もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

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思いつきから作り始めたガンダムSEED DESTINYの二次創作です。
※の数々を見てそれでも読んでいただければ嬉しいです。

それでは、アーモリーワン事変から……


アーモリー1事変
アーモリー・ワン事変


 

 C.E.73年10月2日──

 

 コペルニクスの悲劇とユニウスセブンに対する核ミサイル攻撃に端を発した地球連合とザフトの軍事衝突、数多な犠牲を出した“連合・プラント大戦”から約2年。

 

 L4宙域に存在する大戦後に作られたザフトの新たな兵器工廠コロニー“アーモリー1(ワン)”では、翌日に大戦後では初の新造艦級である宇宙戦艦ミネルバの進水式を控えており、プラント側最高評議会議長であるギルバート・デュランダルをはじめとする来賓、さらにはプラントだけでなく地球各国からもザフトの新たな兵器と式に参加するプラントの有名人達の姿を一目見ようという人々が訪れており、式典など無い日常とは比較にならない賑やかさを見せていた。

 

 大戦が終結を迎えたとはいえ、ナチュラルとコーディネイターの間にできた深い溝はいまだに対立の火種となっており、地球連合とプラントの関係は友好的とは言い難くいつ戦火が再び巻き上がってもおかしく無い情勢が続いている。

 両陣営共に前大戦にて発生した莫大な犠牲の記憶も新しいため2度目の戦火を望む者は少数派だが、戦火を起こさないための抑止力として、そして再び起こるというもしもの時に可能な限り犠牲を減らすために、この平和が訪れたはずの2年間も軍事技術の発展を続けていた。

 

 特にユニウス条約にてリンデマン・プランに基づくモビルスーツや戦艦の保有数など軍備制限を受けているザフト側は、数の連合に質で対抗する従来のドクトリンに基づき、より良質で強力な兵器の開発・発展に力を入れている。

 

 デュランダルはユニウス条約を遵守し定期的な監査団の受け入れを行い地球連合各国との交易・交流を図る一方、“ガズウート”や“バビ”と言った改良機、“ザクウォーリア”や“グフイグナイテッド”などの高性能な新型モビルスーツ“ニューミレニアムシリーズ”の開発に資金や資源を投入しオーブなどの外国からも積極的な人材登用を行い、今回の新造戦艦ミネルバの進水式のように新兵器の公表を一般向けにも公開するなどして、経済効果を生む傍らで軍事力を誇示することにより、制限のある中でプラントの平和と権利を守る外交を展開している。

 それはプラントの発展に大きな恩恵をもたらしたが、ブルーコスモスの襲撃から逃れるべくプラントに移住した地球籍のコーディネイター技術者が生活のために職を選んだ結果とはいえ軍事利用されるなどの問題も作ることとなった。

 

 もっとも、まだ大戦の傷が各所に残されている。

 その復興のためにも経済発展の土台は必要であり、肩身の狭い亡命者たちにとっても己の技術や知識を必要とされる雇用の場にプラントが多くの出資を行っているモビルスーツ開発などの軍需事業に人材が流れ、機密に関わることで出国に制限がかけられることとなる流れができるのは必然と言えた。

 

 これらに関わる地球籍の殆どがコーディネイターであるため、もっとも人材流出の多くなっているオーブ連合首長国からは度々この問題の解決に向けた抗議がプラントに向けられていたが、デュランダルはいずれ帰国の目処を立てるとしながらも彼らの亡命の原因となっているブルーコスモスの活動が沈静化し安全を確保してからでなければ難しいとしてなかなか解決に向けた進展がない現状となっている。

 

 話を戻すが、ザフトはニューミレニアムシリーズの他にも“陸戦”、“海戦”、“空戦”、“宇宙戦”における各戦場に特化した新型モビルスーツ“セカンドステージシリーズ”の開発も進めており、ニューミレニアムシリーズに遅れてミネルバの進水式とほぼ時を同じくして空戦特化型機を除く3機のロールアウトもここアーモリー1にて迎えていた。

 ミネルバだけでなく、このセカンドステージシリーズが表に出る初舞台でもある翌日に向けた準備が執り行われているアーモリー1は、まるで祭りのような喧騒が広がっている。

 流石に軍事区画に民間人は入れないが、しかし流入が制限されているモビルスーツ工廠でも普段の3倍はいるだろう数のザフトの姿が見受けられた。

 

「違う! 式典用装備のジンは第3ハンガーにつけろ!」

「こいつはマッケラーのガズウートか、早く移動させろ! まだまだ後続が来る、はっきり言って邪魔だ!」

「ライフルの整備、しっかりやっとけよ! 明日になってからじゃ遅いんだからな!」

「はい!」

 

 式典の準備のため、モビルスーツや軍用車両が忙しなく動き回る工廠。

 シグーやディン、式典用の装備を搭載したジンやゲイツといった前大戦の頃より第一線で活躍するモビルスーツから、ガズウートやザクウォーリアと言った最新鋭機まで。

 かつての大戦を生き残ってきた隊員が指示を怒鳴り声で飛ばし、それに従って平和となった時代で正式配属されるなどした戦場を知らない新兵たちが緊張した面持ちで忙しく、そしてぎこちない様子で動き回っている。

 そんなハンガーが並びモビルスーツが動き回る中を、明日の主役となるミネルバが停泊しているドッグに向けて走る1台のジープの姿があった。

 

 運転席にいるのはオレンジ色の前髪が特徴の緑服の整備兵。

 助手席にいるのは赤髪のショートヘアにアカデミーの成績優秀者が授かる証である赤服(改造済み)を着る女性兵士である。

 

