今回は短編集的に選抜レースが終わったあとの、それぞれのキャラの視点を纏めています。
また、話が進んでいないため、4.5話としています。
誤字報告ありがとうございます。すごい助かってます。
かなり衝動的に投稿しているせいか、見直してるはずなのに大量に誤字あってすみません
私にとって初めての選抜レースがおわった。
結果は惜しくも2着となってしまったが、新入生にとっての最初の選抜レースなど、本来は先輩に大差をつけられなければ十分、掲示板に入れたら大健闘といった風潮だ。
それからしてみたら、私の2着というのは大健闘どころか、大金星と言っても過言ではないのだろう。
ただそれは普通のウマ娘にとっては、だ。
私は普通じゃないと自分では思っている。ウマ娘と馬としての差はあれど、レースというものを知っている。どういうトレーニングをすればいいかを理論的に知り、実践してきた。
正直、入学するまでは入学してすぐでも、年上のウマ娘には負けないとすら思っていた。
しかし、入学して同室になった本格化を迎えた、バリバリの最盛期と言えるウマ娘を見て認識を改めた。
どれだけトレーニングを積んだとしても、生物の限界は超えられない。本格化してないウマ娘は本格化したウマ娘には勝てない。
だからこそウマ娘は、一生の中では極短い本格化の期間に命を燃やす。
そこが己の生命としてのピークだと、本能が理解しているのだろう。
でも、選抜レースなら。
デビュー前の本格化が始まってない。もしくは最盛期じゃないウマ娘になら、勝てると思っていた。負けるはずないと、思っていた。
それでも結果は2着。
確かに、直前に勝てないだろうという直感はあった。
年上で、多分本格化がすでに始まっているだろう相手だ。
誰もが、負けてもしょうがないと言うのかもしれない。
それでも、私にとって今までで一番近しい土俵の相手と戦って、はじめて負けた。
その事実は、私を想像以上に打ちのめしたのか、私はレースが終わったあと取り留めのないことを頭に浮かべながら──それでも考え事に集中できず、上の空のままレース場を後にしようとしていた。
「スズカちゃん!!」
そんな私を呼び止める声がする。ここ2か月以上、ほぼ毎日聞いていた声。
「ダンス、パートナー先輩……」
ダンスパートナー先輩が、横のトレーナーを置いて一目散に私に駆け寄ってきてくれていた。
「スズカちゃん、レースお疲れ様」
「先輩……」
「すごかったよ! 2着だよ、2着。入学してすぐなのに2着なんて前代未聞の快挙だよ!」
「──ダンス、パートナー、先輩……」
明るく話しかけてくれる先輩を見ると、ボーッとしていた頭がカァッと熱をもつ。
ダンスパートナー先輩が努めて明るく振舞ってくれているのがわかってしまう。
「この調子なら明日からはスカウトいっぱいくるよ! でも、とりあえず保健室に行こう? 結構無理したんじゃない?」
「────せん……ぱい」
もう、声を出すことすらままならない。
言葉にできない激情が頭と胸を占めつくし、決壊する。
「ご、めん、なさい」
頬を熱い液体が伝う。
呼吸がままならなくなり、言葉が続けられない。
「ごめ、なさい──ヒッ。わ、わたし──勝つヒッ、って。ヒッ勝つって──ヒック言った、のに──」
「うん」
続かない言葉を必死に繋げて、先輩に謝る。
そんな私を先輩はただ優しく胸に抱きかかえてくれた。
「ヒッ、わたヒッし、勝てるってヒック、おもヒック、思ってたのに──」
「うん、わかってるよ。ありがとうね、私のためにって思ってくれたんだよね」
「ヒック、勝ってヒッヒック先輩が──ヒッ」
もう、何が言いたいのか、何を言っているのか。それすらわからなくなってきた。
それでも先輩は優しく私の背中を撫で続けてくれた。
「悔しい、ね。悔しいよね。2着は、悔しいもんね」
「ヒッ──ヒック──ヒッ」
もう何も言うことができなくなり、私はただただ先輩の胸の中で頭を縦に振ることしかできない。
「大丈夫。悔しいって思えるなら、スズカちゃんはもっと強くなれるよ」
