もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

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今回はphase 3“予兆の砲火”の続きになります。



予兆の砲火

 

 ガーティー・ルーをボギーワンと命名し、ボギーワン追撃任務に従事することとなったミネルバ。

 大戦の終結に伴い訪れた仮初とはいえ平和な時代にあって、艦籍登録も緊急で行い、初の出航がいきなりの実戦になるという事態に、艦内のザフトたちは落ち着きがない。

 

 乗組員はほとんどが本物の戦場をアーモリーワンまで知らなかった新兵。

 いざこのような事態に見舞われても、まだ実感が湧かないところもある者がほとんどである。

 

 ボギーワンはミラージュコロイドを展開せず、速力を上げてアーモリーワンから離れていっている。

 ミネルバも艦体に見合わずナスカ級を上回る高速艦だが、ボギーワンもかなり速度の出る艦艇であり、追撃に移ったもののすぐに射程に捉えるということはできず、レーダーによる索敵と共にミラージュコロイドを使用されても逃さないようにと熱紋探知を駆使してその背中を見失わぬように追っている状況である。

 

 ひとまず、砲撃戦から追いかけっこの状態となったことで、タリアはコンディションを戦闘体制(レッド)から戦闘準備体制(イエロー)に移行。

 ブリッジを遮蔽した戦闘状態から、索敵に適した艦橋に展開する状態にして、対艦戦闘の準備とモビルスーツの発進体制を整えると共に、デュランダルに艦長室での休息を促した。

 

 そんな中、自機のザクの故障によりシンやレイよりも一足先にミネルバに搭乗していたルナマリアから、ブリッジにある通信が届く。

 

「艦長、よろしいでしょうか?」

 

「ルナマリア? 構いません、報告しなさい」

 

「はっ! 戦闘中につき報告が遅れ、申し訳ありません。アーモリーワンにて、民間人2名が搭乗していたザクを収容したのですが、その搭乗していた民間人が“自分たちはオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハとその側近アレックス・ディノである”と主張し、デュランダル議長への謁見とケガの治療を求めています」

 

「代表がこの艦に?」

 

 ルナマリアからの報告は、アーモリーワンにて収容したザクにオーブの代表とその従者が搭乗しており、デュランダルへの謁見を求めているというものであった。

 戦闘中ということもあり、ルナマリアは身分が確認できるか戦闘が終わるまではできないと、カガリの怪我の処置のみを行なって士官室に2人を滞在──実質的には身分不明の民間人なので拘束と言った方が正しい状況においていた。

 

 そして戦闘がひとまず収束したのを見て、デュランダルとタリアがいるブリッジにことの些細を報告し指示を求めてきたのである。

 

 デュランダルはタリアと一度視線を合わせると、本当にカガリがこの艦にあるならば会う必要があると判断。

 怪我人ならば無闇に動かすわけにもいかないと、自分が士官室に向かうから2人には少し待ってもらいたいという旨を伝え、ミネルバの責任者としてタリアにもついてくるように言い、士官室へと向かうことにした。

 

「君は、確かルナマリア・ホーク君と言ったかね?」

 

「は、はい!」

 

「オーブの代表とは面識があるので、私が確認しよう。怪我人ならば動かすわけにもいかない。そちらに艦長と共に向かうから、少し待ってもらうよう伝えてほしい」

 

「了解しました!」

 

「タリア、すまないが一緒に来てほしい」

 

「了解しました議長。アーサー、この場の指揮を任せます」

 

「は、はい! 了解しました!」

 

 デュランダルから声をかけられたこと、そしてザフトの一兵士である自分の名前を認識してもらっていることに驚きながら、ルナマリアは敬礼して通信を終える。

 タリアはブリッジの指揮をアーサーに任せ、デュランダルと共にカガリとアレックスが休んでいる士官室へと向かった。

 

 後を託されたアーサーは、索敵と操舵の担当にボギーワンを見逃さないように厳命し、改めてミネルバのクルーにこれが実戦であることと非常に重要な任務であることを伝えるために艦内全域に対しての通信を繋いだ。

 

「全館に通達、本艦はこれより単艦による更なるボギーワン追撃を開始する」

 

 進水式すら果たさずにいきなり始まった実戦。

 コンディションがイエローに移行したことで空気が少し緩んでいたミネルバのクルーたちの間に、まだ戦いは終わっていないことを告げる全館放送が行われたことで、緊張や戸惑いといったざわめきが各所に起こり始めた。