 整備兵はヴィーノ・デュプレ、赤服の方はルナマリア・ホークといい、2人とも終戦後にザフトの隊員となった実際の戦場に立ったことがない若い兵士であった。

 

「はぁ……もう、なんかごちゃごちゃね」

 

「仕方ないよ。こんなの久しぶりってか、初めてって奴も多いんだし」

 

 新兵である2人にとって、これだけのモビルスーツが稼働し、式典用とはいえ武装し、そして多くの人々が行き交う光景は、それに関わる経験は初めての体験である。

 

 先ほどはジンに危うく踏み潰されそうになった。

 普段であればモビルスーツが並び稼働する区画に人や車が行き交うことなどないはずだが、今日の賑やかさはモビルスーツの立ち並び歩き回る危険な場所を道に使わなければ車などまともに走ることもできないほどごった返していた。

 

 ヴィーノの運転する車の進む先には、グレーと黒、そして赤の外装に覆われた、どのザフト艦とも異なるシルエットを持つ一隻の艦艇が見える。

 大戦後は初めてとなる、ザフトの新規宇宙戦艦ミネルバ。

 ヴィーノは搭載モビルスーツの整備士として、ルナマリアはモビルスーツのパイロットとして、2人が今日から正式に配属されることとなる戦艦である。

 

「ザフトの新造宇宙戦艦“ミネルバ”……やっと就役するんだ。配属はやっぱり噂通り月軌道になるのかな?」

 

「さあね、どうせすぐにわかることでしょ。それよりちゃんと前見なさいよね」

 

「……気をつけます」

 

 いよいよ迎えることとなるミネルバの進水式に高揚するディーノに対し、ルナマリアが先ほどは彼の運転であわやモビルスーツに衝突する事故という洒落で済ませられない事態を直面しそうになり冷や汗をかいたことから運転に集中しろと注意を促す。

 衝突しそうになり心臓が飛び跳ねるような体験をついさっきしたことを思い出し、ヴィーノは二度とあんな経験はごめん被りたいと素直に頷いて、今度はしっかりとハンドルを握り運転に集中してミネルバに向かう道を走っていった。

 

 ミネルバのドッグに到着後、車を降りたルナマリアに荷台の荷物を手渡しながらそういえばとヴィーノは搭載される予定のモビルスーツの話題を口にする。

 

「そういえば、セカンドステージシリーズの4()()もミネルバに配属される予定だけど、ルナは相変わらずあのザクでミネルバに乗るの?」

 

 ザフトの新型モビルスーツ“セカンドステージシリーズ”。

 ユニウス条約により機動兵器の保有数に制限がかけられているザフトが今回開発した、フェイズシフト装甲の発展型であるヴァリアブルフェイズシフト装甲──通称VPS装甲を搭載した最新鋭機である。

 

 バクゥとガンダムタイプのモビルスーツを融合させた、地上戦闘の活躍を重視して作られた四足獣のモビルアーマー形態への変形機構を持つ“ ZGMF-X88Sガイア”。

 海中航行能力を持ちながら、地上戦闘でも十分な機動力を確保し宇宙戦闘も可能な多数の装備を有する“ ZGMF-X31Sアビス”。

 ミサイルポッドとビーム砲を搭載したドラグーンシステムを2機搭載しており、高度な空間認識能力を必要とするがモビルアーマー形態でドラグーンの補助推進と合わせれば重力圏下の飛行も可能な高い機動力を有する“ZGMF-X24Sカオス”。

 

 開発の遅れにより今回の進水式にロールアウトが間に合いそうにない空戦強化型のモビルスーツを除く、3機のセカンドステージシリーズのモビルスーツもミネルバに配属される機体である。

 そのうちの1機であるカオスの正式パイロットはドラグーンシステムの制御をこなせる高い空間認識能力を持つルナマリアの同期である。

 また、アビスの正式パイロットとテストパイロットもルナマリアにとって面識がある先輩の赤服であり、2人はかつての大戦にも参加し実戦を経験している戦士である。テストパイロットのザフトとは同姓同士ということもあり親交があり、正式パイロットの方はカオスのパイロットともども今後共にミネルバに配属される仲間である。

 

 ルナマリアも赤服を授かる同期の中ではトップクラスで優秀なパイロットだが、流石に最新鋭機であるセカンドステージシリーズのパイロットの席を勝ち取ることはできなかった。

 ルナマリアの乗機はゲイツやジンに代わるザフトの新型量産モビルスーツとして開発されたニューミレニアムシリーズのZGMF-1000ザクウォーリアであり、標準の塗装は緑だが彼女専用にカラーリングを赤にしているカスタム機である。

 

「ええ、乗りなれているしね。……そういえばレイは?」

 

 セカンドステージシリーズの正式パイロットに関しては狙っていたわけではないので、同期が選ばれたことに関しては特に嫉妬などは抱いていない。

 むしろ彼女としては乗り慣れておりかつ自身に合うようにカスタマイズを重ねた専用機のザクウォーリアの方が性に合っている。

 

 ミネルバに配備されるモビルスーツにも彼女の専用機があり、配属されてからもその赤い機体を使うつもりである。

 

 そういえばと、高い空間認識能力を買われカオスの正式パイロットに選ばれた同期“レイ・ザ・バレル”の姿がないことに気づいたルナマリアが、荷物を下ろし車を片付けるために運転席に座り直したヴィーノにその所在を尋ねる。

 

「レイ? 確かデュランダル議長のシャトルが到着する頃だし、出迎えに行っているんじゃないかな?」

 