そう言って先輩は私の顔を両手で上げさせて、ハンカチで顔を拭ってくれる。
汗と────涙で汚れた私の顔を。
「ほら、可愛い顔が台無しだぞ。それに、初めて全力で走っただろうから、今は保健室に行こう? 身体は大切にしなきゃ、ね」
「ヒッ──は、はいっ」
ダンスパートナー先輩の言葉に、ただそれだけ返して、私は先輩に手を引かれるがまま歩き出した。
私の初めての選抜レースは終わった。
走り終わったときも、負けたと理解した後も、不思議と悪くない気分だった。
それでも、悔しいものは悔しいのだ。
私は、初めて負けて、初めての悔しさで、盛大に泣き散らした。
私は、私が思っていた以上に、負けず嫌いだったらしい──。
私にとって久々の、そして
うっすらと額に浮かんだ汗を体操服で拭う。
負ける可能性は一欠片も考えていなかったが、まさかここまでの接戦になるとも思っていなかった。
サイレンススズカ。
私に〈固有特性〉を使わせたウマ娘のことを考えながら、私は
「お疲れ様、アイズポイント。まさに鎧袖一触、といったところかな?」
その途中で、私に声をかけてくるウマ娘が一人。
中性的な声色から、隠しきれない威厳を醸し出すウマ娘。
「──会長」
現中央トレセン学園生徒会長。
現役の戦績は24戦21勝。日本無敗の三冠にして、初の国内無敗での古馬G1完全制覇、そして海外合わせG1通算16勝を上げた怪物。
史上唯一同年に日本ダービーと凱旋門賞を制覇した生きる伝説。
凱旋門賞・ドバイシーマクラシック・BCターフすべてを制覇した、芝の上では最強と言っても過言ではない世界的ウマ娘。
──『絶対皇帝』シンボリルドルフ
レースに絶対はないが、このウマ娘は絶対であるとすら謳われる、現状史上最強と名高いウマ娘が、私にかけられた声の正体である。
「鎧袖一触なんて、とても言えません。出すつもりもなかったモノを
「『領域』か。そこまで彼女は、サイレンススズカは強かったかい?」
「……。はい。まさに『神に愛されたウマ娘』と言っても過言ではないでしょう。あの年で、本格化も来てないであろう肉体で、扉を開きかけてました」
私の言葉に、ルドルフ会長にしては珍しく、目を大きく見開き驚いた様子をみせた。
「君ほどのウマ娘がそこまで言うとはね」
「……会長は私を買い被りすぎです」
「何を言う、『流星の貴公子』の再来と謳われる君にかける評価としては、適切なモノだと思っているが」
「私はただ、母に似ただけですよ。そもそも会長の言う領域だって……、いえ、これは話が逸れすぎてしまいますね」
会長の言う『領域』と、私の〈固有特性〉の話は長くなるし、今は関係の無い事なので私は話を戻すことにした。
「とにかく、サイレンススズカの素質は本物──いえ、それ以上のモノです。歴史に名を残すウマ娘にもなれるでしょう」
「そこまでか。君が無理を言って
「はい。その件では、会長にも無理を聞いていただき、ありがとうございます」
「なに、可愛い後輩の頼みだ。
ルドルフ会長の言葉にお礼の意を込めて頭を下げると、ルドルフ会長と共に
会話の中で、ルドルフ会長が「
去年の夏にはチームリギルに内定していたため、私はそれ以降は選抜レースに出走していなかったのだが、いざリギルに入ろうという時期になって、神のお告げがあったのだ。
いや、待ってくれ。引くのはわかるが本当のことなんだ。事情を説明するからそっ閉じしないでくれ。
そろそろリギルの一員としてやっていくとなった時分、ある日の私はとある夢を見た。
その夢は三女神を名乗る三人のウマ娘と出会う夢であり、その自称三女神曰く、来年とても強い運命を持ったウマ娘が入学するから、その娘と最初の選抜レースで走ってほしい。というモノだった。
人並には信仰心はあるが、別に熱心な信者でもない私は、変な夢を見たと思って翌日は普通に過ごしたのだが、その日の夜また同じ夢を見た。
スルーし続けていると、毎夜毎夜自称三女神は私の夢枕にたち、リギルへ入団する日が近づくにつれ、私を説得する様子がどんどん必死さを増していき、最後には土下座も辞さない勢いとなっていた。
