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今回は前回ハルカさんが電話した内容のお話です。
「さて、英2000ギニーも終わってみれば余裕で勝利を勝ち取った訳だけれど」
「はい」
英2000ギニーが終わった翌日、私たちは留学中のトレーナー室として借り受けている空き部屋でミーティングを行っていた。
本来であればレース後は1日オフになったりするのだが、オフにされてもニューマーケットの観光*1しかする事がないので、今後のことを相談しようという事になった。
「正直、今回の5バ身差という着差でどの陣営もスズカの実力を見誤るようなことは無くなったでしょう」
ハルカトレーナーが語りながら、前回の勝利を含めての現状の整理をしてくれているので、大人しく傾聴する。
「だけど、私としても同世代……クラシック世代において、今のスズカに勝てるようなウマ娘は居ないと、確信を持って言えるわ」
トレーナーが強い眼差しで私を見つめてくる。
熱い信頼を感じる。そう、それは
「だからこれからは格上……、世界トップクラスのシニアと戦って勝てるようにしていこうと思ってるわ」
トレーナーの言葉に頷くことで同意を示す。私の目標としているこれから先の3戦のうち2戦はシニア混合レース、それも世界レースレーティングランキングで1位と3位に位置する世界的大レースである。*2
それに出走し、ましてや勝とうと言うのだから、この時期からそれを念頭に置いたトレーニングをしても不思議は無い。必然、同じ距離を走ることになる英ダービーの対策にもなる事は言うまでもないだろう。
「わかりました。異論はありません」
私もトレーナーの意見に異論は無い事を示すと、トレーナーは一つ頷いて話を続ける。
「さて、じゃあそのためにどうするのか、という話だけれど……。色々コネやら伝手やらを駆使して各所に無理を言って助っ人をお願いすることになりました」
「助っ人、ですか?」
「えぇ。まずは併走トレーニングの相手として、今のスズカと互角以上に戦えて、なおかつ2400mが得意なウマ娘。それからスズカの走りにアドバイスをしてくれる特別コーチ」
「なる、ほど?」
併走相手というのはわかる。ウマ娘も馬と同じく、併走をすることで闘争心を掻き立てレースへの気力を維持したり、より強い相手との併走を通して自然と走法や根源的なスピードが養われる。
しかし「走りのアドバイスをしてくれる特別コーチ」、というのは少々不思議である。
そもそもトレーナーという職業そのものが「走ること全般のためのコーチ」であり、本来であればハルカトレーナーがまだサブトレーナーという役職であることと、私が初めての担当という事を加味して、チームトレーナーである沖野トレーナーが特別コーチとして監修するのは理解できる。
だが、私に関しては話が違う。デビューする2年も前からチームに所属し、本格化に合わせた成長期の間その二人に付きっきりで走法を修正して貰っていた私は、そもそもジュニア級でデビューする頃には「走法は完璧に極まっている」と、沖野トレーナーから太鼓判を貰っているため、今更その沖野トレーナーが口を挟むとは考えにくい。
また、ウマ娘の走法とはつまりウマ娘そのものと言っても過言ではないほど、個人的な要素が絡み合っており、他の担当への走法をアドバイスすることはトレーナー間でタブーとされている。そのため、別のトレーナー──例えば東条トレーナーなどがわざわざアドバイスをしてくれる事は更に考え難い。
あまりにも謎の存在である「特別コーチ」。その存在が気になった私は、トレーナーに訊ねることにした。
「えっと、誰が来てくれるとか、決まってるんですか?」
「えぇ。決まってるどころか、もう来て貰ってるわ」
衝撃的な発言をしたトレーナーは部屋の入口へと歩き出し扉を開けると、外に居るであろう存在へ声をかける。
「お待たせしたわ。入って頂戴」
トレーナーの後に続いて入ってきたのは3人のウマ娘たち。
「やっほースズカちゃ~ん!」
1人目は現在夏のドリームシリーズに向けて絶賛トレーニング中のはずのウマ娘であり、私がトレセン学園*3に入学した当初の同室の先輩である、ダンスパートナー先輩。
「ようガキ、また扱きに来てやったぜ。ありがたく思いな」
2人目は私にコーナリングを教えてくれ、そもそもハルカトレーナーが私の担当となってくれるきっかけを作ったウマ娘。サンデーサイレンス。
「お久しぶりねスズカちゃん! 頑張ってるみたいでお姉さんも嬉しいわ!」