 ルナマリアにレイの所在を尋ねられたヴィーノは、そういえば明日の式典に参列するプラントの現トップであるデュランダルを乗せたシャトルが到着する時刻だから、その出迎えに行ったのではないかと推測する。

 

 レイはザフトに入隊する前はデュランダルの元で幼少期を過ごしていたこともあり、彼のことを父親のように慕っている。

 レイがミネルバ以外に行く先があるとすれば、デュランダルの元かカオスなどセカンドステージシリーズ3機が置かれてあるハンガーだろうが、先ほどその6番ハンガーの前を通過した時にはレイの姿がなかったことからヴィーノは十中八九デュランダルの方だろうと予想した。

 

「それもそっか。マーレさんは──って、そういえばさっきハンガーにいたわね」

 

 ヴィーノの示した予想に、レイがデュランダルのことを慕っていることを知っているルナマリアも確かにそうだと頷く。

 ではアビスの正式パイロットである“マーレ・ストロード”の方は何処かと訊こうとしたとき、そういえば先ほど6番ハンガーの前を通ったときにアビスのテストパイロットを務めていた先輩とともにハンガーの中に入っていく姿を見かけたことを思い出した。

 

「ユノさんも居たし、多分なんか面倒ごとでもあったんじゃない? ほら、あの人細かい設定とか全部ユノさんにやらせたがるし」

 

 マーレはモビルスーツパイロットとしては赤服に恥じない優秀な腕を持つが、自信家でプライドが高くナチュラルを見下す典型的なコーディネイター優先思想の持ち主であり、簡単に言うと面倒くさい人物である。

 またアビスのテストパイロットを務めていた赤服の“ユノ・アサガオ”は同期であると共に友人であり、アカデミーの頃から成績を競い合った好敵手だとのこと。しかし事あるごとに本来はパイロット自身が行うアビスの細かい設定などの面倒ごとを押し付けるなどちょっかいを出し合うような間柄である。

 側から見れば好きな子にちょっかいをかけている面倒くさい男子小学生そのものであり、マーレは事あるごとに声高に否定するが2人のことを知る面々には片思いしているのだろうという共通認識が広がっていた。

 

 6番ハンガーにはカオスと共にアビスも置かれているはず。

 また設定を変にいじって動作がおかしくなったからマーレがユノを呼んだのだろうとヴィーノはみていた。

 

「え、また? 全く、あいつといいマーレさんといい、なんでこう男ってこう子供な連中ばっかりなの……」

 

 ヴィーノの推測を聞いたルナマリアは、またかとため息をこぼした。

 落ち着きのあるレイはともかく、もう1機のセカンドステージシリーズの正式パイロットである同期や、目の前のミリオタでいつも緊張感に欠けたマイペースの整備兵など、やたら子供っぽいところのある歳の近い男どもが多いと、呆れた感情のこもったため息が出るというものだ。

 

「だよね、マーレ先輩ってめんどくさいところあるよね。それじゃあ車片付けてくるから、ルナは先に行ってて!」

 

 そしてヴィーノは自覚がない。

 それを見て、ルナマリアは再度ため息を吐いた。

 

「ええ、そうね……この暢気な赤メッシュに察しろというのは無理があったわ」

 

「あ、シンからメールがきた。なになに? “どうしよう、おっぱい揉んじゃった”だって! ちょっ、何言ってんのこいつ!?」

 

「バッカじゃないの?」

 

 ルナマリアの言葉をスルーして、ルナマリアの同期でありヴィーノにとっては親友でもある赤服“シン・アスカ”から届いたしょうもない内容のメールを見て腹を抱えて笑うヴィーノ。

 お下品な内容のメールを送ってきた同期といい、それを受けて公の場でも躊躇いなくその内容を大声で発表しては笑い転げるマイペースな赤メッシュといい、精神年齢が幼年学校で止まってしまったのではないかと疑いたくなる。

 

「ルナ、試しにおっぱい揉んでいい?」

 

「張り倒すわよ」

 

「なら、メイ──」

 

「コロすわよ」

 

「……シン達の迎えに行ってきます」

 

 基本的に空気を読まないというか読めない天然なので、素で周囲を混乱させる迷言をぶっ放すことが多いマイペースなヴィーノだが、流石に普段は明るいルナマリアが見せた目のハイライトが消える殺意むき出しの表情には冗談でも言ってはいけないことがあることを察して大人しく車を発進させた。

 

 おそらく、連絡が来たことからシンが宇宙港に到着したということなのだろう。

 なぜその内容があんなくだらない物になったのかヴィーノとルナマリアには分からなかったが、とりあえず迎えに来てくれという合図なのだろうと判断したヴィーノがルナマリアから逃げるように車を出した。

 

 ちなみに、シンの配属先もミネルバとなっている。

 人見知りなところがあり感情的になりやすいなど子供っぽいところはあるものの、根は善良であり年下には優しく面倒くさい先輩やマイペースな整備兵と違って素直で純粋な性格をしている好青年である。

 同期であるルナマリアも友人として姉妹ともども良好な関係を築いており、アカデミーの頃からの付き合いがある3人で同じミネルバに配属となった時は喜びと安堵を覚えたものである。

 

「ていうか……本当になんなのよ、あのメールは?」

 

 シンは子供っぽいところはあれども真面目なので、冗談だとしてもコロニーに到着した連絡を“おっぱい触った”などというしょうもないメールにするような人物ではないのだが。

 

「……まあ、どうせヨウランの悪戯とかでしょ」

 

 おおかたシンと共に来る予定の友人の整備士“ヨウラン・ケント”のイタズラなのだろうとルナマリアは予想した。

 

