選抜レースの話を書こうとしたら選抜レース前までで一区切りつけるぐらいの文量になってしまいました
私事ですが、あとがきに皆様への謝辞を述べさせていただいています。
期待を裏切られたようなモヤモヤした気持ちを抱えながら、4月はあわただしく過ぎていきました。
4月はシニア級の在校生の先輩方が中心となって開催される春のファン感謝祭があったり、クラシックシニア双方でG1戦線が始まったりと、URA関連がとても忙しい時期でもあるのです。
そもそもそんな時期に入学式やるのが忙しさに拍車をかけているけど、なぜか日本は4月からが新年度*1なので忙しさがハイパーマックスヤバいことになってしまってる。
まぁデビュー前のウマ娘、特に私のような新入生にはその忙しさは全く関係ないのですが、関係ない新入生は関係ないなりに慣れない学園生活の事を先生や先輩に聞きづらくて大変だったりもする。
そんなこんなで先生も在校生もトレーナーも忙しい春は、新入生を置いてあわただしく過ごして行くのであった。
とりあえず新入生はこの時期は体育の先生の言うことを聞いて普遍的に身体を鍛えたり、レース中のルールを学ぶのがトレセン学園の春という時期らしい。
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そんなトレセン全体では慌ただしくも私個人としてはそんなことはない春も過ぎ、梅雨も終わって夏がやってくる。
え、飛ばしすぎ? だってホントに特に何もないんだもの。
強いて言えばボクの頃に因縁のあった、マチカネフクキタルが同じクラスだったことくらい。なんかh──面白い娘だったよ。
というわけで何事もなく春の日々は過ぎ去り、夏に相応しい蒸し暑い日々が増える。ウマ娘としては暑くてやだなぁって時期なのだが、トレセン学園の1年生としては燃えてくる時期でもある。
なぜか、それはトレセン学園に入学してから、初めての選抜レースの開催が近づいてくるからだ。
まず、トレセン学園における選抜レースについて説明せねばなるまい。
選抜レースとは、トレーナーが決まっていないウマ娘のみが参加できる学内レースであり、トレーナーにスカウトして貰うためにウマ娘が鎬を削りあう戦場である。
これは年4回開催されており、生徒数に対してトレーナーの数が圧倒的に足りていないトレセン学園においては、選抜レース以外でのスカウトなどほぼ無い事もあり、選抜レースで何か光るモノをトレーナーに見せる事ができなければデビューが遠のくことになってしまう。特に本格化が始まっているのにトレーナーが決まっていないウマ娘にとっては、数少ない貴重な機会である。
全校生徒の半分近い生徒がレースをする上、それぞれ得意な距離・バ場が違うこともあり出たいレースへの登録作業や、それに対する開催するレースの日程振り分け、出走者の抽選*2などなど。
これはこれでまた準備から開催までひと月はかかる大イベントである。
そんな選抜レースにはもちろん私も参加するわけだが*3、ちょっと悩んでいることがある。それは距離をどうするか、ということだ。
というのも私が得意な距離はボクの頃の経験上から1600m~2400m*4、もっと言うなら2000mな訳だが、本格化前どころか本格化直ぐ程度のウマ娘はよほどのステイヤーでもなければ、本気で走る距離は1600mまでにするべしという暗黙の了解みたいなモノがあるのだ。
これはウマ娘の足が消耗品であるから、若いうちから酷使するべきではないというのが一つ。それ以外にも大抵のウマ娘はジュニア期やデビュー前の状態では、本気で2000m以上を走り切るスタミナを鍛え切れていないというのもある。
というわけで私が悩んでいるのは得意な距離の2000mを走るか、慣例に従って1600m程度にしておくか、という悩みだ。
長年体幹トレーニングを積んだおかげで、一人で2000mを本気で走ることができるスタミナは付いていると自負しているが、本場トレセンのレースという環境違いなどにより、スタミナが足りなくなってしまうかもしれない。
そのことを考えると、選抜レースはURAの公式レースではないから負けてもOK、という気持ちで2000mに出走するか、スタミナの余裕をとり1600mなど短い距離に参加するか。どちらにしようか。
⏰
悩んでいる時は他の人に意見を聞こう。ということで夕飯後のだいたいのウマ娘が自室にいるであろう時間帯に、同級生のマチカネフクキタルを訪ねてフクキタルのお部屋へとお邪魔しにきました。
