「私はサイレンススズカだから」   作:花水姫

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同日に19話を投稿しているので、最新話から飛んだ人はお気を付けください。

いつも誤字報告、感想ありがとうございます。
今話は19話のトレーナーの表情の真相と思いをつづるため、短いですがトレーナー視点を閑話として挟みました。


第19.5話「会津ハルカ、トレーナーとして」

 

「はい、はい。ではそっちの手続きはお願いします、沖野トレーナー」

 

 夜遅く……、日本では業務開始の忙しい時間に連絡を受け取ってくれて、なおかつ快く応対してくれた私のチーフトレーナーにお礼を言って通話終了ボタンを押す。

 

「次は、お父さんかしら……」

 

 今日、そろそろ昨日になる時間だが、私が担当するサイレンススズカは欧州で初めてのレースを走った。

 結果は1着。しかも2着に6バ身差をつけるという、初戦としては幸先のいい出だしと言える。

 

 

()()()()

 

 

 私の受け持つサイレンススズカは普通ではない。まさに神に愛されたといえる才能。幼いころから自分を律し、トレーニングを積める高い知性と自制心。あらゆる要素が桁外れの才能であり、その才能のすべてが()()()に費やされている天性のアスリート。

 ウマ娘の理想形でありつつも、ウマ娘離れしすぎてしまい他のウマ娘に要求することなどできそうも無い、その精神性と肉体。あらゆる事柄が彼女を()()()へと向けている。

 まるで、走ることで生を実感し、走る事を止めた瞬間に消えてしまいそうな。そんな危うさすら感じられる才能の一点特化。

 

 それが私の担当ウマ娘の、サイレンススズカである。

 

 

 そんな彼女に私は今日全力で走れと言った。

 

 いや、今日だけではない。

 クラシック期に入る直前あたり、身体の成長がほぼ止まり現在の体格に合った走法が出来上がってから、私は練習の時や時計を計る時など、私は何度か「()()を出して走れ」と言った事がある。

 

 

 勿論ウマ娘の脚が消耗品であることなど百も承知である。100%の全力ではなく、80%の力で勝てるならそれに越したことはない事も重々承知の上。

 それでも、私は彼女の()()を、100%中の100%を引き出して確認しておく必要があった。

 

 彼女の、サイレンススズカの思う偉業を成し遂げるために。

 

『生涯無敗』

 

 それだけでも十分な偉業であるが、サイレンススズカくらいの才にあふれるウマ娘なら、レースを選べば十分達成できるだろう。

 

 情報収集と調整をしっかり熟せば、G1に出走しても3年間無敗を貫く事はできる。

 

 

 しかしそれは、彼女がいつでも好きな時に全力が出せる事が前提だ。勿論、どんな相手にだって80%の力で勝てるようになる事が理想だが、G1という環境とウマ娘という神秘の塊を相手にしている限り、それは難しいと言わざるを得ない。

 それこそ、常に80%の力しか出さず、それでいて生涯無敗を目指すのならば、G1への出走は見送りG2やG3の格下狩りに終始するしかない。

 

 

 しかしそれを彼女は、彼女たちは良しとしない。闘争本能がウマ娘一倍強いアスリートウマ娘の中で、上澄みと言える彼女たちの本能は、格下と戦い続けることを良しとしない。

 

 それを証明するように、スズカも入学当初掲げていた『欧州マイル3冠』から『欧州3冠』へと目標を変更している。

 

 それは、練習やジュニア級のレースで同じウマ娘と戦う毎に、彼女の中で「もっと強いウマ娘と走りたい」という欲求が強くなっていったことに他ならない。

 

 

 ならば、その目標を達成したうえで彼女が言う偉業を達成させるには、彼女の100%を引き出す必要がある。

 そして、その100%に耐えられる肉体を作ってあげる必要がある。

 

 

 そう思って私は常に彼女のトレーニングメニューを組んできた。

 

 ウマ娘の怪我にやたらと詳しい元トレーナーの父や、父の知り合いのウマ娘専用医師の意見なども聞いたり、私が使える様々な伝手を使い彼女が恐れず全力を発揮できる肉体を作り上げる事に邁進してきた。

 

 

 その自負があるからこそ、私は彼女に全力を要求した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

 

 私の目が節穴でなければ、今の彼女なら1600mならば1分32秒台で走ることも不可能ではないと思っている。父や医師の意見を聞き私が見た彼女の肉体は、十分その可能性を秘めている。

 場所が欧州で苦手な芝質であることを鑑みても、今日出した1分36秒というのは彼女の実力からはかなり遅い。

 

 ついぞ私はスズカの()()を引き出すことができなかった。

 

 ひと月後に迫る英2000ギニーでの勝ち時計の平均は、バ場状態にもよるが良バ場なら1分35秒5くらいになるだろう。

 正直、今のスズカでは厳しいと言うしかない。

 

 そしてその後6月1週目には、ニューマーケットレース場より芝質が重いと言われているエプソムレース場で行われるダービーステークスが待っている。

 

 

 それらに勝つためにはスズカが今より一皮剥けるか、それこそ彼女の全力を引き出すしかない。

 

 

 私一人で打てる手は打ち尽くした。だから、今は日本に居る()()()()に頼るため、私は先ほど沖野トレーナーへと連絡を取っていた。

 そして、続けてもう一人連絡を取る。

 

 

 日本ウマ娘レースを大きく変えたと言われる伝説のトレーナーである、私の父『会津ミカド』に。

 

 

「あ、お父さん? うん、ハルカよ。あのね、お父さんにお願いしたいことがあるんだけど──」

 

 

 

 全ては、あるウマ娘のために。

 

 

 全ては、たった一人のあの娘のために──。

 

 

 

 ──サイレンススズカという『夢』のために。

 

 





スズカのスピードは肉体の耐久力を加味してももっともっと出せる。
とハルカトレーナーは思っている。という事でした。

ちなみに、調べたところ現在の競馬での芝1600mの世界レコードは、2019年の京成杯オータムハンデキャップ(G3)(中山競馬場)で『トロワゼトワル』が記録した1分30秒3らしいです

ぶっちゃけると今作のスズカさんの限界速度は、これら世界レコードを参考にしてます。

書きあがり即投稿をしているので、次回の予定は不明ですが、ひと月に1回は投稿したいと思っております。

すごい関係無いことですが、本家ウマ娘で凱旋門実装でビビり散らしてます。プイくるかな
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