「さてと、まずはこれを運んで……レイが来たらザクを受け取りにハンガーの方に行かなきゃね」

 

 ひとまずシンからヴィーノに来た意味不明な悪戯メールのことは置いておき、まずは荷物をミネルバに与えられた自室に運び込むべく、今日から所属することとなる新型戦艦に乗り込んでいった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、アーモリー1の宇宙港にはコーディネイターの人的資源の流出問題に関してのデュランダルと非公式の会見に臨むべく、ソロモン諸島を国土に持つオーブ連合首長国の代表を務める人物が、地球からのシャトルに乗って訪れていた。

 

 宇宙港に到着後、サングラスをかけた護衛とオーブの外交官達を伴いシャトルを降りたオーブ代表である金髪の姫君──カガリ・ユラ・アスハは、出迎えた紫服に身を包むプラント最高評議会議員の案内の元、デュランダルに会うため港の中を進んでいる。

 

 会見の予定時間までは1時間ほど。

 案内役の紫服に先ほど入った通信から、デュランダルの方にもカガリの来訪は伝わったとのことで会談予定場所に向かっているとのことであった。

 

 ザフトのトップとして大戦を指揮し、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦において大量破壊兵器ジェネシスにて地球連合艦隊に壊滅的な被害を与え、最後には地球に向けて破滅の一射を放とうとした先先代プラント最高評議会議長“パトリック・ザラ”の息子であり、そしてその最後の破滅の一射を自らのモビルスーツの自爆と引き換えに止め、その後オーブへ名を変えて亡命した人物。

 表向きにはカガリのボディーガードであるアレックス・ディノを名乗り、かつての大戦を終結に導いた英雄“アスラン・ザラ”。

 

 かつて連合・プラント大戦においてザフトに、そしてクライン派とオーブ解放作戦にて本土から脱出したカガリを中心とする3隻同盟に属し、大戦終結に負けて戦い抜いた英雄の1人は、この2年オーブ復興に向けて邁進してきたオーブの現首長であり、そして自身の最愛の人となったカガリに声をかける。

 

「服はそれでいいのか? ドレスも一応は持ってきているよな?」

 

 アスランの前を行くカガリの服装は、オーブの首長が身につける正装である濃い紫色のスーツである。

 非公式とはいえ、国家の首脳同士の会談の舞台である。

 正装であるこちらの格好でも問題はないのだが、出発前にもカガリを“アスハの当主”とするこの服の他に、“オーブの姫君”とする格好であるドレスの用意もするようにと何度も念押ししてきた。

 

 実際、カガリはちゃんとドレスは持ってきている。

 アレックスの後ろにいるオーブの外交官達の持つケースの一つに収められているのだが、アフリカでザフトに対抗する砂漠のレジスタンスに身分を隠して入る暴挙をやらかす姫は、女物の衣装を着るのにいまだに抵抗があるらしい。

 

「な、何だっていいよ。いいだろ、このままで」

 

 正装なのだからという理由を盾に、明らかにドレスを着たくないという態度が見える答えを返す。

 それを聞いたアスランは、非公式であろうとも公の舞台に政治の代表者として立つならば舞台俳優よろしく“魅せる”パフォーマンスというものも必要なのだと諭すように伝えた。

 

「必要なんだよ、演出みたいなことも」

 

「むう……」

 

「分かるだろ? バカみたいに気取ることもないが、軽く見られてもダメなんだ」

 

 納得いってない様子のカガリに、真剣な表情で説明する。

 実際カガリの格好は本人の年齢もあるが、“オーブの獅子”と謳われた父であるウズミと比較すると子供が背伸びをしたような印象を与える格好である。

 これが国家のトップとなれば、相手に舐められやすくなるだろう。

 

 しかし獅子の子供ではなく、オーブの姫君の印象を出す煌びやかなドレスならば、彼女の正義感を示すような強い目力と金色の髪もあり、その印象はまさに獅子が残した国を引っ張る煌めく姫君というものになるだろう。

 それだけでも相手側が受ける印象は変わり、話し合いでも視覚から主導権を握りやすくなり有利な外交を展開しやすくなるのである。

 

「今回は非公式とはいえ、今の君はオーブの国家元首なんだから」

 

「……ああ」

 

 政治において重要な民衆の支持を獲得するのは、弁舌であり、演出である。そう、まさに舞台に立つ役者なような。

 求められるのは、父の面影を追う子獅子ではなく、オーブを照らす太陽のような姫だと。

 

 頷いたカガリだが、明日のミネルバ進水式とセカンドステージシリーズの公開を見るために人がいつも以上に多い宇宙港の中を進むなか、少し無言となってアスランに振り向いた。

 

「……やはりこの服で会う。ドレスはいざとなったら窮屈で動けない自信がある」

 

「カガリ……」

 

 さっきまでのやる気はどこへ? 

