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仮想返しはしていませんが、全て読ませていただいております。
「……スズカ、あなたはいったい……」
クレイヴンステークスを勝ってから数日後。休養を終えた私はハルカトレーナーと共に2000ギニーへ向けてのトレーニングに励んでいた。
そんな時、私は走っている時の若干感じていたストレスが無くなっていた事を感じとり、ハルカトレーナーに時計を計ってもらうよう頼んだ。
先ほどのセリフは、それを計り終えた時のハルカトレーナーが漏らした呟きである。
「トレーナー、どうでした?」
「え、えぇ。すごいわスズカ。結果は1600で1分35秒8。これなら十分2000ギニーも勝ち負けできるわ」
「ホントですか! それは良かったです」
結果を聞いた私はつい嬉しさを抑えきれず、自分でもわかるくらい破顔する。
一方私の走りを見ていたハルカトレーナーは信じられない物を見たように、自分の手の中にあるストップウォッチを眺めている。
「えっと、トレーナー。どうしました?」
「え!? いえ、なんでもないわ」
その様子が気になり声を掛けると、ハルカトレーナーは目が覚めたかのようにピクリと身体を跳ねさせる。
「スズカ、走ってる時の違和感が減ったって言っていたけど……、芝に慣れた……という認識で良いのかしら?」
「んーっと、そうですね。この前のクレイヴンステークスの後から、スッと加速できるようになったと言うか、思った速度を出すのに意識して加速することが無くなったって感じですね」
「なるほどね。正直、なんで急にこうなったかは分からないけど……、欧州の重い芝に完全に順応できた……って事かしら」
私の言葉を聞きハルカトレーナーは少し考え込むが、その事は一旦端に置いておいたのか、私に残りのトレーニングを指示しその日は残りのトレーニングを熟しながら過ごしていった。
それからの日々は私の欧州適応が予想以上に早く終わったためか、2000ギニーに向けての追い込みをしていく形になった。
⏰
そうしてひと月弱、5月の頭。
遂に始まるイギリスのクラシック戦線の初戦、英2000ギニー。
2000ギニーはニューマーケットレース場で行われる1mile直線競走*1であり、トリプルクラウンの初戦という事で日本における皐月賞のモデルとなったレースである。
名称の大元は開催された第1回に優勝したウマ娘が主催者から2000ギニー*2を貰ったからだと言われており、現在ではレースをURAが統括する事になった関係もあってかそこまでは支払われていない。*3
大昔に比べて優勝賞金が減ったとはいえ、トリプルクラウンの1つ目の権威は欧州レースの中でも高く、欧州にしては多めの17人立てとなっている。*4*5
そんな英2000ギニーが開催される今日、それに参加する私も当然現在はニューマーケットレース場で待機している訳だが、そんな私の人気は現在7番目らしい。
案外高いなという印象だが、これは今まで日本から欧州に挑戦してきた先達が良い成績を残していたこともあれば、私の前走クレイヴンステークスが6バ身という差で勝っていることも影響していると、ハルカトレーナーやエマさんは言っていた。
というのも、マルゼンスキーに始まりサンデーサイレンスなど、日本としてはマル外にあたるが登録自体は日本に登録されているため、日本ウマ娘として扱われているウマ娘たちが英2000ギニーを始め欧州マイル戦線で活躍した事を、観客たちは忘れていないのだという。
イギリスレース関係者の間では「今までは日本外産まれのウマ娘だったが、遂に日本産まれ日本育ちのウマ娘がやってきた」などと言われているらしく、私は純日本ウマ娘の試金石と思われているらしい。*6
「準備は大丈夫そう?」
「はい」
G1であるため遠路はるばる持ってきた勝負服に袖を通し終わった事を確認すると、トレーナーが声を掛けてくる。
「そろそろ呼ばれると思うけど、簡単にお浚いするわね。今日のスズカのウマ番は11。いつもなら運が悪かった、と言いたいところだけど、今回は直線競走だから内外の有利不利はほぼ無いわ」
トレーナーの言葉をしっかり聞いている意味を込めて頷きを返す。
「そして、海外特有のチームプレイ……、ラビットに関してだけど。これも直線競走という関係上気にする必要はないわ。