 アーサーは言葉を続ける。

 

「突然の状況から思いもかけない初陣となったが、これは非常に重大な任務である。各員、日頃の訓練の成果を存分に発揮できるよう努めよ」

 

 単艦でのボギーワン追撃を決定したミネルバ。

 インパルスとザクの修復・整備作業が行われているモビルスーツ格納庫では、ちょうどインパルスの修繕を終えて一息ついくついでにパイロットのシンに声をかけていたところであったヴィーノとヨウランが──まだ初の実戦だったから現実を消化しきれていないのだろう──面倒くさがるような、緊張感に欠ける態度でマジかとため息を零す。

 

「うへぇ、ミネルバだけで追撃するのかよ」

 

「また戦闘ってことは、いつでも出撃できるようにしておかないとだな」

 

「…………」

 

 2人の親友の横で、どこか不安そうな表情で沈黙するシン。

 彼の中にはガイアやザクとの戦闘で歯が立たなかったこと、そんな強敵たちを追撃しおそらく再び戦うことになるだろうことを予想しての憂い──よりも、アーモリーワンで戦闘中の姉の安否が気がかりだった。

 

「アーモリーワンは、どうなったんだろ……」

 

 彼女はアビスに搭乗している。そしてテロリストたちの目的は新型のモビルスーツだった。きっと、アーモリーワンではユノのアビスが1番の標的として狙われているはずである。

 赤服であり、アビスのテストパイロットに選抜されるほどの腕前を持つ姉のパイロットとしての力量は知っている。自分なんかよりも遥かに強いことも。

 それでも不安が隠しきれず、口からこぼれた姉を心配する言葉。

 その不安な声が聞こえたヨウランが、安心させるように友人の肩に手を置いた。

 

「あそこは軍事施設だぞ。どれだけ高性能なモビルスーツだろうと、数はザフトが圧倒的に上だ。それにユノさんはレイでも10回に1回、お前なんか100回に1回しか勝てないくらいの凄腕だぞ? お前に心配されることはないって」

 

「そう、だな……ありがとう、ヨウラン」

 

「いいってことよ。そら、パイロットはいつ出撃しても全力で戦えるようここは俺たち整備士に任せて休んどけ」

 

 親友の気遣いに感謝するシン。

 去っていく彼の背中を見送るヨウランに、話を聞いていなかったヴィーノが近づく。

 

「ヨウラン?」

 

「そこ! インパルスが終わったなら次はルナマリア機だ! 人手が足りてねえんだ、早く来い!」

 

「うへえ!? は、はい今行きます!」

 

 何話してたんだと聞き出そうとしたところで、呼び出しの怒鳴り声が響いたことで、ヴィーノとヨウランはルナマリア専用ザクの方に向かうこととなった。

 

「でもさ……まさかこっから本当に戦争が始まったりは、しないよな……?」

 

「だと思いたいね」

 

 ザクに向かう途中、ヴィーノが漠然とした不安を漏らす。

 ヨウランはそれがフラグにならないことを祈りつつ、そうなることはないと願いたいと同意した。

 

 一方ミネルバの士官室では、デュランダルがタリアとレイを伴い、成り行きからミネルバに乗ったカガリと対面していた。

 

「本当にお詫びの言葉もない、姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは……我々の警備の不徳の責任は、議長である私の責任です。どうか、彼らを責めないでいただきたい」

 

「もちろん、彼らは犠牲者だ。私の怪我でプラントを責めるつもりはない」

 

「ありがとうございます」

 

 頭に包帯を巻いたカガリに、デュランダルはまず謝罪の言葉を口にする。

 原因はテロリストの襲撃によるものとはいえ、来訪中の要人が怪我をしてしまったのはそのテロを防げなかったプラント側に責任がある。

 アレックスからことの些細を聞いたデュランダルは、シェルターへの避難誘導を全うできずガイアの攻撃によって殉職したザフトではなく、怪我の責任はプラントの最高責任者の議長である自分にあるから責めるなら自分にしてほしいと伝える。

 

 もちろんあの状況では致し方のないことであり、カガリも自分の怪我に関しては責務を全うしようとした結果殉職することとなったザフトのことも、被害者であるデュランダルのことも責めるつもりはない。

