「私はサイレンススズカだから」   作:花水姫

29 / 41

 サンデー視点ですが、とても長くなったので分割投稿です。
 サンデー視点からのスズカさんの解剖と理解を示すための話となっているので、話数は整数です。

 また、今回は意図的に「人」と「ヒト」を使い分けています。

 ヒト:ウマ娘を除外した人間、いわゆるホモサピエンスのこと
 人:ヒトとウマ娘を統括した人間、人類のこと

 なお弊小説内のみの設定ですが、「ヒト耳」は差別用語に近いスラングであり、ネット掲示板などアングラな場所でしか使われない。という設定をしているので、サンデーサイレンスといえど使用していません。
 掲示板回などで使用される場合は、自虐の意味も込めての使用だったりしますが、公の場で「ヒト耳」という言葉を使用するのは忌避されています。

 掲示板回を除き、今までの中でもし「ヒト耳」を使用してしまっていたら、誤字報告などで教えてくれると嬉しいです。



第22-1話「サンデーサイレンスはかく語りき①」

 

 私はサンデーサイレンス。

 生まれはアメリカで両親もアメリカ人の生粋のアメリカ国籍。しかし現在の所属と活動拠点は日本の、いわゆるマル外って言われる競走ウマ娘。

 

 日本所属になった理由はなんて事のない、競走ウマ娘にとっては良くある話。アメリカだと活躍が難しかった、だから別の国に移った。それだけ。

 

 まぁ確かに他のウマ娘よりはエピソードもあるかもしれないけど、それはここの本筋じゃないから省く。

 私の生涯を語るには小説一冊ぐらいは必要な量になるから。

 

 腐ったミカンみたいになって日本に流れ着いた私だが、今ではこの国を気に入っている。成人したらアメリカ国籍は捨てても良いかなって思うくらいには。

 全方位に敵意を向ける飢えた捨て犬みたいな私を拾う奇特な男──沖野チーフや、私のデビューと同年にサブトレーナーになって何だかんだ一緒に成長してきたと言えるトレーナー──ハルカトレーナーをはじめ、人に恵まれたと言えよう。

 

 クラシック級を走りきって、日本に渡って来たときの目標も粗方達成した頃、シニアに入った年の新入生にはやたらと目を引く新入生がいた。

 後々同じスピカに入ったダンスパートナーや、リギルに入ったフジキセキを始め、なんか目を引く、面倒をみてやりたくなるウマ娘。

 そんなウマ娘がその年を境に毎年1人2人は最低でもトレセン学園に入学するようになった。

 

 

 ──()()()も、そんなウマ娘の1人だった。

 

 

 その頃になると何となく分かってきていた。この感覚は大成する奴と出会うと起こると。

 この感覚が無くとも大成する奴も勿論居るし、この感覚があってもなかなか芽を出さない奴も勿論居る。フジ*1みたいに不運が重なって思ったほど活躍できなかった奴も居る。

 

 それでも、この感覚を受ける奴は十中八九──は言い過ぎでも、6割7割はレース史に名を残せる奴らだった。

 

 ()()()と出会う切っ掛けは単なる偶然だったのかもしれない。後輩(ダンスパートナー)の同室で、ちょっと才能があるらしい新入生の併走相手。それを探していたチーフにたまたま暇だった私と、たまたま部室にに遊びに来ていた先輩(ミスターシービー)が声をかけられただけ。

 

 

 でも、それはきっと運命だった。

 

 

 ()()()()後輩の同室で、()()()()沖野チーフが併走相手を探していて、()()()()私が暇で、()()()()その併走相手があの感覚を覚えるウマ娘だった。

 

 

 3つも重なれば、それは偶然ではなく必然であり、4つ重なれば運命である。

 信心深いウマ娘なら三女神のお導きというのだろう。プロットのある小説。台本のある舞台。脚本通りの映画。──まるで誰かが仕組んだように、私はソイツ──サイレンススズカ──と出会った。

 

 

 

 第一印象はまぁ普通の奴だと思った。ちょっと身体は小さいが、素直に他人の話を聞く大人しいウマ娘だと。

 