フクキタルも同じ栗東寮の同じ階に部屋があるので、気軽にお邪魔できる。
「なんの御用でしょう! スズカさん!!!」
! がいっぱい付いているかのような元気のいい声で私を呼ぶ栗毛のウマ娘がマチカネフクキタルである。
なにやら占いに傾倒しており、事あるごとに持ち運んでいる水晶に向かってウンウン唸ったり、変な物を開運アイテムだと言って蒐集する癖があるへn──面白い娘である。
「こんばんわ、今大丈夫かしら?」
「はい! ちょうど先輩も居ないので大丈夫ですよ! 折角ですからどうぞ!!」
夜だというのに元気なフクキタルの言葉に従い、フクキタルの部屋へと入る。
フクキタルの部屋は入学して2か月だというのに、何に使うかわからない置物が目に付くだけでも5、6個ほど確認できる。フクキタル曰く開運グッズらしいが、この調子だと2、3年後にはゴミ屋敷もかくやと言わんばかりの煩雑な部屋になっているかもしれない。
私がフクキタルの部屋を見て、同室の先輩ウマ娘に心の中で黙祷を捧げていると、お茶を酌んでくれたフクキタルがお茶を置きながら声をかけてくる。
「それで、どうしましたか!? 私になんの御用でしょう!」
「えっと、実は今ちょっと悩んでいることがあって。フクキタル前に占いのこと話してたでしょ? それで占ってみてもらえないかな、と思って」
「なんと! そうでしたか! わかりました占いましょう!!! なに占いにしますか!!?」
「えーっと、私は占いの事よくわからないから、一番普通の奴でお願い」
「なるほど、普通の奴ですね。わかりました! ではこの水晶の中を覗きながら、何を占って欲しいか言ってみてください!!」
そういってフクキタルはどこからともなく一抱えほどもある水晶玉を取り出し、机の上に置いた。
私は言われた通りに、水晶玉の内部をジッと見つめながら、悩んでいることを話す。
「んとね、今度選抜レースが開催されるでしょう?」
私の言葉にフクキタルはフンフンと頷きながらも言葉は挟まず、水晶の上で手をユラユラ揺らして集中しているように見える。
「それで、その選抜レースで2000mに出場するべきか、それとももう少し短い距離にすべきか悩んでいるのだけど……」
私の悩みを聞き終えると、フクキタルは奇怪な言葉を口にしながら水晶玉の上で手をユラユラと動かす。
私も水晶の中を見つめろと言われたので見つめているが、特に水晶玉に変化があるわけもなく、そのまま時が経過する。
10秒……
20秒……
30秒……
1分ほどたったその時。
「見えました!!!」
「ヒェッ」
フクキタルが急に叫ぶものだから、ビックリして耳を後ろに倒して身も縮こまらせてしまった。
「スズカさんの運勢は中吉! 良い方ですが油断は禁物な感じです! ラッキーアイテムは長いグミのお菓子です!!!」
「え、っと、つまり?」
「そうですね! 2000mは止めた方が良いんじゃないでしょうか! でもラッキーアイテムがあれば2000mでも戦えるかもしれません!!」
「なるほど」
という結果らしい。ラッキーアイテムの長いグミのお菓子とかいうのが謎だが、購買に売っていただろうか?
「わかったわ、ありがとう。参考にするわね」
「はい! また何か悩み事があればお声がけください!! シラオキ様のご利益をお裾分けいたしますよ!!」
自信満々な顔のフクキタルに曖昧な笑みを返しながら、フクキタルの自室を後にする。
私は別に占いを全部信じている訳ではないが……、選択に悩んだ時の参考にはなるのかもしれない。
そんなことを考えながら寮の廊下を歩き自室へと帰った。
⏰
自室に帰って寝る準備を整えたら、明日にでも参加表明できるように、選抜レースの申込用紙の記入を行う。
(サイレンススズカ、芝、1600、と)
フクキタル占いの結果を鑑みて、油断は禁物とのことなので、2000mの次位に得意な1600mにしておく。
1800があればそちらが良かったのだが、選抜レースは基本的に未デビューのウマ娘が対象なためか、1200~2800の根幹距離*5だけが用意されており、非根幹距離である1800mは用意されていないので、走ることができない。
心の中で残念だな~、などと考えながら申込用紙に漏れがないかを確認していると、ダンスパートナー先輩が声をかけてきた。
「お、選抜レースの申し込み~? スズカちゃんは何にでるの??」
「あ、先輩。はい、とりあえず初めてですし1600にしようかと思ってます」
「おー、マイルか~。激戦区だねー」
「激戦なんですか?」
「んー、激戦っていうか、ピンキリって感じ?