 

 しかし、カガリとしては自分の怪我なんかよりも盗まれたザフトのモビルスーツのことが気がかりだった。

 

 たった2機。

 それだけで、アーモリーワンにあれだけの被害を与えた性能。

 かつての大戦で猛威を振るったザフトのジンやシグー、ディン、ゲイツといったモビルスーツをおもちゃのように一方的に破壊し、アスランの操縦するザクもインパルスがいなければ撃破されていたほどに追い詰めた。

 

「あの部隊については、全く何もわかっていないのか?」

 

 考えられる可能性としては、ブルーコスモスの残党か、プラントに蔓延るパトリック・ザラを信奉する過激派か。

 最新鋭機とはいえ、あの技量である。宇宙海賊の類ではないだろう。

 どちらにせよ、危険な組織が持つには大きい力。彼らが望む再びのプラントと連合の大戦を引き起こす引き金に十分なり得る兵器である。

 

 カガリの質問に、デュランダルも現状では何もわからないと答えるしかない。

 

「ええ……敵艦は我々の認知するいずれの艦級にも当てはまらず、艦体にも彼らの所属を示すものは何も……アーモリーワンでも、残存した敵部隊を見失ったと報告が届いており、彼らの正体は我々もつかめていないのが現状です」

 

 アーモリーワンでも、残ったNダガーNとザフトとの間で交戦が続いていたが、先ほどその敵にも逃げられ何も手がかりが残されていなかったという報告が届けられたところである。

 唯一手掛かりになりそうなのは前大戦のヤキン戦役でロストしたはずのファーストステージシリーズの1機、テスタメントに酷似したモビルスーツだが、あの機体は何故か観測できた記録が残っておらず肉眼で確認した証言だけで詳細が全くわからなかった。

 

「しかし──」

 

 ザフト側も何もわからない。

 そのことを聞き、ミラージュコロイドを保有することからプラント側のテロリストよりもブルーコスモスの生き残りに対する疑念を強めたカガリに、デュランダルは言葉を続ける。

 

「だからこそ、我々は一刻も早くこの事態を収束させなければならないのです。……取り返しのつかなくなる前に」

 

「ああ、分かっている。それは当然だ、議長」

 

 デュランダルのこの事件を早期に終結させなければならないという言葉には、カガリも同意する。

 あれだけの犠牲を払ってようやく得た平和な時代。

 しかしそれは薄氷の上にあるような危ういバランスに成り立っており、小さな火種一つで再び互いの人種を憎み合う戦争が勃発してもおかしくない状況にあることは、オーブの新たな代表として各国と会談や会議を重ねてきたカガリも肌で感じていた。

 

「今は世界を刺激するようなことはあってはならないんだ……絶対に」

 

 大戦の時の辛い記憶を思い出し、俯きながら心からの願いをこぼすカガリ。

 オーブの代表もまた、この事態の早期収束を願っていること、そしてこの件でテロリストではなくプラントを責めるような人物ではないことを確認できたデュランダルは、表情を和らげ感謝の言葉を口にした。

 

「ありがとうございます。姫ならばそうおっしゃってくれると、信じておりました」

 

 立ち上がったデュランダルが、カガリとアレックスに一つの提案をする。

 

「よろしければ、まだ時間のあるうちに艦内をみてはいかがですか?」

 

「議長……!?」

 

 ザフトの最新鋭艦である、ミネルバの見学。

 多くの新規技術を搭載したこの艦を他国の人間に見せる提案をしたデュランダルに艦長のタリアが流石にそれはと声をかけるが、デュランダルは大丈夫だと穏やかな声で見せられるところだけでいいと、これをザフトがオーブに示す誠意であると説得し、タリアもそれならばと了承する。

 

「いつ戦闘になるかわからない、タリアは艦の指揮に戻ってくれ。レイ、案内を頼めるかな?」

 

「はっ」

 

 デュランダルはタリアをミネルバの指揮に戻すと、レイに案内を頼みカガリたちと共にミネルバを回ることに。

 彼らが士官室から出た時、通路の奥にてパイロットスーツから制服に着替えたシンが偶然その背中を目撃する。

 

(オーブ……?)