3人目はチームリギルに体験入部していた時、サンデーサイレンスと共に併走トレーニングに付き合ってくれたマルゼンスキー。
サンデーさんとダンスパートナー先輩はドリームリーグへ移籍したとはいえ、スピカの一員なので応援に来てくれたのは理解できるが、ドリームリーグからも引退しタレントウマ娘としてテレビやら解説やらと引っ張りだこなマルゼンスキーに関しては、なぜ応援に来てくれたのかすら予想がつかない。
「えっと……、サイレンススズカです。あの……」
「実はこんな面々が来てくれたのはね──」
私が応援に来た面子に目を白黒させていると、それを悟ったトレーナーが応援に来てくれた事情を話してくれた。
曰く、最初は沖野トレーナーに引退したウマ娘で、2400mが得意なウマ娘を紹介して貰えないかの相談をしたらしい。ハルカトレーナーとしてはあわよくばミスターシービーなどが来てくれれば嬉しいと思っていたら、夏のドリームシリーズに向けてトレーニング中のダンスパートナー先輩が立候補して来てくれたらしい。
ダンスパートナー先輩としては、凱旋門賞を走った経験のある自分が併走することで色々教えられるだろうと思ったらしく、この時期から凱旋門賞まで──つまり、夏のドリームシリーズを蹴ってまで応援に来てくれたらしい。
「ありがとうございます、ダンスパートナー先輩」
「んにゃんにゃ、いいって~! 入学から面倒見てるかわいい後輩のためだからさ! 手伝ってあげたくなっちゃうのよ!」
事情を聞いた私が先輩にお礼を告げると、先輩は「お礼は欧州3冠を達成したら山ほど聞いてあげるよ」と言ってくれた。
同じくドリームシリーズを控えたスピカ所属のサンデーさんはというと、私をスピカに引き入れた立場である以上、元から私のレースは気にしていてくれていたらしいが、クレイヴンステークスや英2000ギニーでの走りを見て、欧州での走りの指導をしてやる必要があると思ったらしい。
そんな折に、沖野トレーナーからハルカトレーナーが私の併走相手を探していると聞き、わざわざ来てくれたらしい。
「わざわざありがとうございます、サンデーさん」
「べっ、別に感謝されたい訳じゃねーよ。ただ私が走りを教えたってのに無様な走りを見せられんのが気にくわねーだけだ」
お礼を言うと、明後日の方向を向きながらつれない態度をとるサンデーさんだったが、後々ハルカトレーナーからダンスパートナー先輩を連れてこられるよう沖野トレーナーを説得してくれたりもしたと聞いた。
なんでもサンデーさん自身は私が目標としている2400mの併走相手としては若干不足している*4らしく、2400mが適性でなおかつ凱旋門賞の経験もあるダンスパートナー先輩を併走相手として強く推薦したらしい。
スピカ所属の二人はそういう事情であるが、元リギル所属かつ、ドリームシリーズすら引退し現在はウマ娘タレントとして活動しているマルゼンスキーがなぜ応援に来てくれたかと言うと。
どうもハルカトレーナーは私のために、元トレーナーである実の父親も頼ったらしい。
トレーナーの父親である会津ミカドといえば、ウマ娘レースを日本の娯楽として根付かせたTTG時代の一角を担ったトレーナーであり、現在東条ハナ率いる日本最強チーム、チームリギルを立ち上げた伝説的トレーナーである。
そんなトレーナーであるからか、URAやウマ娘レース界隈に顔が利くらしく、ハルカトレーナーはその伝手を頼って併走相手を探したらしい。
そうして紹介されたのがマルゼンスキーだったという訳である。
「お忙しい中ありがとうございます、マルゼンスキーさん」
「問題ナッシングーよ! トレーナーからのお願いだし、先輩やトレーナーからもスズカちゃんならバンバン教えちゃって良いって聞いてるから!」
因みにマルゼンスキーがトレーナーと呼ぶのは会津ミカドであるらしく、現リギルチームトレーナーである東条ハナトレーナーは、マルゼンスキーが現役の頃にリギルに所属したサブトレーナーだったらしい。なので、マルゼンスキーは東条トレーナーを「おハナちゃん」と愛称で呼ぶのだとか。
──閑話休題。
ともかく、マルゼンスキーも2400mは適性圏内らしく、現役である私やダンスパートナー先輩と競り合えるかは怪しいが、ラビット役としてチーミングの練習くらいにはなるだろう、との事であった。
「それから、トレーナーからスズカちゃんに教えてあげたい事があるらしいから、それも教えちゃうわね♪」
と、可愛らしくピースしながらウィンクしてきた。
