6月頭がちょっと忙しく、あと絵も描いていたため遅くなりました。
今回はメジロブライトとメジロドーベルの視点です
【メジロブライト編】
私の名前はメジロブライトと申します。
私はその名の通り、メジロ家に産まれたウマ娘の一人ですが、周りからよく独特な雰囲気やら、時間感覚が違うやら言われていました。
確かに小さい頃から、庭に咲いているお花を見ていたら日が暮れていたり、時間があるからと空を眺めていたらお稽古に遅刻したりと、何かと周囲との時間感覚のギャップがあったりはしました。
そこそこ大きくなってからは、単純にゆっくりした時間を過ごすのが好きなのだとわかったので、その時間を一日の間で確保しつつ、常日頃から早め早めの行動を心がけることで授業などには遅刻しないようになってきました。
そんな私ですが、レースの走りではどうも皆さんのように一瞬で速度を変える事ができず、加速力の足りない、所謂『ズブい』と呼ばれる走りはついぞ直りませんでした。
トレセン学園に入学してからも結局改善は見られず、メジロ家であるにも関わらず、中々スカウトされない状況が続いていましたが、翌年高等部になろうかという年の瀬に私を見初めてくださるトレーナーさまと出会い、無事デビューへの目処がついたのでした。
走りの方ではそのように中々評価されない私でも、仲良くなってくれる方は多く、その中でも姉妹のメジロドーベルの繋がりでサイレンススズカさんや、マチカネフクキタルさんとは特に仲良くさせていただいていました。
特にサイレンススズカさんは、私たちと同年に入学した中で新入生代表を務めたり、入学1年目からチームに入るなど、話題に事欠かない方です。
そんなサイレンススズカさんの走りは私とは真逆で、抜群の反応で飛び出すスタート、3歩で最高速度に至れる加速力、スプリンター程では無いにしろ、マイラーとしてはトップクラスの最高速度に、その速度を2000mの間維持できる高いスタミナ。
まさに、現代ウマ娘レースの理想形と評せるほどの優駿です。
そんなスズカさんと私、他にもドーベルやフクキタルさん、中学3年という半端な時期に留学してきたタイキシャトルさんなど。特に仲良くさせて頂いている方々とは、幸か不幸か同年のデビューと相成りました。
早くから頭角を現し、2年間チームで鍛え続けていたスズカさんはもちろん最速の6月デビュー*1。私は遅れながらも8月にはデビューし、なんとか勝利を飾ることができました*2。
そんなスズカさんがホープフルステークスに出場なさると聞いて、私はトレーナーさまにホープフルステークスに出場したい旨を伝えました。
トレーナーさまは、「残酷なようだけど」と前置きをして、今スズカさんと戦っても絶対に勝てないであろう事を優しく言いました。
それでも私は出場したいと、トレーナーさまに無理を言いました。
理由としてはホープフルステークスの2000mはジュニア級で最長となること。私が現在聞き及んでいるスズカさんのクラシック級での目標を考えると、次に戦えるのは年末の有マ記念になるであろうこと。そして、G1という舞台で、本気を出して来るであろうスズカさんを、
たとえ、私とスズカさんの得意距離が被っていなくても、
そうして迎えたホープフルステークス。スズカさんはドーベルと私のわがままをおばあ様に聞いていただき、作っていただいた勝負服を纏って現れました。
その立ち居振る舞いは、誰よりも自信に満ちていて、誰よりも凛々しいものでした。
この国の規則として、ウマ娘のレースに負けるつもりで出場することは許されません。これはチーミングや八百長を防ぐためのルールです。なので私も含めこの場に集まった16人のウマ娘は誰もが自分が勝つと思って出場しています。それでもスズカさんが現れるだけで、他の皆様が狼狽えるのが分かります。勝負服を纏ったスズカさんを間近で見て、ウマ娘の本能が感じ取ってしまったのかもしれません。この場で、誰が最も速いのか。
レースは駆けっことは違います。ただ速いだけでは勝てないことは、半ば常識となって世間に浸透しています。ですがその常識は、スズカさんにだけは当てはまりません。
レースを駆けっこへと堕とす。ただ速い者が勝つ。それがスズカさんの居るレース。
彼女がチームに所属する前から、ドーベルに付き合い一緒にトレーニングや併走を行っていた私にはわかっていました。
今日のホープフルステークスに出走した娘の中には、その事を疑う人も居るのでしょう。まだ、スズカさんが普通の逃げウマ娘だと思っている方は、観客はもとよりウマ娘やトレーナーの中にも多いでしょう。その方々の視点ではスズカさんが今までの逃げを2000mでも行えるのか。それが焦点になっているでしょうが、私とトレーナーさまは違います。
今までスズカさんは本気を出しても、全力は尽くしてきませんでした。私とトレーナーさまは、その
それでも、当日のスズカさんを見てしまうと、諦めにも近い感情がこみ上げてきます。
私たちが考え付いた戦法は1000mを超える超々ロングスパート。第2コーナーを越えたところからスパートをかけ、スズカさんに追いすがろうという物。