 

 オーブ連合首長国が出身のシンは、会見などの中継で何度もオーブの政治家たちの正装である紫色の服を見る機会が多かった。

 ザフトの戦艦であるミネルバにプラントの最高指導者とともにオーブの代表が乗艦していることを知らなかったシンは、何故ミネルバにオーブの政治家がいるのかと疑問を抱き、しかし当然声をかけるわけにはいかなかったので、もしかしたら何か知っているかもと自分とレイより一足早くミネルバに帰投していた同期を探すことにした。

 

 たしか彼女は不調により追撃できなくなっていた専用機のザクの整備が終わったとかで、確認のために整備班からモビルスーツの格納庫に向かったはず。

 もしかしたらそこにいるかもしれないと考えモビルスーツの格納庫に向かうと、赤メッシュが入った髪が特徴の友人の整備士と会話しているルナマリアの姿があった。

 

「ルナ、ちょっといいか?」

 

「んー?」

 

 ヴィーノから受け取った整備記録を確認していたルナマリアは、そちらを読むことに集中しており、シンに声をかけられたことは認識しているようだがかなりおざなりな返事をする。

 話聞けよとムッとするシンに、横からヴィーノが割り込んできた。

 

「おう、シン! さっきヨウランから聞いたんだけど、アーモリーワンに残ってたテロリストが逃げたって。ユノさんは普通に無事だったし、マーレさんも重傷だったけど生きてたってよ!」

 

「本当か!?」

 

 ヴィーノから齎されたのは、アーモリーワンにおける戦闘の結末。

 施設は約6割が破壊され、戦艦11隻が撃沈、モビルスーツ58機が破壊。加えて軍民合わせて500人以上の死者を出す大惨事となったが、シンにとって最大の気がかりになっていた姉は無事だったとのこと。

 それを聞いたシンは、心の底から安堵したと胸を撫で下ろした。

 

「良かった……本当に……」

 

 シンの脳裏には、今でもオーブ解放作戦の時の悲劇が焼きついている。

 両親を失い、妹が歩けなくなった時のことが。

 妹を庇い、大火傷を負って倒れた彼女の姿が。

 あの時本当に2人も死んだのではないかと思ってしまう大怪我だったこともあり、今でもふとした瞬間にそれは幻で2人ともあの日に死んだのだと告げられるかのような、今この時突然命を落とすのではないかという不安に苛まれることがある。

 

 それがいてもたってもいられず、姉の猛反対を押し切ってザフトに入隊した。

 自分では足元にも及ばない強さを持つ姉だが、あの大火傷で倒れていた姿が、入院中の痛々しい包帯で巻かれ死人のように空虚になった瞳でベッドに横たわる姿が、シンにとってはどうしても砂の城のようにふとした瞬間に突然あっさりと崩れるような儚さを感じてしまう存在に映る。

 だからこそ危険な場所に置いてきたことに強い不安を抱き、こうして無事であることを聞くと心の底から安堵するのである。

 

「あんたに心配されるような人じゃないでしょ」

 

 家族の無事を聞いて安心するシンに、その心情を知らないルナマリアが“あんたなんかに心配されるほど弱くないでしょ”と半分呆れた目を向ける。

 かつての大戦の最前線で戦ってきた戦争を知る兵士であることもあり、訓練だけではどうしても経験できないモビルスーツによる戦闘というものを熟知しており、レイですら模擬戦での勝率は1割、シンに至っては100回に1回ようやく勝てるかと言うレベルで、ユノの技量は高い。

 全く心配していなかったといえば嘘になるが、そんな彼女が最新鋭機であるアビスを駆使しているのに落とされるようなことはないだろうとルナマリアは考えていたので、ユノが無事だった報告を聞いても特に驚きはなかった。

 

「それで、何か用があったんじゃないの?」

 

 ユノが無事だったことを聞いて心底ホッとしているシンに、私に用があったから来たんじゃないのかと尋ねる。

 放置したら何時間でも安堵の余韻に浸りそうな様子だったシンは、ルナマリアからそう言われてようやく現実に戻りそういえばそうだったと用件を思い出した。

 

「さっき士官室の前でレイがデュランダル議長とオーブの政治家みたいな人といるの見かけてさ。なんでミネルバにそんな人たちがいるのか気になって。ルナなら何か知ってるんじゃないかと思ってさ」

 

「オーブの? いやいや、そんなことある?」

 