そんな奇妙な夢を毎日見ては、流石の私も無視はできず、チームトレーナーの東条トレーナーとシンボリルドルフ会長に事情を話し、今日この日までチーム入りを先延ばしにしてもらっていたのだ。
そのせいで私のデビューが1年度遅れることになったのだが、自称三女神はその分本格化が続く期間を延ばしてくれる*1し、デビュー後は毎年4月になにやらお礼をしてくれると約束してくれた。
──今思っても、夢の約束を信じる私も相当だ。
そんなこんなで、本来なら仕上がり次第ではデビューしていてもおかしくないウマ娘が選抜レースに出走するという、若干心苦しい状況が生まれてしまったわけだが、自称三女神の言うことは本当であったと言っていいだろう。
サイレンススズカ。
私が選抜レースで戦ったウマ娘であり、神が一ウマ娘のために頭を下げるほど、神に愛されたウマ娘。
圧倒的だった。本格化が始まっていないとは思えないほど、完成に近い肉体。あれほどの鍛錬をトレーナーも無しで積んできたというのだから驚きだ。
そんなサイレンススズカに関する事を考えていたら、東条トレーナーが目に入る場所までやってきていた。
トレーナーもこちらに気づいたのか、練習の監督をサブトレーナーに任せてこちらへ向かってくれる。
「その様子だと無事選抜レースは終わったようだな。アイズポイント」
近づくなりそう言う東条トレーナー。
彼女こそ今中央を二分するチームの片割れ、チームリギルを率いる東条ハナである。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、東条トレーナー」
「いえ、夢見が悪くて睡眠障害になりかけていたのだから、配慮するのは当然のことよ。あなた達現役ウマ娘にとって、睡眠は殊更重要なのだから」
個人のわがままでチームの予定を乱したことを謝るが、東条トレーナーは相談したときと同じく当然と言った風に許してくれる。
「それで、どうする? あなたほどの出来栄えならすぐにでもデビューできると思うけど……」
そう聞いてくるトレーナーに、私はあらかじめ考えていた答えを告げる。
「いえ、結局今までは自己流でしたから、今一度リギルのやり方で鍛えなおしていただけると幸いです」
「わかったわ。それなら明日からトレーニングに入って頂戴。とりあえず、去年考えていた1年鍛えなおしてデビュー戦は6月ごろ、という計画を元に進めていくわね。もちろん、順調なら前倒しも視野に入れるわよ」
「はい。これからよろしくお願いします。トレーナー」
サイレンススズカ。神に愛されたウマ娘よ。
夢枕に立った自称神の言うことが本当ならば、私はお前がデビューするまで、いやシニアに来るまで待とう。
その時、完成したお前ともう一度戦えるよう、私も鍛えておく。
だから、私に最も強いお前を見せてくれ。
(なんっつー化け物を紹介しやがったんだ、コイツ……)
俺はサイレンススズカのレースを見ながら、隣で熱心にレースを見守る愛バに悪態をついた。
俺の愛バの一人、ダンスパートナー。
堅苦しいのは好きじゃないからと、俺が率いるチームスピカに入ってきた奴だが、コイツはコイツでかなりの素質を持っていた。
デビュー当初からその才覚を発揮し、つい最近の宝塚記念まで無敗で勝ち続けてきた。それでもまだコイツ自身には伸びしろがあるってんだから、たまったもんじゃない。
そんな超天才と言えるダンスパートナーが、俺にウマ娘を紹介してきたのはこれで二人目になる。
一人目はダンスパートナーの妹であるダンスインザダーク。そして、サイレンススズカだ。
妹だとか同室の後輩だとか、身内びいきがすぎるもんだが、ダンスパートナーは人を見る目も一級品だ。人を見る目というか、素質のあるウマ娘を見抜く目、と言った方が良いかもしれない。多分将来はトレーナーになっても良い成績を残せるだろう。
そんなダンスパートナーが紹介してきたダンスインザダークは、相当の素質バだった。それこそ今俺の下でサクッとクラシック2冠を無敗のまま取って、このまま3冠を取っちまいそうな勢いだ。*2
