでなりません』
『2着に入ったのはメジロブライト! 3着以下も続々とゴールしていきます!』
『1着と2着は当然大差ですが、2着のメジロブライトも3着に3バ身の差をつけていますから、相手が悪かったとしか言いようがありません』
『これでサイレンススズカ3戦3勝! 初重賞制覇にして、G1制覇です! ここに無敗のジュニア王者が誕生しました!』
──私の、ジュニア期が終わった。
これでジュニア期終了です。
次回はホープフルステークス後の各キャラ視点の短編集、ジュニア期の掲示板回、ジュニア期終了時点のスズカさんの妄想能力値(ウマ娘風ウイポ和え)を投稿する予定です。
スズカさんの勝負服は現在鋭意制作中ですので、スズカさんの妄想能力値を投稿する際にでも一緒に投稿出来たらなと思っています。