「俺、ザフトに来る前はオーブにいたから。あの格好した人はよくテレビとかでみたことあるんだ」

 

「マジか」

 

 見間違えじゃないかと疑う目を向けるヴィーノに、オーブにいたからよくみた服装だからとシンが返す。

 シンがオーブ出身であることを知るヴィーノは、そのシンが言うならと納得し、なら何でそんな人がとさらなる謎に疑問を持つ。

 

 そんな2人に事情を知るルナマリアが、アーモリーワンの騒動に巻き込まれたときにザクに乗ってミネルバに避難してきたこと、それがオーブの現代表であるカガリ・ユラ・アスハとその護衛であることを教えた。

 

「オーブのアスハ?」

 

「うん、あたしもびっくりした。まさかこんなところで大戦の英雄に会えるなんてねって」

 

「…………」

 

 オーブの前首長ウズミの娘であり、現在のオーブの代表。

 そしてかつての大戦にて3隻同盟に参加し、終戦に向けて活躍した英雄。

 カガリがアーモリーワンに来ていたことを知らなかったシンは、永世中立の国是を掲げた結果あのオーブ解放作戦の悲劇を生んだこともあり、アスハ家に対して良い印象は抱いていない。

 

 沈んだ表情を見せるシンに気付かず、ルナマリアはアスランが操縦しこの艦に乗って来た修復作業中のザクの方に目を向ける。

 

「そして、あのザクが代表が乗ってた機体。正確には護衛の人が操縦していたけど。あらかた修理したけど、最初はあのザク片腕が落とされていたの」

 

「片腕が落ちたザク? じゃあ、その護衛ってのが──」

 

 話を聞いたシンは、インパルスが駆けつけるまでガイアと盗まれたザクを相手に戦っていた、そして窮地に陥った時助けてくれたあのザクに乗っていたのがオーブの代表とその護衛であることを知る。

 

「そしてその護衛の人っていうのが、アレックスっていうらしいけど……あのアスラン・ザラみたいなの。オーブの代表が咄嗟に彼を“アスラン”って呼んでたから」

 

 ルナマリアはここだけの話とシンに近づくと、余計なことをべらべら喋りそうな信用できないヴィーノに聞こえないように、カガリの護衛をしていた人物についてもシンにだけ話した。

 

「アスランって、あの……?」

 

「ええ、大戦の時のプラント議長のパトリック・ザラの息子。ヤキン・ドゥーエで行方不明になったそうだけど、実は生きていてオーブにいるっていうじゃない」

 

「まあ確かにそんな噂があるみたいだけど……」

 

 アスラン・ザラ。

 その名はプラントでは有名である。

 

 ザフトの創設者であり、かつての大戦においてプラントを指揮した元評議会議長であり、ヤキン・ドゥーエで戦死した元国防委員長。

 血のバレンタインで妻を失った、プラント側の最大の過激派として知られていた人物。

 その息子であるアスラン・ザラはアカデミーにおいて歴代最高の成績を残し、大戦でも多大な戦果を上げてきた、そして終戦に大きく関わった凄腕のモビルスーツパイロットとしても知られている。

 

 公式ではヤキン戦役でジェネシス発射を命を賭けて阻止し戦死した英雄とされているが、実は生きておりオーブに亡命したのではないかという噂がある。

 

 ルナマリアの言う通りなら、先ほど見かけた一行でカガリ以外にもう1人ザフトの人間ではない格好をしていた人物がいたことを思い出し、その人物がアスランなのだろうと推測したシン。

 なるほど、あの大戦を生き抜いた英雄なら性能で劣るザクでガイアと渡り合っていたのも納得できると、その姿を思い返す。

 

 反応速度、回避からの反撃、転倒を避ける立ち回り、背中に目でもついているかのように2方向からの攻撃に対応する視野の広さ、自分ではインパルスでも苦戦した敵を相手にザクで渡り合う技量。

 

 ……強かった。

 あれが、ヤキン戦役を生き抜いた英雄。

 

「なになに、何の話してんの2人して? 俺も混ぜて!」

 

「あんたは口が軽いからダメ」

 

「何だよそれー!?」

 