そんなダンスパートナーが、紹介してきた二人目がサイレンススズカだ。正直期待してないっていうのは嘘になる。今度はどんな走りを見せてくれるのか、とちょっとワクワクしてたくらいだ。
そんなワクワクも、実物を見た瞬間に吹き飛んだ。
ダンスパートナーに手を引かれ出会ったウマ娘は、年齢相応に小柄なウマ娘だった。
濃い栗毛の髪をストレートに伸ばし、音に敏感なのか緑色のカバーを耳にはめているウマ娘。なぜか紐状のグミを食べているが、こちらに気づくと急いで食べ始め、麺のごとくするするとグミが口の中へと消えていく。
普通だったら変な奴、で終わるようなファーストコンタクトだったが、それよりも目を引くのはその立ち姿だった。
あまりにもブレが無い綺麗な直立。
普通、長時間直立する時はその人間そのものの癖が出てしまう。重心をかける脚だったり、真っすぐ立ってるつもりでも、身体は若干フラフラと揺れてしまうものだ。
だがサイレンススズカにはそれがあまりにもなかった。大股を開いて安定した立ち方をしている訳でもないのに、鉄の棒で支えられているかのように頭から踵まで、一本芯の通った直立。
その立ち姿を見るだけで歴戦のトレーナーは、サイレンススズカの年齢不相応に鍛えられた体幹に気づける。
自画自賛になるようだが、俺だってこれでもかなりのトレーナーだという自負がある。
そんな俺が、サイレンススズカの体幹の鍛えられっぷりに気づかないわけがない。
そこまでの体幹トレーニングを積んできたこと。それそのものがすでに恐ろしいのだが、更に恐ろしいのはダンスパートナー曰く
感嘆に値する。そして同時に恐怖すら覚える、その克己心、自律心。
小学生の頃のウマ娘なんて、走りたい欲求が爆発してる怪獣のようなものだ。小学生向けのクラブだって、その衝動を適度に解消してやりながら、怪我しないように少し技術なりトレーニング方法なりを教えてやる程度なモノがほとんどだ。それほど、幼いウマ娘の衝動というのは制御させるのが難しいのだ。
それなのに、サイレンススズカの立ち姿は、その姿から想像される体幹の強さは、トレーナーも居らずその衝動を制御し、トレーニングを積んできた過酷さを容易に想像させる。
それだけでも十分に化け物だが、それ以上のモノを俺はレースで見せられた。
レースが始まったと同時に、当然サイレンススズカも走り出す。
そのスタートは綺麗だ。あまりにも綺麗すぎた。
まるでゲートが開く瞬間が分かっているかのように、ゲートが開くと同時にサイレンススズカは両隣に半バ身は差をつけて飛び出していた。
あの年齢なんて普通ゲート試験に受かるだけでも一苦労なはずだ。それを証明するように、サイレンススズカと同年代で選抜レースにエントリーしているウマ娘は一人だけだ。
それもそのはずで、ゲートインなんてもん、大抵のウマ娘がトレセンに来てから初めて経験するのが普通だ。
シンボリ家やその分家筆頭のアイズ家、メジロ家といった超がつく名家でもない限り、自宅にゲートなんてもんは存在しないからだ。
それなのに、サイレンススズカはゲートが上手かった。あまりにも上手すぎた。
隣に
そしてレースが始まるとサイレンススズカはハナを奪った。
新入生なんてものは大抵最初の脚質は逃げだ。それはなぜかと言うと、幼いころの駆けっこでは常に1番だった奴が強いからだ。その記憶が強いから、みんな大抵最初は駆けっこのつもりで逃げをうつ。
俺も最初はサイレンススズカもその口なのかと思った。目を見張るのは、結局自分の脚質は逃げだと思ったのであろう1番に対して2、3バ身離しているスピードがあることだ。
アイズポイントも1番より速く走れるだろうが、1番が逃げであることを知っていたのか勘づいたのか、1番の後ろで様子をうかがっている。
そのせいで逃げの筈の1番がまるで先行バのような展開になってしまっている。
しかし、駆けっこの要領の逃げでは結局最後まで持たないだろう。