ハルカトレーナーの父親であり、名トレーナーである会津ミカドが教えたい事とはなんなのか気にはなるが、それは今後練習を通じて、とのことなので今後が楽しみである。
こうして私たち──言うなれば「サイレンススズカ陣営」──は心強い助っ人を迎え入れ、一月後に迫るダービーステークス──ひいてはクラシックシニア混合となるKGⅥ&QESに凱旋門賞を目指していく事となった。
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3人のウマ娘が増え、
基本的にはマルゼンスキー、ダンスパートナーを含めた3人での併走となる。
マルゼンスキーがラビット*5役として勝利を度外視して私と競り合う役目。そしてマルゼンスキーと競り合い消耗した私を温存した先輩が差し抜くといった併走になる。
レジェンドウマ娘とはいえ、引退してから数年は経っているマルゼンスキーでは、流石に私と競り合って2400mが保つわけもなく練習の最初は2000mほどまで競り合えるが、後半になれば1600も競り合えば垂れていく。*6私がいくら最高速度を維持することに向いた逃げ向けの体質とはいえ、マルゼンスキーと競り合って疲れないはずがなく。今までのレースとは打って変わって末脚などを繰り出す余力もなくダンスパートナー先輩に抜かされるか否かといった恐怖を味わう事になる。
一般的な逃げウマ娘はいつもこのようなストレスを抱えていると思うと、逃げが安定しないと言われるのも納得である。
ラビット役はたびたびマルゼンスキーからサンデーサイレンスへと変わる。その際は競り合った際のラフプレーなどを体験させてもらえる。*7貰えるのだが……、肘鉄などを頻繁に受けるのは流石にキツイのでサンデーさんとの併走は1日に1回とかその程度の頻度である。*8
これら併走練習の目的は序盤からハナを競り合うことに慣れるというのが大きいが、序盤に競り合い消耗したスタミナでどのようにレースメイクすれば良いかを身体に染み込ませるという意味もある。
ラビットへの対抗策はあらかじめトレーナーから何個か挙げられている。
1.序盤でハナを奪いに来たラビットを引きちぎり、悠々自適にハナを進む。
2.あえて競り合わずハナを譲り、番手のまま溜め逃げという形で末脚を残す。
3.2000m競り合っても末脚を繰り出せるスタミナをつける。
理想は3であるが、そんなスタミナが簡単につくならば苦労はしないため、今回は1の作戦を試す。今回は2の作戦を試す。といった感じで、併走の度にどちらの作戦を主軸に置くのが私にあっているのか確かめる。というのも併走練習の目的であった。
そんな併走練習を大分こなした感想を言わせてもらうと、2の作戦──ハナを譲る作戦はどうも性にあわない。
それもそのはず、理性的にハナを譲れるのなら先行策でも良かったはずだ。確かに昔ほどイライラすることなどはないが、それでもハナを譲るとテンションが下がるというかやる気がなくなるというか。ともかく残したはずの末脚のキレも悪い気がする。
これはハルカトレーナーも薄々感づいていたようで、若干だが2の作戦を取った時の方が平均タイムも悪いとデータにも表れているらしい。
そうなると後はもうラビットに負けないスピードを身に着け、スタート直後から競り合いを諦めさせるか、競り合いをしても末脚を繰り出せるスタミナをつけるしかない。
しかし2400という私の距離適性ギリギリの距離に加え、今後私が参加する予定のレースが開催されるレース場──エプソム・アスコット・ロンシャンは世界でも屈指の勾配が激しいレース場であることを考えると、1800mを競り合って*9末脚を繰り出せるほどのスタミナが付くとは考え難い。
そうなると誰にも追いつけないほどのスピードをつけるしかない。
3人の先輩ウマ娘を加えてから約2週間弱。その間に蓄えたデータを検証するミーティングにて、そのような方針が打ち出された。
その方針に否は無いのだが、結論を言う際のハルカトレーナーの不安げな表情が若干気になっていたところ、ミーティングの終わりにサンデーさんが声をかけてきた。
「なぁスズカ。この後ちょっと話いいか」
口調はぶっきらぼうだが、有無を言わせぬ真剣さを秘めたその言葉に、私はただ困惑しながら頷くことしかできなかった。
というわけでクラシック編で書こうと最初から思っていたシーンが近づいてまいりました。
次回はサンデー視点を予定しております。
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