 内緒話をする2人に仲間はずれは嫌だと近づいてきたヴィーノだが、どんな秘密もポロリとこぼしそうな信用ならない赤メッシュの整備士をルナマリアが追い払う。

 ならばとシンの方に絡むヴィーノだが、アーモリーワンの戦闘を思い返しながら自分の手を見つめるシンは自分の世界に没頭しており、ヴィーノの声は届かなかった。

 

「なあシン、教えてくれよ。2人して何話してたんだよ?」

 

「…………」

 

「シン? おーい? おい! ……ダメだこいつ自分の世界に入り込んでる」

 

「手のひらなんて見つめて何してんの?」

 

 自分ならどう戦うだろうか。

 次にあの敵と戦う時、どう立ち回るべきだったのか。

 アスランの駆使するザクの動き、敵に奪われたガイアとザクの動き、ミラージュコロイドを駆使する敵、そしてエグザスとの戦いを思い返し、操縦桿を握る手を想像し、次にあの敵と戦う時どうするべきかと頭の中でシミュレーションをする。

 

 2度と大切なものを奪われないように、強くなると誓った。

 感心するよりもあの時の戦いを思い出せと己に言い聞かせ、手を握りしめる。

 

 それを見ていたヴィーノは何を思ったのか、場違いな話題を出した。

 

「そういえばヨウランから聞いたけど、見知らぬ女の子のおっぱい触ったんだって? 柔らかかった?」

 

「ブゥ!?」

 

 途端にシンの頭に浮かんでいたガイアと切り結ぶ光景が金髪の女の子の胸を触ってしまった時の光景に、操縦桿を握る感触が胸を触ってしまった時の感触に塗り替えられた。

 

「うわ、汚ねえ!?」

 

「最低」

 

 顔を真っ赤にして吹き出すシンに、ヴィーノは元凶の分際で唾飛ばすなと肩に回していた腕を解いて飛び退き、ルナマリアはバカでガキな2人に呆れた目を向ける。

 

「ち、ちがっ……あ、あれは事故だって!」

 

「そんなこと言ってお前、絶対さっき手を見つめてその時の感触思い出していただろ! 羨ましいぞ、このムッツリスケベ!」

 

「誰がムッツリだ、あれはラッキースケベだってば!」

 

「…………」

 

 シンはあれは事故なんだと必死に弁明し、異性との触れ合いに恵まれないヴィーノは先ほどシンが浸っていたのをラッキースケベを思い出していたからだとムッツリスケベという謂れのないレッテルを一方的に貼り付け、それにシンは的外れな言い返しをして、そんなバカでガキな2人に対しルナマリアが向ける目は呆れから軽蔑に変わった。

 

「お前らは何くだらないこと言い合ってるの?」

 

 相手にしてらんないとルナマリアが離れてもしばらく続いたバカなガキ2名のくだらない喧嘩は、ヨウランが来て仲裁するまで続いた。

 

 その直後にデュランダルとカガリたちが格納庫を訪れる。

 国家の代表2名の耳に入れるにはあまりにもくだらない論争は、途中でルナマリアからすれ違いざまに耳打ちで状況を聞いていたレイが絶妙な時間稼ぎをしたことにより、ギリギリ彼らの耳に入ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 一方、ミネルバが追う敵艦であるボギーワン──ガーティー・ルー。

 高速艦であるガーティー・ルーだが、ミネルバも足が自慢とタリアが称するように負けず劣らずの速力を出す艦であり、射程からは逃れたものの振り切れないまま追われている。

 

 引き離せない以上、機関の出力を落とすわけにはいかず、ミラージュコロイドにより姿をくらます形での離脱はできない。展開したところで、熱源探知を使えば丸見えである。

 進路は予定していたデブリベルトに隠れるためのルートを進んでおり、ネオはここでミネルバに一戦仕掛けて引き離す作戦を立てていた。

 

 ブリッジではイアンが艦の指揮をとっている。

 ガーティー・ルーはイアンに任せ、ネオはスティングたち3人──エクステンデッドの調整の方に立ち会っていた。

 

 装置の中で眠りにつく3人の状態は安定している。

 ザフトを相手にする初の実戦だが、新型モビルスーツを2機、新造の主力モビルスーツ1機の強奪に成功し、アーモリーワンには大きな被害を与えた。

 完璧とまではいかなかったものの、彼らもまだ試験段階である。戦果としては十分と言えるだろう。

 

「3人とも安定しているか?」

 