 併走を始めてしばらくした時は、優秀な将来有望なウマ娘だと思った。引退したとはいえ時代を築いたロートルや、私やシンボリルドルフといった隔離(ドリームリーグ)組に勝てずとも最後の最後まで食らいついてきていた。入学してすぐの新入生と考えると破格と言える。

 

 

 これは距離適性によってはクラシック2冠くらいなら行けるだろうなと思っていた。後程、サイレンススズカが本格化を迎えていないという話を聞くまでは。

 

 

 理外の生物。埒外の怪物。ウマ娘の姿をした何か。そうとしか思えない。なぜなら私も、シンボリルドルフも、マルゼンスキーにミスターシービー、ビワハヤヒデも。

 あの時併走したウマ娘は皆()()()()()()いた。全力は出してはいない。それでも何度か併走を繰り返し熱くなるほどに競走ウマ娘としての本能が抑えられなくなっていっていた。

 

 負けたくない。自分が一番速い。

 

 気性難とも勝負根性ともいわれるソレ。ウマ娘が持ち、競走ウマ娘がウマ娘一倍胸に秘めているそれが顔を見せていた。

 

 

 隠そうともせず、途中から私たちは()()()()()()で本気になっていた。

 

 

 そんな私たちの走りに本格化もしていないウマ娘が追いすがる。()()()()()()()()()程度の差を最後まで保っていた。

 

 それほどのスピード。そのスピードを長時間にわたって保ち、併走をやり遂げるタフネス。そこまでの実力差を見せられても、先頭を諦めない根性。

 

 

 どれもが一線を画していた。来年にはデビューだと言われた方がまだ納得できるくらい、それほどサイレンススズカはウマ娘の常識を超えていた。

 

 

 まるで猫の子供の群れの中に、虎の子供が紛れているかのような。生物としてのスペックの差が、サイレンススズカとそれ以外の新入生の間にはあった。

 

 

 

 ──後程話を聞けば、それは幼い頃からトレーナー顔負けのトレーニングを積んでいたからだという事がわかったが、それでも限度というものがある。

 

 普通のウマ娘は走る事を我慢できない。

 普通のウマ娘はそこまで自分を追い込めない。

 

 だからそれをさせるためにトレーナーという外部装置が必要なのだ。

 必要のない走りを抑制し、本能を抑制し、思春期の少女が持つ欲求を抑制し。ただひたすら()()ことへ特化させる。そのためにトレーナーという、強固な理性と専門的な知識を持つ専門職が必要なのだ。

 

 

 それを不要とする6歳児。それはもはや産まれた頃から規格の違うナニか。ウマ娘の形をした別の生き物だ。

 

 

 ()()()()()()。ただその想いだけを胸に、その欲求だけを煮詰め、それ以外のすべてを──生物の本能すらも捨て去る事ができる理性の怪物。

 

 

 それがサイレンススズカの正体だった。

 

 

 

 

 私が今まで出会ったウマ娘の中で、怪物だと思ったウマ娘は2人いる。

 

 1人はイージーゴア。

 誰もが羨む高身長に強く整った骨格。その地盤の上に付けられた高密度の筋繊維を生まれつき備え、完璧な計算と綿密なトレーニングによって整えられた肉体美を持つフィジカルギフテッド。

 正直BCクラシックで勝てたのは、世間が言う通りフロックに近い。コースやレース場が私の方が得意な条件だったというのも大きい。それほどまでにイージーゴアの肉体は年を経れば経るほど"完璧"に近づいていく。

 たまに再戦の誘いが来るが、正直あまり戦いたくはない。今戦ったらウマ娘の中では華奢気味な私は、競り合った時イージーゴアのタックルでラチ外まで吹き飛ばされかねない。

 

 

 

 話が若干逸れたが、もう1人の怪物は我らが日本中央トレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフ。

 "すべてのウマ娘の幸福"という頭の沸いたような夢物語を実現するために、己の本性を抑え込んだ理性の怪物。理性と本能を極限まで均衡させ、()()()()()()()()怪物。