怪しいペアが一組居るから、もしかしたら片方が競り掛けてくるかもしれないけど、あなたのスタミナが1mile程度で尽きるとは思えないから、振り落としてしまいなさい」
「はい」
「ラビットに関しての注意は今までもしてきたけど、本格的に不安なのは2400mを走るダービー以降だから、今回は置いておきましょう」
「わかりました」
そうして簡単に今回の作戦を振り返っていると、待合室の扉がノックされ入場を促される。
「時間ね。最後に、貴女はホントに強い。今からシニア級のウマ娘と戦っても勝てるくらいに。だから、クラシック級なんて相手にならないんだと、サイレンススズカは
「はい!」
最後に言葉をかけた後、背中を押して外に出る事を促すトレーナーに、ひと際強く返答することで意気込みを伝える。
外へ踏み出す。
日本より寒い地下バ道の空気が、レースを前に高揚した頬を適度に冷やす。
『さぁ! 続々と入場するウマ娘の中! 今年の日本からの挑戦者がやってきたぞ!』
出口が近づくと外の喧騒が聞こえる。
外に出ると良く聞こえるようになる、英語で話されるフランクな実況の声と、それに煽られた観客のざわめき。
踏みしめる深い芝の感触。ここ2カ月で慣れた芝だが、それでも生まれ故郷の日本と比べてしまう。
『マルゼンスキーに始まり、記憶に新しいのはサンデーサイレンスなど! 日本の挑戦者は何度かこのイギリスを皮切りに欧州のマイル戦線を荒らしてきたじゃじゃウマ娘ばかり! 今度もそうなるのか!? 11番サイレンススズカ!』
私の登場に合わせてわざわざ実況の方が紹介してくれる。それほど注目されているという証なのだろう。
始まる。
『さぁ! ゲートインの時間が迫って来たぞ! 今年も始まるクラシック戦線の初戦! 2000ギニーステークスはまもなくだ!』
レースの始まりが近づいている。
それと共に、私のクラシックが──
『さぁ! 1番から順にゲートインだ!』
──始まる。
⏰
『11番サイレンススズカすっと収まった!』
ゲートに収まると共にもはやルーティンとなっている、胸に手を当てての深呼吸を繰り返す。
────
『最後の2番が──無事収まった!』
右足を引きスタート体勢を取る。
『さぁ! 各ウマ娘がスタート体勢をとって』
『──スタートだ!』
──
〈マイルギア〉
〈高速逃げ〉
『大逃げ』
『地固め』
クレイヴンステークスの時に比べて、明らかに加速が良い。地に足が付いたと言っても過言ではないくらい、気持ち良く芝を掴んで蹴り出せる。
全バ場適応〇*7
3歩目で真横からウマ娘が消える。
『先駆け』
『出遅れはない! ないがっ! 11番すごいスピードだ! 足を踏み出すたびに差ができて行く!! これは掛かってるのか!?』
5歩目を数える頃には視線を移動させなければ、他のウマ娘が確認できないくらい差が開く。
ハルカトレーナーの懸念は懸念のまま、私に競り合ってくるウマ娘は居ない。
それもそうかもしれない。クレイヴンステークス程度他の参加者の質が悪かったか、フロック*8程度に思われているのだろう。
ならばそれでいい。
付いてくる者が居ないのならば、それでもいい。
ただこのレースが、レースではなくタイムアタックに変わっただけだから。
『急ぎ足』
『逃げ直線〇』
『イカれた速度だ11番! 前走でもこんな速度で走ってなかった! 完全にかかったか!?』
掛かってなどいない。それどころか、
『後続も追い上げて来た! 11番の異常さに気づいたか!? しかし、番手との差は5バ身以上! 追いつけるか!?』
今更追い上げてきてももう遅い。セーフティリードは揺るがない。
『加速した! 11番加速したぞ!? うっそだろオイ! これは現実か!?』
視界の先に広がる景色。
『後続もスパートをかけるが追いつかない! 追いつけない!! セーフティリードは削りきれない!!』
私が先頭を走る時にだけ見える、無限に続く芝と遥か先に見える地平線。
──いつか、あの先へ。
──そう思った時には、私はゴール板を踏み超えていた。
『11番ゴーーーール!! 日本のウマ娘は強かった!! もうフロックなんて言わせない! このスピードは本物だぁあああ!!』
| 着順 | 枠順 | 名前 | タイム(着差) |
| 1 | 11 | サイレンススズカ | 1分34秒8(5バ身) |
参考タイム
1997年 英2000ギニー
Entrepreneur 1:35.64
本家ウマ娘の更新でこちらのスズカさんの強化というか、盛り盛りスキルが更に盛り盛りになることが確定しました。