「アウル・ニーダは問題ありません。ただし、ステラ・ルーシェとスティング・オークレーの精神状態にやや安定化まで予想より時間がかかりました」

 

「戦闘時の興奮だろう。まさか1番やらかしそうなやんちゃ坊主のアウルがむしろ冷静だったのは予想外かな」

 

「3名とも出撃には支障はありません」

 

「ならよかった。彼らが起きたら教えてくれ」

 

 エクステンデッドのゆりかごにて行う調整の方は、新型機を駆ったステラとスティングの方が若干予測より安定に時間がかかったものの、戦闘時の高揚によるもので想定内であり問題はない。

 次の出撃も問題なく可能との所見を聞き、起きたら教えてくれとだけ言い残してブリッジの方へと戻っていった。

 

 ブリッジに戻って来たネオに、イアンが声をかける。

 

「ひとまず成功、と言ったところですかな?」

 

「1機奪い損ねたが、アウルも手ぶらで帰って来たわけじゃないからな。想定外のモビルスーツも出て来たし、むしろあの状況で最善の戦果を上げたと言っても良いだろうさ」

 

「新型機はロールアウトの間に合っていない機体を除けば3機だったはず。諜報部の失態でしょう」

 

「ああ、彼らはよくやったよ」

 

 ザフトの新型モビルスーツの強奪任務。

 スパイの情報から機体の特性に合わせて調整して用意したエクステンデッドを用いて、ロールアウトが間に合わなかった未完成の機体を除く3機のモビルスーツを強奪する。

 当初の作戦は情報になかった新型機の介入もあり、予定していた機体のうちの2機の強奪に成功すると言う形となった。

 

 アーモリーワンの宙域からの離脱には成功した。

 流石に通信網は回復しているだろうが、港と近場のナスカ級を全て叩いた現状、今も追ってきている敵の新造戦艦を除けば状況はザフトの追撃から逃れたと言って良いだろう。

 

 あの新型機の情報をつかめなかった諜報部の失態を考慮すれば、作戦は半ば成功したと言って良い状況である。

 

「あとは、ピッタリと張り付いてるお熱な艦を振り切れれば良しなわけだが……」

 

 ガーティー・ルーの進路は現在デブリベルトの方に向かっている。

 ユニウスセブン跡の重力に引き寄せられ、無数の残骸が集まり漂う危険宙域。

 ネオはここでミネルバに仕掛け、可能であれば沈めるか、最低でもガーティー・ルーを追えなくなる程度の損害を与えるつもりである。

 

「データは抽出できたことだし、仕掛ける時はスティングたちも使う」

 

「彼らの最適化は?」

 

「概ね問題ないよ。3人とも次の出撃は可能、今はゆっくり眠っている」

 

「大佐がそう判断するならば、私からは何も。しかし、何かあるたびゆりかごに戻さねばならぬパイロットなど、能力は認めますが実戦向きとは思えませんな。ラボは本気で彼らを使うつもりでしょうか?」

 

「それでも前のよりはだいぶマシだろ? こっちの指示や仕事をちゃんと理解しやってくれるだけ」

 

「ふむ……」

 

 帰還のたびに調整が必要なパイロットなど、実戦向きとは思えない。

 そう疑問を呈するイアンに、エクステンデッドの前身である大戦にて使用されたブースデッドマン──モビルスーツを駆使した戦闘行為しかできず、命令違反も日常茶飯事だった短命を約束された消耗品と比べれば、命令も理解する分こうした任務にも対応できるだけマシだとネオは答える。

 

「仕方ないさ、今はまだ何もかもが試作段階みたいなもんだ。艦も、モビルスーツも、そしてパイロットも……世界もな」

 

「ええ、わかっています」

 

 結局のところ、このパイロットもまだまだ開発途上の存在、試作品のようなもの。

 そしてそれはこのガーティー・ルーも同じ。

 

「さあて、お出迎えの準備だ。あれだけ熱いコールを受けた以上、一回はお付き合いしないとな」

 

「各員戦闘体制! モビルスーツ発進準備!」

 

「了解、モビルスーツ発進準備──」

 

 デブリを前に、ガーティー・ルーの艦内が慌ただしくなる。

 

 新しい時代を担う新造戦艦と新型モビルスーツ同士の宇宙戦闘。

 それがデブリ漂う宙域にて展開されようとしていた。

 

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