 噂では10歳程度まで親戚一同が目を合わせる事を躊躇うほど暴れん坊の聞かん坊だったと聞く。とある出来事が切っ掛けでその本性を理性で抑え込むことに成功したのだとか。

 

 

 そんなシンボリルドルフを上回る3人目の怪物が、サイレンススズカ。

 もはや理由は語る必要は無いだろう。シンボリルドルフですら本能を制御できなかった年齢で、己を完全に律してみせた理性の怪物。

 シンボリルドルフと違うところは、本性の部分だろうか。

 極論他人を必要とせず、己の最高速度にしか興味のないサイレンススズカと、根本的に他者を下に置き自身が頂点であることを疑わないシンボリルドルフ。

 

 本性が()()()()()()()()()。その差がサイレンススズカとシンボリルドルフの幼い頃の差かもしれない。

 その本性の差があったとしても、サイレンススズカがシンボリルドルフと比べるほどの怪物であることに疑いようはない。

 

 

 

 そんな怪物が早くから才覚を出して来た場合、周囲の反応というのは簡単に予想できる。

 

 

 サイレンススズカは敬遠された。

 

 レースが関わらなければ本人の気性が穏やかな事。若干KY*2のキライがあるが、共同体育などではほかのウマ娘のペースに合わせる程度には空気が読める事。才能の差に恐れず仲良くしてくれる同級生がいる事などもあり、表立って悪い雰囲気にはなっていないが、大半の新入生はサイレンススズカを()()()()()にカテゴライズし、自分たちと切り離し関わらない事を選択していた。

 

 

 それは残念ながらトレーナーにも見られた。

 

 スカウトすれば大成することが約束されたような才能。しかしあまりにも強すぎる輝きは強く濃い影を生み出した。

 

 根本的に他者を必要としない気性。時間さえあれば()()()()()()()()()()()()トレーニング知識。

 それらの強大すぎる才能は、トレーナーにも二の足を踏ませた。

 

 もし自分が指導して非効率だと否定されたら。そうでなくとも自分が指導して万が一レースで負けてしまったらそれはトレーナーの責任になる。もしかしたらサイレンススズカが自分でトレーニングを考えていたら勝っていたのかもしれない。

 

 

 

 極論──サイレンススズカにトレーナーは不要なのではないのか。

 

 

 

 他のどんなウマ娘よりも強大な才能ゆえに、その才能に耐えられるトレーナーが、その才能に肩を並べる覚悟ができるトレーナーが必要だった。

 

 

 

 サイレンススズカのトレーナーが決まらない。その話をダンスパートナー越しに沖野チーフから聞いた私は、ついお節介を焼いてやりたくなった。

 

 

 現在のトゥインクルシリーズの規定では、保護監督者──つまるところトレーナーが居ないウマ娘は公式レースに出走することはできない。

 これはウマ娘のレースが人間のそれよりも過酷な物であることと、ウマ娘の本格化が法律上未成年の時期に発生するためである。

 

 つまり保護者の目が無いところで無茶な出走やトレーニングをして、事故などを起こす危険性を排除するためのルールである。

 

 これは日本に限らず、全世界のURA主催のレースで決められている世界的ルールでもあった。

 

 

 だがこのままではサイレンススズカは日々を無為に過ごしてしまう。

 サイレンススズカの自己鍛錬であれば、それも無駄な時間にはならないかもしれないが、トレーナーが付いているのと居ないのとではその効率には差が生まれるのは当然であるし、そもそもこのまま本格化を迎えてもトレーナーが居なければレースに出られない。

 

 それはとても勿体ないと思った。

 

 

 だから考えた。

 

 

 新入りトレーナーと同じ程度にはトレーニングメニューが組めて、ウマ娘ではありえないほど自己管理ができるサイレンススズカに必要なのは、いわゆる()()のトレーナーではない。

 普通のトレーナーができること、しなければならない事は、極論サイレンススズカができるからだ。

 

 だから必要なのはそれ以外の部分。

 