駆けっこの要領の逃げのまま勝ててしまうなら、誰もが逃げで走る。そうならないのは、これが駆けっこではなく『レース』であるからだ。
しかしサイレンススズカは違った。
しきりに耳を動かし、多分それで彼我の距離を測っているのだろう。安全マージンを稼ぐように、コーナー前でさらに加速し距離をつけるとその速度のまま膨らんででもコーナーに入る。
普通ならば素人考えの自爆だと思うが、多分サイレンススズカは意図して膨らんだのだろう。
今のレースは第14レース。今日はマイルのみだから、コーナーは半分ずつが使用されていても、それでも6回はすでにウマ娘が走った後になる。
経済コースはがたがたになっているだろう。
そしてそのまま膨らみを抑えるのと共に、稼いだリードを利用してサイレンススズカは
そのスムーズな技術は、明らかに駆けっこの要領で逃げになってしまったウマ娘のそれではない。
レースに勝つための作戦として逃げを選んだウマ娘のそれだった。
最終直線では、地力の差でアイズポイントに抜かされてしまったが、それでも決着は半バ身の差しかない。
結果だけを見てしまえば、好位抜け出しを貫けたアイズポイントが順当に勝ったように見える。しかしそれは、1着のアイズポイントが
さらに言ってしまえば、サイレンススズカは2着であったショックで気づいていないようだが、3着との間には俺から見てだいたい5バ身の差があった。
アイズポイントを差し引けば、十分大差圧勝と言っていい着差である。
負けて悔しがるサイレンススズカを、ダンスパートナーが迎えている。
二人の会話を聞いてしまったが、ダンスパートナーが言った「明日からスカウトがいっぱいくる」というのは叶わないだろう。
(いったい誰があんな化け物を制御できるんだか)
見る目のあるトレーナーなら、あまりにも完成されすぎたサイレンススズカに手を付けるのが恐ろしくなるだろう。
もし担当して、デビュー後に負けてしまったら、それは完全にトレーナーのせいになる。それほど圧倒的な素質をサイレンススズカは持っている。
逆に、今声をかけるようなトレーナーは、見る目がないか、考えなしのバカだ。そして残念ながら、そんなトレーナーは中央には居ない。
「こりゃ、もしかしたら俺が考えてやんないといけない奴か~?」
あまりにもあんまりな可能性に、ついつい独り言が漏れてしまう。
もしかしたらダンスパートナーは薄々このことに気づいていて、俺に直接見てほしかったのかもしれない。
でも、流石に俺一人で考えるのは荷が重すぎる。
「っというわけで、『おハナさんいつものとこで』っと」
まずはおハナさんに連絡だ。
⏰
「ってことで、おハナさん的にはどうなのよ? サイレンススズカは」
おハナさんこと、リギルの東条トレーナーをいつものバーに呼び出し、最初はありきたりな話題から始め、選抜レースの話題に持っていく。
そしてやっと本題であるサイレンススズカの事について質問したわけだ。
「『サイレンススズカと戦うためだけに、アイズポイントはデビューを遅らせた』。トレーナーの間では公言はせずとも早速噂にはなってるよ」
「は~。ま、そうでしょうね」
おハナさんは俺の話を聞くと、大きくため息をついてから持っていたカクテルを大きく呷る。
そんなに度数が高くないカクテルとはいえ、一気飲みは喉にくるだろう。多分飲まなければやってられない、というやつか。
「まず、これから私が話すことは、アイズポイントとシンボリルドルフから聞いた会話での印象。ということを押さえて頂戴」
「了解」
「そうね、まず一言目は『信じられない』でしょうね」
そりゃそうだ。いったいどこの誰が、『本格化前のウマ娘が本格化中のウマ娘に半バ身まで追いすがった』、などと聞いてそのことを信じるのか。
「まぁあの二人がそんなしょうもない嘘を吐くわけないだろうから、本当の事だとして続けるけど『難しそう』というのが私の感想ね」
「あ~、やっぱり?」
「やっぱり、って言うならあなたもわかっているのでしょう。自分の脚質が逃げであることを理解している。それはつまり、逃げなければならない気性が自分にあるとわかっているのでしょうね。