 やっぱりドレスは嫌だと、いざとなったらとはいつのことだと突っ込みたくなるような言い訳でドレスを拒絶したカガリに、アスランはため息をこぼす。

 

 奇しくもほぼ同じタイミングで、このアーモリー1の別の場所で似たようなため息をこぼしていたザフトレッドがいたことなど、アレックスは知る由もない。

 

 そして、ため息をこぼしていたアスランは宇宙港のロビーにいた3人の若者の存在に気づくことはなかった。

 彼らがデュランダルとの会談の最中、とんでもないことを起こすことになるなどそれこそアレックスは知る由もない。

 

 宇宙港を出た後、デュランダルの待つ施設に到着したカガリ達は、エスカレーターにて移動している。

 直通とはいえ少し時間のかかるエレベーターの移動中、外で見た明日に控えるミネルバの進水式のことについて、デュランダルを探る意味も込めてカガリは2人の紫服に触れた。

 

「明日は戦後初の新型艦の進水式だそうだな。こちらの要件はすでにご存知だろうに、そんな日にこんなところでとは……恐れ入る」

 

 新造戦艦ミネルバ。

 今回のデュランダルに対する非公式の会談の目的は、オーブから流出したコーディネイターたちの持つ技術が軍事技術に活用されていることに対する抗議である。

 

 まさにデュランダルがプラントをあげて展開している軍需産業の生み出した結晶と言える存在。

 こういったものにオーブから流れた人材が利用されていることに対する抗議だというのにと、非難めいた文言を向けた。

 

「申し訳ありません。議長閣下のご予定の都合上、今日しか機会を確保できず……」

 

 申し訳なさそうにする紫服。

 議員とはいえ所詮案内役をやらされるような立場のもの、その地位基盤は弱くデュランダルには伝わっているだろう今回の非公式会見の内容も把握しきれていないのだろう。

 

「内々、かつ緊急にと会見をお願いしたのはこちらなのです、アスハ代表。プラント本国に赴かれるよりは目立たぬだろうというデュランダル議長のご配慮もあってのことだと思いますが……」

 

 オーブからの避難民の軍事利用に対し、最近ほとんど抗議へのまともな返答も出さずに無視する事もある今の態度を強く非難する意志を言葉に乗せる。

 それに対してカガリを宥めデュランダルを擁護する発言をするアレックス。

 彼のおかげでカガリも少し落ち着き、場の空気も和らいだ事で、案内役の紫服は心の中でホッと一息ついた。

 

 到着したエレベーターの扉が開かれる。

 その先には側近の議員と思われる紫服と護衛の緑服をそばに控えさせた、現在のプラントのトップに立つ最高評議会議長“ギルバート・デュランダル”の姿があった。

 

「やあ、これは姫。遠路お越しいただき、申し訳ありません」

 

 立った状態でカガリを出迎えたデュランダルは、優先思想と憎しみに染まったようなもの達とは異なり横柄さを感じさせない丁寧な態度で手を差し出す。

 

「いや、こちらも多忙の中お時間を割いていただき感謝する」

 

 それに対して、カガリも落ち着いた様子でデュランダルの差し出した手を握った。

 

「こちらへ」

 

 デュランダルが慣れた様子でエスコートし、カガリを今回の会談の場であるアーモリー1を見渡せる窓の前に並んだ二つのリクライニングチェアの所へと案内する。

 その際に一瞬アレックスの方に目を向ける。

 アレックスはまだアスランの名を使いザフトに所属していた頃にデュランダルと面識があったが、サングラスをかけていたから誤魔化せたのか、それともデュランダルが理解した上で何も言わずにいてくれたのかは定かではないが、一瞬視線を向けるだけで特に何かを言うことはなかった。

 

「姫が代表となられてからは、実に多くの問題を解決されたと。私も盟友として大変嬉しく、そしてうらやましく思っています」

 

 カガリが座ってからデュランダルももう一つの椅子へと座り、当たり障りのない世間話から会話を口火を切る。

 実際、戦後のオーブの復興と発展は目を見張るものがあり、解放作戦の後にはマスドライバーも沈みオノゴロが更地となるような戦闘を繰り広げながら、技術立国の総力を上げてわずか2年で戦前の姿を取り戻す勢いで復興が進められている。

 プラントを含めた多くの国が戦火の傷と大戦の撒き散らされた憎しみからの分裂など多くの問題に苦難する中にあって、その順調に国を建て直しているオーブは、ウズミ亡き後国の旗頭としてまとめ役として奮闘するカガリとそれを支える宰相のセイランの尽力の賜物と言える。

 

「私など父の威光に頼ることで何とか国をまとめられているような若輩者、まだまだ至らぬことばかりだ」

 

 デュランダルの言葉に謙遜するカガリ。

 

 デュランダルの言葉は社交辞令の挨拶だが、水面下でいまだに衝突の危機を抱える連合や地球との和平を認められない過激派のテロなどの問題を抱える彼にとって国家一丸となって復興に進むオーブの姿は本当に誇らしく羨ましいという感情があるのだろう。

 

「それでこの情勢下、一国の代表が御身自らお忍びで、それも火急なご用件でとは……一体どうしたことでしょうか?」

 

 すでに大使館を通じて幾度もプラントへオーブが訴えてきた問題。

 前大戦にて起きた大西洋連邦の侵攻であるオーブ解放作戦、そして終戦後も世界に蔓延るブルーコスモスのテロ。

 それらから避難するためオーブからプラントに流れたコーディネイター達が、生活のためとはいえプラントが拡大させている軍需産業に勤め、機密情報に携わったため出国許可が出せないと安定してきたオーブに帰国する事もできずにいる問題。

 そのことで大西洋連邦など地球連合にはオーブがプラントに難民を装った軍事技術の秘密供与をしているなどという言いがかりのような疑惑を向けられた事もあり、あわや地球を焼く戦火が再燃する危機が発生した事もあった。

 

 人的資源の流出、技術の流出、それらが軍事利用されているという状況に対するオーブからの帰国、叶わずとも国際社会を刺激し帰国をより困難にしてしまう問題である軍需にオーブの技術や難民を利用することを即座に止めることを求める再三の抗議に対して“解決に向け尽力する”、“難民の生活や帰国までの安全は保障する”など当たり障りのない、悪く言えばのらりくらりと交わすような対応をするプラント側に、家族に会いたいという民衆の声もあり業を煮やしたカガリが自ら動いた。