 サイレンススズカが知らないレース出走のための書類仕事など、トレーナーそのものは必須ではある。だが、そのトレーナーは()()()()()()()()であってはならない。

 

 

 サイレンススズカに付けてやるべきトレーナーは、トレーナーに求められる普遍的な技能を、普通にこなせるトレーナーではない。

 

 

 書類仕事ができる。トレーニングの知識がある。コミュニケーション能力がある。トレーナーとしての最低限の技能は満たしつつも、一般的なトレーナーには無い、そしてサイレンススズカにも無い特別な()()()を持ったトレーナー。いわゆる一芸特化のようなトレーナーが求められる。

 

 

 そう思い立ったとき1人の人物が思い当たった。

 

 

 私のトレーナー。私を3年間怪我をさせず走り切らせたトレーナー。

 

 

 あの時、私に「そのままだと貴女、壊れるわよ。取り返しがつかないくらい」と言い放った、怪我を未然に発見する天性の知覚と、怪我を発生させないための特殊なトレーニング法やクールダウン、アフターケアなどの知識を持った人物。

 

 

 ──会津ハルカこそが、サイレンススズカに必要なトレーナーなのだと、私は直感した。

 

 

 

 そうして私は沖野チーフに話をして、サイレンススズカをハルカに任せることに成功した。

 その思惑は上手くいったようで、2年の下積みの間もジュニア級の間も、ハルカとスズカは上手く付き合いながら、無敗でジュニア級王者になるという華々しい戦果をあげた。

 

 

 そんな順調に進んでいると思っていた最中、ハルカから私に連絡がきた。

 

 

「どうした? トレーナー。そろそろ欧州初レースの予定だろ? 私なんかに構ってていいのか?」

 

 時間は早朝。日課のランニングをし終わり汗を流していたちょうどその頃、携帯に電話がかかってきた。

 発信者は会津ハルカ。今はサイレンススズカと共に、ブリテンに長期遠征に出ているトレーナーその人だった。

 

『朝早くにごめんなさい。ちょっとサンデーに聞きたい事があって』

「おう、これから朝食作るとこだから、片手間でいいなら聞いてやるよ」

 

 ハルカはスピカに所属しているウマ娘の様子を昔から気にする人だった。それはサブトレーナーという立場もあったのだろうが、会津ハルカという人物の性質として出会ったウマ娘の状態を常に気にかけているらしい。

 昔はたまに別チームのウマ娘にも疲れていないか心配していたくらいだった。

 

 ここ数年はスズカの正式なトレーナーに指名されたからか、流石にチーム外のウマ娘まで気に掛けることは減ってきたようだったが、それでもスピカ内のウマ娘に関しては良く気にかけている。これはチームトレーナーである沖野の影響もあるかもしれない。

 沖野チーフはトレセンに所属しているチームトレーナーの中でも、極力自分でウマ娘とコミュニケーションをとることを重視しているトレーナーである。そのため自分のキャパシティを超える数の面倒を見ようとしないため、チームにしてはスピカは少数精鋭のチームになってしまっている。

 

 良い悪いはともかく、数多くのウマ娘を効率よく管理するため、サブトレーナーにある程度の数のウマ娘を任せてしまうリギルとは真逆の方針と言える。

 

 そんなチームのサブトレーナーに相応しく、ハルカもチームのウマ娘とはよくコミュニケーションを取っている。

 休みを合わせて友人のように一緒に出掛けることもあるし、単純に世間話の一環で最近の様子を聞きだしたり。

 

 だから海外に居ようがハルカが電話をかけてきたのは、そんな世間話の一環だと思っていた。

 

 

「スズカの、サイレンススズカの事なんだけど──」

 

 

 なにか切羽詰まったような、深刻な雰囲気を纏った言葉を電話口から聞くまでは。

 

 

*1
フジキセキのこと

*2
空気が読めない(Kuuki ga Yomenai)の頭文字。2007年(平成19年)ユーキャンの新語・流行語大賞にエントリーされるなど、世間的な流行語となった。





 サンデー視点は全4話に渡るため、12時と0時に連続投稿します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。