上級生だけどトレーナーの付いてないマイラーから、とりあえず教官の言うとおりに、短めの距離で走ろうと思う低学年のクラシックディスタンス。それにちょっと長い距離の適性を試したいスプリンター、と一番ウマ娘が集まる距離だね。
選抜レースは毎回マイルが一番開催レース多いしね」
「なるほど」
「だから一番運が絡むのもマイルかもね~。どれだけ有力なウマ娘や、格上のウマ娘に当たらずに出走できるか。ほぼ必ずフルゲートになるから、スズカちゃんみたいな前目のウマ娘にとっては枠番のくじ運も大事だしね」
さすがすでにシニア級の歴戦のウマ娘である。かなり的確な分析と言えよう。それに、開催レースの多さやゲートの埋まり具合などは、現役トレセン学園生ならではと言ったところか。
選抜レースは一部の関係者には公開されるものの、普通の一般人が簡単に見ることは流石にできないため、選抜レースの様子というのは学園外ではなかなか手に入れられない情報である。
「んー、そうするとやっぱり避けた方が良いでしょうか? 2000mと悩んでて、初めての選抜レースですし、流石に2000mは止めようかなと思ってマイルに決めたんですが……」
「いやーどうだろうね。まだ今年1回目とは言え、2000mだと本格化が始まったのにトレーナーの決まってない、進退窮まったクラシックディスタンスの娘が“ガチ”で来ることが多いからなぁ~。結構実力差がハッキリでちゃう傾向にあるんじゃないかな?」
「うむむ……」
先輩から貰った情報に、決断が鈍ってしまうのを感じる。
流石の私でも本格化の始まったウマ娘相手には勝てないだろう。
流石にこちらの本格化が始まってない上に、選抜レースはあくまでトレーナーへのアピール場。URA公式のレースでは無いから、負けても生涯無敗には支障はないだろう。しかし、それはそれとして、ボクの頃にレースをいっぱい勝った記憶がある故か、負けるのは大変癪である。できれば勝ちたいところだ。
「あー、悩ませちゃったかな、ゴメンね」
「あ! いえ、参考になりました。ありがとうございます」
呻く私に、余計なことを言ったかと思ったのか、バツが悪そうに頬をかき謝る先輩を、慌てて否定し感謝の意を述べる。
決断が鈍った事は確かだが、私が知り得ない情報をくれたし、判断材料が増えたことは純粋にありがたい事である。
「ところで、先輩が私なら、というか、私と同じころはどうしました?」
「ん、私? そうだなぁ、私は入学の頃はなんとなーくティアラ路線かなぁって思ってたからまずマイル選んだかな~。トレーナーが決まってないとはいえ、本格化したマイラーと戦えるかもしれない良い機会だし、同じ世代と当たればもしかしたら将来ライバルになるかもしれないからね~。
スズカちゃんはデビューしたらどの路線目指すとか決まってたりする?」
「そうですね、なんとなくクラシックディスタンスが得意かなと思ってますね」
「クラシック三冠ねらう感じ?」
「いえ、多分長距離は走りきれそうにないので、マイルと中距離を主戦場にしようかと」
「そこまでわかってるなら、選抜レースもマイルで良いんじゃないかな? 本格化の始まった生粋のマイラーと戦えるかもしれないし。たとえ負けても、そういう強い相手と今の内に戦えると、明確な目標にもなるし良い経験になると思うよ?」
「なるほど。今の自分との差がわかるし、本格化したときどれだけ速くなる必要があるかの指標になる。って事ですね?」
「そそ、そういうこと」
さすが現役最強と謳われるウマ娘だ。未デビューの新入生にも的確なアドバイスと言えよう。
「ありがとうございます先輩。やっぱりマイルで行ってみようと思います。相談に乗ってくれてありがとうございます」
色々話してくれた先輩に感謝を伝えるため、キチンと身体を向けて深く頭を下げる。
「いやいや、そんな畏まらないでよ。ま、感謝してくれてるなら、いいレース見せてよ! スズカちゃんの自己鍛錬の結果も気になるしさ! 選抜レースの予定が発表されたら絶対教えてね! トレーナーと見に行くから!」
「はい! その時になったら必ずお伝えしますね!」
先輩の言葉で、気合い乗り*6が増してくるのを感じる。
そして急に、本当にトレセン学園の選抜レースに出るのだという実感が湧いてきた。
小学生の時とは違う。地元で有象無象のウマ娘と駆けっこをするのではない。
地元で最強と言われてきたウマ娘たちが集い、強くなるための教育を受けるための場所。その場所での、最初の力試し。
なんだか私、ワクワクしてきたぞ!
そんなワクワクを胸にベッドに潜り込んだのだが、案の定というかウマ娘生──馬生もあわせて初めて、ワクワクしすぎて眠れないという現象を体感した。*7
翌日は当然、寝不足になった……。
沢山の閲覧・お気に入り・感想・評価etcetc 大変ありがとうございます。
まだ2話までしか投稿していなかったのにも関わらず、日刊ランキングに乗ったようで沢山の方の目に留まったようです。
これがウマ娘の、サイレンススズカの力……。
かなり変な世界のちょっと変なスズカさんですが、これからもどうかよろしくお願いいたします。