結局、その目論見は通用せずスズカさんには届きませんでした。
結果は10バ身を超える大差。
私以外の方はスズカさんのスタミナを見誤り出遅れ、私はわかっていても絶対的な
私にもっと加速力があれば、超々ロングスパートなんて選択をしないで良く、私の最高速度がもっと速ければ、大差なんて差をつけられることも無かったのです。
それでも、スズカさんは走り終わった後、私の側により健闘を讃えてくれました。
汗でこびりついた前髪を整えることもせずに私に近づくと、「もっと離せると思ってたけど、ブライトすごい速かったわ」なんて、無自覚な傲慢さを感じさせる言葉を、そんな事考えてすらいないのだろうという天真爛漫な笑顔で語りかけてきたら、もう笑うしかありません。
きっと、スズカさんは菊花賞や春の天皇賞には出場なされないのでしょう。だから、私がもっと実力が発揮できてスズカさんと一緒に走れるのは、2400mの日本ダービーか2500mの有馬記念になってしまうかもしれません。
だから、それまでにはスズカさんに追いつけるように、もっともっと
ホープフルステークスを通して、私はそうトレーナーさまと約束するのでした。
【メジロドーベル編】
すさまじい物を見た。
それは、スズカとブライトが出場するホープフルステークスでの出来事だった。
道中は20バ身、決着時ですら10バ身以上の着差。
ラップタイムを正確に計るためのトレーニングを積み、体感時間に優れているアスリートウマ娘にはわかっただろう、掲示板では『大差』としか表示されないが、今回の着差は約13バ身。マルゼンスキーの朝日杯に匹敵する着差である。*3
G1での大差などそれこそマルゼンスキー以来の出来事になるであろう。
それほどスズカと他のウマ娘の現時点での完成度がかけ離れていたという事でもある。
そしてそれは、今後どれだけスズカに追いつけるのか。そのことが私たちのクラシック級での課題になるであろう事は、安易に想像できる。
私はティアラ路線を目指しているため、スズカと当たる事はクラシック級では年末まで無いと思われるが、フクキタルやタイキはどう思っているのだろう。
私はスズカのクラシックの予定を詳しくは聞いていないが、スズカが気まぐれにクラシック戦線やNHKマイルCに出場を決めた場合、フクキタルやタイキはこれから半年も無い時間でスズカと戦う事になる。
「ねぇ、2人はどう思った?」
私はその事を、不意に一緒に観戦していたフクキタルとタイキに問いかけていた。
「そうですね、菊花賞にはスズカさんは出てこないでしょうから……、クラシックで戦うとしたらダービー……になるんでしょうか。そこまでどれだけスズカさんに追いつけるか」
「Hmm。NHKマイルで戦うとして、雨で重バ場なら……ってところでショーカ」
「やっぱり、2人でも厳しそう?」
フクキタルとタイキからの返答に、芳しくないものを感じ取った私は重ねて問いかける。
「最初のスタート地点が違いすぎます。私もタイキさんもトレーナーがついてから1年とちょっと……。そもそも本格化も来てないのに専属トレーナーがついてたスズカさんがおかしいんですが……、そのスズカさんは専属トレーナーがついてから今までで約3年。正直、積み重ねた物が違うというか……。本格化が来てからほどの強度のトレーニングを積めてないとしても、年月だけでみたらすでに最初の3年を走り終えたシニア級のウマ娘と同じ時間。それほどの差が私たちとスズカさんにあります」
「But、流石のスズカでもMAXがExtraordinary*4な訳ではありまセーン」
「はい。だから、スズカさんの限界がほぼ現状そのままだと仮定するなら、あとはどれだけ私たちがそこに追いつけるか、です」
2人の冷静な考察は私とほぼ同じであった。
どれだけ現時点でのスズカがとびぬけた能力を発揮していると言っても、それは完成度が限りなく高いだけだ。つまり、スズカはジュニア級にしてシニア級に迫るほどの完成度を、2年という通常よりはるかに長い専属トレーナーがついていた期間で得たに過ぎない。タイキの言う通り、流石のスズカといえどウマ娘であるからには、個人差があれどウマ娘の限界、生物としての限界はそこまで変わらないはずだ。
流石のトレーナーといえど、生物の限界を突破させられるようなオカルトな存在ではない。あくまでウマ娘としての限界に限りなく近づける手法を、他の人よりも知っているだけに過ぎない。
だからあとは時間の話。私はクラシックすべてをスズカに追いつくための時間にできると考えれば、そこまでの不安はない。だが、2人は違う。いつスズカと戦うか。それを今後常に選択肢に入れ、考えなくてはならない。
ブライトはどうするのだろうか。
今、目の前でスズカの背を見つめる事しかできなかった、影を踏むことしかできなかったあの娘は、いったいこれからどうするのだろうか。
私は、若干他人事のように、そんな事を考えていた。
明日は世間の反応として、掲示板回を投稿する予定です