 

「大使からの連絡によれば、だいぶ複雑な案件のご相談だとか……」

 

 プラント側からすればブルーコスモスによるテロが頻発している地球は未だ危険であり、プラントを頼りにしてきた同胞を他国の人間とはいえ返せと言われてはい分かりましたと送り出し、その先でテロに巻き込まれて死ぬようなことは望んでいない。

 

 オーブは安定しているが、プラントにはオーブだけでなく南米から避難してきたコーディネイター達もいる。

 南米の政情はユニウス条約締結による終戦の直前まで戦闘が繰り広げられており、いまだに治安も悪くテロも多発しているため避難民の帰国は到底できる状況ではない。

 オーブの避難民はすぐに帰国できるのに南米からの避難民は帰国できないなどという状況を作るわけにもいかず、終戦後の避難民の帰国が遅れ、長期化する避難民達の生活のために職を斡旋したことと、プラントが力を入れている軍需産業の拡大に人材が必要という需要と供給が噛み合ってしまったことで、軍事の機密情報に携わってしまい出国許可が出せなくなるという悪循環が生まれ、むしろ技術立国であるオーブのコーディネイター達の帰国も困難になるという状況が出来上がってしまっていたのである。

 

 オーブからの抗議も理解できるし、プラント側としては帰国の希望を可能な限り叶えたいという意志を見せている。

 だがさまざまな障害が発生しているため実現できないという状況であり、時間ばかり過ぎていた。

 

 しかし、カガリ達からすればいつまでも故郷に帰国できず家族にも会えないオーブからの避難民をプラントが何かと理由をつけて拘束し、そしてプラントな生活基盤を作るための手段と下の名目で、拡大する軍需産業に彼らを利用しているように見えてしまっている。

 ミネルバの浸水式が翌日に控えている軍事施設のコロニーを会談の場に指定した事もあり、カガリにはこのプラントの軍事力を作ったのにオーブの避難民を使っていることを示しているように感じた。

 

 安全面の問題があるのは理解できる。

 今すぐ国民の帰国を叶えられるのが一番だが、プラントもそれが難しい立場にある事も一応理解はできる。

 

 だがカガリにとって苛立つのは、彼らの生活があるとは言え軍事産業に避難民を用いるという戦争によって避難生活を強いられた人々の心情を踏み躙っているように見えてしまうプラントの方針だった。

 

「私にはそう複雑な問題とは思えないのだがな。だが、いまだにこの案件に関する貴国の明確なご返答を得られないということは、やはり複雑な問題なのか?」

 

「…………」

 

「我が国が再三再四、かのオーブ戦の折に流出した我が国の技術と人的資源の利用を即座にやめていただきたいと申し入れている。それが帰国を望む者たち、家族との再会を望む者たちの障害を増やしている」

 

 デュランダルは口を挟む事なく静かに、しかし彼女の真剣な瞳から目を逸らす事なく訴えを聞く。

 

「あまつさえ、彼らは戦火から逃れるためにオーブに、そしてプラントに逃れたのだ。そんな彼らを軍需産業に携わらせるなど、彼らの心情を踏み躙る行いであると貴方がたは思わないのか!」

 

 そしてカガリもまた、戦争から逃げてきた先で戦争のための事業に平和になった世界で携わらされていると思っている避難民たちの心境に思いを馳せ、若さゆえにデュランダルに対する抗議の声に感情がこもり強い口調となった。

 

 そしてその訴えを受け止めたデュランダルは。

 彼女が本当に国民を想っていることを承知した上で、彼女に提案した。

 

「姫、少し外に出ませんか?」

 

「何故?」

 

「貴女が本気で自国民のことを想っている、それは私にも強く伝わりました。故にこそ、直に彼らに──プラントで生活し、ここアーモリー1に暮す人々の今の姿を見て声を聞いていただきたいのです」

 

 デュランダルの提案は、アーモリー1の軍施設、モビルスーツのハンガーなどがある区画で働くオーブの避難民らに直に会ってみてはどうかというものであった。

 

「私もまた、戦火によって故郷から引き離され平和な世界でなお軍需に携わる選択をした彼らの声を聞いていただきたい、知っていただきたいのです。故郷に帰らぬ日々が続く中で、我々プラントに技術を、知識を、力を貸していただいているのかを」

 

「……是非、見せていただきたい」

 

 そのデュランダルの提案に、少し頭が冷えたカガリが応じる。

 先の大戦では父親を失うまで割と感情任せに動いていたところの多い彼女だが、ウズミ亡き後託されたオーブを守るために多くのものを小さな肩に背負うこととなった。

 それは彼女の内面にも少なからず成長を与え、この2年でだいぶ落ち着きを持つようになった。

 ……もっとも、まだ感情を制御しきれていない面は少なからずあるが。

 

 無知故の失敗も重すぎる代償を持って経験した彼女は、一方的に偏ることは少なくなっている。

 プラントの庇護下で生活する彼らの声を聞くことで、見えなかったところが見えるようになるかもしれない。

 

 デュランダルに案内される形で、カガリ達オーブからの一行はモビルスーツのハンガーが並ぶ兵器工廠の軍事施設区画の一角へと降りていった。

 

 明日の式典に向けて準備が進められ、多くのモビルスーツが稼働している中を、デュランダルに案内されるまま進むカガリ達。

 ジンやディンなどのアレックスにとっては馴染みある機体の他にも、ガズウートやバビなどの最新鋭の改良機の姿を見える。

 その最中、歩きながらデュランダルはカガリに先の大戦で自らモビルスーツを駆った武勇伝について触れてきた。

 