そしてその上で、気性を改善しようとするのではなく、
しかもそれがまだ、デビュー前どころか本格化も来てなさそうなウマ娘??? 創作でももうちょっとマシな設定にするわね」
「ははは、でも現実なんだわ」
「正直、私とは相性が悪いでしょうね」
「その心は?」
「総じて、こちらのトレーニング内容も含めた指示に素直に従ってくれるのかどうかが不明瞭だってことよ。変に自主トレの知識をつけちゃった娘って、頑なにこっちの指示に反発するか、隠れて自主トレしてオーバーワークするか、なんにしろ碌なことにはならない方が多いんだもの」
「だよなぁ」
おハナさんの言っていることが、一理どころか百理あるためたまらず天井を仰ぎ見る。
「まぁ、詳細は明日選抜レースの映像を見てからの判断になるでしょうけど、私は今のところ誘う気は無いわ」
おハナさんの誘う気は無い、というのは自分のチームに勧誘する気はない。という意味だ。
「いや、そこなんだけどさぁ。おハナさんに頼みたいことがあんのよ」
俺のその言葉に、おハナさんは露骨に眉をしかめ、嫌ですといった表情をする。
「なに? 聞くだけ聞いてあげるけど」
「いやね、本格的に面倒見る奴は俺の方で探しておくからさ、おハナさんにはひと月かそこら、サイレンススズカの面倒みてやってほしいんだよね」
「はぁ!? なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ! さっき相性が悪そうって言ったばっかでしょうが!!」
「いやいや、お怒りはごもっとも、だけどさ、うちのダンスパートナー曰く普段は素直な良い娘らしいんだわ」
「ウマ娘の気性が、普段の生活とは関係が薄いのはあんたもわかってるでしょう」
「そこはわかってるけどさ! どういうトレーニングしてるのか、どのくらい素直なのか、そういうのをおハナさんとこで確認してほしいんだよ!」
「それこそアンタ自身でやりなさいよ」
両手を合わせておハナさんを拝む俺を、おハナさんは路傍のゴミを見るような冷たい視線で見る。
「いや、そうしてやりたいんだけどさ、うちのチーム、ほら、アレだろ?」
ちょっとおちゃらけてウィンクをする俺を見て、おハナさんは本日最大記録を更新するほどの大きなため息をついた。
「そのアレ、でわかってしまう私が憎いわ」
「いや、すまんとは思ってる! 最終的にうちで預かることになったら、それでも良いんだが、流石にチームに関して知識のない真っ新な新人を一時的に迎えるには、うちは不向きすぎるっ。おハナさん! この通り!!」
もはや土下座をする勢いで俺は頭をさげる。
そんな俺をおハナさんは数秒見つめた後、また大きなため息をついた。
苦労をおかけして申し訳ありません。
「はぁ~~~~~~~~。わかったわよ、合宿のあと1か月程度ならね」
「いや~~~~! さすがおハナさん! 話がわかるぅ!!」
「その代わり、ココの支払いはアンタが持つこと!」
「いやいや、それぐらいさせていただきますよ! 元はと言えばうちのダンスパートナーが原因だからな! キチンとお支払いさせていただきますとも! それに今はダンスパートナーのおかげで、俺の懐は潤ってますから! 俺の金は実質アイツの金ってな! ガッハッハ!!」
「いや、流石にその言葉は外聞が悪いからやめなさい」
「はい」
そんなこんなで、今日はそれ以上仕事の話はせず、お互い好きなだけ飲んで解散することになった。
支払金額は……、マジでダンスパートナーが俺のチームじゃなかったら、払えなかったかもしれない。
でもそのダンスパートナーが居なかったら、こんな気苦労も無かったかもしれないと思うと、なんとも言葉にしにくい感情が胸に広がるのであった。
傍から見たスズカの異常さと、大人たちの苦労の話でした。
正直現状この話を公開するのも怖いのですが、楽しみにしている人が居ると信じて投稿しました。
暫く感想に返信するのは辞めます。