「姫は先の戦争でも、自らモビルスーツを駆使し戦われた勇敢なお方だ。また、先の大戦でも最後まで屈することなく自国の理念を貫かれたオーブの獅子、ウズミ氏の後継者でもある。あのヤキン戦役にも参加し、そして大戦を終結に導いてみせた、まさにオーブの若き英雄でいらっしゃる」

 

「…………」

 

 デュランダルは純粋に称賛しているのだが、望まぬ戦いで余りにも多くのものを失った彼女にとってヤキン戦役は苦い思い出である。

 表情が影を帯びたが、前を歩くデュランダルは気づく様子はない。

 

 しばらく歩いた先で、デュランダルが扉の開かれたあるハンガーの前で立ち止まった。

 4番ハンガーは現在ゲイツに変わるザフトの新たな正式量産機となるモビルスーツ、ニューミレニアムシリーズ“ ZGMF-1000ザクウォーリア”が並んでいる姿が見える。

 

 それはオーブからの避難民の協力を得て完成にこぎつけた、換装による宇宙、地上問わない戦闘をこなせる他、災害救助や工作などの多用途を少ない機体数でこなすことをコンセプトとするウィザードシステムに対応している機体であった。

 

「ならば今のこの世界情勢の中、我々はどうあるべきか。よくお分かりのことかと思いますが」

 

「“他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない”……私は、我らは自国の理念を守り抜く。それだけだ」

 

「それは無論、我々も同じです。そして誰もがそうあれれば一番良い……だが、力無くばそれは叶わない」

 

 デュランダルがカガリからハンガーの中に並ぶザクウォーリアに目を向け、それを追ってハンガーらに並ぶ新たなプラントの主力モビルスーツの姿を見たカガリ達に、そのザクウォーリアがプラントを守るための力であると示すように言った。

 

「だからこそオーブの軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」

 

 そして、軍備を拡大しているのはプラントだけではない。

 オーブもまた、この2年はモビルアーマー形態への変形機構を持つ新型の量産式モビルスーツの開発を成功するなど軍備の拡大をしていた。

 

「そ、その“姫”という呼び方はやめてもらえないか?」

 

 軍需の拡大に関しては、かの大戦の頃には今まで他国のコーディネイターの避難民を利用し中立国でありながら大西洋連邦と共同でG兵器の開発を進めるなどしていたオーブには文句を言える筋はない。

 流石にその辺りは非難できる立場にないと、カガリは話題を変えるように──しかし半分は本心だろうが──デュランダルに“姫”と呼ぶのをやめるように頼む。

 

「これは失礼しました。アスハ代表」

 

 デュランダルは謝罪と共にカガリの呼び方を姫からアスハ代表に訂正し、ではこちらへとアーモリー1にてオーブからの避難民が技術者として多くいる場所に案内した。

 

 大半は真面目に作業に従事しているが、数人がデュランダルと自分たちの故郷の国を今や引っ張る立場に切る獅子の娘であるカガリの姿を見つけ、その顔を知る者は驚愕の表情を浮かべた。

 

「かのオーブ戦の折、難民となった同胞を我らが迎え入れたことはありました。我々としても、彼らを故郷に安全に帰れるようにするためにも手を尽くしているつもりです。ですが──」

 

 地球では、いまだにブルーコスモスのテロが相次いでいる。

 南米からの避難民もいる。

 帰国の目処が立たず、非難生活が長期化する中で、プラントで生活するためにもコロニー群での就業を希望する避難民が出てくる。

 

 オーブの高い技術力を知る人々に、最もその能力活かし、待遇も保障できる、そしてプラント側も必要とするモビルスーツなどの軍需事業に斡旋することとなるのは、需要から必然と言えた。

 

「そんな彼らがここで暮らしていくために持てる技術を活かしていくことは仕方のないことではありませんか?」

 

 避難民を養うのはタダではない。

 そもそもプラント側も大戦の大きな傷跡は残っている。

 そうなれば、いずれ避難民とプラント内での軋轢が大きくなるだろう。

 避難民たちの安全な暮らしのためにも、生活基盤のためにも、軍需産業に彼らが携わることとなるのは仕方のないことだと。その結果ザフトの軍事力が進化する流れは誰も止まることを望んでいないから、仕方のないことであるとデュランダルは主張した。

 

「だが、強すぎる力はまた争いを呼ぶ!」

 

 強大すぎる力は、また新たな争いを生む。

 核兵器が、ニュートロンジャマーが、ガンダムが、ニュートロンジャマー・キャンセラーが、ジェネシスが……強大すぎる力が危険なものであり、争いを生むものであることを嫌というほどその事実を証明するものがかつての大戦にはあり、その恐ろしさを目の当たりにしてきた経験のあるカガリは、デュランダルの正面に立って叫んだ。

 

 現に、オーブはザフトと秘密裏につながりユニウス条約を違反する軍事供与をしているのではないかと、大西洋連邦に言いがかりを突きつけられた。

 スカンジナビア王国の仲裁などもありなんとかその時は新たな戦火が燃え上がることを防ぐことはできたが、抑止力だと軍拡を続けていけばいつかそれを巡るぶつかり合いが、戦争が起きる危惧があった。

 

 だからこそ、強大すぎる力は新たな争いを作る。

 そう主張するカガリに、デュランダルは首を横に張る。

 

「いいえ、姫。争いが無くならぬから、力が必要なのです」

 

 争いを生まないためには、戦いの火をつけないためには、戦争を起こせばタダでは済まないと相手にわからせる目に見えた力が必要である。

 抑止力こそが戦火を生まないために必要なことだと、デュランダルは主張した。

 

「それでも──」

 

 それに反射的にさらなる反論をぶつけようとするカガリ。

 だが、その言葉を遮るように、工廠区画に非常事態を知らせる警報が、セカンドステージシリーズ3機を置いている6番ハンガーより鳴り響いた。

 

「!?」

 

 その警報を聞いたザフトたちが、各々何事かと驚きの表情を浮かべる。

 何しろ明日は式典を控えた日。そんな忙しい日に緊急事態が発生した時の訓練など、当然予定していない。

 

 つまり、この警報が知らせることは訓練ではない、本当の非常事態が発生したことをアーモリー1全体に知らせるものだった。

 

「警報!? 一体何が──」

「6番ハンガーの方だぞ!」

「急いで事態を確認しろ!」

 

 すぐに近場にいたザフトの隊員たちが動く。

 

「何事か!?」

 

 デュランダルも現場の混乱ぶりから想定外の何かが起きたことを察し、何事だと事態の把握に努めようと声を上げた──まさにその直後だった。

 

 警報の発生源である、ザフトの最新鋭モビルスーツ“セカンドステージシリーズ”のうち完成した3機が保管されている6番ハンガーの隔壁の内側から眩い光線が貫き、直後にその扉を破壊したのである。

 

 突き抜ける衝撃波と響き渡る爆発音。

 ハンガーの隔壁を貫いたビームは正面にあった第16ハンガーとその前に立っていたディンに直撃し、内部のモビルスーツなどを破壊。

 その際の爆炎が推進剤の予備タンクなどに引火し、ハンガーを吹き飛ばす大爆発を引き起こした。

 

「カガリ!」

「議長!」

 

 咄嗟にアレックスがカガリを、護衛のザフトがデュランダルを庇いその場に伏せる。

 爆風はトラックの陰に隠れた彼らの頭上を通り抜け、破片を撒き散らした。

 

「一体何が──?」

 

 事態もわからず混乱する中でアレックスがこぼした呟き。

 それに答えを示すように、炎が巻き起こる破壊された6番ハンガーの中から、その巨人は姿を現した。

 

 機体を黒に染まる新型のフェイズシフト装甲であるヴァリアブルフェイズシフト装甲──通称VPS装甲で覆われた機体。

 

「ガイアだと……!? 何で!」

 

 出てきた機体、セカンドステージシリーズの1機であるガイアの姿に、先ほどの爆発を起こすビームを発射してきた犯人の答えを示され、混乱するザフトたち。

 そんな混乱でほとんどまともにザフト側が動けない中、ガイアはビームライフルを近場の突っ立っているだけのジンに向けて無造作に発射すると共に、その場から飛び出す。

 

 直撃を喰らったジンが爆発を起こす横をモビルアーマー形態である四足獣を模した形態に変えて駆け抜けるガイアは、そのまま背中のビーム突撃砲を発射し、モビルアーマー形態時の近接戦闘装備であるグリフォンビームブレイドを展開して、手当たり次第に破壊を始めた。

 

「ぐわあああ!?」

「クソッ何がどうなって──」

 

 突然の事態に、大戦の影響で戦場を知る戦士たちの多くが失われ、この2年でザフトに入った実戦を知らない新兵たちが増えたザフトは、目に見えて対応が遅れている。

 暴れるガイアにいいように破壊され、多くの死傷者が発生してからにやっと慌ただしくモビルスーツを各ハンガーなどから起動して出動させ始めた。

 

 しかし、ことはまだ終わらない。

 ガイアが飛び出した後、燃えるハンガーからカオスの象徴である2機のドラグーンが飛び出し、ミサイルやビームをばら撒くように撃ってきた。

 

 そしてドラグーンに続くように、扉の破壊された炎の中から緑のカラーとなっているVPS装甲を持つセカンドステージシリーズの機体──カオスが背中からバーニアを噴かせながら飛び出し、それを追うように肩の巨大なビームシールドと長柄の近接武装であるビームランスを装備したもう1機のセカンドステージシリーズ──アビスが出てきた。

 

「カオスに、アビスまで!?」

「何がどうなっているんだ!?」

 

 混乱するザフトたちを尻目に、ドラグーンのミサイルを手当たり次第にモビルスーツやハンガーなどを狙ってばら撒くカオス。

 そして本体を追うように槍を構えて出てきたアビスにビームライフルの銃口を向けると、同じザフトによって作られた味方同士のはずの機体に発射した。

 

「ま、まずい──うああああぁぁぁ!?」

 

 それに対し、アビスは肩のビームシールドを用いて防御する。

 しかし拡散された一部の跳弾となるビームが地面に降り注ぎ、付近のザフトの隊員たちや車などに降り注いだ。

 

 突如として発生したセカンドステージシリーズ同士の戦闘に混乱状態になるアーモリー1。

 ガイアやカオスのドラグーンによる手当たり次第の破壊行為に、カオスとアビスの戦闘による余波で、つい先程まで賑やかながらも平和だったアーモリー1は一瞬にして戦場に変わった。

 

 それは、かつての大戦を上回る犠牲を出すこととなる新たな大戦。

 後世において“第二次連合・プラント大戦”と呼ばれることとなる戦争の序章となる。

 

 ザフトの最新鋭モビルスーツ“セカンドステージシリーズ”の強奪事件。

 新たな大戦の最初の戦火となったこの事件は、事件発生の軍事コロニーから“アーモリー・ワン事変”と呼ばれることとなる。




大筋の流れはアニメ版に沿って進みます。
(ただしアビスの不足分を埋めるため各所の戦闘では敵側に増援があります。)

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